2020/07/20 14:24

日曜日は梅雨空から一転、真夏の陽気に包まれた。梅雨明けを前に忘れていたが日本の夏はとにかく暑い。そういえば昨年のロンドンも暑かったっけ…それでも街中のビジネスマンは皆黒靴を履いているのに感心したことを思い出す。残念ながら我が家の黒靴は目下休眠中…代わりに涼しげな靴が前面に並んでいる。
夏を彩る薄茶の靴やコンビ靴も今か今かと夏本番を待っているが、新型コロナの影響で旅行は自粛…この夏はバカンスどころではなさそうだ。せめて昼間の近場を散策する時にでも履いて気分を盛り上げたい。そこで今回はお気に入りのサマーシューズを交えて夏の足元を考えてみようと思う。
(1) スペクテイターシューズ

サマーシューズの本命スペクテイター。スポーツ観戦者(Spectator)が履く靴として広まり、それを特派員(Correspondent)がアフリカや中東など暑い地域で履くようになったことからコレスポンデントシューズとも呼ばれる。本来なら麻のスーツに合わせたいが日本の夏では暑すぎる…ここは無理せず上質なポロシャツと麻混のトラウザース(パンツではなくトラウザースが鉄板)に合わせ、パナマハットを被るだけで十分バカンス気分に浸れる。写真のボトムスはナポリの名門ロータ(Rota)。
(2) 本格的なスぺクテイター

クレバリーに節目となる10足目のオーダーを「スペクテイターで…」とお願いした時もすぐに分かってくれたので、ロンドンの靴屋でもスペクテイターは共通語として通っているようだ。スワンネックと呼ばれ、レースステイ両端が「白鳥の首」のように湾曲して広がるデザインがポイントのこの靴…最近他の誂え靴屋でも見かけるようになってきたが実に洒落ている。白い部分の革はホワイトバックス、既成靴ならばホワイトカーフで代用するが、ビスポークなら「ホワイトバックス」に拘るのが正解らしい。
(2)スペクテイター再び

こちらもクレバリーのスペクテイター。ただし最初のスペクテイターよりもずっと後のオーダーになる。2足目ということでウィンザー公をお手本にローファーのスペクテイターを頼んだが、参考にしたのが「飛行機を降りてブルドッグを連れて歩くウィンザー公」の写真(下)だ。写真の中のウインザー公はサマーウールのスーツのようだが、こちらはもっとカジュアルにコードレーンのサマートラウザースと合わせてみた。
※参考写真

Photo taken by Edward Quinn
因みにウインザー公の靴はピールでオーダーしたものだったようだ…
(4) スプリットトゥカジュアル

当ブログ「スキンステッチの靴」でも登場しているスプリットトウスペクテイター。今はロブロンドンに移籍したティームレッパネンがクレバリーに在籍中オーダーをかけたもの。つま先やエプロンのハンドステッチに加え、写真では分かりづらいがヒールカウンター部分にもハンドによるピックステッチが入ってる。手仕事の好きな注文主の心をくすぐる仕様だ。
(5) 茶/茶のスペクテイターシューズ

スペクテイターといえば茶/白や黒/白を思い浮かべがちだが、こちらは茶/茶のスペクテイター。本来は茶/白だったサンプル靴を「茶系のコンビで仕上げてほしい。」とロンドンのフォスター&サンに依頼して完成したものだ。合わせたトラウザースはポールスチュアート、因みに横にある鞄と帽子もポールスチュアートなのでブランドのテイスト感が重なり、写真映えもしっとりきている。
(6) フォスター&サンのセンス

茶/白のサンプルをもとに茶/茶のコンビで仕上げるにあたり、一番の懸案は2色のトーンだった。コントラストの強い2色か、トーンの近い2色かによって仕上がりはぐっと違ってくる。担当の松田さん(当時)はトーンの近いものを提案。革サンプルを見て納得の上、出来上がった靴をみて大満足。汎用性も高く重宝する1足になったのは言うまでもない。
(7) 淡色系のフルブローグ

こちらは夏専用のフルブローグ。フォスター&サンで頼んだ1足目になる。店の訪問時に対応してくれたのは名ラストメイカーの呼び声高いテリームーア氏だった。当時フォスター&サンはトランクショウを日本で行っていなかったので仮縫いも受け取りもロンドン、おかげでテリーは勿論松田さんやアムリックなど多くの職人さん達と知り合いになれた。振り返れば貴重な時期だったと思う。一番足繁くロンドンに通っていた今から20年ほど前のことだ…トラウザースはインコテックス。
(8) アンティークフィニッシュ

初オーダーの時、店頭に並ぶ退色したフルブローグを参考に「こんな感じの靴が欲しい…」と伝えたら、出来上がってきたのが上の靴だった。茶色の革を脱色し、靴に仕上げてからクリームで色を整えたらしい。フィレンツェのボノーラでも同じ手法で仕上げてきたことを思い出した。何しろ当時はベルルッティのパティーヌが靴業界を席巻していた頃、靴の色について各メゾンでは様々な試行錯誤を行っていたに違いない。ところで色ばかりに目が行きがちだが実はこのフルブローグ、ボトムメイキング名人の作でもある。その後自分の靴の全てを担当するとは当時知る由もなかった。
(9) レプタイルの靴

アランフラッサーによれば、クロコダイル(アリゲーター)は夏の日中の革素材として紹介されている。イタリア人の好むアランチャ(オレンジ)色のアリゲーターで作った靴はチェスナッツ(茶)に近いこともあってジャケットスタイルにもよく合う。写真はGTAのコットンツイルトラウザースと合わせたところ。
(10) マットかグレージングか

ワニ革の靴を注文する時は「シンプルなつま先がよい」とグラスゴーのアドバイスを参考にオーダーしたプレーントゥバルモラル。仕上がりは上々だが、ベビーアリゲータを何枚も使うそうで左右の斑がやや不揃いなのは仕方がない。ミシシッピアリゲーターをイタリアで鞣した素材は独特の透明感がある。ただしマットな革見本とは違って完成品はかなり艶あり(グレージング)になっていたのは意外だった。
(11) アリゲーター再び

順序が逆になるがこちらが初アリゲーターの靴。(9)の靴より2年ほど前のオーダーになる。当時クレバリーには数色しか革見本がなく、明るい茶色のものを選んで出来上がったのが上の靴だ。シンプルなつま先ということでここではサイドエラスティックを指定、出来上がった靴はウールトラウザーズに合わせると結構アバンギャルドな感じが気に入っている。トラウザースはラルフローレン。
(12) 1足目のアリゲーター

グレージング仕上げのアリゲーターは経年変化で徐々に艶のある表面に細かなひび割れが起き始めている。栄養補給と艶出しを兼ねてJ.M.ウエストンのレプタイル専用クリームを定期的にあげているが、1990年製グレージングクロコのウェストンローファーも同様に細かなひびが入り始めているので、年月が経てば人間同様「歳を取って皺も寄る」ということなのだろう…。
(13) アリゲーター三度(みたび)登場

マットなアリゲーター素材を素のまま仕上げて納品されたタッセルローファー。履き口の周りを360度走るブレイズ(網紐)と甲部分のボウ(リボン結び)タッセルがアクセントになっていて、足元を華やかに見せてくれる。艶なしなので派手になりすぎず、カジュアルなボトムスとの相性も良い。ボトムスはラルフローレンのチノパン、上もスエットパーカなどラフウェアと合わせたいところだ。
(14) クレバリーの真骨頂

クレバリーの真骨頂はローファーにあり、手袋のような履き心地を味わうにはローファーが一番だと思う。中でも一番履き心地が良いのがこの靴。慌ててつま先にメタルトウチップを装着したほどだ。「最初はきつく感じるが、ワニ革は柔らかくなるのも早い…」と聞いていたが、実際カーフ<コードバン<アリゲーターの順で履き心地が柔らかくなる。アリゲーターで注文するならローファーがベストか…。
(15) 番外編グレートサマーシューズ

夏の靴といえば忘れちゃいけないGUCCIのビットモカシン。発売以来様々なバリエーションが世に送り出されたが写真のオリジナルバージョンが一番飽きがこない。マッケイ製法のソールはすこぶる快適…ナポリ仕立ての一重スーツ同様、究極の履き心地を味わえる。秋冬バージョンのスエード素材もあるが、夏らしいブルーやベージュがお薦めだ。
(16) ビットローファーの魅力

素材はチンギアーレ(ピッグスキン)のようにも見えるがシボの入ったグレインレザーだろう。どこにもストレスのかからない作りは流石に一世を風靡した傑作ローファーだけのことはある。一見ダサそうで履くと格好いいところも魅力の一つ。目下黒のカーフ素材のビットモカシンも欲しくて探しているところだ。
この夏は国内旅行でも楽しもうとバカンスの計画を立てていたら東京発着の旅行はGo To キャンペーンの対象外との報道があったのが先週。一方本来のオリンピックイヤー開幕に合わせて7月23日から4連休が始まるなど日程は整っている。夏の紫外線はウィルスに有効らしいのでせめて屋外を中心とした日帰り散策を楽しむというのはどうだろう。
または近くて遠い東京名所、一度行ってみたいと思っていた場所を訪問するのも悪くない。柴又帝釈天は映画の世界で知っていたが一度行こうと思っているうちに随分と年月が経ってしまった。フーテンの寅さんは「雪駄」で帝釈天の参道を練り歩いたが、自分も好きな履物で参道を歩きながら柴又門前「とらや」に寄って草団子を土産に買うのもよさそうだ。
いや、それは不要不急の外出か……。
by Jun