2020/04/12 23:12

英国流の礼節を重んずる装いの堅苦しさを如何に解放するか…自由の国アメリカから始まったドレスダウンは紳士服の世界に様々なアイテムをもたらした。誰にでもフィットする既製服、胴絞りのないサックスタイルのジャケット、脱ぎ履きの楽なローファー…中でも硬いシャツの襟から芯を省き、柔らかくロールする襟先をボタンで留めたボタンダウンシャツ(以下BDシャツと記す)はジーンズと並んでアメリカンファッションのアイコン的存在だと思う。
アメリカ生まれのBDシャツ故に英国のシャツメーカーとしては我関せず…のようだがイタリアやフランス、日本ではレギュラー入りしてかなりの年月が経つ。NYCの中心マディソン街に店を構える鎌倉シャツのBDシャツも良いがユニクロのオックスフォードBDシャツも中々秀逸だ。
それでも本家アメリカのBDシャツにはフォロワーが真似できない奥深さがある。台襟や襟腰の高さ、襟先の長さやロールの具合、襟のステッチや生地の使い方など…そこで今回は手元にある本場アメリカ製のBDシャツを紹介しながら着こなしを考えてみようと思う。
(1) 伝説のトロイシャツメーカーギルド

1990年代初め、バブルの日本では輸入ものが流行り、紳士用品店の老舗「三峰」が展開したIVY LEAGUERS CLUBが新宿本店を始め東京各地に店舗を展開、エドワードグリーンなどを引いていた。ここで紹介するのはその本店で購入したクレイジーパターンのBDシャツ。青、薄青、緑、黄、赤、灰のベンガルストライプ生地をパーツ毎に裁断、組み合わせて縫製するという手間のかかる逸品だったが着る機会は殆ど無く、お蔵入りしていたものだ。それでも捨てずに取って置いてあるのはアメトラ好きなら知らぬものはいない「トロイシャツメーカーギルド」製ということに尽きる。
(2) シャツのディテール(その1)

前立て裏側のケアタグと下身頃に付くメーカーズタグにはハサミマークとTROY SHIRTMAKERS GUILDの文字が…1893年創業のトロイはアメリカ最古のシャツメーカーだが一度廃業したものを工場、職人ごとインディビジュアライズドシャツメーカーが買い取ったようだ。勿論このシャツは買収前の希少品。因みにトロイはJプレスやケーブルカークロージャーズなどのシャツを手掛けていたことからも生粋のアメトラ御用達シャツメーカーだったということになる。
(3) シャツのディテール(その2)

背中は一面赤、カフは表と裏を色違いにするなど、抜かりはない。背裏は英国のシャツメーカーでお馴染みのスプリットヨーク、反面ガウントレットボタンはなし…BDシャツの生みの親、ブラザーズの元祖オリジナルポロカラーシャツに敬意を評してのことなのだろうか。
(4) シャツのディテール(その3)

何がすごいかって…襟裏の生地までわざわざ表と違う色柄を持ってくるところにトロイシャツメーカーの真骨頂がある。今よりももっと時間の流れが緩やかだった90年代始めの製品ならではの手間暇のかけ方に違いない。ただしこのシャツ、アイロンが掛け難いことこの上ない。皺が寄らないようにするとあっという間に時間が過ぎて行く。洗い晒しでTシャツの上から羽織るのが良さそうだ…
(5) ギットマンヴィンテージ

トロイシャツメーカーズがJプレスのファクトリーとして有名になったように、ギットマンブラザーズはポールスチュアートのシャツで有名になった。現在はトロイシャツメーカーと同じインディビジュアライズドアパレルグループの一員とのこと。
写真のBDシャツはギットマンヴィンテージ。SHIPS創立40周年を記念したコラボ品になる。一見ブラックウォッチに見えるが紫や赤、青、黄の格子が入った生地がなんとも洒落ている。このあたりはシップスのディレクションか…年代物のツイードとエンブロイダリーチノにブルックスのタッセルローファーを組み合わせ、オールアメリカンブランドで打線を組んだ。
(6) ギットマンBDシャツの組み合わせ

ジャケットは80年代の逸品。ラルフローレンとブルーミングデールのWネームで勿論アメリカ製。最近のチノパンツとネクタイに1990年製造のオールデン×ブルックスブラザーズのタッセルローファーをチョイス。
(7) ギットマンブラザーズのディテール

ギットマンの特徴は襟のダブルステッチにある。親会社のインディビジュアライズドシャツがシングルなのに対して敢えて異なる仕様にしたのだろう。背中のボックスプリーツとハンガーループに襟後ろのバックボタンなどアメトラファンには欠かせないディテールがフル装備されている。
(8) アイクベーハーのシャツ

アイクベーハーのシャツが脚光を浴びるようになったのはラルフローレンのシャツを手掛けていたことがきっかけだということは有名な話だが、凝ったディテールはアメリカンメイドのシャツでもトップクラス。
写真は定番ドスキンのブレザーにアイクベーハーならではの派手なチェックBDシャツを合わせてカジュアルな週末スタイルを再現してみた。靴はダーティーバックスならぬベージュスエードのセミブローグ…こちらもオールアメリカンブランドでコンボを結成している。
(9) アイクベーハーのディテール

台襟裏側に走るダイヤモンドキルトステッチがアイクベーハーのブランドアイコン。バックボタンやハンガーループ、シャツの身頃脇に取り付けられたガゼットなど良質なシャツに求められる要素を全て兼ね備えている。一方でインディビジュアライズドシャツやギットマンよりも襟腰が低いのでジャケットのラペルとの相性にはそれなりに気を使う。
(10) アイクベーハーのコーディネート

ラルフローレンのブレザーにアイクベーハーのシャツ…デニムはアメリカ製のRRLでシューズがオールデン×ブルックスブラザーズのセミブローグ。ここでもオールアメリカンコンボを結成した。写真の靴だが、ブルックスはオールデンとのコラボレーションを既に解消しており、コードバン素材のものから入手が困難になってきている。
(11) インディビジュアライズドシャツ

グレー地に白と赤の格子が入ったインディビジュアライズドシャツ(以下インディビと記す)は中々着こなしが難しい…グレーと相性の良い黒のジャケットに白系統のパンツを合わせてみた。ノータイでもなんとかなるがどことなく装いが寂しい…そこでビビットな赤のネクタイを足してみたのが上の写真。
一方足元は久しぶりに履いたキルトタッセル。アメリカ製の靴を探し出して合わせたのはアイテムを全てアメリカンブランドで揃え、オールアメリカンのグランドスラム達成を狙って…という訳だ。
(12) インディビシャツのディテール

アイクベーハーやギットマンが小ぶりな襟なのに対してインディビの方は襟が大きめで襟腰も高い。ブルックスのオーダーシャツ部門を担当したことで鍛えられたのだろうか…ブルックスのオリジナルポロカラーに近い。ただこのシャツは着丈が短いのが特徴で、タックアウト(裾出し)して着ることを想定したカットになっている。
(13) シャツのコーディネート

赤のタイに黒のリネンジャケット…どちらもラルフローレンのものだ。パンツはテラソン、靴はキルトにブレイズ(編み紐)がアクセントのローファー…懐かしのアレンエドモンズだ。Bassのウィージュンやアンソーンに代表される正統派アメリカンモカシンが新鮮に感じる。
(14) ガーランドとクリーブ

本家ブルックスブラザーズのシャツは傘下の専門工場ガーランドファクトリーが担っているが、数年前まで展開していたオウンメイクのシャツが凝ったディテールで(写真左:当時は定価19,000円と破格の根付けだった)ファンを大いに魅了した。こちらは定番の白オックス地ながら珍しい長袖プルオーバー。勿論バックボタンやハンガーループなど凝ったディテールも標準装備だ。一方右はCLEVE(クリーブ)、こちらもラルフローレンのシャツを手がけているようで、ラルフに時々アメリカ製のシャツがあるのはここが請け負っているらしい。こちらはハンガーループもバックボタンもなく至ってシンプルな作り。そこがまた潔くてガンガン着倒したい。
今回、アメリカンカジュアルのアイコンであるボタンダウンを特集し、なおかつコーデをアメリカンブランドで固めたのは困難な状況にあるアメリカを応援したい気持ちが根底にある。日本も例外ではなく今世界中が疫病の感染拡大阻止に立ち向かっているが、アメリカの状況は最も深刻で悲しむべき事態になっている。自分もできることから率先しつつアメリカとそして世界に平和な日々が戻ることを心から願いたい。
by Jun