ガーランドのシャツ(前編) | Room Style Store

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2023/12/12 15:16


2020年の新型コロナ感染拡大に伴う経済活動の停滞でアメリカ国内の大きなシャツメーカー3工場が廃業したという。ノースキャロライナのブルックスブラザーズ、ペンシルバニアのギットマン、ニュージャージーのスキップガンバートだが、中でもブルックスブラザーズシャツ部門の閉鎖は大きな話題となった。

地名からガーランドシャツと呼ばれたその工場は製品の40%が他社ブランド向けといわれ、J.プレスやアイクベーハーなど日本でもお馴染みのブランドが多数含まれていたという。閉鎖によりアメリカ製BD(ボタンダウン)シャツの行方に暗雲が立ち込めたが州や地元の後押しもあって2021年10月早期復活を果たした。

そこで今回は新生ガーランド(アパレルグループ)のシャツを書いてみようと思う。

※扉写真は新生ガーランド製のシャツ群

(1) アイクベーハー
まずは今回のネタ元シャツから。原宿キャシディで見つけた新型アイクベーハー(以下アイク)のBDシャツ…手に取ると「ガーランド製です。アイクの米国工場はダメみたいで…生地もブルックス時代のものらしいです…」と店頭に立つ八木沢さんが語る。興味をそそられる話に即買いしてしまった。

(2) 新旧比較(外観)
調べてみると随分前にアイクのアメリカ工場は閉鎖、Made in USAものはガーランド製だったらしい。徐々に顔つきがブルックス(ブラザーズ)に似てきたのも頷ける。インチ表記の新型ドレス(左)とS,M,L表記の旧型カジュアル(右)という違いはあるにせよこうして並べるとはっきり違いが分かる。

(3) 新旧比較(剣先)
ラルフローレンのシャツを作っていたこともあって旧アイクのBDシャツは剣先がショートポイント気味。測ってみると新型アイクは8㎝で旧型アイクが7㎝、剣先が長い分新型アイクの方がロールが綺麗に出る。トラッドファンには好みだろうがプレッピー好きには小ぶりな襟の方が好みかもしれない。

(4) 新旧比較(タイスペース)
新型アイクのタイスペースは8㎜だが旧型アイクは殆どない。その昔アイクが納めていたポロラルフローレンのボタンダウンがタイスペースを広く取っていたのとは随分違う。フリーダムフィットのタグから察するにカジュアル向け、ノーネクタイの着こなしが前提なのかもしれない。

(5) 新旧比較(襟腰の高さ)
新型アイクの襟腰は標準の4.5㎝、一方の旧型アイクは3.7㎝とかなり低い。ドレスシャツならばジャケットの上衿から1〜1.5㎝出る高さが理想、しかもクラシコイタリアの流行以来ジャケットの襟腰は高めが続いてる。旧型アイクでは寸足らずなのも致し方ない。シャツ単体やTシャツの上に羽織るのが正解か。

(6) 新旧比較(バックボタン)
2枚のヨークを中央で繋いだ①スプリットヨークや②ボックスプリーツに③ロッカーループは新旧共通だが襟後ろの④バックボタンは新型アイクでは省略。①~④のフル装備といえばガーランドのパートナーとなったJ.プレスが有名…旧ブルックス工場とJ.プレスのタッグなんてトラッドファンには感涙ものだ。

(7) 新旧比較(ガゼット)
新旧どちらのアイクにも付くシャツ裾のガゼット。ブルックスブラザーズ傘下の時代から自社製品(ブルックスのボタンダウン)とは無縁のディテールを数多くこなしていた器用さと供給先からの要望をこなしてきた経験が2020年の閉鎖後わずか1年で再生したガーランドの企業価値を示しているようだ。

(8) ダイヤモンドステッチ
アイクベーハーの特許である台襟内側のダイヤモンドステッチも新旧共に標準装備。因みに新型アイク(写真上)のタッターソールはブルックス傘下時代のパーソナルオーダー専用生地だったと思われる。経営破綻前のブルックス公式ウエブ上でオーダーにトライした際、チョイスした見覚えのある生地だ。

(9) 新旧比較(ガウントレット)
新旧どちらのアイクもガウントレットボタンが標準装備…ドレスシャツで名の知れたアイクベーハーならでは。一方元祖のブルックスブラザーズBDシャツは昔の前立て6ボタンといい袖のガウントレットボタンなしといい無駄を省いた作りが特徴。寧ろその手抜きぶりが潔い。マスプロダクツの典型だと思う。

(10) 元祖との比較(剣先)
ここで元祖ブルックスブラザーズのBDシャツと新型アイクを比べてみよう。まずは襟の長さ…どちらも8㎝とロールが綺麗に出る。タイスペースも同じ8㎜とシャツの顔ともいえる襟まわりは寸分の狂いなし。ブルックスブラザーズ好きのトラッドマンも思わず「買い」の出来栄えだろう。

(11) 元祖との比較(台襟の高さ)
台襟は新生アイクの方が昔のブルックスBDよりやや高め。一方値段はかなり違う。ブルックスジャパンで買えるUSメイドのBDシャツが31,900円なのに対してキャシディの新型アイクは26,400円…なんと5,500円も開きがある。コスパの良さが口コミで広まったのかキャシディではすでに完売とのこと。

(12) 元祖との比較(袖の処理)
元祖ブルックスブラザーズの簡易な袖のギャザーに対して新型アイクは丁寧な2プリーツ仕上げ。同じ工場製とは思えないほど仕様が違う。再生したこのガーランド以外にトラッドなBDシャツを作るメーカーはアイクベーハーが撤退した今、インディビジユアライズド(含むギットマン)しかない。

(13) 旧アイクの面々
アイクベーハーの顔でもあるショートポイントのアメリカ製BDシャツ。いつもロール顔のブルックスBDも良いが根っからのラルフ好きとしては旧型アイクのフリーダムフィットも作って欲しい。このあたりは日本への輸入元であるシップス子会社のMST次第ということになろうか….。

【参考資料①】
〜ショートポイントのBDシャツ〜
旧型アイクとラルフローレンBDの比較。よくみると色々違いはあるがどちらも剣先は7㎝、顔つきはよく似ている。剣先8㎝のブルックスブラザーズBDシャツをラルフのジャケットに合わせると大ぶりな襟のロールが目立ってどこかちぐはぐだがアイクなら相性も良さそうだ。


(14) 新生ガーランド
改めてタグを見ると「誇りをもってノースキャロライナのガーランドで作られた」とある。この10月で1周年を迎えた新生ガーランドが解雇した従業員を再び雇い、元親会社のブルックスブラザーズの為に再びシャツを作るに至った経緯を思うとPROUDLYに込められた意味は深いものがあろう。

(15) サウスウィックのシャツ
 新生ガーランド製のシャツといえばブルックスブラザーズの破綻で商標権を買い取ったシップスがリブランドしたサウスウィックのシャツも見逃せない。ここで一気にまとめ買い、白のクラブカラーにドレスゴードンとキャンディーストライプ、シャンブレーが我が家にやってきた。

(16) 元祖との比較(襟の長さ)
8㎝の元祖ブルックスブラザーズと比較するとサウスウィックの剣先は8.5㎝。よりドラマチックなロールを描く襟元を想像してしまう。生地はブルックスより打ち込みの厚いオックス地、洗濯するとパッカリングを起こしそうだ。鮮やかなピンクは正にキャンディーストライプに相応しい。

(17) 高さ4㎝の台襟
サウスウィックの襟腰は2種類、白無地のクラブカラーとドレスゴードンのBDシャツがやや低めの4㎝だった。特にタータンの方は剣先が8㎝でキャシディの新型アイクや元祖ブルックスブラザーズと寸分違わぬ仕上がり。BDシャツのスタンダードはブルックスブラザーズにあり…か。

(18) 高さ5㎝の台襟
こちらは台襟高めのストライプとシャンブレー。剣先が5㎜長いので襟腰も1㎝ほど高くなっている。日本のブルックスブラザーズ店舗で買えるアメリカ製BDシャツは青と白の無地のみだが、同じガーランド工場で作られた新型アイクやサウスウィックはブルックスにはない色や柄が購買意欲をそそる。

(19) ドレスゴードンのBDシャツ
サウスウィックのドレスゴードンBD。素材が起毛感のあるシャギーツイルということで秋冬物に合いそうだ。ガウントレットボタンこそ付いているが新型アイクのようなロッカーループやガゼットなどはなく往年のブルックスブラザーズを彷彿とさせる。流石はシップス、アメトラを知っている。

(19) 90年代のL.L.Bean
こちらは30年以上着続けてきたドレスゴードン。サウスウィックと同じアメリカ製でガウントレットボタンなしのブルックスタイプはアウトドアの名店L.L.Beanのもの。吉祥寺にある路面店で購入したものだが「着ては洗濯」を繰り返すうちに黄色い格子がだいぶ色落ちしてしまった。

(20) 年季の入った襟
シャツの襟と袖口は特に傷みやすい部分。御多分に洩れず擦り切れてしまい芯地が見えている。こうなってはもう捨てるしかないか…とはならないのがトラッドマン。アウトドアで野良仕事をするにはこれくらいヨレて肌触りの良い綿シャツこそ役に立つ。当分断捨離の憂き目に遭わずに済むだろう。

北大西洋に面したノースキャロライナの州都はローリー(Raleigh)で最大の都市はシャーロット(Charlotte)、ニューヨークに次ぐ全米第2の金融都市だそうだ。シャーロットから東南東に270㎞ほどの内陸部に位置するガーランドは人口600人ほどの小さな町。ブルックスブラザーズののシャツ工場が閉鎖された時は150人の従業員が職を失ったそうだ。

1950年代からブルックスブラザーズの子会社だったこともあり、長年工場で働く従業員は家族のようなものだとか。新たに船出した新生ガーランドだが他社と同じく厳しいビジネス環境にある。インフレの進むアメリカでは小売業の減速感が鮮明、ドル高で海外輸出しようにも業績は伸びてない。

書籍「アメトラ」のサブタイトル「日本がアメリカンスタイルを救った物語」ではないが米国製アイクや新生ガーランドのシャツを買って着てその魅力を伝えられたらと思う。近いうちに後編で着こなしを提案すべく鋭意準備中…。

By Jun@Room Style Store