黒靴を履く | Room Style Store

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2019/09/26 00:13

ロンドンではビジネスには黒靴という暗黙の了解が今もあるらしいが、世の中はカジュアル化一色。かつては日本でも黒靴(有名なギョーザ靴)が優勢だったのにクールビズの影響で一年の大半がノータイ&ノージャケットになり足元も茶のローファーからスニーカーまでOK…こうなると天の邪鬼としては黒靴に拘りたい。「男の仕事着の基本はテイラードに黒靴」を再認識してみようと思い立った。


(1) 黒靴は英国製に1日の長あり

初めて黒靴を誂えたのが1998年夏のロンドン。パブに集まるビジネスマンの足元は黒靴ばかりで「黒靴は英国製が秀逸」といっていた友人の説も合点がいく。再興間もないジョージクレバリーで伝説のカールフロイデンベルグを使ったサイドエラスティックを注文。この黒革、何が凄いって21年も経つのに甲に皺一つ(しかもソール張替済)寄らない…上の写真でもその凄さが窺い知れる。


(2) 外羽根でシボ革の黒靴もあり

トムブラウンがコレクションに加えて以来市民権を得たスコッチグレインの黒靴だが、上の靴を注文した時はクレバリーのジョージ(グラスゴー)も「?」だったに違いない。何しろモミ革で外羽根とここまではカントリー靴、そこに黒というフォーマル色を選んだのだから。尤も今となっては大活躍のこの靴、オーダーして正解だったと思う。


(3) バルモラルという選択肢

オックスフォードとちょっと違うバルモラル…履き口のやや下で靴を取り囲むように切り返し(上の靴ではパーフォレーション付)があるデザイン…が珍しくてオーダーしたもの。軽い靴が欲しくてつま先のキャップをイミテーションに、革底は一番薄いものにしたのでSuper150sといった高番手のクラシコイタリア系春夏スーツ(Kitonなど)とすこぶる合う。


(4) レイジーマンという愛称の靴

ある時、クレバリーで靴紐を模したイミテーションのおかめ靴(サイドエラスティックで)を注文しようとしたらジョージが「おおレイジーマン!」と教えてくれたのがこの靴…保守的な黒靴に遊び心を加え、英国らしい捻りを効かせた靴は、脱ぎ履きの多い日本の習慣にすこぶる合う。


(5) レイジーマン再び…

2000年代から同じロンドンのフォスター&サンでも誂えるようになったのでレイジーマンを再オーダー。ノーズ長めでソフトチゼルのスクエアトウに内羽根の合わせ目風ステッチを入れるなど更に凝った仕上がりになった。ソールは厚めの1/4inchにしたのでフランネルやツイードのスーツにもよく合う。革底が薄い靴は春夏用と心得るべし…


(6) 日本製の黒靴は如何に…

独立時から縁があった神戸の鈴木幸次氏。魚のスズキはイタリア語でスピーゴラ、それを屋号にしたそうだ。この黒靴はスピーゴラの2足目でロンドンの黒靴に負けない仕上がりだ。アデレイドと呼ばれるデザインの羽根部分に微妙なカーブを加え、クレバリーともフォスターとも違う靴に仕上げてきた。


(7) イタリアの黒靴を試す…

ミラノの小さな靴屋メッシーナの黒靴。ロンドンのJOHNLOBBをリスペクトしローマのGATTOの流れを汲む靴を作るガエタノ親方は、黒靴の注文に限って靴底をベヴェルドウエストで仕上げるという拘りが潔かった。アヒルの嘴に例えられるスクエアトウはイタリア仕立てのスーツにこそよく合う。


(8) 東欧の黒靴…

人件費の安かった東欧にワークショップを構えたサンクリスピンは手頃に誂え靴をオーダーできる魅力があった。フィレンツェのBONORA経由で既に木型があったのでMTO専用モデル(右)をマイ木型で注文するなんていう我儘もNo problem。土踏まずのパッドや木釘が珍しい東欧仕込みに英国顔負けのクラシックな面構えが新鮮だった。


(9) 手持ちの黒靴は1足だけと言われたら…

もし1足しか黒靴を持てないとしたら…ウイングチップ好きとしては悩むがパンチドキャップトウを選ぶと思う。写真はフォスター&サンの力作だが、これさえあれば事足りてる。もっともこの結論に至るまで何足か注文し、履き続けて初めて分かったこと故他の人には参考にならないかもしれない。百聞は一見にしかず、色々試してベストな黒靴を探し出してみては如何だろうか…


by Jun