2021/07/11 06:07

ずらり輪を描いて並べられた靴達…どれも度々ブログに登場しているが、今回はどこか雰囲気が違う。さて何が違うのだろうか?…答えは「つま先」だ。どれもすり減ったつま先を修理した後だと気付いただろうか。昔から「手入れの行き届いた靴を履くべし。特に踵のすり減った靴ではビジネスも上手く行かない。」と言われてきた。歩き方が悪いのかすぐ踵の外側が片減りする自分にはドキッとする言葉だ。
ところが実は踵以上に「靴のつま先は履き手の印象を左右する…」のではないかと思うようになった。人と相対する時最初に目に入るのは顔、そして首下から胸元を経て足元へ…早い段階で靴は視覚を経由して脳に記憶されるそうだ。その時もし「つま先がすり減った靴」だったとしたら?…綺麗に磨いていたとしても「画竜点睛を欠く」靴に映るはずだ。正に「足元を見られる。」状況になりかねない。
そこで今回は踵以上に注意したい「つま先の減り」にどう対処するか…馴染みの靴修理屋とのやり取りを交えながら書いてみようと思う。
(1) リペア前後の比較
百聞は一見に如かず…まずはつま先の修理後(左)と修理前(右)を見てもらおう。靴は履き込んだジョージクレバリーだが修理前後で印象がガラッと変わる。新品じゃないことは一目瞭然、それでもつま先を整えれば「よく手入れが行き届いた靴ですね…」と言われる。減りはウェルトまで到達していないのでまだ履けないことはない。だが向かい合った相手からは「ずいぶん減って」見えることがお分かりだろう。

(2) リペア後の見え方(その1)

写真のように足を組む場面を想像してみて欲しい。例えばホテルのロビーで人を待つ時や屋外のカフェで気の置けない人と語らう時、あるいは公園のベンチで寛ぐ時…意外と多いことに気が付くだろう。だがその時相手からどう見えるかなんてこんなふうに写真に撮ってみなきゃ分からないもの。名言CM「眼鏡は顔の一部」には及ばないが「つま先は靴の顔」とキャッチコピーを付けたいところだ。
(3) リペアの方法

ウェストンのハントやジョンロブパリの誂えなどフランスはつま先プレート派の印象が強く、対するイギリスはこの靴を含めネイル(小釘)派がポピュラーだ。つま先が微妙に当たる感覚が気になって今まではネイル派だったが今はプレート派に転向した。このクレバリーも2列の小釘を全部抜いて革を足し、プレートを装着した後綺麗に仕上げたもの。
(4) リペア後の見え方(その2)

こちらは1991年製の旧エドワードグリーン「カドガン」。買った当初からソールにハーフラバーを張っていたおかげでソールの減りはなし、30年革底を張り替えることなく愛用しきてた。だがつま先を見るとウェルト近くまでラバーもろともすり減って剝がれかけている。そこで(3)の上のクレバリー同様つま先にプレートを装着することにした。
(5) リペアの方法

パイプマークが比較的綺麗に残っている底面。ラバー自体は「まだ十分な厚みがある」とのことでそのまま流用。つま先部分にスペースを取り、革を足してプレートを装着した。腕の立つ歯科医はできるだけ歯を抜かずに長持ちさせるが、馴染みの靴屋も「せっかく貼ったラバーを剝がさず使い切りましょう」と言い工賃が安くなるにも関わらず最適な修理を行ってくれた。
(6) リペア後の見え方(その3)

こちらはクロケットジョーンズ製タバコスェードのセミブローグ。これも既に購入から30年経つ古参だ。やはり購入後すぐにラバーを貼ったが底材が硬めのクロケットは返りがつきにくい分つま先の減りが早い。「ラバーを残してプレートを打ち込んでも境目からラバーが剥がれてしまうかもしれない…」とのこと。さてどうやって解決したものだろうか…。
(7) リペアの方法

こちらが修理後のつま先部分の様子。この写真を見て靴好きな方なら気がつくはず…そう、Aldenのプランテーションクレープソールと同じ方法だ。ラバーの先端をプレート分切り欠き、革を足してプレートを装着後、ラバーの境目を接着+小釘で打ち止め。靴に合わせて修理方法を変える…当たり前なのだろうが様々なやり方を考えてくれるので見ているだけでも楽しい。
(8) リペア後の見え方(その4)

こちらはダブル(ハーフミドル)ソールのジョンロブスプリットトゥ。何もせず履いていたらつま先があっという間に減ってしまった。革を足してプレートを付けたが、つま先の半月跡がその修理箇所になる。職人さん曰く「プレートやラバーでケアするだけで修理費用は大幅に減る」とのこと。「靴修理屋としては商売上がったりですけど…」と笑いながら話していた。
(9) リペアの方法

こちらが修理後の様子。ダブルソールがすり減って2番底まで到達するのはかなり先だからハーフラバーは要らないとしてもプレートだけは最初に付けるべきだろう。先述したJ.M.ウェストンのハントは最初からつま先と踵にプレートが付いている。真摯な靴作りで定評のあるウェストンがそうならば理に叶っているのだろう。時折道路の凸凹につま先が引っ掛かることはあるにせよプレートは最強のつま先保護材だと思う。
(10) リペア後の見え方(その5)

1992年の春に購入した旧エドワードグリーン「ウィンダミア」。グリーンはコバを走る出し縫いが外に見えないようソールの端を薄革上に剥いで縫い合わせ、最後にその薄皮を被せて面一にする「ヒドゥンチャンネルソール」が標準仕様。ラバーを貼ってもその薄革ごと剥がれることがよくあるらしい。そのあたりを踏まえつつ靴の修理方法を決めることにした。さてその結果は如何に…。
(11) リペアの方法

ラバーの厚みはまだまだあるので再利用しつつ剥がれかけた端を再接着、つま先部分にプレートを装着したばかりの写真。ラバーをそのまま使うことで修理のコストを抑えてくれるので、最近は何足かまとめて出すことが多い。何より修理の方法について色々相談できる靴修理屋が近くにあると心強い。つま先は勿論ヒールやソール交換、マッケイ底の張り替えやステッチの綻び直しなどあれもこれもお願いしたが毎回満足の行く仕上がりで応えてくれる。
(12) リペア後の見え方(その6)

シングルソールのノルヴェ靴はフィレンツェのボノーラ。つま先に釘が2列打ち込まれていたのでそのまま履いていたが、大分減って前から見るとマッケイ靴のように薄っぺらになっていた。やはりプレートを取り付けようと持ち込んだところ「つま先の釘がプレートと干渉する」ことが判明。かといって全部釘を抜くとダメージが大きいらしい…さてどうやって修理を進めたものか…。
(13) リペアの方法

もともとロンドンの誂え靴屋と違い釘のサイズが大きいせいか全部抜くと革が弱くなる恐れもある。しかも釘の範囲はプレートより広い。そこでプレートの収まる部分だけ釘を抜いて革を足しプレートを装着。プレートの外側に残った釘はそのまま残すことにした。写真を見ると残った釘が分かるだろう。靴も色々修理も色々だ。
(14) リペア後の見え方(その7)

1990年初めて買ったエドワードグリーン。大事にしたくて早い段階でラバーを貼った。ただ当時は今のようなプレートも修理工房もなかった時代だ。ラバーだけではつま先の減りを防げるはずもなく、つま先はすっかり削れてラバーも剥がれてしまった。コバインキで多少目立たなくしていたがこのままでは履く機会も無くなってしまう。…さていったいどんな修理方法がよいのだろう?
(15) リペアの方法

30年前に貼ったラバー中央部の減りはまだ再利用できるとのこと、肝心のつま先だが、やはり相当減っていた。革を多めに足して厚みを整えプレートを装着。薄くなったラバーの減りと捲れを防ぐ為に小釘を5本打ち込んで修理完了。写真(7)と同じ手法だ。早速試してみたが境目のラバーも剥がれず履き心地は良好、30年経った靴とは思えないくらい気兼ねなく履いている。
革底の靴にラバーを貼るのは邪道だという人もいる。ラバーは通気性が悪くなるとも聞く。つま先のプレートは靴の返りを悪くするという指摘もある。何より本来底を張り替えて長く履くウェルト靴になぜ「底を張り替えないで済む」ようラバーやプレートを付けるのだ…というプレケア否定派もいる。
どの意見も「なるほど」と思えるが、もし「いつも手入れの行き届いた靴を履くべし…」を実践しようとしたら…靴クリームやワックスでアッパーの手入れをするのは勿論「足元を見られない」ようつま先の手入れを怠らず、いつ「足元を見られる」ことがあっても構わないよう自然体でいたいものだ。
by Jun@RoomStyleStore