2021/01/17 20:22
アデレードはオーストラリアの南に位置する都市名だが、同じ名前が「紳士靴のデザイン」として使われているのを知っている…という人は立派な靴オタクだ。内羽根靴の甲部分(Facingと呼ばれ靴紐が収まる部分)がU字型の切り返しで囲まれた靴のデザイン全般をアデレードと呼んでおり、フルブローグやセミブローグなど他のデザインと組み合わされることでバリエーションはかなり広い。
初めて見たのはエドワードグリーンのカタログだった。英国らしい「カンタベリー」というペットネームでカタログに掲載されたが残念なことにその名は浸透せず、後発のジョンロブパリがウィーンやミラノ、オオサカなど世界の都市名と一緒にアデレードを用いたことで、次第に靴のデザインを象徴する名詞として定着していったのではないかと推察している。
そこで今回は独特の顔つきで靴好きを魅了するアデレードを考察してみようと思う。
(1) 1足目のアデレード
初アデレードはジョージクレバリー。1999年、前年注文した1足目の納品時に店内のサンプルに惹かれて同じ焦茶革で注文したものだ。クレバリー2足目だが既に「つま先のイニシャル入れ」など我儘を発揮していた。トニーガジアーノ(後のガジアーノ&ガーリング創設者)が丁寧に接客していたことを覚えている。イミテーション(ステッチのみで革の重なりがない)ウィングを短くしてU字部分とのバランスとるなどよく考えられたパターンだった。
(2) アデレードの履きこなし

(4) ミラノの靴屋でオーダー
アランフラッサーの著書「Style And The Man」に出てくるMessinaでオーダーをと2000年にミラノを訪問。ミニマム4足注文とのことだったがが上の靴は3足目になる。ガエタノ親方が他界し4足目は幻となったが、「黒靴以外はベヴェルドウエストにしない」という頑固さを懐かしく思う。ところで上のアデレード、よく見るとU字部分が別パーツとして上に縫い合わされているのが分かるだろうか…
(5) フィレンツェでオーダー
(6) 日本の匠
こちらは日本の誂え靴第1人者、神戸の鈴木幸次氏にオーダーしたアデレード。2足目となるが当時はめきめきと腕を上げていた頃で、1足目よりもフィット感も仕上がりも向上しているのが実感できた。革はデュプイ、ウェルトの目付や一つ一つ丁寧に開けられた穴飾りが存在感を高めている。
(7) ビンテージスーツとの相性

(8) レプタイルでオーダーする
こちらは2007年のオーダー。クレバリーでの注文数は既に二桁入りを果たし、グラスゴーから「アリゲーターの靴はどうだ?」と提案を受けた。そこから一気に10足連続でオーダーすることになるが、上の靴はアリゲーターの5足目、通算16足目の靴だ。この頃から捨て寸長めでシェイプが効いた靴がデリバリーされるようになったが、その陰には当時在籍していたティームレッパネンの力が大きかったと思う。
(9) 存在感のある靴

こちらは2009年のオーダー、カーフやモミ革、コンビにレプタイル、紐靴にローファーと来て次は起毛素材でとバックスキンを注文したが、カーフスェードで仕上がってきたのがこちらの靴。グラスゴーから特別なオファーもあり受け取ったが、履き心地は良好、タバコスエードが好きなこともあって重宝する。今となっては納品して良かったとつくづく思う。
(11) ウィンザー公の組み合わせ

(12) バックスキンのアデレード
今度こそバックスキンで、とオーダーしたのがこちらの靴。毛足の長さは(7)の靴と比べると一目瞭然、毛足が邪魔してつま先のメダリオンが見えないくらいだ。履き心地はスェードより断然柔らかく紐靴の中でも1,2を争う満足度だ。ビスポークを楽しむ顧客も後回しにしがちな起毛素材だが、余裕があればぜひ1足はオーダーして欲しい…。
ところでアデレードは内羽根式。デニムに合わせる達人もいようが、自分自身はどちらかというとテーラードなパンツに合わせる方が多い。せいぜい夏ならば麻や綿、秋冬ならばコーデュロイやモールスキンのカジュアルパンツどまりだろうか…。
ある程度靴が揃うと無意識のうちにドレスなら内羽根式、カジュアルなら外羽根式というパターンを自分の中に作ってしまいがちだが、この春は大好きなアデレードをデニムと合わせて、新しい着こなしにチャレンジしてみようか…そんなことをふと思った。
Jun@RoomStuff