ブーツを仕舞う | Room Style Store

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2020/06/22 16:41

梅雨入りとともに、愛用のブーツを仕舞うのが毎年恒例となってからもう何年経つだろう。靴好きは大抵シューズ(短靴)から入ってアンクルブーツに目が向き、シャフト(筒の部分)の長いブーツ(長靴)に辿り着く…というのが常道かと思ったら手持ちの靴の殆どがブーツ、しかも一年中履いていると豪語する強者もいる。場所をとるし手入れも大変、履ける時期も限られているとはいえ、ブーツには漢を魅了する不思議な何かがある。

下駄箱からブーツを出して①長い靴紐を外し②ブラッシング、③クリームを補給④布で磨き⑤靴紐を元どおりに通す。1足や2足ならばなんとかなるがブーツの数もそれなりに増えたことで年々かかる時間も増えてきている。気を紛らわそうと手持ちのブーツを見回すとアメリカンなワークブーツ系とブリティッシュなドレスブーツの2大勢力がせめぎ合っている感じだ。マルモラーダ(伊)とロブのコテージライン(仏)は多勢に無勢、むしろビスポークのブーツがじわじわと増えてきている。

ということで、今回は足元の衣替えを機会にアメリカのブーツとイギリスのブーツ、それにビスポークのブーツを交えて紹介してみたい。


~アメリカ編~
(1) RRL by Rios of Mercedes
最初に紹介するのは以前オークションでバイク用に落札したもの…1853年創業の老舗ウェスタンブーツメーカー、リオスオブメルセデス別注のRRLエンジニアブーツだ。ヒールのトップリフトにビスポークでも使われるCat's Pawを用いるなど初期のRRL別注ジュリアンブーツに勝るとも劣らない作り込みが特徴…何より赤茶と明茶のコンビ仕様が単調になりがちなエンジニアブーツを洒落っけたっぷりな長靴に仕上げている。デニムと床のバッグもRRLで揃えてみた。


※Cat's Paw
トップリフトについたCat's Pawの拡大写真。猫の肉球を思わせる白いキャッツポウドットが特徴で優れたグリップをもたらす。オリジナルは60年代に一度消滅、デッドストック物をロンドンのビスポークメーカーが客の要望に応えてヒールに装着していたと聞く。最近復刻したのでこのブーツにも採用されたようだ。そういえば2000年頃にオーダーしたジョージクレバリーのビスポークシューズに付いていたことをふと思い出した。


(2) Yuketen/Quoddy
こちらはユケテン。日本人デザイナーのユキ・マツダ氏により創設されたブランドで、製造はメイン州にあるQuoddy(クオッディ)が受け持っているようだ。このクォッディはもともとL.L.Beanのモカシンを作っていた職人が興した会社で、L.L.BeanやRalph Lurenの別注を受けているとのこと。ステッチの色目や白ではなく敢えて茶色のビブラムソールをチョイスするあたりにユケテンのセンスを感じる。


(3) RRL/Weinbrenner
こちらはウィスコンシン州のワークブーツメイカー、ウェインブレナー社によるRRLネームの10インチブーツ。ソログッド(Thorogood)の名前でブーツが売られているので聞いたことがあるかも知れない。ワークブーツといえば日本ではレッドウィングが有名だが、アメリカ国内でワークブーツを作っている会社が他にもあるのは頼もしい。


(4) Made in U.S.A.
アメリカ編のブーツ。どれもワーク系でドレッシーとは無縁の無骨さが堪らない。写真には写っていないがダナーやアレンエドモンズ、トニーラマやランコートなど有名どころのアメリカンブーツが出番を待っている。もともとジーンズが好きなこともあってジーンズに合うワークブーツを買ううちに増殖したのだろう。若い世代はジーンズをあまり履かないらしく、そういえばワークブーツを街で見る機会もぐんと減ったと感じるのは気のせいだろうか…。


~英国編~
(5) Polo Ralph Luren/Alfred Sargent
エンジニアブーツがアメリカンなハーレーを愛するライダース御用達だとすれば、こちらはトライアンフなどクラシックなイギリス製のバイクに似合うブーツか。甲から足首までをシューレースで絞め、履き口をダブルストラップで留めるデザインは正にコンバットブーツ。コマンドソールやバケッタレザーと相俟ってタフな印象を与える一方、穴飾りのあるキャップトウが英国らしさを醸し出す。


(6) Tricker's
最も英国らしいブーツといえばトリッカーズ…丁寧なつくりのドレスシューズもビスポークシューズも手掛けるトリッカーズだが、画像検索の結果は写真のモールトン(Malton)とその短靴版バートン(Bourton)が一番ヒットする。かなり使い込んだ感じが伝わるだろうか…何しろノーザンプトンのファクトリーで購入以来、雪や雨、ぬかるみや水たまりなど、フィールドを駆け回り、未だにダイナイトソールさえ交換したことのない強者だ。


(7) Edward Green/Foster & Son
1992年の年の瀬にロンドンのフォスター&サンで購入したブーツ。特徴のあるチェスナッツアンティーク仕上げがエドワードグリーン製を物語る。他の2足のブーツとの兼ね合いでジーンズに合わせてみたが本来ならばモールスキンのパンツやウールトラウザーズに合わせる方がしっくりくるはずだ。因みにジーンズはリゾルト712、レザーのリュックサックはアメリカ製のコーチ。


(8)Made in England
英国のブーツ。今回は載せなかったがクロケット&ジョーンズはブーツつくりに定評がある。特にレースアップブーツは内羽根も外羽根も用意するなど種類が豊富、オンラインショップを見るとなんと64型もラインナップされているではないか。ウイスキーコードバン素材のブーツなどポンドが安くなると買おうかまよってしまう。一方チャーチズはサイドゴアブーツやチャッカブーツがラインナップされているがレースアップブーツはあまり見かけない。同じノーザンプトンのファクトリーでも得手不得手があるのだろうか。


~ビスポーク編~
(9) Balmoral Boots/George Cleverley
ビスポークシューズをある程度揃えた頃、クレバリーのトランクショウで他の顧客が注文するブーツを見た。それ格好良くてその場ですぐに注文したのが上のブーツだ。記念すべき最初のビスポークブーツながら素材はカーフと同系色のピッグスキンというコンビ仕立て、デザインは定番の内羽根式デザインなれどトリプルステッチの効いたノルヴェジアン製法というツイストの効いた1足が出来上がった。ドレスとカントリー、シンプルなデザインにビジーな底付けという相反する要素を上手く折衷するあたりクレバリーの腕前も見事というべきか。


(10) Double Strap boots/Foster & Son
ビスポークブーツの2足目は注文から完成まで数年を要した傑作中の傑作。ロンドンの老舗フォスター&サンの作品だ。スプリットトウ、ハンドステッチエプロン、ノルヴェジアン製法、ハーフミドルソール、履き口にダブルストラップという注文主の要望を全て具体的な形に仕上げたのは当時の職人松田笑子さんによる尽力が大きい。ビスポークの新境地を開いたブーツではないだろうか。


(11) Huntsman/G.Cleverley boots
3足目のビスポークブーツは再びクレバリーに戻ってのオーダー。ただし節目となる30足目の注文ということで当時の担当ティームレッパネン(今はジョンロブロンドンに移籍)と細部まで煮詰めている。特筆すべきはツイード生地をアッパーに用いたこと…丁度ハンツマンにオーダーしていたスーツの生地をハンツマン⇒クレバリー⇒ティームへと繋ぎホーウィンのシェルコードバンとコンビで仕立てたもの。名前を付けるとしたハンツマンブーツだろう。


(12) Bespoke Boots
奇しくもビスポークブーツはどれもロンドンの誂え靴屋によるもの。しかも全てノルウェジアン製法(ゴイサーともいうらしい)という注文主の好みが色濃く出ている。黒のドレスブーツもいいしべヴェルドウェイスのスマートなブーツも嫌いではないけれど、誂えで肝心なことは「自分が履きたいものを注文すること。」…これに尽きる。1足目は〇〇だったから2足目は✕✕で…ではなく2足目も〇〇で…だっていいし、1足目からローファーが欲しかったら頼むのもありだ。

実は1足目からローファーをオーダーしているローマのペルティコーネ(吉本晴一氏主宰)で今の靴が完成したら(通算60足目)、次はブーツをお願いしようと思っている。60足を最後に靴のオーダーを止めようと考えてきたが、今回のブログを書くにあたって色々履くうちに欲しいブーツのアイデアが浮かんできた。1足目にローファー、2足目はブーツなんて言ったら吉本さんはなんて言うだろうか…。

by Jun