夏こそシューケア | Room Style Store

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2021/07/24 06:27

梅雨明けと共に高温多湿の夏がやってきた。革製品にとって夏の紫外線は過酷だ。染料の分解による変色や退色が最も進むのは夏、そして梅雨時の湿気が気温の上昇に伴い湿気となって革の剥がれや白カビを産む。


毎年この時期は革靴のメンテナンスが恒例だが、靴が増えると結構大変になってくる。まずは満遍なく靴を陰干ししてカビの菌糸を退治。後は気になる靴から始めて最後の1足まで根気強く続けるのみ…手抜きは厳禁だ。


一足一足丁寧にケアしていると買った時のことや注文時のやりとりなど靴にまつわる色々なことが思い出される。そこで今回は靴の手入れを交えながら四方山話を書き記してみようと思う。

※扉写真はメンテナンスを終えた靴達

【ロシアンレインディア】
最初にケアすべきは何と言ってもロシアンレインディア。何しろ235年前のトナカイの革を沈没船から引き上げ再生したという奇跡の素材だ。2003年の注文当時は150£のアップチャージだったのにサルベージする潜水夫が引退して以来革の供給はストップ、枯渇状態が続いているらしい。

① モウブレイ
ロシアンレインディアの靴は再生したとはいえ古い素材なのでクラックが入りやすい。中には甲下のヴァンプ部分に横真一文字の裂け目が入ることさえある。こうしたクラックを防ぐには革の潤いが何より大切、浸透性が高くさらっと拭き取れる「モウブレイ」ならば昔から定評もあるので安心して使える。


② ハッチパターン
クリームを塗り終えてブラッシングした後。ロシアンレインディアのハッチパターンが綺麗に浮かび上がってくる。平行なラインの重なりが生み出すダイアモンド(菱形)のシボがこの革の見どころ…復活を目指したホーウィン社のハッチグレインもJFJベーカーのロシアンカーフもこの域には到達していない。


③ メンテナンス終了
ケアが終了した後の靴。革に「もっちり」した表情が戻っているのが分かるだろうか。シューツリーで見えないが、実はこの靴、ライニングにもロシアンレインディアが用いられている。表のケアが終わったら一気に内側のケアも行う。後はそのまま休ませ、肌寒さを感じる秋の深まりとともに再登板となる。

【レプタイル】
爬虫類の革は乾燥しやすく退色しやすい。モウブレイは爬虫類の革に使えないのでよく似たウェストンのレプタイル専用クリームを用意。爬虫類の靴を常にラインナップしているウェストンならば安心、一瓶4400円と高価だが満足度も高い。これ一瓶で爬虫類は全てOK だろう。

① ジェル状のクレム
瓶に書かれている「Creme hydratante」とは保湿クリームの意。クリーム自体がカビたり変質したりしやすいので夏場は冷蔵庫に保管している。何やらTVショッピングに出てくるコラーゲン入り肌クリームのようだが確かににプルプルした触感は革に良さそうだ(笑)。


②片足終了後
片足が終了した状態の比較写真。どちらがクリームでケアした後か直ぐに分かるだろう。正解は右側…しばらくケアしないと左のように輝きが失せ、革の表面も「肌ケアCM」じゃないが透明感がなくなる。クリームを塗布後馴染ませたら布で拭き取り最後にブラッシング…手順は簡単効果は抜群だ。

③ 両足終了後
両足ともケアを終了した後の写真。新品の時のような輝きが戻っている。インスタなどではピカピカに磨かれたカーフやコードバンの靴が話題を集めているが、実はアリゲーターの靴も負けず劣らず磨き甲斐のある素材だ。


【 ピッグスキン】
ピッグスキンは革の表面に開く独特の毛穴が大きな特徴。穴の中にクリームやほこりが溜まるのでこまめなブラッシングがポイント。まずはリムーバーで古いワックスを綺麗に落とす。その後栄養補給と磨きを兼ねてシュープリームでケアしてみた。

① コロニル
クリームを塗って布で拭き取ったところ。靴を磨く時大抵クリームは靴の色より「薄い」か「濃い」かのどちらか…夏場が多いローファーは薄いクリームでケアしてきたが、今回はやや濃いめのクリームでケアしてみた。心なしかピッグスキンのざらついた表面がはっきり出ている感じがする。 


② ブラッシング
つま先のハイシャインを拭き取って毛穴に残ったクリームを搔き出すようにブラッシングする。昔ハケットの店長に「キャップトゥのワックスを時々落とすといい」とアドバイスされたことがある。革は生きもの、ハイシャインの靴は時折「靴のすっぴん化」が良いそうだ。


③ケア終了後
全体にクリームを塗って栄養補給をしたらブラッシングするだけ…納品時の輝きが戻ってきた。追加でつま先の鏡面磨きを実施、全て完了したのが上の写真だ。毛穴の見える独特の質感に景色を映し出すつま先の鏡面磨きというコントラストも悪くない。


【コードバン】
寝かせた繊維が毛羽立ちやすいコードバンはクリームを塗る際、時々マッサージ棒などで表面を押し付けるようにして均すのがコツ。甲下の大きなクリースには風邪薬用のガラス瓶の端を使って均すこともある。ワニ革の表面を光らせるのにメノウ石を使う手法を応用してみた。

① ベネチアンクリーム
一時期コードバン靴のケアにと流行ったが最近はあまり話題に上らないヴェネチアンクリーム。久々に使ってみた。色が濃くならない無色クリームは瑪瑙のような色合いのコードバンにはうってつけ、深い皺の入ったラルフ別注マーロゥも精気を取り戻したようだ。


② コロニル1909
ナチュラルコードバンのタッセルスリッポンは表面がすっかり毛羽立ってしまった。2色用意したコロニルのうち濃い方をウェスに取って少し多めに塗り、毛羽立ち部分を寝かせるように靴ベラの柄や薬瓶で均していく。最後に乾拭きするだけでだいぶしっとりしてきた。

③ ハイシャイン
ケアを終えたらハイシャインに挑戦。キィウィがマイ定番だが最近はもっと光るワックスもあるらしい。夏はワックスが固まらず中々鏡面にならないので、冷房の効いた部屋で冷水を使って作業を進める。ワックスを塗ったら冷水を1~2滴加えて円を描くように均すと徐々に綺麗な鏡面が出きてくる。

④ 仕上がり(その1)
つま先からヴァンプを経てタンまで光らせてみたところ。クレバリーのトランクショウで受け取った時の輝きが戻った。最近は靴磨き専門の店もある。時間がない人には心強い味方になるし綺麗に仕上げてくれるだろう。だが、マダムオルガの「靴を磨きなさい、そして自分を磨きなさい」ではないが、なるべく自分の靴は自分で手入れしたいものだ。



⑤ 仕上がり(その2)
こちらも毛羽立ちが進んでいたラルフ別注のクロケット製コードバンローファーを丁寧に磨いた後…ローファーとはいえダークブラウンの色目が少々重たい。夏の間は休ませておき、秋口になったらまた履こうと思う。その時はちょっとした手入れで輝きを取り戻すはずだ。


⑥ 仕上がり(その3)
ベネチアンクリームで仕上げたマーロゥ。つま先にハイシャインを加えてみたがベネチアンクリームだけでも十分か。コードバンの靴を買い始めた頃は左右の色の違いが嫌で買ったはいいが友人に手放すことも多かったが、最近はそれも味わいと思える。この靴なんてパーツ毎に色目が違っていて昔なら却下してたかもしれない。

【 コンビシューズ】
コンビシューズは白い部分に色が付かないよう無色のクリームを使いがち…気が付くと茶色の部分が白けている。思い切って茶色クリームを使ってみることにした。サイドやヒール部分は問題ないがエプロン部分やサドル部分などは中々スリルがある。

① コロニル
ミッドブラウンのコロニルを塗っているところ。一番の難所サドル部分は綿棒を使って対処。狭いところにクリームを押し付けるように塗っていく。縫えり終わって安心してはいけない。乾拭き布から白い部分に色移りしないよう気を抜かず仕上げていく。


② 仕上がり(その1)
コントラストがはっきりとした外見。つま先には鏡面磨きを少し加えてみたがあまり目立たないようだ。毎回色つきクリームでケアするのは流石に大変なので3回に1回くらいにして後は無色のクリームでケアするくらいが丁度良い塩梅か…。


③ 仕上がり(その2)
つま先部分に鏡面磨きを入れた写真。右のローファーはまだ茶色のクリームを塗りやすいが左のフルブローグは穴飾りの下に白革が見える。そこが気になって今もまだ茶色のクリームを入れていない。2002年の注文から既に20年、茶色の退色が進んでいることがお分かりだろう。


(6) 番外編
① ロシアンカーフ
こちらがJFJベーカー社のロシアンカーフ。ハッチパターンを再現すべくクロケットジョーンズと協力して開発したそうな…。グレイレザーの一種なのでブラッシングが大事。つま先に鏡面磨きを施したが凹凸がかなり深くて思ったより光らなかった…。


②カーフ
カーフは一番気楽に手入れができる。とはいえ①靴紐を外して②タンを含めくまなくクリームを塗って③馴染ませ④拭き取り⑤再び紐を通し⑥つま先のハイシャインを施す…となれば時間もそれなりにかかる。そこで手持ちの焦茶靴4足を「まとめ買い」ならぬ「まとめケア」することにした。靴磨きが面倒だと思ったら「黒の日」とか「茶の日」とか決めてみてはどうだろうか。


そういえばオリンピック開会式に合わせた4連休は全く革靴を履いていない。人と会うこともなく近所やジムトレくらいなので全てスニーカーとサンダルで事が足りてしまう。日本で一番革靴を履く回数の減るのが夏ではないだろうか。

そこでタイトルの「夏こそシューケア」につながる。確か枕草子によれば「夏は夜」だったはず。4年に一度の祭典オリンピック特番や好きな音楽に浸りながら夜に靴の手入れというのは如何だろうか…きっとマダムオルガの金言にも応えられるはずだ。

by Jun@Room Style Store