2024/11/24 22:16

AIによればビスポークとは「注文品や誂えで作られたもの」だそうな。当時は敷居が高いと思ったが海外の赴任先でジョンロブパリの受注会に参加、なんと靴を注文してしまう。帰任後すぐに渡英、ロンドンで靴やスーツを誂えた。仮縫いや次の注文は日本のホテルで行うトランクショウの世界に嵌ってしまうとはよもや夢にも思わなかった。
ところがホテルの部屋で完成品を受け取り支払いを済ませると「さて次の注文は…」となる。靴服道楽究極の沼というやつだ。全盛期は靴職人と仕立て職人が同宿なのを幸いに時間をずらしてトランクショウのはしごを繰り返した。あれから20年、流石に当時のエネルギーはないが最近昔馴染みのテーラーとシューメーカーが同時期に来日した。
そこで今回は久しぶりのビスポークウィークを堪能した様子を書こうと思う。
※扉写真は仕立て屋と靴屋の案内
【ROBERT BAILEY】
(1) ロバートベイリーとの再会

現在英国から定期的にやってきてホテルを会場としたトランクショウを行っているのは「ヘンリープール」と「ロバートベイリー」くらいだろうか。ロバートは見習いだったファーラン&ハーヴィー時代からの付き合いだがデイヴィス&サンやハンツマンを経て独立。来日経験も豊富で日本人の体形を熟知した英国仕立てが得意だ。
(2) ダブル6ボタンブレザー①

写真は目下仕掛かり中のネイビーブレザー。読者なら「あれ?前回もネイビーブレザーだったのでは…」と思うだろう。そのとおり、だが前回はナーバル(海軍風)なダブルの8ボタンで秋冬用、今回は定番の6ボタンで春夏用と中身はかなり違うのだ。仮縫いは万事OK、ラペル幅を0.3㌅広げてラペルのデザインを変更した。
(3) ダブル6ボタンブレザー②

ネイビーのブレザーを立て続けに2着、それもダブルで8ボタンに6ボタンなんて…と思うだろうが着回しの良さでネイビーブレザーに敵うものはない。秋冬物のツイードジャケット以上に汎用性がある。トランクショウで何着も誂えたスーツを尻目に「やれ会食だ記念日だ」といって引っ張り出すのは決まってネイビーのブレザーなのだ。
(4) 極上の生地

生地見本には230gで8オンスとある。スーパー200の夏物生地で240gだからさらに上質ということか…QRコードから探るとミルはスタンドイーブン。生地はエスコリアルウールとある。カシミアを越え「王家の羊」と称される「エスコリアル種」の羊から取れた希少な繊維で織られた極上の生地のようだ。
(5) バックスタイル

肩と袖ぐりからウェストにかけて綺麗なラインが出ている。完成後にパッカリングが出ず綺麗に仕上がるかロバートの腕の見せ所だ。エスコリアルのように繊細な生地ならイタリアのサルト仕立てが良いのでは…と思いがちだが芯地がしっかり入った英国仕立てとの相性は果たしてどうだろうか…仕上がりが待ち遠しい。
(6) チェンジポケット

こちらは顧客の注文した6ボタンのブレザーだろうか、クレスト(紋章)入りのドームボタンが目を引く。それに大ぶりなチェンジポケットも良い感じだ。お堅いダブルのブレザーだがアシンメトリーなチェンジポケットが付くだけでくだけた雰囲気になる。当初なかったチェンジポケットを急遽付け加えることにした。
(7) モーニング

ここからは仕掛かり中の服を拝見。トルソーにかかっているのはモーニング。その名のとおり午前中の正装だ。自分は随分前に慶事用に一式揃えてしまったのでオーダーすることはないだろう…がスーツに比べて圧倒的に頻度の少ないモーニングを誂えるというのが何とも粋で贅沢ではないか。
(8) ウェイストコート

こちらはへちま襟のウェイストコート。中にはトラウザーズも掛かっているが裾がダブルカフなのでフォーマル用ではなさそうだ。アームホールやラペルに手縫いのコバステッチが入る様や手仕事によるボタンホールなどハンガーにかかっているのを見ただけでもクオリティの高さがうかがえる。
(9) カーコート

こちらはハリスツイードで作られたカーコート。パターンはロバートベイリー自身が引いたとのこと。なんでもクラシックなスタイルらしい。そういえばよく似たデザインのカーコートをジョンストンズオブエルギンで見かけた。とはいえ既成と違ってビスポークのカーコートは段違いのクオリティだ。
(10) シャツのオーダー

今回は久しぶりにシャツも注文してみた。選んだ生地は上のスイス製オルタネートストライプ。恐らくアルモ製だろう。ロバートは採寸データを伝え縫製はロンドンのシャツメーカーBudd(バド)が請け負う。アランフラッサー推奨の名店バドに直接行かずに注文できるならロバートに頼む価値は大いにあり。しかもバドはミニマム3枚だ。
(11) 預けたサンプル

オーダーしたのはクラブカラー(ラウンド襟)でピンホールのあるツイストが効いたタイプ。昔フライでオーダーしたシャツを参考のために持参した。ロバートも実物の方が有難いようで預けることにした。因みにカフはラウンドで2つ釦、前立ては指定しなかったがバドなら「表前立て」で仕上げるだろう。
【JOHN LOBB】
(12) ティームとの再会

ロバートとフォーシーズンズ丸の内で会った翌日はホテルオークラでジョンロブのティームと再会。2020年に注文したカジュアル(ローファータイプ)は①コロナ過で採寸不可のため②既存のラスト(外羽根靴)でローファーを作成③コロナ明けに東京で試すも緩いので④修正したが最終的に作り直し…となったいきさつがある。
(13) プレフィッティング①

前回ホテルオークラで採寸を一からやり直して臨んだ今回のフィッティングは「仕切り直し」ということになる。ジョンロブとしては異例だろうが底付けなしのフィッティング(ジョージクレバリーや昔のフォスター&サンと同じやり方)を行いフィットを確かめた後、底付けに回されることになる。
(14) プレフィッティング②

テンポラリー(仮)ヒールを踵に釘付けして履き口と踵のフィッティングをチェック。ローファータイプは履き口が足に沿っているかどうかが肝心、足との間に隙間が生ずると「靴が笑う」と言うらしいがその兆候は皆無。下付きの外踝に当たることもなく良好なフィットなのが写真からも分かるだろう。
(15) ジムのボトミング

ボトミングを担当するのはロンドンのアウトワーカー界で一目置かれる名工ジムマコーマック。フォスター&サンで見慣れてきたはずの彼の仕事ぶりだが久しぶりに見ると相変わらず丁寧な仕事ぶりだ。アウトソールの厚みはクォーターベア(クォーター=6.35㎜よりやや薄め)で半カラス仕上げになる予定。
(16) 名工の技

つま先部分の掬い縫いはピッチが狭く何やら一手間かけているように見える。靴の中で最も目立つつま先だけに丁寧な仕事ぶりが嬉しい。ジムは仕事に時間をかけるらしく、ティーム曰く「半年はかかる」とのこと。既に一度輸入して関税を納付しているので完成後は関税がかからない「修理済み」の名目で発送するようだ。
(17) サンプルとの比較

因みに前回の再採寸時に靴のシェイプをより「ジョンロブらしいラウンドにして欲しい」とその場のサンプルを指さして頼んだ。それを受けての今回の仮縫いだが改めて件のサンプルと比較してみた。流石はティーム、つま先のラウンド具合は寸分違わぬ出来栄えだった。こちらの要望に対してパーフェクトに仕上げてくる。
(18) リシェイプ②

こちらは最初に納品されたタッセルローファー(右)との比較写真。ロングノーズでポインティなつま先だったがデニムと合わせるために今回(左)は少々野暮ったくしている。英国好きの友人が言う「究極の普通靴」だ。一見既成靴のようでどこか違う…そんな靴に仕上がるだろう。因みに革はカールフロイデンベルグの黒を今回も使用している。
(19) タックゼック風

仮縫いを無事終えてサンプルを見学…写真はサイドエラスティックのフルブローグだ。ティーム曰く「タックゼックスタイル」らしいが確かに恵比寿の古着屋「ポーチャー」で見たタックゼックにそっくりだ。クレバリーでいえばサスピシャスクレバリートウか。黒靴はもう充分なのに欲しくなる魔力がこの靴には有る。
(20) 推しの黒靴

ビジネスで履く(であろう)黒靴が得意なジョンロブらしくメインのテーブルには黒靴がずらりと並ぶ。そのどれもがラウンドトウというのが如何にもロンドンの、いや世界に冠たるキングオブシューズジョンロブらしい。エルメス傘下のジョンロブパリでは決して出せない本家の貫録を感じる。
(21) 茶靴

一方こちらはわずか2足しか用意されていない茶靴。右のハイローは洒落た外羽根として日本の靴職人の受注会では人気のスタイルだ。左のアデレイドは個人的には好きなデザインだがU字部分を足の甲に上手く乗せるのが意外と難しいらしい。どこの受注会でも定番の内羽根が選ばれる傾向がある。
(22) ルームシューズ

ビスポーク靴歴も間もなく30年を迎えようとしている。そんな中で未経験なのが写真のルームシューズ。金モールでイニシャルやクレストの入ったルームシューズをビスポークするのはさぞ気分が良いはず。とは思うものの履く場所がない。だからこの先も頼むことはないが目の保養になる。
実は夏の旅行で前回のトランクショウをパスしたがその間に体型が痩せたようだ。ロバートは納品されたばかりのダブル8ボタンと昔仕立てたダブルのスーツを1インチ細くしてくれるとのこと。巷のオーダースーツは生地を選んで採寸して仕上げたら終わりだがビスポークテイラーは仕立てた服を孫子の代まで絶えずアップデートしてくれる。
The customer is always right. 同様に仮縫いなしのジョンロブも必要とあれば仮縫いを厭わない。「ウェルトが付いた状態の仮縫いは意味がない。モックアップでアッパーをカットして足の収まりを見る日本の誂え靴の方がより正確だ」とも言われるが果たしてそうだろうか?肝心なのは足に合うかどうか。正解はジョンロブの完成を待ちたい。
最近はビスポークビジネスも海外勢より国内でオーダーする方が盛んだ。①円安の影響②日本の職人の腕の向上③注文時の意思の疎通など理由は様々だが「餅は餅屋」という諺がある。景気の良し悪しに関わらず日本でトランクショウを続けるテイラーやシューメーカーには日本の洋服文化150年では辿り着けない奥深さがまだまだあると思う。
By Jun@Room Style Store