服のレストア(上着編) | Room Style Store

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2024/09/08 09:49


今回のタイトルは服のレストア。好きなTV番組"カーSOS"から思いついたものだがレストア(Restore)はもの(人)やデータ、システムを復元する…という意味だそうな。日本では車の修復はレストア、パソコン用語はリストアと使い分けるが本来は同じ意味、しかも発音はリストアらしい。旧車乗りとしてはレストアを使うことにした。

ただし復元に取り組んだのは車やバイクではなく昔の衣類。クローゼットに眠った服をレストアして往年の輝きを取り戻してくれる店をずっと探していた。以前利用した銀座サルトや丸の内心斎橋リフォームは腕が立つが遠いのが難点。近場で「修復例」のある店を検索、辿り着いたのがお直しチェーン「ママのリフォーム」だった。

そこで今回は服のリフォーム店に昔の服のレストアを依頼した様子を2回に分けて紹介しようと思う。

※扉写真はブルックスブラザーズのビンテージツイードジャケット

(1) 裏地の傷み
写真はNYのブルックスブラザーズ本店で購入後、着ないまま長期保管していた上着。知らぬ間に裏地がカビてしまい慌てて馴染みのクリーニング店に持ち込んだ。しかし結果は残念ながら「落ちないだろう」とのこと。がっかりしたが表地は至って新品同様、このまま放置するには惜しいのでレストアを決意した。

(2) タグの確認
レストアを決めた以上まずは現状確認から。右内ポケットのサイズタグとACTUW(ユニオン)チケットは服の出自を物語るキーパーツだ。購入時のまま印字のかすれがないことを目視した。94年の秋冬物だから今年で30年経つ。ビンテージウェアに相応しい年齢だ。サイズは39R、当時は現行の38Rと40Rの間に39Rが設定されていた。

(3) ブランドタグの確認
ツイードの表地は虫食いや染み等一切ないが裏地は壊滅状態。レストアの手法は「総裏地替え」になりそうだ。車でいえば外観はそのままフロアパネルを丸ごと交換するようなものか…。レストアを依頼する前に(2)のユニオンチケットやサイズタグに加えて写真のメーカーズタグの位置も確認しておく。

(4) 裏地を剥がす
写真は剥がされた袖裏。レストア後に返却されたパーツだ。袖部分のレストアは①まず傷んだ裏地を剥がす。②次に剥がした状態の袖裏を解いて開きの状態にする③開いた裏地を型紙にして新たな裏地でパーツを作る④縫い合わせて袋状の袖筒を作りジャケットに縫い付ける。こんな手順だ。日数と工賃が掛かるのも納得の工程だ。

(5) 水洗いで染みが落ちるか
因みにネットで調べたところ裏地のカビを落とすには「水洗いが有効」或いは「酸素系の漂白剤が有効」とあったのでので返却された裏地で実験してみた。右の「水洗い後」だが実際は酸素系の漂白剤も併用している。ある程度効果はあったが「綺麗に落ちる」からは程遠い。残念ながら一度カビが生えたら後戻りは不可能なようだ。

(6) 仕上がり①
写真はレストアを経て戻ってきたジャケット。実は「ママのリフォーム」で見積もった際、店員さんの指摘で①ポケットのフラップ裏②ポケット内部内側③内ポケットなど見落としていた部分も全交換が必要だと判明。それにしてもなぜカビがこびりついたのか調べたら接着芯に含まれる糊もカビの広がる原因の一つらしい。

(7) 仕上がり②
リフォームは自分のサイズに合わせて詰めたり出したりすること。リペアは穴開き部分に共布や接着芯を裏から当ててミシンで返し縫いするなど部分的な修理を指す。今回はレストアなので外から見る限りは持ち込み前と全く変わらず。それでも背中側を撮影したのは裏地が身頃下からはみ出ないか念のため…仕上がりはとても良い。

(8) ポケット部分
店員さんが指摘してくれたおかげで綺麗になったポケットのフラップ裏蓋とポケット部分の裏地。レストアらしく工場出荷時に近い状態に戻っている。ただ交換する場所が増えるほど工賃はアップする。最終的には国産のツイードジャケットが買える代金になったが新品と見紛うばかりの姿を見ると買った時の嬉しさが蘇る。

(9) 内ポケット
こちらは内ポケットの様子。玉縁や内側の裏地もしっかり交換されてる。その裏地だが交換前と全く同じものはないので最も近い色を選んでいる。やや濃い目の茶色だがツイード生地の格子色に近いので違和感はない。それに元々付いていた裏地より上質で滑らかなキュプラを使っているので高級感もアップした。

(10) ユニオンチケット
店に持ち込んだ時念を押したサイズタグとユニオンチケットタグ。レストア前と同じ位置に同じ向きで付いている。受け取り時にも最初に確認した場所だ。車のレストアでいえばエンジン製造プレートのようなもの。特にユニオンチケットは95年まで使われたタイプなので重要だ。中々どうして「ママのリフォーム」の仕上がりは素晴らしい。

(11) 袖裏
袖先を裏返してみたところ。裏地はアイロンで織り目が付いているが全体的にふわっと仕上がっている。元々付いていた裏地を型紙に作り直しているので袖からはみ出ることなく仕上がりは完璧。「総裏地替え」は服を持ち込んで見積もりを取らないと工賃は分からない。外壁塗装にも似ているが「ママのリフォーム」は良心的だと思う。

(12) 袖ボタン
総裏地替えするならついでに本切羽の本開きにしようかと迷ったがブルックスブラザーズは世界最古の既成紳士服メーカー、既製服らしく開き見せのままにした。裏地交換だけなので袖のボタンは購入時のまま、よく見るとミシンによる縫い付けだと分かるだろう。アメトラならではの袖二つボタンは新鮮だ。

(13) 背裏
全交換された背裏と左右の身頃裏。センターベントなので工賃は規定どおりだがこれがサイドベンツになると割増料金となる。裏地替えの料金体系はかなり細かく設定されている。見積もりに時間が掛かるのも納得だ。本切羽で本開きのジャケットを持ち込んだらきっと袖裏の工賃は割増しになるに違いない。

(14) 本場のツイード
元の場所に付けられたメーカーズタグ。車でいえばエンブレムに当たるだけにセンターかどうかも忘れずチェックした。タグのブルックスツイードは別注生地の証し。ドニゴール、ハリスとともに三大ツイードのシェットランドツイードを使用している。多くのツイードが紡毛系なのに対してシェットランドツイードは繊維を平行に引き揃えた「梳毛糸」とのこと。

(15) レストア後のジャケット
ここからはレストアを終えたジャケットのコーデ紹介。30年越えのビンテージウェアとは思えない状態の良さが写真からも感じられると思う。三つボタン段返りのラペルやフラップ付きのポケット、ウェルトシームの入った襟端やフラップにダーツのない前身頃など正統派アメリカントラッドここにありといった感じだ。

(16) シャツ&タイ
ネクタイはラルフローレンだがシャツはブルックスブラザーズのオリジナルBD(ポロカラー)。ラルフローレンのBDシャツはラルフのジャケットには合うがブルックスのジャケットには小さすぎる。逆もまた真でブルックスのBDシャツはラルフのジャケットには襟が大き過ぎる。餅は餅屋、ブルックスの服にはブルックスのBDシャツがお薦めだ。

(17) BDシャツ
用意したブルックスのオリジナルポロカラーシャツは90年代のスリムフィット。Makersが記された旧タグは自社工場のガーランドファクトリーを手放した今となっては復刻もままならず。日米どちらの店舗もアメリカ製のBDシャツを店頭に並べているがEst.1818に置き換えられてしまっている。

(18) サックスタイル
昔のジャパントラッドは同じⅠ型サックスタイルでも文字通り買い物袋(Sack:サック)のように寸胴だったがブルックスのアメリカントラッドスタイルは両脇でほんのりと絞りが入っている。アメトラの特徴といわれるナチュラルショルダーも袖山が少し立っているようで日本に上陸した1979年当時よりモダンな感じだ。

(19) ブルックスのタイ
手持ちのブルックスブラザーズのネクタイ。傘下の工房で手仕事により作られていたというネクタイ。MAKERSの文字が入るタグもあればマークス&スペンサー時代の筆記体ロゴのみからブラックフリースのロゴまで様々だがコロナ過で閉鎖されるまで長い間本店からわずか16マイルのロングアイランドで縫製されていたものだ。

(20) ロングウイングブルッチャー
ジャケットスタイルに合わせたコードバンのロングウィングはオールデン製。オールデンとブルックスブラザーズとの関係は特別だったようで初めてNY本店を訪れた1991年の靴コーナーはオールデンの名前こそないがカーフのタッセルやプレーントウ、コードバン製が何型も並んで壮観だったことを思い出す。

総裏地替えの料金だが銀座サルトのお直し例で調べてみると基本料金が44,000円。これにポケットのフラップ部分の上蓋裏地の交換で8,800円。ポケット内側も8,800円となり合計は61,600円となる。ママのリフォームはそれよりもやや安かったので銀座まで出向く手間などを考えれば賢い選択だったと言える。

仕上がりについては双方を比べられないが「ママのリフォーム」は口コミ評価以上の満足度がある。他に近場といえばよく似た業態のお直しコンシェルジュ「ビッグママ」もあるが口コミ評価はママのリフォームには及ばず。自分自身も店の対応が不誠実だったこともあって最初から候補には入れなかった。

いずれにしても一着のジャケットにどこまで愛着を注ぐかでレストアして復活させるかそのまま古着に甘んじるか、あるいは断捨離よろしく処分するのかに分かれよう。レストアを終えた上着はこの先何十年も着られるはず。一生ものといわれるツイードジャケットらしく末永く活躍することを願っている。

By Jun@Room Style Store