履く機会の少ない靴 | Room Style Store

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2021/08/02 11:33


例えば結婚式の披露宴に招待されたとする。略式礼服をお持ちならばそれで十分、もしなくても無地のダークスーツに白シャツとシルバー(またはホワイト)タイを合わせ、黒のホーズ(ロングソックス)を準備すれば完璧だ。ポケットチーフも欲しいがなければ白無地の木綿ハンカチを四つ折りにして差しただけでも代用できる。さあ準備は整った。あとは当日どんな靴を履くか…。

二次会も参加すると長丁場、「着替えは用意しても替えの靴まではなぁ~」と履き慣れた黒靴を選びたくなるがそれはNG。せっかく申し分のない服一式を揃えたのに靴で躓いては元も子もない。主催者を敬うためにも「黒だから…」といつもの紐靴を履いたり楽だからとローファーやタッセルを選んだりするのは止めよう。ここはとっておきの内羽根黒ストレートチップ一択なのだ。

装いに気を遣うようになると靴も少しずつ増えてくる。中にはそんな「とっておきの靴」が少なからず出てくるもの。オンオフ両用、稼働率の高い靴もあれば、滅多に履かないがここぞという時に履く靴もある。そこで今回は「履く機会のない靴」を中心に思いついたことをあれこれ書いてみたい。

※扉写真は履く機会の少ない靴

【ストレートチップ】
ストレートチップは元来貴族が室内での執務や式典で着用するもの、日常のビジネスで履くには「フォーマル過ぎる」とハケットの店長に言われたことを思い出す。それでも男性が持つべき靴のNo.1であることは間違いない。寧ろ式典(冠婚葬祭)用の靴と位置付けた方がモーニングやディレクターズスーツといった礼装からブラックスーツやダークスーツといった略礼装までいざという時一足で事足りる。

(1) フォーマル(モーニング)
コールパンツ(縦縞のトラウザーズ)は長くのびた後裾と共にモーニングの最大の特徴。このパンツとストレートチップはペアで考えるべきだろう。もっと言えばモーニングドレスのセット(一式)で覚えておいた方が簡単かもしれない。結婚式の仲人や媒酌人、或いは子供の結婚式などそう多くはないがモーニングを着る機会は年を重ねると出てくるもの、そんな時こそ「とっておきの靴」が役に立つ。

(2) フォーマル(モーニングその2)
英王室のハリー王子がメーガン妃と友人の結婚式に出席された際「靴の底に穴が開いていた」と暴露したのは25ansだった。革底は履くうちに穴が開くもの、個人的にはさもありなんと思ったがそれより王子が履いていたのが「黒のフルブローグ」だったことに驚いた。チャールズ皇太子は自身の結婚式に正式なストレートチップを履いていた。ひょっとして誰もハリー王子にアドバイスしなかったのだろうかと思ってしまう。


(3) ディレクターズスーツ
礼装が昼はモーニング夜はイブニングならば、準礼装は昼がストローラー(英ブラックラウンジ)、夜がタキシード(英ディナージャケット)になる。日本ではディレクターズスーツと呼ばれるが和製英語なのでロンドンでオーダーしようとしたら注意が必要だ。ロンドンのファーラン&ハーヴィーでオーダーした略礼装のブラックスーツに替えのストライプトラウザーズを合わせて使っている。

【オペラパンプス】
礼装に次ぐ準礼装となると昼は「ディレクターズスーツ」だが夜は「タキシードかディナージャケット」になる。さてタキシードに何を履くか…ストレートチップでも良いができれば正統なオペラパンプスを用意したい。エナメル素材が正式だが光り過ぎるのが嫌ならカーフ素材もOKだ。ソールは極薄、屋外を歩くなんてもっての外だが靴好きなら一度は履くべきだと思う。

(4) タキシードの靴
イブニングドレスは招待状に「ホワイトタイで」と指定された時に着る燕尾服を指す。ノーベル賞授賞式で日本の山中教授がイブニング姿でスピーチされたことが好例、とてもお似合いだった。日本ではまず機会がないので次位の「ブラックタイ」指定までは準備しておきたい。写真のオペラパンプスはカーフ素材だが光り過ぎないものを探して手に入れたもの。30年経つが履く回数が少ないので綺麗なものだ。


(5) タキシード
英国式ディナージャケット(ピークドラペル)か米国式タキシード(ショールカラー)か…迷うところだがラルフローレンが銀座に路面店を構えていた頃「ショールカラーを着る機会は中々ないのでは…」と薦められてタキシードを選択。身体に合ったタキシードを作って貰いカマーバンドやウィングカラーシャツはブルックスで、オペラパンプスはシップスで、ボウタイは黒に加えてクリスマス限定のものをエルメスやポールスチュアートで揃えた。…タキシードは付属もの(カフリンクスやオニキスのスタッズなど)をあれこれ買うのが楽しい。


(6) ブラックタイ指定の夜会を主催する
ホテルの一室を借り切ってブラックタイ指定のパーティを主催するのも悪くない。タキシードのパンツは共布で側章(シルクの帯)入りが鉄則だが、プライベートパーティならば写真のようなブラックウォッチ柄のオッドトラウザーズやミッドナイトブルーのベルベット製ショールカラージャケットでドレスダウンしてもOK、タキシードやオペラパンプスの出番も増える…そんなオフ会を企画したいものだ。


【ブラックローファー】
黒のローファーなら仕事用に愛用しているという人もいよう。ブレザースタイルに黒のローファーはアメトラ好きの定番ともいえる。それでも黒を履く回数は茶と比べて少ないはずだ。何しろ怠け者を表す「loafer」と黒が象徴する「formal」は反意語に近い。格式やドレスコード、相手への敬意を示すフォーマルを意識するには怠け者でいてはいけないはずだ。

(7) ミートアップ(オフ会)
ブレザーに用いられるネイビードスキンを用いたトラウザーズ。フォーマルに近い雰囲気だが趣味のミートアップ(オフ会)ならばドレスダウンを楽しみたいところ。フォーマルに近い黒無地ソックスは避けてカラフルなものを、それもできれば柄物が良い。写真のタータンソックスは由緒正しい柄なれどカラフルでカジュアルにも使えるアイテム。こんな小物をいざという時に用意しておくと助かる。


(8) ミートアップ(オフ会)…その2
タータンチェックはクラン(氏族)を表す柄であり、日本の紋付羽織同様由緒正しい民族衣装として高い格式をもつ。日本人がフォーマルな場で身に着けることはないがホームパーティーやオフ会など私的な場では黒のもつフォーマル感を上手く調和してくれる柄としてとても重宝する。上ではソックスに用いたがここではトラウザーズをタータン柄にして黒靴の持つ堅いイメージを崩してみた。


(9) ブラックローファー
昔から黒いローファーの使い道を試行錯誤しているが茶系の靴に合うカーキやブラウン、グリーンといった色と黒靴の相性は正直あまりよくないと感じる。どうしても足元が重く感じてしまうからだ。黒靴には同系統の黒~灰か対極の白、ウォッシュの効いたジーンズなどだろうか…ロブロンドンで出来上がったばかりの黒タッセルスリッポンをどうやってカジュアルに履くか…これからの宿題だ。


【ルームシューズ】
ベルベット製のアルバートスリッパなどルームシューズを店頭で見かけることも増えたが日頃ルームシューズを履く機会は少ないと思う。日本の家屋は大抵靴を脱いで上がりスリッパやソックス(または素足?)で過ごすように作られているはず、試しに信州の田舎家でルームシューズを履いて生活してみたが床が傷みそうで止めた。かといって外出するにはオペラパンプス同様ソールが薄すぎる。雰囲気はよいが使い道の限られた靴のベスト3に入りそうだ。

(10) コテージで(その1)
信州の田舎家も冬になると薪ストーブが稼働、とろとろと燃えるストーブの傍らで来客と語らいひと時を過ごすなら写真のような格好も悪くない。上は手編みのタートルネックセーターで、客人にもできればルームシューズを履いてもらい雰囲気を盛り上げたいところだが、スリッパと違ってフリーサイズではないのでそうはいかないのが悩みの種。ルームシューズを持参できるゲストなら間違いないのだが…。


(11) ホームパーティー(その2)
冬のコテージ、一人で過ごすならばもっとカジュアルにコーデュロイパンツという選択肢も悪くない。リラックスした雰囲気のパンツはマスタードイエローの色目がタータン柄のルームシューズとぴったり重なる…ついでにソックスはアーガイルでチェックオンチェックにトライ。何やら縦縞に横縞を合わせるウィンザー公のようで中々楽しい。


(12) ルームシューズ
写真は惜しまれながらコレクションを終了したトムブラウン監修のブルックスブラザーズ上級ライン、ブラックフリースのルームシューズ。スペイン製のルームシューズは作りが大きく厚手のソックスを履いた方がフィットする。柄はブルックスのシグネチャータータン、このルームシューズ以外にコートやジャケット、パンツやネクタイなどフルラインナップしていた。パンツはポロとG.T.A。

【ビットローファー】
グッドイヤー一辺倒のIVY時代からアメトラを経てイタリアンデザイナーものに凝った時期はピノジャルディーニやタニノクリスチ、フェラガモなどイタリアンマッケイ靴をよく履いた。が、今履くならグッチの「ビットローファー」だ。ビット(金具)の醸し出すお洒落な雰囲気は唯一無二、バカンスでこそ様になる。普段履かない靴に分類されるのも仕方ないほど「洒落た靴」といえよう。


(13) リゾート(その1)

ネイビーのビットローファーは型押しの牛革、一見ピッグスキンに見えるが履き心地は柔らかく全くストレスを感じさせない。前々回のブログで紹介したグッドイヤー勢のアンラインドローファーに匹敵するフィット感がある。イタリアンマッケイの魅力を再確認した。以前コールハーンやハンティングワールドのビットローファー似を履いたことがあるがやはり元祖は格上だ。


(14) リゾート(その2)

こちらはパンツをデニスラに代えてみたところ。上は白のポロシャツかBDシャツで色数を抑えた着こなしが似合いそうだ。素足風のソックスで合わせるのもよいが今回はソックスとの相性も考えて撮影してみた。いざという時のためにソールにはラバーを半貼りしておきたいもの。それだけで耐久性はグッと向上するだろう。とはいっても類稀な履き心地と引き換えに耐久性が低くなるのはやむを得ないだろう。


(15) ビットローファー
欧州を代表するチロリアンやアメリカのラッセルモカシンなど野暮ったくなりがちな被せモカを甲側部分のみ取り入れたヘビモカを採用したビットローファー。サドル中央のくびれや両脇のビーフロール、程よい大きさのビットなど優れたデザインで野暮とは対極のお洒落な靴に仕上げるあたりは流石のグッチ、ブランドアイコンとして定着したアイテムの持つ凄味がある。ソックスはブルックスのイタリー製


黒の内羽根ストレートチップは「スーツに合わせる基本の靴」とも言われる。だが「カジュアルダウンやお洒落に着こなしたい場合は面白みに欠けてしまう」という声もある。本来は式典用の靴であることからマナーに沿えば「履く機会が少ない靴」になるのもやむを得ないし、「ストレートチップはフォーマル過ぎる」というのも納得できる。何より今回挙げたオペラパンプスや黒のローファーも含め、黒の靴には常にフォーマルがキーワードとして付いて回る分履く機会が限られてしまう。またルームシューズのように日本の生活習慣に馴染み難い靴もあればビットローファーのようにインスタグラムではないが映える「時や場所や状況がある」靴も少なからずある。茶/白のコンビシューズなどその中に入るだろう。

TPO(Time・Place・Occasion)は和製英語だがTPOをわきまえろ…とよく言われたものだ。flexible(臨機応変な)やdecent(きちんとした)あるいはsuitable(場に相応しい)やappropriate(適切な)が英語でTPOを表す言葉だろうか。ラルフローレンがディナージャケットにデニムとカウボーイブーツで登場したのはランウェイの主催者だから許されたのではないかと思う。2016年英国のファッションアワードで功労賞を受賞された際はダブルのディナージャケット(英国式)の上下に黒のストレートチップを履いていた。

TPOに従えば着用頻度が異なる靴が出てくるのも致し方ない。久々に足入れをした後、オペラパンプスを磨きながら「この冬はブラックタイでクリスマスパーティが開けたら」とコロナ過の収束を願う週末だった。

By Jun@RoomStyleStore