英国仕立てに拘る | Room Style Store

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2019/12/27 11:02

まずはロンドンのテイラーFallan & Harveyのスリーブを見ていただきたい。普段あまり気を使わないライニングの縞柄だが、実はサビルロウの重鎮ハンツマンと全く同じものを使っている。それはハンツマンで修行し、技量を極めた者が独立後も使うことが許されているからなのだそうだ。サビルロウの伝統が見えないところで代々受け継がれていることを表している。


男の服は40歳を過ぎたら英国仕立てに行き着く…そう言われるのもこうした伝統と紳士服のスタンダードが英国にあるからなのだろう。そこで今回は英国仕立てについて思いつくまま書き記してみたい。


(1)オフサビルロウのFallan&Harvvey

奇しくも40代にロンドンのFallan & Harvey(以下F&H)で英国仕立てに臨んだ。生地は英国産のグレーウーステッド、採寸後欧州を回ってロンドンに再び戻ると仮縫いという算段だった。F&Hはサビルロウから枝分かれしたサックビルStにあったが当主のキースファーランもピーターハービーもサビルロウの重鎮ハンツマンの出身、中縫いなしで素晴らしい英国仕立てのスーツを届けてくれた。


創業当時のハケットを彷彿とさせる 90年代風の3つボタンスーツにヒルディッチ&キーのシャツとホリデーブラウンの小紋タイ、ダンヒルのチーフにブリッグの傘とオールイングランドでまとめたコーディネート…今では少々古臭いが変わらずお気に入りのスタイルだ。


(2) Fallan & Harveyのダブルスーツ
その後F&Hでは色々なスーツやジャケットをオーダーしたが、英国仕立ての真骨頂といえばなんといっても6つボタンのダブルブレステッドだろう。一見分からないが実は3ピース、ダブル前のVゾーンからウエストコートが僅かに覗くところや表地は控え目なグレイのバーズアイなのに裏地は派手な紫という如何にも英国らしい小技が憎い。


上のマネキンは(1)と同じヒルディッチのシャツと裏地の紫を拾ったタイにアイリッシュリネンの白チーフとブリッグの黒傘、足元も英国製黒靴(クレバリー)を合わせている。昔から「イタリアのスーツに英国靴は合うが、英国のスーツにイタリアの靴は合わない」というのが持論だ…。


(3) 少しだけ覗くウエストコート
仮縫い時からどれくらい覗くのが良いかあれこれ試した結果が反映されたVオープニング。北米のトランクショウを担当していたピーターは顧客の好みを取り入れた服作りが上手くて、ラルフローレンにも通ずる折衷感覚があった。そんなこともあってピーターとは波長が合ったが、キースの他界後サビルロウのDavies&Son(以下D&S)にピーターが移るとまもなく引退が現実になっていった。


そういえば写真の中のネクタイも今はなき代官山の同潤会アパートにあったロイドクロージングで買ったもの…10年ひと昔という言葉を実感する。


(4) Henry Pooleのスーツ
ある時、ロンドンでクレバリーのグラスゴーに紹介してもらいヘンリープールの門を叩いた。接客は当主の息子サイモンカンディで選んだ生地はスーパー120’sのバーズアイ、F&Hのダブルで選んだバーズアイよりも一段濃いグレーだ。ラペル付のウエストコートにVゾーンの深い段返りの3つボタンは正しく中庸、サビルロウの老舗らしい安定感があって、派手なピンクのタイやイエローのチーフを差したくらいではコンサバな印象は揺るぎもしない。


(5) Dabies & Sonのスーツ
F&Hでのオーダーもピーターの後継ロバートベイリー(後のハンツマンシニアカッター)の担当になるとF&Hのタグは付けどエチケット自体はDavies&Sonになっていった。D&Sのハウススタイルが加わり、ほのかに見えるブルーのウインドウペーンやロープドショルダーと相まって、今までとは違う雰囲気がある。上のマネキンではポールスチュアートのアメリカ製ネクタイにスイス製のチーフ、イタリアはボルサリーノのパナマハットと多国籍でまとめてみた。


(6) Huntsmanの6ピース
デイヴィス&サンの傘下に入ったF&Hを継いだロバートベイリーだったが、そのロバートが突然ハンツマンに移籍、日本を含むアジアトランクショウを始めるとのことで連絡が入り、急遽オーダーしたのが上のスーツだ。サビルロウで3軒目、F&Hを加えると4軒目だが、サビルロウで最も高い仕立て代のハンツマンらしいゴージャスな仕上がりだ。


生地はポーターハーディング特製ツイード、上の 3Pスーツに共布のネクタイとハンチングにクレバリー製ブーツと合わせ6Pセットに増殖していった。


(7) Vオープニング
紺-青-水色が重なる縦のラインと茶-橙-黄が重なる横のラインが織りなすちょっとないような格子柄…それをスーツに仕上げようという試み、そして格子柄を極限まで揃えて仕上げる技こそハンツマンの腕の見せ所…柄物を頼まない手はない。やや反り気味に流れる肩のラインと両端で盛り上がるロープドショルダーはハンツマンの特徴。シャツはターンブルアッサーでタイとチーフは格子のオレンジを拾ったイタリアもの。


(8) トラウザースのライン
ウエストサプレッションの効いたジャケットに細身のトラウザースはクラシックかつモダン。写真では分からないが、ノープリーツですっきりとしたフロントにハイバックのウエストラインはブレイシーズがお約束になっている。靴の中央にストンと落ちるクリースが気持ちいい。靴はシャープな印象のスエードセミブローグを用意。


(9) ツイード&スエード
フランネルとスエードの妙はウィンザー公がお手本だが、ツイードとスエードも息の合ったハーモニーを醸し出す。スエードの毛足とマットな色調が凹凸のあるツイード生地に溶け込んでいるだけでなく、角張ったラインの靴(クレバリーのビスポーク)がシャープなトラウザースを際立たせてくれている。


(10) セットアップの脇役
6Pの残りの3アイテム、ハンチングとネクタイ、ブーツを集めてみた。ハンチングとネクタイはスーツと同じライトブルーのライニングが貼られている。このあたりはハンツマンの細やかなディレクションなのだろう。一方ブーツの生地も上下左右が違わないよう確認しながら作業を進めたようだ。これは当時クレバリーに在籍していたティームレッパネン(現在はジョンロブ)の采配だろう。


時にはクラシコイタリアに食指が動いたり、今もアメリカントラッドが好きだったりするが、英国仕立てのスーツにはここ一番で着手を奮い立たせる力がある。だから、40代になったらなどと言わずにもっと若いうちから英国仕立てのスーツやジャケットをインベストメントクロージングとして用意しておけば良かった…というのが今の正直な気持ちだ。

by Jun