永世定番上着(秋冬)編その2 | Room Style Store

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2021/10/09 07:29


10月に入っても夏日とは驚きだがさすがに朝夕はぐっと涼しくなってきた。ついこの前まで紐を結ぶのさえ面倒でローファーばかり履いていたのに今は紐靴が気分だ。ご無沙汰気味のネクタイもパステル調とウールやカシミア素材と入れ替え、後はお洒落して出かける場を設定するのみ…どのジャケットを着ようか、ネクタイやチーフ、靴はどれにしようか…。そんなことを考えるのも久々だ。


さっそく仲間内での食事会を企画したら「できるだけ家族か4人までにしてください」とのガイドラインが…気の合う仲間との集いも気を遣う…。大学のサークル活動も対面や人数、時間など様々な制限があるらしい。学業が本文とはいえ、仲間と集い何かに夢中になることのないまま大学生活を終えてしまっていいのだろうか…自分の頃とは違う我が子のキャンパスライフをつい心配してしまった。

そこで今回は秋冬物の上着を「お洒落に着るなら」をテーマに久々のネクタイやチーフ、帽子など小物も加えた着こなしを考えてみたい。

※扉の写真は衣替えが済んだばかりの秋冬ウールタイ


【#63 ビスポークジャケット】
(1) 名店で誂えるフィレンツェのリヴェラーノは敷居の高さを感じさせない名店。人生の節目で服を誂えるのに相応しいサルト(テイラー)だ。この時は当主のアントニオが奥から出してきて「これは古いスコットランドのツイードですがとても良いものです…」と薦めた生地で誂えた。もしテイラーが「この生地は如何ですか?」と薦めてきたらぜひ乗ってみて欲しい。最高の1着が服が手に入ると思う。
Jacket : Liverano & Liverano
Shirt : Ralph Lauren
Tie : ETRO  Cap : VAN
Pocket Chief : Brooks Brothers

(2) フィレンツェ繋がりの靴屋当時フィレンツェではリヴェラーノやセミナーラといったサルトに混じってボノーラという靴屋にも出入りしていた。店長のダニエレと懇意になり既成靴を買ったり靴をオーダーしたりしていた。写真は既成靴の方だが素晴らしい履き心地と手の込んだ作りが特徴。何よりシェイプが美しい。しかも色といい革質といい素材も素晴らしい。これ以上のプレーントゥは中々ないと思う。
Pants : G.T.A


(3) 色の拾い方リヴェラーノのジャケットは袖裏がオレンジ色のストライプ。その色を拾ってオレンジの靴を選んだが、そんな方法を教えてくれたのもアントニオだった。完成したこのジャケットを取りに行った時、「合わせるネクタイを選んで…」と頼んだらオレンジ色のタイを取り出して「裏地のストライプがオレンジだからね…」とタネを明かしてくれたことをよく覚えている。


【#64 ビンテージの上着①】
(4) ブルックスブラザーズ
1985年製のブルックスブラザーズ。オウンメイク(自社工場製)でスペシャルオーダーという別注ものは一見3つボタン段返り風、実は2つ釦でチェンジポケット付という変わり種。身頃のダーツやシェイプの効いたウエストは英国風ツイストが効いたジャケットといった感じだ。小物として用意したデンツのコンビグローブがジャケットとペアのようで面白い。
Jacket : Brooks brothers
Shirt &tie : Polo Ralph Lauren
Chief : ETRO


(5) 外羽根の靴
ジャケットスタイルには外羽根の靴が基本、ひねりの効いた米英ミックス風ジャケットには癖のある靴を…ということでフォスター&サンで誂えたヘンリーマックスウェルを用意。本来カントリーシューズなのにスクエアトゥにベヴェルドウェストというドレッシーな1足。チャコールグレーのトラウザーズはビスポークスーツから拝借。
Trousers : Fallan & Harvey
Watch : Vintage Breightling top time 


【#65 ビンテージの上着②】
(6) ポロラルフローレン
気に入ったビンテージジャケットはどれも永世定番に加えたい。こちらは80年代のポロラルフローレン。何よりツイード生地の素晴らしさが際立つ。打ち込みが厚く柄がこれほどはっきり出るツィードは中々ないだろう。パッチ&フラップポケットに鎌衿と呼ばれる湾曲した上衿や下がり気味のゴージは古臭く見えるどころかクラシコ系のハイゴージなジャケットを見慣れた目には却って新鮮に映る。
Jacket & tie : Polo Ralph Lauren
Trousers : Polo Ralph Lauren
Shirt : Brooks Brothers 
Chief : Seaward & Stearn


(7) ハンチング帽を集める
ジャケットスタイルにアクセントをと思ったら帽子がお薦め。マフラー同様柄の豊富なハンチングはいくつあっても困らない。左上のブラックウォッチは日本のVAN、右上がロンドンの名店ロックで手前左はハンツマンのビスポークもの。この2つはどちらも英国製。手前右がポールスチュアートでイタリア製。…ポールスチュアートだけがクラウン部分で生地を縫い合わせた2ピース構造になっている。

(8) ハンチングのパターン
横から見たハンチング帽の違い。左側上下はともに英国製。ダーツを取り、ツバ部分を別パーツ繋いで立体的に仕上げている。右上は日本のVAN。ツバ部分を別パーツにしつつ湾曲したパーツを用いてより立体的に仕上げている。下右のポールスチュアートはクラウンを2ピースにしつつパーツを曲線で縫い合わせ立体的なフォルムに仕上げている。被って一番格好よく見えるのは間違いなく右下のポールスチュアートだ。


(9) ハットを集める
こちらはハット、昔は外出時に欠かせないものだったが今はお洒落なアイテムという認識か。春夏の代表がストローハットなら秋冬の代表はフェルト。手前左の英国製ビーバーフェルトはドレッシーな装いに、手前右はレザーとカシミアのリバーシブルという贅沢品。今はエルメスに吸収されたモッチの逸品。左奥がアメリカはステットソン、右奥がユナイテッドアローズ。


(10) 30年ものの英国靴
サンド(ベージュ)のパンツに合う靴といえばオークタン色のドーバー。1990年購入時は48,000円だったこの靴も今は200,000円を超える。30年で価格は4倍以上になったがその間大卒の初任給は169,000円から226,000円と僅か1.3倍の上昇。つまり昔の方が良いものを安く買えたことになる。多分革も今より良質だろう。今時のお洒落は昔よりずっとお金がかかることになる…。

【#66 着丈の短い上着】
(11) レギュラーからショートへ
トムブラウンの登場以来ジャケットの丈が一気に短くなった。ヒップが隠れる長さだったはずの着丈は今や平気でヒップが半分以上見える。写真はラルフローレンの上級ライン、パープルレーベルのショート丈ジャケット。本来38Rのところ38Sをチョイスしてみた。着丈は確かに短いがその分着心地も軽い。38Rだと「もっさり」した印象を受ける。これはこれで有りの服かもしれない。


(12) 名靴を合わせる
言わずと知れたラルフローレンのヒット靴、クロケット&ジョーンズ製のコードバンウィングチップ「マーロゥ」だ。後にクロケット自身でもペンブロークの名でほぼ同じ靴をリリースしている。如何に人気が高かったか分かろうというもの。王道のジャケパンスタイルに良し、カジュアルななコーデユロイやチノパンに良し、デニムやカーゴなどワーク系にも良しという優れものだ。


【#67 大柄のスーツジャケット】
(13) スーツをバラす
本来はスーツに入れるべきだが、元々オーダーの時点でジャケットにアイテムを足した結果スーツになったのでアイテムはどれも単独で身に着けられるようになっている。ここではジャケットに「共布のネクタイとベストを合わせた」と言うべきか。もしツィードジャケットをオーダーする機会があったらならベストやパンツを足してスーツにするのがお薦め、値段は張るが使い道は一気に広がる。



(14) 柄合わせ
柄物をオーダーすると柄同士のつながりが気になるもの。左のハンツマンは柄合わせで定評があるがポケットのフラップ部分で柄がずれてしまう。ところが右のセミナーラではダーツが斜めに1本アームホールに伸びるだけなのでフラップの柄がずれない。唯一ずれているのが斜めのダーツより後ろの部分になる。細腹 (サイバラ)と呼ばれる別パーツのないフィレンツェ仕立ての特徴といえる。



(15) 足元
英国仕立てのジャケットにルーマニアの靴を合わせる。サンクリスピンは東欧圏の靴だがハンガリーのVASSよりイギリスやイタリアの色が濃い。それにこの靴は自分の木型で作られているのでシェイプもフィット感も違う。サビルロウのジャケットにアメリカのデニムとルーマニアの靴という取り合わせも結構悪くないと感じた。


(16) ジャケットを替える
共布のジャケットを脱いで#65のヘリンボーンジャケットとスイッチ。ツィードのパターンオンパターンは結構上手くいくことが多い。ベストとタイ+ジャケット+帽子とツイードのアイテムをどんどん足していくのも楽しい。手にしたロックのツィードキャップはストラップを外して顎で結べば耳が隠れるという防寒機能付き。残念ながら型落ちしてしまい今は買えないようだ。
Denim : RRL



(17) ベストも外す
今度はベストも外して#61のジャケットとスイッチ。ネクタイ単体でも使えるのは大柄のお陰だろう。3つボタンでVゾーンの狭いジャケットといえばヘンリープールが有名。日本ならドラマ「相棒」で杉下右京が着ているスーツがそれにあたる。英国びいきの杉下右京ならではのクラシックなチョイスなのだろう。一番上のボタンは留めても着られるように仕立てるが留めないで着るのがサビルロウ流らしい。


(18)  ウールタイを集める
秋冬物の上着にはウールのネクタイが重宝する。両端はカシミア100%のネクタイ。右側3本はタータンチェックのネクタイ、左から2本目と3本目がツィード生地になる。一口にウールタイと言っても色や素材、柄も色々あって迷う。お洒落に着こなすなら無地のカシミアタイなんて何色あってもいい。



【#68 ドネガルツィード】
(19) スーツをバラす
ネップ(節)と呼ばれる繊維のコブが表面に出るホームスパンは街のテイラーでツィードものを注文するとよく薦められる生地のひとつ。確か自分の父親も上下揃いで作っていたと思う。その影響か、自分もホームスパンツィードの三つ揃えを割と早い段階で誂えていたと記憶している。生地はマギーのドネガルツィード。ロールドラペルと呼ばれる3つボタン段返りだが英国式はシェイプが効いていて格好いい。


(20) ベストを使う
ホームスパンのジャケットを脱いで#56フランネルブレザーとスイッチしてみたところ。同じ紡毛素材同士、フランネルとツィードの相性もよく、クリケットベストの時とは雰囲気がガラッと変わるのも新鮮だ。ある程度服が揃ってくると他の服から一部を借りてきて組み合わせの妙を新しく発見するのも楽しい。

(21) オッドベストとしての使い道
ツィードスーツを誂えるならベストを付けて3ピースを注文するべし。抜き出したベスト2枚はどちらもオッドベストとして使えるからだ。そしてオーダーするならベストにラペルは必須…Vゾーンをより立体的に見せてくれるしオイルドコートやハンティングジャケットといったカントリーウェアと合わせるときもラペルが付いていた方が存在感を発揮できる。



(22) 足元
ツィードのベストを挟んだら靴もカントリー調のものを…外ハト目のアイレットが特徴のキャップトゥダービーはイギリスのタンナーJ&FJベーカー社が開発したロシアンカーフを使用。共同開発したクロケット&ジョーンズがいち早く自社製品に採用した。もっちりとした革質はロシアンレインディアとは似ても似つかないがハッチグレイン(菱形の文様)は中々良くできている。


ウィズコロナの日々が始まったが仕事着は今後大きく変化すると予想するファッション誌も多い。映画マイインターンで社長のジュールズ(アンハサウェイ)がシニアインターンのベン(ロバートデニーロ)に「ベン、スーツは必要ないわ、うちはカジュアルだから」「スーツだと落ち着くんです、だめですか」「いいえ構わないけど、古風ね」というくだりのようにオフィスからドレスコードがなくなりスーツやジャケットはそれを着るのが快適と感じたり落ち着いたり、着たいと思う人が着る…そんな環境になるかもしれない。


それでもお洒落とは相手があってこその行為。相手に自分を印象付けたり相手の服と合わせたり、或いは相手と円滑な関係を築いたりその場を盛り上げたり、お洒落はコミュニケーションであり自分を表現する手段といえる。もし誰とも合わない毎日ならわざわざネクタイを締めてジャケットを着るなんて必要ないはず。ラウンジウエアの方が快適に違いない。映画マイインターンでのベンは仕事を離れたオフでは一切ネクタイを締めていなかった。ベンがネクタイを締めるのは自分を一番うまく表現できると知っていたからなのだろう。


今回はお洒落を意識して「上着+シャツ+ネクタイの3点セット」を貫いたが実はネクタイの国内製造は3分の1まで落ち込み、家庭における支出は6割減という結果が東洋経済に載っていた。お洒落するならネクタイ締めて…なんて考えること自体ベン同様古風なのかもしれない。

By Jun@Room Style Store