イタリアの誂え靴今昔 | Room Style Store

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2020/08/15 20:34


最初に紹介するのは3足並んだ誂え靴。内羽根と外羽根にローファー…紳士靴を代表するデザインだがどれもイタリアの誂え靴という共通項がある。今からほんの20数年前までイタリア各地には小さな靴屋が店を構え、良質な誂え靴を提供していた。


ところが後継者不足の問題やユーロ導入による物価の上昇、注文靴を履く客の減少など様々な要因が重なり、一つまた一つと名店が姿を消していった。昨今のイタリア注文靴の現状を憂えていた折、ローマ在住の吉本清一氏率いるペルティコーネを知ったのが昨年。夏には現地でオーダーし、ここで待望の一足目がデリバリーされた。


そこで今回は届いたばかりの靴を中心にイタリアの誂え靴について思いつくまま記してみようと思う。


(1) ペルティコーネの1足目

コロナの影響を乗り越え僅か1年でデリバリーさせた1足目のローファー。ローマの工房で作られるリアルハンドメイドインイタリーながら、イタリア国内は勿論ロンドンの注文靴屋のアウトワーカーとして腕を磨いてきた吉本さんのバックグラウンドを感じさせる。日本人が作るアングロイタリアンな靴とでも言えば良いだろうか。何ともワールドワイドで洒落たローファーだ。


(2) 仮縫いの様子

ローマでの採寸後、日本で仮縫いを行った時の様子。本番と同じアッパーのモックアップを履いてカットしながらつま先のフィットを見た後の仮縫い靴。ハーフサドルの白い型紙を左右で5ミリずらしてノーズの長さを決めるなどSNSを駆使したビスポークシューメイキングはコロナ禍にあって有効だ。


(3) つま先のハンドステッチ

ホーウィン社のハッチグレインは厚くて糸の通りが難しい反面、エプロン部分のスエードは柔らかいという相反する革のコンビ故にモカステッチは相当苦労したようだ。また、ウエルト部分の出し縫いもかなり細かく仕上げたようで一針入魂の製作過程が目にが浮かぶ。ハッチグレインが綺麗に見えるようアッパーは色入れなし、素の状態で納品しているのも特徴の一つだ。


(4) ソール

ウエスト部分については突っ込んで話したが、結論としては誂え靴ならではのアーチの美しさを生かすということでスクエアではなくヴェベルドウェイストを採用した。ソールは半カラスにせず素のままで仕上げている。仕上がりはクレバリーに近い雰囲気で、それもそのはず相当数の靴をアウトワーカーとして作り上げてきた経験が滲み出ている。



(5) アンラインドに仕上げる

実はこの靴、革の選択以外にもアンラインドで仕上げるという大きなチャレンジが待っていたのでフィット感について吉本さんはかなり試行錯誤したようだ。先芯と月型芯をどの程度入れるか、エプロン裏はどうするのか…既成のアンラインドやロブパリのアンラインドビスポーク靴を参考に完成させてきた。アンラインド故に伸びることを考慮しているが、真価は履き込んでいく中で見えてくるだろう…。


(6) イン&アウトサイド

ローファー作りに長けたクレバリーにも負けない仕上がりの両サイド。吉本さんによればイタリアの顧客はローファーを多く注文するようだ。やはり軽くて快適で脱ぎ履きの楽な靴の人気が高いとのこと。自分も含めローファーを1足目から注文できるメゾンは貴重、ペルティコーネがハウススタイルの一つにローファーを取り入れることは大いに賛成したい。


(7) コーディネート(その1)

イタリアのシューメーカーということに敬意を評してイタリアンカジュアルでまとめてみた。素足風に履いたペルティコーネのローファーに合わせたのはヤコブコーエンとイタリアンマドラスチェックの半袖シャツ。トートバッグも古いグッチを取り出して久々のマカロニファッション(笑)を楽しんだ。


(8) コーディネート(その2)

ローファーといえばアイビールックに欠かせないアイテムの一つ。ここではアイビースタイルの要となるシャツをブルックスブラザーズのアメリカ製ボタンダウンに着替え、デニムは日本の誇る児島の老舗ビッグジョンのアイビーテーパードを合わせる。このジーンズ、シルエットの綺麗さはリゾルトの712に負けない。帽子はローマ繋がりの老舗ボルサリーノ。


(9) コーディネート(その3)
日本人の吉本さんならば日本のウエアブランドとの相性も良いはず…。ここではハリウッドランチマーケットからミリタリーテイストを感じさせる肉厚な生地ジャーマンクロスを用いたカーゴパンツに履き替えてみた。ストレッチ素材入りのカーゴは抜群の履きやすさ。…上にジャケットを羽織れば秋に活躍しそうな組み合わせに期待が膨らむ。


(10) イタリアの誂え(初代)
さて、ここでイタリアの誂え靴を振り返ってみようと思う。ミレニアムに沸く2000年頃ミラノのメッシーナでオーダーしたフルブローグは同店の2足目になる。Scarpe Francesineと呼ばれるフルブローグはロンドンのスタイルとは違ってスクエアウエストの男らしい作り。トウスプリングのないつま先がガットの流れを汲むハウススタイルとなっている。


(11) イタリアの誂え靴(二代目)

こちらは吉本さんと同じローマの誂え靴屋マリーニで作った外羽根のプレーントウ。2000年代中頃のオーダーだ。イタリアらしい幅広のスクエアトウはマリーニでも定番。偶然店に並べていたホーウィン社のウイスキーコードバンを見つけて注文したこの靴、オールデンのように皺入れをせずとも左右の皺が揃う出来栄え。余談だがシームレスヒールなので釣り込みは大変だったと推察される。今も現役でいるマリーニ、コロナ禍が落ち着いたら再訪してみたい。


昔から誂え靴は60足、既成靴は40足の計100足を履き回そうとしていたが、ここで注文靴は上がりの60足目となった。もっとも既成靴は大幅超過している。それに注文靴も吉本さんやロブロンドンで何足か作りたいと思い始めている。


そもそも今回のコロナ禍で旅行や会食の機会が減り、買い物が(それもリモートをうまく使って)オフタイムの喜びになっている現状がある。大手アパレル会社の倒産が増えている中、吉本さんのようにフットワークの良さと真摯なもの作り、優れた技術と経験を活かした新たなイタリアンシューメーカーがロンドンのビスポークシューズに伍して活躍することを期待したい。心からの応援を込めて次はローファー作りに長けたペルティコーネにブーツを…と思っている。


perticoneの値段

基本料金2500€(2019年のオーダー時)

ホーウィンのハッチグレイン+150€

メタルトウチップ+25€

合計2675€(シューツリー込)


by Jun