靴の相性 ソックスの相性  | Room Style Store

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2021/03/14 16:32

靴好きならば「靴のデザインは多種多様」ということは先刻承知だろう。ところが家族やパートナー、靴に興味がない人にとっては「どれも同じ」に見えるようだ。流石に紐靴かスリッポンかの違いくらいは分かるだろうが、外羽根と内羽根の違いなど気にも留めないし、ましてやブローグだのパーフォレーションだのメダリオンなどと話してもまず通じない。

靴のデザインがルールを重んずる英国で発展したことを考えれば「時と場所と状況」によって履くべき靴には暗黙の了解というものがあるようだ。昔ロンドンのクレバリーでエプロンダービーを黒の揉み革で誂えた時「これは仕事で履けるか?」と聞いたら「よく歩く人のための仕事靴だ…」と答えた。たとえ黒でも外羽根のデザインはワーカーの靴という位置付けらしい。

そこで今回は靴のデザインとフォーマリティ(靴の格式)を中心に合わせる服とその間をつなぐソックスも含めて考察してみたい。

(1) 靴の格式
最も格式のある靴といえば一文字のステッチ以外飾りのないストレートチップになる。フォーマルウェアには鉄板だが、反面ストライプや大柄のスーツでは足元が頼りなく見える。そこで写真のようにキャップトゥを起点(最もフォーマルに近い靴)とし、セミブローグ、フルブローグ、ダービーブローグの順にカジュアル度が高くなるようスケール(ものさし)を設定してみた。

(2) パンチドキャップトゥ(黒)
普段使いで最もフォーマル寄りなのが写真のパンチドキャップトウ。穴飾りがつま先に入るだけで押しの強い濃紺のバンカーストライプスーツに負けない存在感を放っている。ストレートチップは冠婚葬祭で必要になったら揃えればいい。まずは黒のパンチドキャップトを…というのが持論だ。そしてソックスだが「パンツの色目に合わせる…」という基本(その1)に従いネイビー無地のリブ編みをチョイスしてみた。
Suit : Chester Barrie(ラルフローレン)
Bag : Hermes(サックアデペッシュ)
Socks : Ralph Lauren


(3) パンチドキャップトゥ(茶)
同じパンチドキャップトゥでも茶色はソフトな印象になる。デュプイの茶靴を青色スーツと合わせる。実にイタリアンなアズーロ(青)エマローネ(茶)の組み合わせだ。同じパンチドキャップトウでも茶になるとカジュアルな雰囲気になるのがよく分かる。英国がビジネスには黒靴というのがなんとなく分かる気がする。そしてソックスもスーツと同色ながら遊び心を入れて無地からアーガイルへ。
Suit : Liverano(イザイア製)
Bag : Mansaw(万双)
Socks : Broooks Brothers


(4) パンチドキャップトゥ2選
どちらもビスポーク、自分の足型に合わせた木型から作ったものだ。共にラウンドトゥの5アイレットなのにパンチ部分の穴の大きさやキャップ自体の長さ、ステッチやヒールのシーム、何よりシェイプが違う。それでいてどちらも履き心地が良いのだから実に不思議…。ここが誂え靴の奥深さなのだろう。
Left : Foster & Son
Right : Bonora(St.Crispin’s)


(5) 黒のセミブローグ
パンチドキャップトゥからセミブローグになると一気に賑やかな印象になる。このセミブローグ、ヒール部分にもパーフォレーションが入るコテコテなタイプもあるが大人しめのこちらを推したい。ビンテージ生地を使った千鳥格子のスーツに負けない靴としてセミブローグはその期待に充分答えている。さて、ソックスだが「靴の色目に合わせる」という基本(その2)に従って黒のヘリンボーン柄を選んでみた。
Suit : Davies & Son
Socks : Brooks Brothers


(6) 茶のセミブローグ
ドレスコードが緩い環境ならば、茶系のセミブローグはmust-haveな1足だ。特にライトグレーのスーツに焦茶の靴は最高な組み合わせで、NYの名店ポールスチュアートの一押しでもある。黒靴より軽快でお洒落に見えるのでぜひ試してほしい。写真のスーツはミディアムグレーにライトグレーの格子入り。ソックスの色も格子に合わせてみた。この時近い色目だからと白ソックスを選んではいけない。
Suit : Ermenegildo Zegna(クチュール)
Bag : Peal & Co
Socks : Brooks brothers

(7) セミブローグ2選
上の2足はどちらもロンドンのフォスター&サン製。トゥの幅や全長など微妙な違いはあるが各所の寸法は同じだ。ただつま先のメダリオンは毎回変えるのがマイルール。昔「ダブルのストライプスーツにはセミブローグ、シングルストライプのスーツにはフルブローグ…」というマイルールをハケットのT店長さんに教わったことがお手本になっている。
Shoes:  Foster & Son

(8) 黒のフルブローグ
フルブローグはまず見た目が派手だ。屈曲部に革の重なりがあるので履き心地も硬い。ただし存在感の高さはダントツで、オーダーしたクレバリーではこのフルブローグをストロングと形容していた。まさに言い得て妙…印象も履き心地もストロングなのだ。ソックスはネイビー無地のリブ編みをイン。グレー(パンツ)+ネイビー(ソックス)+ブラック(シューズ)と異なる寒色系3色の組み合わせは思ったよりも悪くない。
Pants:Marco Pescarolo
Socks : Ralph Lauren

(9) 茶のフルブローグ
派手なフルブローグを明るい茶で仕上げるとさらにカジュアル度は増し増しになる。こうなるとスーツも写真のようにオフを楽しむ大柄なものが似合う。そしてソックスはスーツの柄から拾うのが定石、ここでは一番明るいイエローにしてみた。ただしレモンイエローではソックスが浮きがちなのでトーンを落としたマスタードイエローを選んでみる。するとパンツとソックス、靴の繋がりに一体感が出る。ソックス選びは感覚がものをいう。服選び同様奥が深くて楽しい。
Suit : Rowing Blazers
Socks : Brooks Brothers

(10) フルブローグ2選
写真は黒がジョージクレバリーで茶がフォスター&サン、ともにロンドンを代表するビスポークの名店だ。どちらもつま先のデザインはラムズホーンにしたが両者微妙に違うのがお分かりいただけるだろうか。このあたりがトゥデザインの面白いところ。それにしても黒と茶、同じデザインで両色用意しておくと着こなしがぐっと広がることを今更実感。だから靴好きはいつの間にか靴が増えてしまうのだろう。

(11) ダービー(セミ)ブローグ
さて、ここからはカントリー靴の領域、外羽根式の靴となる。ロンドンハウスの当主ルビナッチ氏はスーツに茶の外羽根靴を良く合わせている。セーターを着るようにスーツを羽織るナポリの洒落者ならでは…ロンドンではほぼ見かけない合わせだ。ここではグレンチェックにオーバーペインの入ったグレースーツと茶のダービー(セミ)ブローグを合体。ソックスはブルーグレーの小紋入りをチョイス。
Suit : Black Fleece
Socks : Burberry

(12) ダービー(フル)ブローグ
カントリー靴の代表茶色のダービー(フル)ブローグを履くならパンツもそれなりの存在感が欲しい。写真ではウール/リネン/コットンの三者混パンツと合わせたが、こうした一癖も二癖もある素材の方がアクの強い靴には合うようだ。ソックスはネップ入りソックス。気分的にはパンツの柄より小さめの柄物ソックスというのもをよくやる合わせの一つだ。
Pants : Paul Stuart
Socks : Brooks brothers
Bag : Ralph Lauren

(13) ダービーブローグ2選
左はジョンロブパリ、右がフォスター&サンのダービーブローグになる。同じ足に合わせているのにジョンロブパリの小さいこと…そういえば昔クレバリーで1足目をオーダーした頃は「注文靴は如何に客の足を小さく見せるか」ということに重きを置いていたと聞く。ジョンロブパリもそうだったのだろう。今は顧客の要望に合わせて捨て寸を長めにとるメゾンも多い。隔世の感あり…。

式典をのぞけば、ゲストを迎えてのフォーマルな仕事や平日の@オフィス、休日のリモートワークからオフまで、場に応じた靴を2~3足は揃えておきたい。それにジーンズやチノパン、セーターといったラフな着こなしならローファーも必要だろう。アウトドアを楽しむならカントリー用の短靴やアンクルブーツ、場合によっては長靴も必要になる。

既にここまでで5~6足以上の靴が要るわけで、黒と茶を揃えておくなら6×2=12、最大1ダースの靴がワードローブに加わる。これに秋冬になればスェードやスコッチグレイン、春夏ならば白やコンビ靴も気になる。かくして手持ちの靴が靴箱に入り切らなくなるのも時間の問題というわけだ。

一度に履く靴は1足でも「人は1足の靴ではやっていけない」ことは誰もが実感している。ようは百足(ムカデ)化を防ぐべく厳選したり収納に気を配ったりすればいいのだがこれが難しい。なにせ流行り廃りのない紳士靴を捨てるという行為は道理にかなっていないからだ。

by Jun@RoomStyleStore