単糸で粗く織られた涼しげな素材といえばマドラスチェック。インドのマドラス地方発祥のビビットな生地は1950年代のアイビーリーガーやそのワードローブを提供するショップを巻き込んでブームとなり、メンズファッションの表舞台に登場していったという。
夏向きとはいえ温暖化の影響か日本の盛夏には少々辛いので、春物として3月頃から陽気の良い日に小物のネクタイあたりからスタート、徐々にジャケットなど大物へとステップアップしていくのが良さそうだ。
ということで、今回はマドラスチェックの着こなしについて様々なアイテムを交えながらコーディネートを考えてみたい。
(1) マドラスチェックのタイ…その1
まずはマドラスチェックのネクタイから装いに取り入れてみる。色褪せた雰囲気のネクタイはラルフローレンのRugby。これを打ち込みの厚いオックスフォード地を使ったブラックフリースのカッタウェイシャツに結ぶ。ボトムスはウエストキツキツを根性履きで乗り越えたものだけが真価を味わえるリゾルトの712…RRLのショップでも「どこのデニムですか?」と尋ねられるほど抜群のシルエットだ。
上着はブラックリネン素材のダブルブレザー。ラルフローレンのパープルレーベルらしく刺繍や金ボタンの紋様にも手抜かりはない。下2つ掛けのデザインはボタンをきっちり留めてこそウエストラインが映える。
締めの靴はクレバリーのビスポークボウタッセル。既成靴のように見えてどこがが違う…そんな靴をカジュアルに合わせるのが楽しい。因みに素材はナチュラルコードバン、ブレイズ(編み込み)の革紐が靴の周りを囲んでボウ(蝶結び)タッセルを型作るデザインが特徴だ。
(2) マドラスチェックのタイ…その2
オレンジを基調としたマドラスチェックのネクタイはイタリア製。ポールスチュアートのタグが付いている。これをシャリ感の強いリネン&コットンのシャツに合わせてリネンブレンドの上着を羽織る。綿や麻素材を楽しむのも初夏まで…という訳だ。シャツはブリー二、ジャケットはシルクリネン混紡のサルトリオ。パンツはインコテックスのJ35、こちらはスーパー100’sのトロピカルウール素材だ。春が来ると綿パン(週末はデニム)ばかり選びがちだが、今年はウールパンツもせっせと履きたいと思っている。
靴はクレバリーのビスポーク…アリゲーター素材の靴も素足風ソックスと合わせると普通のローファーと変わらず服装にすんなりと馴染む。因みにベルトも同じアリゲーター素材を合わせている。素材はまだしも靴とベルトの色合わせにはこだわる方だ。
(3) カジュアル履きのビスポークシューズ
これからの季節に重宝するのがローファー。ビスポークシューズをオーダーすると紐靴から入るのが常道なれど、普段ローファーを履く機会が多いのなら最初からローファーをオーダーするのも有り。今靴をオーダーしているローマのPerticoneという靴屋はローファーが上手い。1足目からローファー、しかもアンライニングでバイカラーという我儘リクエストでモックアップ(仮縫いのためだけの靴でカットした後は廃棄する)付のフルビスポークだ。近いうちにRoom名古屋でトランクショウを行いたいと考えている。
肝心の靴は下から時計回りに(2)のアリゲーターフルストラップローファー、(1)のコードバンボウタッセル、(8)のバイカラースプリットトウローファーでいずれもクレバリーの誂え。ロンドンのビスポークシューメイカーでローファーを作らせたら一番だと思う。因みに今頼んでるローマのPerticoneの吉本さんはクレバリーのアウトワーカーを長年されていることもあってローファーをお願いしたところだ。
(4) マドラス柄の靴…その1
マドラスチェックをヴァンプに配したビーフロールローファーがこのコーデの主役…製造はアメリカンシューズの聖地、メイン州のRancourt&Co社だ。履き込むうちに湿気で貼り合わせたマドラス地の接着剤が加水分解をおこし液状化するのが欠点で、一度洗靴してみた。そのせいでいい具合に色褪せた生地感が生まれたので結果オーライ…
肝心のコーデは全身ポロラルフローレン(Loダウン)。時計はフランス空軍のミリタリークロノ、アイライン。カミーユフォルネのオーダー時計ベルトを合わせたお気に入りの1本。
(5) マドラス柄の靴…その2
こちらの靴は(5)とよく似たデザインなれどビーフロールからバックル付ストラップに変わっている。(5)で紹介したラルフローレンネームのビーフロールの写真とともにまだマドラスファブリックが残っているかRancourt社に確認、在庫があるとのことで別のデザインでオーダーしたもの…究極のパーソナルオーダーかもしれない。勿論中敷はポロではなくランコートだ。
コーディネートはこちらも全身ポロラルフローレン。見え難いが、白のオックスフォードBDにブラックウォッチのリネンタイを合わせ、上からラグビージャージを羽織っている。チラ見せベルトはシルバー925チップ付のアリゲーターベルト。
(6) マドラスのパンツを履く
GTO(Go To Hell)パンツにカテゴライズされそうな派手な1本だが、昔からアメリカンクロージングストアでは定番のマドラスチェックパンツ。こちらは名門バリーブリッケン…シップスの別注だ。ビームスプラスと並んでアメカジの洒落たものが見つかるのがこの2店。ギットマンやアイクベーハー、インディビやビルズカーキ、アメリカ製のアイテムに心惹かれる世代としては要チェックの店なのだ。
コーディネートはラルフローレンのBDとクレストタイ、バッチ&フラップポケットが嬉しいアイビー調のブレザーはなんとベルベスト、件のバリーブリッケンにブルックスのダーティーバックスと多国籍だがテイストを揃えると上手くまとまる…。
(7) 素足風ソックスと一緒に履く初夏の靴
右下の靴から時計回りに(4)のビーフロールローファー(10)のウェストン180アリゲーター、(5)のストラップローファー、(6)のダーティーバックス。以前も書いたが目下アメリカンシューズに興味復活ということもあってBassに代表されるブレイク製法(マッケイ縫い)の靴を好んで履いている。
(8) マドラスチェックのジャケット…その1
ブルックスブラザーズ200周年の展覧会でも出ていたマドラス柄のジャケット…こちらはファクトリーのサウスウィックネームでシップスが別注をかけたもの。本切羽で本開き仕様、白蝶貝のボタンが嬉しい。下のシャツはブルックスの復刻6ボタンOCBD(オックスフォード地のボタンダウンの意)でタイユアタイのニットタイを合わせている。
下はポロラルフローレンのデニムとベルトにクレバリーのビスポークバイカラーローファーを合わせてみた。このローファー、白い部分がカーフではなくちゃんとホワイトバックスというところがミソ…夏の日差しを反射させないホワイトバックスが正統派だ。
(9) ブルックブラザーズ200周年展覧会の様子
トムブラウンがブラックフリースをディレクションしていた頃のものだろうか、パンツとネクタイまでもが同じ柄というのが強烈だ。サウスウィックのものはこれほど着丈が短くないものの若干トムブラウンのデジインに影響を受けているようなチェストの強調されたカッティングになっているようだ。
(10) マドラスチェックのジャケット…その2
こちらはポロラルフローレンのマドラス柄ジャケットとヴェスト。しかも派手なクレイジーマドラスとくれば、オフの着こなし限定か…とはいえせっかくなのでネクタイを合わせてみたが、柄物はどれも今ひとつ、無地のネクタイが鉄板かもしれない。ということでフランス製のヴィンテージタイを合わせてみた。
下はテラソンのピケ5ポケッツにウェストンの180。値段から言えばロブパリの既成クロコの方が高いが、ウェストンのクロコローファー(今はアリゲーターになった)がキングオブローファーと言われるには理由がある。履き心地、デザイン、作り、どれをとってもロブパリのノーザンプトン工場に引けを取らない実力と歴史がある。何よりロブパリがプレタポルテを展開するより昔からシャンゼリゼに店を構え上質なレディメイドを提供し続けてきたウェストンには歴史があるということだ。
マドラスチェックの歴史を紐解くと東インド会社やインドを統治していたイギリスまで辿り着く。英国経由で米国に広がり、アイビーリーガーズからプレッピーへと受け継がれてきたアメトラの正統派アイテム、マドラスチェックだが今や本物は中々お目にかかれないという。上の写真のようにリアルインディアンマドラスのギャランティーが付いた服を見つけようものならついつい財布の紐が緩んでしまうのもやむを得ない。
by Jun