2021/12/07 00:23
ビッグスリーとは辞書によれば「ある分野における頂点あるいはライバル関係である3者を総称していう」そうで、御三家や三傑、三強や三巨頭など類語が多い。スイス機械式三大時計はHoly Trinity(三位一体)と呼ばれ、「他を寄せ付けない」雰囲気さえある。70~80年代、日本車の輸出拡大による日米貿易摩擦で「ビッグスリー」なる言葉が身近になった。既に日本もアメリカ製品を盛んに輸入していたが車の貿易額とは桁違い、日本車をハンマーで壊す労働者の様子がテレビで流され、衝撃を受けたものだ。
アメリカ製品の輸入増加は1㌦360円の固定相場終了の1973年頃に始まる。1975年には早くも1㌦300円の円高に移行、その年に発刊されたMade in USAカタログや雑誌メンズクラブのヘビアイ(ヘビーデューティー+アイビー)特集が拍車をかけ、自分のような国産VAN党も一気に鞍替えしたと思う。タフなワークウェアや機能的なアウトドアウェア、本場のジーンズ御三家や後に続くNY三大トラッドブランドなどアメリカ製品がより身近になっていった。アメリカの反日感情の高まりとは裏腹に80年代の日本はアメリカがブームだった。
その後は英国スタイルやフレンチトラッド、イタリアンクラシックなど欧州に目を向けていたが、田舎暮らしが始まったとたんアメリカ熱が再発中…ということで今回はマイヘビーデューティーウェアのビッグスリー、L.L.Bean、Filson、Carharttを中心に名本Made in USAに拘ってその魅力を考えてみたい。
【L.L.Bean:L.L.ビーン】
365日24時間営業しているメイン州フリーポートの本店こそアウトドアブランドの雄L.L.ビーンの真骨頂。アングラーやハンターのために店を開き続ける姿勢や「購入した商品が満足できない場合はどんな商品であれ返品・返金に応じる」という理念は「必ず顧客は私たちの元に戻ってくる」という創始者レオンレオンウッドビーンのゴールデンルールから来たもの。

パドルがドアの取っ手代わりという如何にもいかにもアウトドアブランドらしい店構え。広大なファクトリーアウトレットモールにはラルフローレンやブルックスブラザーズなどお馴染みのストアもあるが道路を隔てモールの向かいにひときわ大きなL.L.ビーンの本店がある。近くにはアウトレット店舗もありどちらも賑わっていた。
メイン州フリーポートのL.L.Bean本店…2018年撮影
(1) 名作フィールドコート

L.L.Beanはメールオーダーの先駆者。アメリカ製のジャケットやシャツ、チノパンにニューバランスのスニーカーまで載っていた。中でも写真のフィールドコートは不朽の名作。取り外しの効く袖付きウールライニングのお陰で夏場を除いて一年中着られる。小枝や木のとげを寄せ付けないダック生地は正に田舎向き。今も型落ちせず残る定番品だが残念ながらアメリカ製ではなくなっている。
※写真は80年代 の米国製フィールドコート
(2) メインハンティングブーツと一緒に

この日の最低気温は-3℃と12月に入り朝の冷え込みがきつくなっている。それでも午前中の作業時はデニムワークシャツとウールライナー付のフィールドコートだけで働ける。日が傾き始めた午後は気温が一気に下がりニットを下に着込んで作業を続けた。冬は降雪が少ない地域なので屋根の雪下ろしなどないが年に数回は一面銀世界になる。そんな時こそこのフィールドコートの独断場。ストレスなく身体を動かせるコートなんて中々ない。
(3) 大ぶりなポケット

一目見で分かる大きなポケットが二つ…よく見ると上のポケットが下のポケットのフラップを兼ねるというデザインが心憎い。上はハンドウォーマー、大きめのフラップをめくった下のポケットは濡れないよう猟銃の弾薬などを入れるらしい。機能がデザインを決めるという見本のようなコートだ。専らモバイルフォンや眼鏡などを入れている。肩のパッチは銃の根本(バットプレート)当て。
(4) アクションプリーツ

地厚なダック生地は腕が動かし辛くなりがち。そこで写真のようにアクションプリーツを設けることで腕がスムーズに出せるようになる。しかも脇下に別のパーツを縫い合わせることで腕の前後に加えて上下も考慮するなど動きを妨げない機能的な作りが徹底されている。英国はクリサリスやグレンフェルのハンティングコートも良いが作りは上品、我が田舎にはL.L.ビーンの方がしっくりくる。
(5) ビーンブーツ

足下はフィールドコートと並んでL.L.ビーンの傑作、メインハンティングブーツを用意。鎖状のソールは革のブーツシャフト(筒)から下のゴム部分を全交換することで2回まで修理可能とのこと。もっとも一番古い30年物でも修理など必要なさそう。多分舗装された道を歩く機会がないからだろう。街中は似合わないがフィールドでは俄然光るブーツ界の異端、それがメインハンティングブーツだ。
(6) 今も残るMade in USAのアイテム

75年発刊のMade in USAから既に46年が経過、アメリカ製品はぐんと減った。L.L.ビーンでもごく僅か…。写真はその数少ないアメリカ製のトートバッグにビーンブーツ&ラバーモカシン。どちらも毎年スペシャルカラーや限定モデルが出されているので時折オンラインショップを覗くか、昔懐かし通販カタログを送ってもらうのも良さそうだ。
(7) 限定トート

通常より横長のトートバッグはアイボリーのキャンバス地にワックスコットンを配したスペシャルモデル。レザーのハンドルにキャンバス地のショルダーベルトが付いている。エルメスのようにリバーシブルレザー使いの高級でお洒落なトートも良いが本や食料、時には薪まで運ぶ便利で丈夫なトートこそ田舎暮らしの必需品、バケツのように水だって運べるビーントートは心強い味方だ。
【Filson : フィルソン】
フィルソンは1897年創業のアウトドアクロージングメーカー。ゴールドラッシュに沸くシアトルで創業という1912年設立のL.L.ビーンを凌ぐヒストリーをもつ。「どうせ持つならば最上のものを」を社訓に天然素材を生かした高いクォリティの商品が評判を呼び、1914年にはフィルソンのマスターピース、クルーザージャケットを発売。現在もマッキノークルーザーとして受け継がれている。

写真は中目黒にあるフィルソンTOKYO。目黒川に沿った絶好のロケーションに店を構える。小ぶりな店内に趣味良く並べられたフィルソンのウェアはどれも高品質。クルーザージャケットをはじめMade in USAのアイテムも多く、店長さんには時間が経つのも忘れて商品を紹介、試着させて貰った。値はそれなりに張るが「どうせ持つなら最上のものを」という言葉が実感できる逸品揃いだ。
(8) ウールパッカーコート

24ozのマッキノーウールを胸周りから腕周りまで2重に配したダブルマッキノーはシングルより重いが暖かさも段違い、重厚なダブルを好むファンも多い。ところがそのダブルマッキノーの襟部分にシアリングファー(シープスキン)を配した超ド級の防寒着、ウールパッカーコートがラインアップされている。信州の厳冬期には大活躍だが、東京ではオーバースペックかもしれない。
(9) バックポケット

両脇の背中側に付くポケット。スナップボタンで留められているが外せば新聞や地図は勿論、かなり大きなものさえ収納できるスペースがある。実際はハンティングで仕留めた獲物を仕舞うことも可能だそうだ…。背中心の下には小ぶりなベントが切られているが風の侵入を防ぐためインバーテッドプリーツ仕様になっている。いや見れば見るほどしっかりした作りだと感心しきり…。
(10) ポケットの数

ウールパッカーのポケット数は9つ。「ポケットの多い服に弱くて…」という知人の男性を思い出した。ポケット数の多さは多機能の証、アウトドア好きの男性だけに機能面を重視するのだろう。写真のように左右下のメインポケットはハンドウォーマーも兼ねている。これに(9)で写っていた左右のバックポケットを加えれば確かに9つ、しかも無駄なポケットはひとつもなし。
(11) バッファローチェック

バッファローチェックはハンター同士が互いに誤射しないよう視認性の高い赤と黒の大柄チェックを開発、当時の開発者がバッファローを飼っていたことからその名が付いたそうだ。元祖はウールリッチ。1830年創業とフィルソンやL.L.ビーンよりさらに古い。ビッグスリーに入るべきはウールリッチでは?と思われそうだがウールリッチは現行品にMade in USAがラインナップされていないので除外した。
(12) RRLとの相性

フィルソンの店長さんの話ではフィルソンに来る客の中にはRRL好きな人も結構いるとのこと。FilsonとRRLのテイストは結構近いと思っていたので両者を組み合わせてみた。パンツはウール&コットンのカーゴ、ブーツはグレインレザーのBowery(バワリー) 。バッファローチェックの黒を拾ってブーツもブラックにしている。
(13) 旧タグ

店長さんによるとマッキノーウールは弾力に優れた上質なバージンウールを使用し、機能に加えてフィールドから戻った際に体裁が良くなるようデザインも考えられているとのこと。特にマッキノークルーザーは「森の住人のタキシード」と称されていると聞いた。最近サイズ表記をS・M・Lに変更した際、袖筒や身頃のラインを更にすっきりさせたとのこと。確かに試着すると以前にも増してシャープに見える。
(14) 後ろ身頃

後ろ身頃は一重の部分に長方形の大きなパッチポケットが付くことでほぼ二重と同じ状態。ここまで贅沢に生地を使えば暖かいのは当然だろう。(9)の写真に写っていたインバーテッドプリーツ(蛇腹折り)のセンターベントが左下に見える。今季ものを見ると写真のシェルより更に厚い26ozのマッキノーウールに8ozのコットンフランネルのライニングが付くそうだ。
【Carhartt : カーハート】
アメリカで1889年に誕生したカーハートはフィルソンやL.L.ビーンより更に古い歴史をもつ。ダック生地(デニム地も)を使ったオーバーオールでスタートしたカーハートは耐久性の高さと着心地の良さでアメリカンワークウェアのアイコンとなり1966年にはブランドロゴを現在も使われているCマークに変更。ワークウェアに加え最近はカジュアルテイストのアイテムも充実させている。
(15) Made in USAのジャケット

90年代に良く着ていたダック地のフィールドコートを処分して以来いつか後継をと思っていたカーハート。最近Made in USAのアクティブジャケットを発見、大好きなジップパーカをダック地で仕上げたデザインに一目ぼれして入手、早速田舎で着たのが上の写真だ。L.L.ビーンやフィルソンがポケット多めのデザインになのに対してカーハートはハンドウォーマーのみというシンプルなデザインが最大の特徴だ。
(16) ジャケットのシルエット(その1)

購入したのはSサイズ。それでも身頃や肩は余裕がある。羽織ってみるとシンプルな中に肩のトリプルステッチや身頃のダブルステッチ、ハンドウォーマーに付くCロゴとカーハートの文字など絶妙なアクセントが上手くちりばめられている。 袖口とウェスト部分は濃茶のリブ編みニットが装着され防風性も高い。これならバイクウェアとしても活躍してくれそうだ。
(17) ジャケットのシルエット(その2)

横から見たアクティブジャケット。両脇と袖にもトリプルステッチが入り、ラギットウェアらしいタフな雰囲気が漂う。後ろ身頃は切り返しもステッチも入らない分フードがアクセントになっている。色目はL.L.ビーンの(1)フィールドコートより赤身がかったカーハート独特のもの。コーディネートを引き締める効果がある。
(18) サーマルライニング

90年代のジャケットがブランケットライナーだったのに対して最新のカーハートはメッシュ素材のサーマルライナー。30年前とは違ってハイテク装備だ。よく聞くサーマルとは英語でThermalと綴り「保温の良い」といった意味。写真のような凸凹のライナーが空気の層を作ることで体温を空気に伝え保温力を高めている。撮影時は一桁台の気温だったがサーマルライナーの威力は十分だった。
(19) シェルとライニングの表記

アウターシェル(表地)は12ozのダック生地。着込むことでカーハートブラウンと呼ばれる独自の色目が擦れて色落ちしたりパッカリングが出たりするのを楽しみにしている。インナーのサーマルはポリエステル100%。カーハートの中で数少ないMade in USAを貫いているのがこのアクティブジャケットJ131とのこと。
(20) 年の終わりに…

今回のブログを書くにあたって久々にL.L.ビーンのフラッグシップ(本店)、吉祥寺店にお邪魔した。開店前に恒例の撮影…クリスマスの飾りが洒落ている。オーナメントの中央やツリーに下げられた赤と青のトートバッグが気に入ってオンラインカタログを調べたが見つからず残念。それでもこの2年間コロナ過で自粛続きの日々に沈みがちだった気分を盛り上げてくれる素敵なデコレーションだった。
マイヘビーデューティーウェアのビッグスリーについては「パタゴニアは?」「アークテリクスは?」「ノースフェイスとかコロンビアは?」等々異論もあるだろう。その中で決め手となったのは定番品としてMade in USAものをラインナップしているかどうかという点だった。確かにパタゴニアはオーガニックTシャツをMade in USAで展開しているがやや弱い。
強いていうなら大好きなマウンテンパーカをMade in USAで作り続けているシェラデザインが後に続く感じだろうか。もはや一国内で生産する時代ではなくモノづくりはグローバルという現実は承知している。その上で、今もアメリカ製品をラインナップしているL.L.ビーンやフィルソン、カーハートの存在は貴重、オマージュを込めてビッグスリーと呼ぶことにした。
今Made in USAに拘ってMTOしているのものがある。クリスマスまでにはデリバリーされるようなので近いうちに紹介したい。アメリカでも小規模ながらMade in USAのプロダクツを発信するマイクロマニファクチャラーが少しずつ増えているとの朗報が届いている。
今から10年後にMade in USAの本を発刊したら、その時どんなアイテムが載っているのだろう…?
By Jun@Room Style Store