イタリアで靴を買う | Room Style Store

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2021/02/28 07:10

初めての本格的な紳士靴というとイギリスのグレンソンとフランスのJ.M.ウェストンになる。ウェストンはパリで買ったが、グレンソンは何とイタリア、それも靴や鞄など名だたるブティックが並ぶフィレンツェのプリンチペというセレクトショップだった。後で分かったことだがフィレンツェは英国贔屓、なるほどプリンチペにはライル&スコットやプリングル、チャーチズなど所狭しと並べられていたことも納得がいく。

当時はイタリアの靴は軽くて返りの良いマッケイ、堅牢で靴底の張替えが効くグッドイヤーの靴ならイギリスやアメリカのもの、後はフランスのウェストン…くらいの知識しかなかったのだから致し方ない。その後も何回かイタリアを訪れたが靴は買わずじまい…ところがそれから10年後、グッドイヤー製法の源流であるハンドソーンを前面に登場したシルヴァノ・ラッタンジで一気に流れは変わった。

何しろ当時最高峰といわれたエドワードグリーン2足分の価格、加えて「手縫い靴」というキャッチフレーズにやられて信濃屋やアリストクラティコなど靴を扱う店の名前まで覚えるほどだった。そこで今回は一世を風靡したシルヴァノラッタンジを中心にイタリア靴購買記を書いていこうと思う。

(1) 初めてのシルヴァノラッタンジ…
1980年代後半イタリア発のグッドイヤーウェルト靴としてUAが扱い始めたマンテラッシから遅れてジンターラ(Zintala)が登場、そのスペルを反対にした?真打Lattanzi(こちらが創業者の名)が紹介されると値段は30万超え…ならばとロンドンからローマへ出向き、ラッタンジの直営店で買ったのがこの靴だ。当時イタリアでも22万円という破格値だった。


(2) アランチャの魅力
ラッタンジのすぐ後にステファノブランキーニが出てくるとチェーンステッチが靴の端(コバ)を飾る更に派手なモデルが人気を博したが、このラッタンジはノルヴェジェーゼといえども外観は控えめ、むしろその色合いに惚れたといってもいい。アランチャ(オレンジ)と呼ばれる革の色目はイギリスの靴にはないものでリネンやコットン素材の春夏物は勿論、ツィードやフランネルなど秋冬物にもピタリと収まる。
jacket : Sartorio  Pants : Incotex
Shirt : Micocci  Tie : BREUER
Pocket Chief : RODA

(3) ラッタンジ再び
ラッタンジの先見性は手縫い注文靴のプロセスを既製靴に導入したことだろう。注文靴を作る技術があっても客の注文がなければ仕事はない。その技術を既成の木型に乗せて売れば値段が高くてもヒットするという確信があったに違いない。写真はラッタンジのミラノ店で購入したアスキット。当時出たばかりのエドワードグリーン・トップドロウアーのアスキスに対抗したような名だ。そして再びのアランチャ。

(4) クラシコイタリア協会への加入
クラシコイタリアという言葉が流行った頃キトンやイザイアなどナポリの重鎮に伍してラッタンジも一時期加わっていたようだ。確かにラッタンジはクラシコイタリアの服との相性が良く、サビルロウ仕立てやアメトラとは合わせ辛い。ここではキトンのサマーカシミヤジャケットと合わせてみたが、確かネイビーのジャケット(ブレザーではなく)が広まったのもクラシコイタリアの影響だったような気がする。
Jacket : Kiton 100%Cashmere
Pants: Incotex
Shirt : Micocci Tie : E.Marinella(7-fold)

(5) フィレンツェでイタリア靴を買う
冒頭フィレンツェでイギリス靴を買ったと書いたが、ようやくフィレンツェでもイタリア靴を買う機会が訪れた。手縫い既成靴としてBONORAが話題になるとすぐに現地入りして既成靴を購入。ついでにス・ミズーラ(ビスポーク)にもチャレンジした。もっとも既成靴はルーマニアのサンクリスピン製造、メイドインイタリーではないと後に気づいたのだが…。ここでもアランチャの靴に心惹かれてついつい買ってしまった。

(6) ボノーラを履く
シンプルなプレーントゥにノルヴェジェーゼのステッチが控えめに走るボノーラのこの靴はジャケパンスタイルにもってこい、デニムとの相性だって抜群だ。Aldenのプレーントウと双璧をなす万能靴じゃないかと思う。ここではカルーゾのジャケットにインコテックスのパンツを合わせシャツは当時まとめて注文していたミコッチ、締めのネクタイはマリネッラのセッテピエゲ。
Jacket : CARUSO  Pants : Incotex
Shirt : Micocci  Tie : E. Marinella

(7) アランチャ3兄弟
よくもこれだけ同じ色の靴を買ったと思うが、タイプが違っているので使い道は色々、どれも重宝する。買ったお店もローマにミラノ、フィレンツェとイタリア版三都物語のような顔ぶれだ。残念ながら既にボノーラは廃業し、今やシルバノラッタンジも靴好きの間で話題に上がることはあまりない。何しろラッタンジのオーダーで130万円、既成でも50万円という値付けではやむを得ない。いい靴なのだが…。

(8) ある年の夏に…
バカンスシーズンのイタリアは有名ブランドを除いて小さな店は大抵クローズドしている。ところがある年の夏、ローマでふとラッタンジのブティック前を通りかかったら何とSALDIの張り紙が!思わず入って見回すとノルヴェ靴は除外だがハンドウェルトの靴がセールに…何やらロンドンのクレバリーでビスポークサンプルのセールに出会った時のようだった。思わず買ったのが上の靴。

(9) ラッタンジで冬のフィレンツェへ
一時期イタリアに足繁く通っていた時期があって、ローマとミラノの中間にあるフィレンツェは服や靴をよく注文していた関係で年に何度か顔を出していた。ある年の冬ローマのラッタンジで買った靴を履いて冬のフィレンツェを訪問、完成品をドゥオモ近くのセミナーラに引き取りに行ったことを思い出した。写真のジャケットはその時のもの。ドーメルのカシミア50%で何ともいえない色目が気に入っている。
Jacket & Pants : Seminara(Su misura) 
Shirt : Micocci  Tie : Kamakura shirt 

(10) 冬のミラノへ足を延ばす
氷河湖であるコモ湖から近いミラノの冬は寒い。ある年の冬、雪の残るミラノでラッタンジを訪問。若い日本人男性の店員がいて驚いたが、日本人が良く来るので雇われたそうだ。記念に上のコバ張り靴を購入。ベンティベーニャ製法らしく値段は高かった。ツリーなしを気にも留めなかったが帰国後店員から国際電話が…ラッタンジ氏から叱られたらしい。急いで国際郵便で送るとのこと、間もなくツリーが届いたのは言うまでもない。

(11) コバ張り靴の合わせ
コバの張った靴は履き手本人からするとかなり目立つと思うようだがこうして写真にしてみると思ったよりも地味だ。ただし春夏物の軽い服よりは秋冬物のどっしりとした衣類に合うと思う。ここではスコティッシュツィードのジャケットに打ち込みの厚いパンツと合わせてみた。上下どちらもリヴェラーノのスミズーラ。ネクタイを水色にしてアズーロ・エ・マローネの組み合わせを意識した。
Jacket & Pants : Liverano(Su Misura)
shirt : Micocci  Tie : Barneys New York
Pocket chief : Seaward & Stearn

(12) 久々のイタリア靴
ボノーラの閉店でフィレンツェに行く機会が減り、クラシコイタリアのブームも落ち着くとメイドインイタリーから遠ざかっていったが、そんな中で久々にワクワクしたのがこのマルモラーダだ。コバの張っていない細身のマウンテンブーツにノルヴェのステッチがラルフローレンのデザインチームのお眼鏡にも叶ったようで様々な別注をかけている。つまりそれほど格好いいブーツということになる…。

(13) ジャケパン+マウンテンブーツ
マルモラーダはなぜか日本だけで流行っているらしいがそれだけ日本人のファッションセンスがいいということだと思う。パラブーツのアヴォリアーズも良いが街中ではゴツい。その点マルモラーダは本格的な登山靴ではない分、都会にマッチするのだろう。正直色違い、素材違いでもう2足あってもいいとさえ思うことがある。ここではサルトリオのジャケットにPT01と合わせてみた。
Jacket : Sartorio   Pants : PT01
Shirt : Micocci  Tie : Nickey

(13) Maroneなイタリア靴
こちらは春夏物のアランチャ3兄弟に対抗してマローネ3兄弟。所謂チェスナッツ色の靴は主に秋冬に重宝する。ここ10年くらいで自身のワードローブから一気にイタリア物が減り、自然とイタリアンな靴も減っていたところだった。こうして改めて眺めてみると春夏物に秋冬物とひととおりイタリア靴が残っているのは心強い。

イタリアのスーツやジャケットは柔らかく着心地も良くて手を動かしやすい。確かにマッケイのイタリア靴は同じように柔らかいがクラシックなイタリアのウェルト靴はラッタンジにしてもエンツォボナフェにしても思ったよりも固い。むしろノーザンプトンのエドワードグリーンやジョンロブの方が柔らかいと言える。イタリア服との相性にしてもラッタンジの代わりにジョンロブを履いても全く問題ない。

ところが逆にイギリスやアメリカのスーツにイタリアの靴を履くと相性の悪さを感じる。恐らくイギリスのウェルト靴がどんな国のスーツやジャケットと合わせても一番しっくりくるのだろう。履きまわしの効くイギリスの靴に傾倒する一方イタリアで靴を買う機会はシルバノラッタンジ以外限られてしまい、エンツォボナフェも譲り、あれだけ夢中だったラッタンジの靴も減りつつある。

今回のコロナ禍が服飾業界に与える影響は未知数で撤退や閉鎖、倒産や経営破綻と悪いニュースばかりが聞こえてくるが、ワクチン接種によって人々の行き来が再開したら親類の住むイタリアから訪問してみようと思っている。そしてイタリアの靴を久々に買ってみようかと思い始めている。

by Jun@Roomstaff