2021/09/05 05:24

ある商品を買おうかどうか迷う時、決め手になるのは①限定性②特別感③付加価値の3点だという。あとに④将来性が続くそうだが大抵①~④のどれか1つ2つ、時には全部が決め手になるとのこと。①ならば数量限定や期間限定など②ならば特別仕様や特別価格など③ならばネームバリューやステイタス感など④ならば長く使えるかなど…なるほど自分も①~④が購入の決め手になってる。
因みに「ビスポーク靴」は世界に1足の①限定性や自分の足に合う②特別感がある。希少な素材なら③付加価値も付こう。長く履けるので④将来性もある。おお①〜④まで全部揃っていると早合点してはいけない。値段が高いと③特別感を感じられなかったり完成まで待たず今履ける既成靴に②将来性を感じたりする人の方が多いだろう。
そこで今回は手持ちの靴の中から買ってよかったと思える「満足度の高い靴」を10足選んで、購入の決め手は何だったのか思い出しながら書き留めておこうと思う。
※扉写真は満足度の高い靴達
【オールデン】
(1) ラコタ15周年記念(その1)

最初はオールデンの代理店ラコタによる創業15周年企画品のアンラインドローファー。各セレクトショップ経由で限定販売したが、ほぼ予約だけで完売したそうだ。取扱店はユナイテッドアローズ(以下UA)。他社と違うトムラストで①限定性は十分、ラコタが当時ブルックスブラザーズ専売だったアンラインド仕様をオールデンに認めさせた時点で②特別感もあった。
(2) ラコタ15周年記念(その2)

ホーウィンコードバンに付く旧スタンプが物語る年代感。既に発売から20年近く過ぎて革はルビー色に変化している。革の宝石と言われる所以か…。発売時は定番品と変わらぬ価格で③特別感は十分、ただ同じ靴がブルックスでも買えたせいか①限定性はさほどでもなく、むしろ通し番号の書かれたインソックやそれに見合う靴の出来栄えなど③付加価値を感じたものだ。
(3) ラコタ20周年記念(その1)

15周年企画品で好評を得たラコタが20周年に再びアンラインド仕様のローファーを企画販売。ただし足数は100足と減っている。肉厚コードバンの確保が難しかったのかもしれない。この時もUAは他のショップがヴァンラストで注文を入れる中トムラストをリクエストしている。15周年よりヴァンプはやや短いが仕上がりは素晴らしく、限定生産にかけるオールデンやラコタの心意気が伺えた。
(4) ラコタ20周年記念(その2)

靴の内側、ホーウィン社のコードバンスタンプが(2)の旧タイプから新タイプに変更されている。そんな違いもオールデンマニアにはたまらない②特別感かもしれない。この靴はオークションで手に入れたが15周年で品質の高さを知っていたので迷わず入札に参加できた。写真を見てもタン端の厚みが分かるだろう。肉厚な素材で長く履ける④将来性も十分といったところか。
【エドワードグリーン】
(5) サンドリンガム(その1)

こちらはNYのLeffot別注の靴。エドワードグリーンの定番サンドリンガムだと分かる人は相当な靴好きだ。ただしラストはラウンドの#202からスクエアな#606に、素材はウィスキーコードバンに、ソールはダブルソールに変更するなど別物。しかもLeffotは日本へ発送しないので①限定性も②特別感もある。ダブルソール仕様で耐久性も高めるあたり④将来性も視野に入れた別注といえよう。
(6) サンドリンガム(その2)

エドワードグリーンも最近はコードバンものをラインナップに加えている。公式サイトにはコニャック、バーガンディ、ブラックの3色が載っていた。残念ながら人気のウィスキーコードバンはなく、それを見越したかのようにLeffotではウィスキーコードバンのサンドリンガム限定受注を再開した。ただしラストは#606からロングノーズの#808、通称ビスポークラストに変更して更に③付加価値を高めているようだ。
(7) バタフライローファー(その1)

こちらは同じNYの靴屋Leffotが特注したウィスキーコードバンのバタフライローファー。エドワードグリーンでは靴にチェルシーやドーバーなどペットネームを付けているがこのローファーには名前がない。昔NL(ニュー&リングウッド)のリクエストで製造して以来お蔵入りしていたモデルをアーカイブから引っ張り出して作らせたのだろう。これで①限定性②特別感が一気に跳ね上がる。
(8) バタフライローファー(その2)

Leffotは有名どころへの別注やビスポーク靴の受注会を開くなどショップとしての勢いを感じる。ディレクションも的を得ていて、例えば本来NLではヴァンプ部分のみだった穴飾りをバタフライ部分にまで広げ、縁をギンピングするなどコードバン素材に合うカントリーテイストを盛り込んでいる。ただ足入れした印象では慣らすのに時間がかかりそうだ。④将来性は十分だが室内試し履きから始めたいところだ。
(9) ピール(その1)

1990年に初めてNYのブルックスブラザーズ本店を訪れて1番驚いたのが靴コーナーの広さだった。中でも一番奥に鎮座していたのが写真のピール。ロンドンの靴屋だったピールの廃業時に商標権を取得したブルックスがエドワードグリーンに作らせたものだ。エドワードグリーンの名は一切ないが当時からブルックスはオールデンやチャーチズ、クロケットやサージェントなどに名前を出させず靴を別注していた。
(10) ピール(その2)

ラストは#192。ピールラストと呼ばれつま先がウォール(壁)状になっている。アッパーはエドワードグリーンらしいアンティークチェスナッツ仕上げにぐっと絞られたアーチなどビスポーク風の作りが特徴。トウメダリオンも独特で①限定性②特別感③付加価値の3拍子揃ったこの靴は1996年発刊のスタイル&ザマン(アランフラッサー著)でも登場している。往時を偲ぶアーカイブ品としての④将来性もある。
(11) ワイルドスミスネーム(その1)

こちらは昔ロンドンにあった靴屋ワイルドスミスでの購入品。ラストは#201と靴好きならばすぐに分かるエドワードグリーンの別注品。珍しいラストを用いている上に現存しない店舗による別注品という①限定性もある。更にこの靴がサンプルであることや②特別感や幻となった素材、スタグスェード(牡鹿の肉面を起毛)を使っているという③付加価値もある。
(12) ワイルドスミスネーム(その2)

毛足が長くブラッシングの方向で色が変わるアッパーはビロードのよう。スタグスエードはかつて英国靴によく見られた素材だったが、今では同じ牡鹿の銀面を毛羽立たせたバックスキンでさえ枯渇状態になっている。…カーフスエード(牛)のように頻繁に履かないせいか傷みもなくアッパーはいたって綺麗。素材の珍しさは③付加価値を高めるだけでなく後世に残そうとする④将来性にも影響を与えるようだ。
【クロケット&ジョーンズ】
(13) ギリーブローグ(その1)

こちらはロンドンのジャーミンStにあるクロケット&ジョーンズで2017年に個人別注したギリーブローグ。ラストとサイズ、デザインや素材を決めるので①限定性や②特別感は高い。ウィスキーコードバンという③付加価値もある。追加料金は150£(22500円)、これをどう取るかで付加価値は+にも-にもなるが、極めて珍しいギリーに希少なウイスキーコードバンを乗せている時点でポジティブに評価したい。
(14) ギリーブローグ(その2)

クロケットではオーダー時に細かなリクエストが出来る。リッジウェイソールにしようと考えたが通常のダブルソールよりアップチャージとなるのでメタルトゥチップを付けて耐久性を高めた。25£(当時で約3750円)の追加料金だから日本の靴修理屋とほぼ同じだ。お陰で靴の④将来性も確保できたが、一点シューストリングスを「蝋引きの丸紐」でとリクエストするのを忘れたのが心残りだ。
【シルバノラッタンジ】
(15) アスキット(その1)

アルティジャナーレ(職人的)な靴で一世を風靡したシルバノラッタンジ。NY店が「世界一高額な靴を売る店」として紹介されるなどハイブランドな靴屋になっている。当初からハンドメイドを売りに②特別感のある靴だったが、ノルベ靴が流行ると大胆なステッチや靴のパティーヌで③付加価値を高めていった。写真のアスキットはミラノの本店で購入。入荷したてのこの靴…各サイズ1足しかなく①限定性が高かった。
(16) アスキット(その2)

細く見えて窮屈じゃないこの靴…ラストに秘訣があるのだろうか。つま先はビスポーク靴同様に耐久性を考慮してネイル(釘)を打ち込み④耐久性を高めている。最近ラッタンジのHPを訪問したらハイソなアリゲータースニーカーが次々と出てきたが、一方で懐かしのノルヴェやハンドソーンの靴も載っていて安心した。ただ値段が一切載っていないところなど如何にもハイブランドらしい。
【サンクリスピン】
(17) スプリットトウ(その1)

写真はハワイの靴屋レザーソウルがサンクリスピンに別注したスプリットトゥをマイラストでオーダーしたもの。話はややこしいが「別注品の別注」になる。サンクリスピンへはメールで打診、数日後「レザーソウルと同等の特別価格でオーダーを受ける」との嬉しい返事が戻ってきた。お陰で②特別感も十分、リピーターとなって最近ブーツをオーダーしたばかりだ。
(18) スプリットトウ(その2)

レザーソウルで何足販売したのか分からないが、この靴をブログで紹介したところ質問が届き、同様にサンクリスピン経由で手に入れた人を知っているくらいで①限定性はかなり高いと思う。注文時につま先のプレートもリクエストしているので耐久性もあり、④将来性も十分とみた。何より限定価格という③付加価値が満足度を高めている。
【アルカンド】
(19) ノルベジェーゼ(その1)

2000年当時、ミラノに駐在していた知人を介して購入した1足。友人から「廃業するアルカンドがサンプルを売却する」ということでマイサイズに近いサンプルの中からノルヴェの靴を買って日本に郵送して貰ったことを思い出す。その後まもなく靴屋は閉店、一つの時代が終わった寂しさを味わった。サンプルの方は流石の出来栄え、①限定性も②特別感も十分、後世に残す靴として③付加価値や④将来性も備わっていた。
(20) ノルベジェーゼ(その2)

ピッチの細かなモカ縫いやコバを一周する力強いステッチ…もし今もアルカンドが店を構えていたらオーダーしたに違いない。誂え靴屋のサンプルを買うチャンスがあったら是非買ってみて欲しい。履くのも構わないが、後世に残す歴史的資料としての価値がある。因みにこのサンプル、異例なほどリーズナブルな価格だったことを覚えている。
ところで購入動機といえば海外旅行も大きい。せっかくだから滞在中に何か買おうという①限定性や現地価格という②特別感、旅の記念という③付加価値もある。帰国後は一際愛用するので④将来性もある。旅先で「財布の紐が緩む」のは仕方のないことかもしれない。
既に英国やEUとEPAを結んだことで靴などは将来現地価格と同じになるらしい。ビスポーク靴も完成したら日本へ郵送して貰っても関税がかからないしグリーンやウェストンの内外価格差だって解消する。その時満足度が高いのはいったいどんな靴だろうか…
By Jun@Room Style Store