2020/05/09 15:42

「早い、安い」ファストフードになぞらえて企画から製造、店頭に並べられるまで数週間という早さと低価格で浸透したFast Fashion(ファストファッション)。中でもウルトラライトダウン、ヒートテック、エアリズムと新企画でファストファッションを定着させたユニクロはスーパーマーケットやドラッグストア同様、もはや日常になりつつある。
一方、ファストフードへのアンチテーゼとしてイタリアから始まったスローフードとそれに続くスローライフには「ゆったりと流れる時間、手間隙を惜しまない」というSlowへの欲求がある。ファッションにおいてもSlowear(Slow+wear)が日本に上陸するなど、ファストに対するスローの価値観も広がりを見せはじめた。
そこで今回はファストファッションとその対極にあるスローファッションのどちらかという二者択一ではなく、互いを上手く組み合わせたFast & Slowな着こなしをユニクロを参考に考えてみたい。
1) ファストファッション度数★★★★

今やファストフードも「早い・安い」プラス「美味い」ことが必須、ユニクロでもデザイナーとコラボしたりストレッチ機能でフィット感を高めたりとプラスαな商品を展開している。写真はユニクロによるモノトーンライクな着こなし。黒のカーディガンも黒パンツも一見プラダのようだ。中のシャツもおそろで真っクロ(全身ユニクロ)に…とも考えたがスローファッションとのミックスが命題なので、イタリアの老舗FRAYのスミズーラをイン。
2) 装いを格上げする靴

ファストファッションの着こなしは洒落た小物を足し増しして格上げするのが肝…特に足元は気を配りたい。そこで靴1足に1年かけるスローなビスポークのローファーを用意。マットアリゲーターを使ったローファーは光沢がない分、押しは強くないが着こなしに華を添える。
鞄は英国のピール製ドクターバッグ
3) コーディネート

ファストファッションサイド
○エアリズムカーディガン(ユニクロ)
○ウールライクトラウザーズ(ユニクロ)
スローファッションサイド
●ピンホールカラーシャツ(フライ)
●ネクタイ(ラルフローレン)
●ベルト(KTルイストン)
●ローファー(ジョージクレバリー)
ユニクロの2点で全体の9割を占めているのでファストファッション度数は★4つ
4) ファストファッション度数★★★☆

こちらは上のアノラックがユニクロ、下のワークパンツがGAPと日米タッグでヘビアイ(ヘビーデューティーアイビーのこと)に挑戦した様子。1)の着こなし同様ファストファッション度数でいえば★4つとなるところだが、実はひと工夫加えたことでスロー度数が増してるので★3つとした。
さてそのひと工夫とは…?
5) 存在感のあるブーツ

お洒落読本「チープシック」では単にチープなだけではなく「お金をかけるべきところにはお金をかけること」の大切さを説いている。ユニクロやGAPのスニーカーよりグッと値は張るが作りのしっかりとしたマウンテンブーツを履いてみた。それだけでアウトドアスタイルが具体性を帯びてくる。やはり靴の存在は大きい。
小物のリュックはビームス製
6) カスタマイズという視点

青と赤のツートーンが洒落たアノラックパーカ。従来のユニクロならば単色で多色展開・大量生産という流れだったかもしれないが、カラーブロックアイテムの流行を逃さず商品化している。ただ、実際着てみるとどこか寂しい…ディテールに乏しいのだ。そこで以前から話題となっているセルフカスタマイズを実行。アイロンで一袋数百円のパッチワーク(ワッペン)を貼り付けただけでアウトドアブランドの高級アウターにも負けない面持ちになる。これで愛着も湧き、長く着られるに違いない。
7) コーディネート

ファストファッションサイド
○アノラックパーカ(ユニクロ)
○ワークパンツ(GAP)
スローファッションサイド
●BDシャツ(ブルックスブラザーズ)
●リボンベルト(ブルックスブラザーズ)
●マウンテンブーツ(マルモラーダ)
ユニクロとGAPの上下で全体の9割を占めているが、カスタマイズという一手間をかけているのでファストファッション度数は一つ下がって★3つ
8) ファストファッション度数★★☆☆

着こなしのどこにファストファッションのアイテムがあるのか…直ぐに気がつかないとすれば上手くミックスできていることになる。答えはネイビーブレザー。何故今更ユニクロのブレザーを…?と思ったが低価格なだけじゃない。羽織ってみると軽く通気性もすこぶる良い。ウールやコットン、リネンといった天然素材のジャケットでは真似のできない高機能が買う気にさせているのだ。
9) ブレザールックを格上げする靴

上質なブレザーをデニムや茶のローファーでドレスダウンするのとは真逆、ユニクロのブレザーを格上げするならクレバリーのサイドエラスティック、それもアリゲーター素材が良い。存在感はあるが黒のせいかあまり気にせず履ける。帽子も被り続けるうちに似合うようになるのと同じ、要は本人の気持ち次第ということだ。
黒革の鞄はフエリージ。
11) ボタンを付け替える

着こなしの主役ブレザーはユニクロの新製品。ポリエステル100%の生地をホップサック調に織ることでウールライクに仕上がっている。着丈や袖丈も直す必要が全くない…が、ボタンが地味過ぎる(右)。昔処分したブレザーから外しておいた金ボタンと交換(左)。それだけで見違える。
因みに交換したボタンはパープルレーベルのもの。
12) コーディネート

ファストファッションサイド
○コンフォートブレザー(ユニクロ)
スローファッションサイド
●リネン混ストライプシャツ(ブリー二)
●ウールスラックス(インコテックス)
●ネクタイ(マリネッラ)
●クロコダイルベルト(JMウエストン)
ファストファッションからはブレザー1点のみ。ボタン交換をしているが着こなしの主役であることからファストファッション度数は★2つ
12) ファストファッション度数★☆☆☆

ユニクロのビジネスシャツは服好きの間でも話題になることが多い。特に①オックスフォードBDシャツや②ファインクロススーパーノンアイロンシャツは満足度が高く、前者はアメトラに、後者はクラシコにと使い分けながらローテーションを組んでいる。ここではアメトラスタイルの要としてキャンディストライプのオックスフォードBDシャツをインしてみた。
12) スロープロダクツなモカシン

アメリカンハンドソーンモカシンといえばメイン州。今もランコートやクオッディ、L.L.Beanやニューバランスがファクトリーを置く。その中でラルフローレンのOEMを受けるランコート社にコンタクトを取り、ラルフの靴を作った残りのマドラス生地でオーダーしたのが写真の靴だ。何度もやりとりしてアメリカから送られてきた靴はスローライフな生活を具現化した1足だ。
13) コーディネート

ファストファッションサイド
○オックスフォードBDシャツ(ユニクロ)
スローファッションサイド
●ネイビーブレザー(ラルフローレン)
●ジーンズ(ポロラルフローレン)
●ネクタイ(ポロラルフローレン)
ファストファッション度数はユニクロのBDシャツのみなので★1つ
因みにユニクロのオックスフォードBDシャツとラルフローレンのBDシャツは襟のデザインが似ている。というより襟先の長さや角度など、殆どが同じ寸法になっている。それでいて背中のボックスプリーツは勿論ロッカーループまで備えたディテールにはつくづく感心してしまう。
NIKKEI STYLE Men’s Fashion「石津祥介のお洒落対談」でユニクロの柳井会長が「ユニクロの基本はVANなんです…」と話しているのを読んで、なるほど、なぜここまでBDシャツのディテールにこだわるのか謎が解けた。勿論ユニクロの製品全てがVANの遺伝子を受け継いでいる訳ではないが、過去のブッシュパンツやグルカショーツ、今回のアノラックパーカやオックスフォードBDシャツなど「ものへのこだわり」を感じさせる。
H&Mやフォーエバー21が撤退し、新型コロナの影響でZARAも相当数の店舗を閉じるという。ユニクロも含めファストファッションを取り巻く環境は新しい局面を迎えていると経済誌は論評しているが、ソーシャルディスタンスが定着しても人は装うことを止めないだろう。ユニクロをはじめファストファッションのこれからに注目していきたい。
by Jun