コードバン狂騒曲 | Room Style Store

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2021/09/25 09:33


紳士靴で一番多い天然素材といえば牛革。肉牛や乳牛として多数飼育され原皮のサイズが大きく、成牛の場合一頭から紳士靴20足が取れるそうだ。では今回の話のタネ「コードバン」はというと馬一頭の尻革から取れるのは靴12足分。なんだ結構取れるなと思いがちだが、頭数が牛より極端に少ない馬の原皮は流通量が限られ、素材としての希少性がグッと高くなる。

ただコードバンが人気なのは希少性だけでなく他にも理由があるはず…。革の宝石というくらいだから独特の艶と透明感のある色は靴好きを惹きつけるだろうし履き手の足に合わせて深く入る皺も唯一無二の個性。段差で擦っても補色するだけで傷が目立たなくなる丈夫さも捨てがたい。水に弱く皺と皺の間が黒ずむという欠点を補っても余りある魅力が幾つもある。

靴好きが「ウィスキーだ、シガーだ…」とレアカラーのコードバン靴(しかもオールデン)に夢中になる様はかつて自分もオールデンサンフランシスコにレアカラーを別注したことがあるだけに良く分かる。そこで今回は「コードバン狂騒曲」と題してその魅力について書いてみようと思う。


(1) 22足のコードバン靴
120足を超える手持ちの靴の中で牛革に次ぐ多数派のコードバン。熱狂的なファンのいる「レアカラーコードバン」のオールデンも一時在籍していたが人手に渡り、誂えのコードバン靴が後釜に座るなど変遷を繰り返しつつ今日に至っている。最大派閥は米国のオールデンが10足と全体の約半数。対するは英・伊・羅の欧州三か国連合、既成に誂えが加わり個性派揃いだ。

(3) チームオールデン
オールデン陣営はブラックコードバンが1足で後は全てバーガンディ。同色・同素材で何足も持つなんて普通は有り得ないがオールデンは別腹になる。例えば中段左のペニーローファー。よく似た3足だが実はどれも微妙に違う。興味のない人ならば全く同じに見えるだろうがラストの違いやライニングの有無、ヴァンプの深さなど愛好家にとっては「全く違う靴」…ということになる。

(4) ストアから(その1)
さて、ここではストアの在庫からオールデンを紹介…。昔から縫える職人が2~3人しかいないといわれる手縫いモカが特徴のレンジャーモック。オールデンマディソンの別注。所謂ショップオーダーになる。レギュラーラインにはないモデル+Cウィズのスマートな外観+柔らかな履き心地のフレックスソールでレンジャーモックの名とは真逆のシティユースな外羽根靴に仕上がっている。


(5) フレックスソール
特殊な液に浸し耐久性+柔軟性を追求した新しい底材は履いた瞬間から「返りの良さ」と「柔らかな履き心地」感じさせるとのこと。既に定番のプレーントゥやロングウイングチップのソールにも採用されており評判も上々らしい。トゥスチールを埋め込んだが靴修理屋で「ハーフラバーを最初に張っておくとオールソールの必要がなくなるのでお薦めです…」との助言あり。

(6) ストアから(その2)
こちらはアメリカはコネチカット州のシューマートで買い付けてきたオールデンのⓇ品。リジェクト品と呼ばれる検品洩れを独占販売する名物店として有名なシューマートだが立地条件がニューヨークから離れているため行き辛いのがネック。それでもコロナ過が収まったら真っ先に訪れたい店の一つだ。サイズ毎に並ぶオールデンのⓇ品は玉石混交、直接確かめて買うのがポイント。


(7) ディフェクト部分
検品ではじかれた箇所は恐らく上の2か所。ウェルトの出し縫い時小ついた小さな傷とタンの長さが左右で違うところだろう。革質は良好、磨きも十分でプランテーションクレープソール仕様の個体は品番のNが示すとおり日本のショップ別注品と思われる。国内定価は141,900円だが在庫はなく当ストアの1足のみ。サイズが合えばお買い徳。

(8) 3番目の古参
こちらはチームオールデン3番目の古参ブルックス別注のプレーントゥ。外鳩目のアイレットや底付けを現行のストームウェルトではなくグッドイヤーウェルトで仕上げているのが特徴。鳩目の塗装は剥げてアルミ地が見え、つま先は雨染みができるなど古さを感じさせる。それもそのはず、1997年製造だからかれこれ25年経っているのだ。それでもソールはタフ、未だ張替えなし。

(9) 2番目の古参
1995年、オールデンオブカーメルに初めて注文したチャッカブーツ。まだインターネットのブラウザがエクスプローラーとネットスケープの両方あった時代だ…。今ほど情報がなくて大きめのサイズを買ってしまったので秋冬用の厚手ソックスと合わせている。間も無く10月、そろそろこの靴の出番だ。


(10) チャッカを履く
ワイドストレートなデニムは昔のエヴィスジーンズ。カモメのペンキマークが大ヒットした頃のものだ。洗って乾燥、ゴワッとした生地感が残るジーンズに艶のある皺々チャッカブーツで少々野暮ったい着こなしにチャレンジ。それにしてもこのチャッカ、スラックスからコーデュロイやチノ、ジーンズまで何にでも合うマルチプレーヤーではないか?スエードとコードバンの2足有れば秋冬コーデの足元は事足りそう…。
Bag : L.L.Bean


(11) 最古参
こちらが手持ちのコードバン靴で最も古いもの。1991年製だから今年30年を迎えている。流石にアッパーにはひび割れが出ているているがまだまだ現役。ソールに穴が開いてコルクが見えているので2回目のソール交換になろう…。確かオールソールは3回まで、その後はウエルトを交換+ソール交換とのこと。そこまでアッパーが持つか。



【欧州連合コードバン】
(12) 英・伊・羅の馬革靴
こちらは欧州のコードバンチーム。最大派閥はクロケット&ジョーンズで5足と約半数。コードバンをラインナップに加えているだけあって仕上がりは安定、チームに2足参加しているエドワードグリーンに勝る仕上がりだ。他にはイタリアはローマの誂え靴屋マリーニと既成のシルバノサセッティ、誂え靴屋のG.クレバリーとルーマニアのサンクリスピンが加勢している。


(13) ストアから(その3)
さてこちらもストアの品揃えから紹介。ラベロコードバン(ミディアムブラウン)が味わい深いクロケット製のラルフ別注リボンローファーRHETT。プレッピーな装いに欠かせない傑作靴。ストアにはカーフ版もあるがコードバンは特別だ。サイズは米国表記の9.5-D、英国表記なら8.5-Eと黄金サイズでラルフ好きやプレッピーファッション好きにお薦め…。


(14) RHETTのソール
オールデンだったら高値で取引されるだろうラベロコードバンのローファー。こちらは輸入元のリーガルコーポレーションが「規格外品」または「サンプル品」を表すときに使う「丸にNのスタンプ」が押されている。規格外となる箇所はコードバンの色ムラだろうか。あるいはリボンベルトの配色が通常の緑/青/緑ではなく青/緑/青と逆なため1足限りのサンプル品という可能性もある。


(15) プレッピーな着こなし
ラルフ流プレッピールックは「チェックオンチェック」が着こなしの第一歩、また一見派手なオレンジに青と緑のストライプソックスもローファーのリボン色やネクタイのオレンジを繰り返すといった「色のリンク」を薦めているそうな。しかも「3色に留める」のが基本の着こなしに対してラルフでは「最低でも3色できれば4色以上入れる」着こなしを推奨していると聞いた。
Wearは全てPolo Ralph Lauren
バッグはL.L.Bean


(16) ストアから(その4)
こちらはコロナ過で経営破綻する前のブルックスブラザーズから。オールデンと袂を分かちイタリアのシルバノサセッティに作らせたアンラインドペニーの紹介…。オールデン風のラストに肉厚なコードパンを乗せたローファーは日本未入荷のDウィズバージョン。細身なシェイプは見た目よりぐっと格好良いしホーウィン製の艶ありを見慣れた目には艶なしコードバンが新鮮に感じられる。

(17) ソールの状態
滑り止めのラバーが付いたレザーソール。シルバノサセッティのホームページを見るとイタリアンデザイナー風の靴が多いがラルフローレンパープルレーベルの靴も一部シルバノサセッティが請け負っていたはず。アメリカンブランドとの相性は良いのだろう。オールデンによるアンラインドペニーローファーが既に幻となっただけでなくこのシルバノサセッティのコードバンローファーも幻となりそうだ。

(18) 東欧の靴
ルーマニアのサンクリスピン特製コードバンギリー。外羽根のデザインが珍しい。トゥやサイドの穴飾りはスコティッシュ風だが素材はシカゴのホーウィン、注文先はイタリアはフィレンツェのボノーラと多国籍感たっぷりの1足。当初スェードの予定をコードバンに急遽変更したのが年の瀬のローマ。フィレンツェに電話して担当のダニエレに依頼、彼がしっかり対応してくれたおかげで良い靴が完成した。


(19) コードバンで誂える(短靴)
こちらはロンドンの名店ジョージクレバリーの短靴。網紐のタッセルが特徴のカジュアル(ローファー)になる。既にマリーニとサンクリスピンでコードバンを注文済だったのでクレバリーでも…と素材見本の中から珍しいナチュラルコードバンを選んで注文。仮縫い時は薄い色目だったのに完成品は色がだいぶ濃くなっていた。それでもビスポークならではのシェイプの良さは流石というべきか…。


(20) コードバンで誂える(長靴)
クレバリーで記念となる30足目の注文はコードバンブーツ。当時注文していたハンツマンのツィードスーツ生地を使ってコンビで仕立てることにした。コードバン素材はホーウィン社のコニャック、トランクショウを担当していたグラスゴージュニアは当時シカゴまで行ってホーウィン社からマーブルコードバンを買い付けるなどレア素材の掘り起こしに積極的だったことを思い出す。

(21) コードバンブーツを履く
履いてみた写真。全部コードバンにするよりツィードの生地とのコンビ仕立てにすることで一気に存在感が増す。しかも作りはノルウィージャン、J.M.ウェストンのハントみたいにコバ周りのステッチがアクセントになって足元を引き締めてくれる。履き心地もビスポークらしく極上、唯一の問題点は靴にぴたりと合った3ピースのツリーが抜けにくく入れにくいことだろうか。
Denim : RRL
Boots : George Cleverley
Bag : Polo Ralph Lauren

冒頭で述べたようにコードバン素材は水(雨)に弱い。だが革靴を履いていれば牛革であれ爬虫類であれ濡れることもあろう。幸いなことに最近は靴修理や靴磨き関係の情報が増え、雨に濡れた後のケアをしてくれる靴磨き専門店まである。手に負えなければ専門店に依頼するもよし、勲章として染みの付いたまま履き続けるもよし。

マイ「コードバン狂騒曲」もコロナ過で落ち着いてるが最近ホーウィン社からグレインコードバンやロシアンハッチコードバンなど新たな素材が出回っているのを知った。オールデンのショップ別注品も新しい型が出されている。そういえば今年は初コードバン以来節目となる30年目…何かセルフイベントでも興したいところだ。

By Jun@Room Style Store