靴の修理とカスタマイズ | Room Style Store

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2021/08/28 10:49


昔から靴は装いの要、「長く履けて修理の効く靴を揃えるべし…」との教えに従い、初めて買ったリーガルのビーフロールローファーも勿論グッドイヤー製法だった。毎日履いて踵が減ったら修理してまた毎日履くことの繰り返し…いくら長持ちする靴でも限度があろう。遂に踵が綻びモカシンが解け、お釈迦になってしまったことがある。靴のローテなど考えられなかった時代だ。

月日は過ぎたが今も修理の効く靴を選んで修理をしながら長く履く姿勢は変わらない。35年前のリーガルを修理して「履こう」と考えるのも自然な流れなのだ。働き始めてある程度靴が揃うとローテーションが可能になった。おかげで履きつぶして新しい靴と交替するより何足か用意して履きまわす方が寿命が長いことを知った。修理屋で革底にラバーを張ったりつま先にプレートを付けたりとカスタマイズする事で長く履けることも学んだ。

そこで今回は修理から戻ってきた35年物のリーガルとカスタマイズしたブーツを中心にリーガル直営店での靴修理サービスと街の靴修理屋のサービスについて色々と書いてみようと思う。

※扉写真はリペアを終えた靴とカスタマイズしたブーツ


【特集1: メーカーの靴修理】
(1) リーガル直営店へ行く
35年前のリーガルウイングチップといえば物持ちが良さそうに思えるが、ローテーションから外れて最近はずっと履かないままだった。靴が増えるとどうしても履かない靴が出てくる…これは永遠の課題だろう。日陰の存在だったリーガルだがこの夏、意を決して修理に出した。持ち込んだ場所はリーガルの直営店、馴染みのある吉祥寺にある比較的新しい店舗だ。


(2) 修理に出す前の靴
踵内側の穴やウェルトまで食い込んだつま先の傷、貫禄というよりリタイア寸前の雰囲気が漂う。長い間手入れを怠っていたことを反省しつつ、せめて往時の姿を再現すべくショップの担当と相談…。オールソールに加え中底の取替(リウェルトもセット)も行うことにした。これで足回りは新品同様、ただしグッドイヤーウェルトならではの「コルクが沈んで中底が履き手の足に馴染む」機能はリセットされてしまう。
【見積もり】
オールソール:14,300円   
中底取り換え(含むリウェルト) : 4,000円
スベリ替え(踵の内張り) : 1,500円
合計19,800円(税別)


(3) 修理を終えた靴
アッパーはそのままだがウェルトが交換されただけで靴が息を吹き返した。紐靴は新品と交換(サービス)、アッパーも柔らかくなっている。ショップスタッフも嬉しそうだし受け取る自分も顔が綻ぶ。製造元に修理を依頼するということはものづくりの一つの理想…作り手も履き手も互いにハッピーになれる瞬間が心地よい。


(4) ビフォー&アフター(その1)
まずは靴のコバを比べてみよう。同じパーツのウエルトに同じピッチで走る出し縫いに「品質重視に徹底した靴作り」を重んずるリーガルの伝統が感じられる。靴の外周を縁取るコバは「絵画を飾る額縁」と同じ、相応しい額縁が付くことで名画が引き立つ。初めてのウエルト交換だったが効果は抜群、チラリと見える踵のスベリも糊の効いたシャツのように凛としている。


(5) ビフォー&アフター(その2)
ソールは35年前と同じ底材ではないが現行品と同じ仕上げに満足。やや硬い革底らしくまずは履き慣らしてみたい。新しいヒールトップはブーツロゴ内にREGALの字がない。調べたところ1990年に社名を日本製靴からリーガルに変えた際ロゴも刷新したようだ。最近はクールビズの定着で重い革底靴から軽いスニーカーへと志向(+嗜好)が変わり、リーガルをはじめ様々な服飾業界が対応に苦慮している。


(6) ビフォー&アフター(その3)
ソールは当時よりも少し厚めだがトウスプリングが調整されている。今回のオールソール+中底の取替コースはラストに再釣り込みする工程を含むので、アッパーこそお古だが後は殆ど新品、シェイプも元通りになる。アメリカの靴メーカーアレンエドモンズではこの工程をリクラフティングと呼ぶそうだが、確かにリペアよりしっくりとくる。


(7) ビフォー&アフター(その4)
昔はつま先に補強するという発想はなく、つま先が減るのは当然だと思っていたが今や補強は当たり前。せっかく綺麗になって戻ってきたので近いうちにメタルプレートを装着しようと思う。因みにリーガルの修理メニューに「つま先ゴム張り」はあるが「トゥスチール装着」はない。履き心地が変わる金属板の装着は想定していないのだろう。


(8) ビフォー&アフター(その5)
紙のようだったインソック(before)も新品に変えると早く履いてみたくなるから不思議だ。昔はこのロゴを見ると胸が高鳴ったものだ。そういえばネットで旧ロゴと新ロゴの違いをネットで調べてみたらリーガル愛が詰まったブログや「夫婦ともリーガルを愛用するファン」がいる様子が載っていた。REGALで青春時代を過ごしてきた身としては心温まる話だ。


(9) ビフォー&アフター(その6)
35年も経てば履き口の裂け目も出てくる。特に力のかかる踵部分は複数あるので要注意だろう。あと何年履けるかはこの踵の持ち次第だが、いざとなれば靴修理に持ち込めば更なる延命も可能だとのこと。せっかくなので50年を迎えるまで履き続けられるよう今度こそケアを怠らず節目を迎えられるようにしたいものだ。


(10) ビフォー&アフター(その7)
いつの間にか付いた傷、満身創痍のつま先もウェルト交換で見違える。大切なリーガルの靴をお持ちの方はオールソールの際、金額は多少アップするが中底の取替を検討してみては如何だろうか。4,000円の追加出費はウエルト交換も含めるとリーズナブルだと思うし純正パーツを持つメーカーならば出来上がりは保証されているからだ。


(11) 靴のコーデ(トラッド編)
リーガルのウィングチップは70年代フローシャイムのインペリアル・ケンムーアを参考にしている。ならばアメトラの王道ブルックスブラザーズと合わせたい。ブルックスの上級版ブラックフリースの米国サウスウィック製グレーフランネルは王道の1本。フランネルのブレザーにBDシャツとレップタイがお約束だろう。


(12) 靴のコーデ(アイビー編)
トラッドより若めのアイビー調で行くならコットンパンツ、それも裾にチェックの裏地が貼られたものが良い。一折りすると普通のターンナップカフ、もう一折りするとタータン柄が出てくるという絶妙な裾の長さは一石二鳥、一粒で二度おいしい。ソックスは最近イタリア製からトルコ製に変わったが柄物、中でもアーガイルを豊富に揃えるブルックスがお勧め。


(13) 靴のコーデ(デニム編)
ジャスト丈(しかもやや短め)のストレートフィットデニムが旬だそうで、革靴を合わせるコーデが紹介されていた。涼しくなったらBDシャツにカーディガンやG9、或いはチャンピオンのパーカでも良い。冬ならツィードジャケットという選択肢もある。写真のジーンズはRRL、丈をカットしてアタリのついた裾先を移植している。履き込んだ感じのままレングスを調節できるのが良い。


【特集2 : 靴修理店に持ち込む】
(14) 靴をカスタマイズする
カスタマイズされたブーツは一見ラッセルモカシン風だけどウールのチェック柄はどこかで見たような…答えはラルフローレンのストラップブーツ。オイルドレザーをハンドソーンで仕上げ、人工シアリングのウール柄をシャフトに使用したもの。元は薄いソール(写真左上の写真を参照)が付いたものを中古で買って靴修理屋でカスタマイズしたものだ。


(15) 本格的なソールを付ける
ソールの縫い合わせはブラックラピドを採用。①中底と中間底の間にコルクを詰めてマッケイ縫いを施し②中間底の端をウェルト代わりに本底(ここではクレープソール)を塗う方法。一見グッドイヤー製法に見える。米国メイン州のランコート&Coやラッセルモカシンでよく見られる。お陰でクッション性とタフさが備わった。


(16) 踵の汚れ
ヒールのないせいか踵が汚れていたが(上左の写真)、汚れはほとんど気にならないほど除去してから作業を進めたようだ。昔アローモカシンというソールのない靴(ショートソックスのようなイメージ)があったが、同じようにソールを取り付けたリペア例がネットに載っていた。街の靴修理屋の利点はそうしたパーソナルなリクエクストに答えてくれるところだろう。

(17) ソールの構造
写真で見えるソールの一番上(革)が中間底。まず靴の内部でインソール(中底)と縫い合わせる。革とクレープソールは接着力が弱いので中間底と薄いクレープソールをステッチ(+接着剤)で縫い合わせてからクレープソール同士を接着している。よく見ると楔上のクレープソールが間に挟まっている。このパーツのおかげで底がウェッジソール状になっている。実によく考えられたやり方だ。


(18) ラギットなブーツの完成
信州の田舎ではソールの貧弱なブーツは役に立たない。仕上がったばかりのブーツを試し履きしながら早く冬が来ないものかと待ちわびている。人工シアリングは暖かそうで、ストラップを全て留めれば雪の侵入も保温効果も十分期待できる。中古で買った靴と同じぐらいの値段を改造に費やしたが仕上がりは世界でただ一足の存在感、ビスポークに似た満足感が味わえる。



戦後国民が好景気を実感するようになったいざなき景気のピークは1970年。その年第1号店を東京の八重洲にオープンしたリーガルはアイビーブームと重なり業績を伸ばしてきたが、今年雇用調整と工場の一部閉鎖を発表した。主要顧客がシニア世代に突入し、若年層への対応が後手に回るなどコロナ前からの構造的な問題もあり今や「改革待ったなし」の状況だと経済紙は伝えている。


一方ではパターンオーダーを中心とした小メーカーが産声をあげている。靴を修理しながら長く履く生活の定着に合わせて靴修理店の出店も続いている。多様性や持続可能な社会への変化が加速する中、日本を代表するリーガルが品質向上に努めつつ伝統や過去からどう脱却するのか…青春時代をリーガルと共に過ごしたトラッド愛好家としては気になるし見守り続けたいところだ。

By Jun@Room Style Store