プレシャスなコート(続編) | Room Style Store

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2024/12/02 11:30


映画「ブリット」の中でスティーブマックイーンが着ていたコートはアクアスキュータムのものだと言及しているブログを拝見した。恐らくきちんと畳まれたコートを肩から掛けるシーンでチラリと見える格子のライニングがアクアスキュータムのそれと似ているからではないだろうか。因みに上の写真がそのコートだ。

パッカリングの出た縫い目はTVドラマ「コロンボ」の姿と相通ずるものがある。AIによれば周囲の環境に溶け込んで目立たなくするのにうってつけなのがコート、それも犯人を尾行したり秘かに捜査したりするにはパリッとしたダブル前のトレンチじゃ目立ちすぎ、よれよれなステンカラーがキーアイテムになるらしい。

2025年も引き続きファッション界は軽薄短小。軽くて短いコートが主流のようだ。一方でウールのチェスターフィールドや綿ギャバジンのステンカラーなどクラシックなコートも手堅い需要があると聞く。そこでオープン間もないPrecious Roomのコート売り場にアクアスキュータムを始めコートを何点か追加してみた。

それでは早速売り場を覗いてみよう。

※扉写真は映画ブリットのワンシーン

【バルマカーンコート#01】
(1) アクアスキュータム
こちらが映画ブリットでスティーブマックィーンが着ていた(と思われる)アクアスキュータムのステンカラー。正しくはバルマカーン或いはバルカラーと呼ばれるコートだ。1995年ものだから間もなく30年、立派なビンテージウェアだが着込んでいないせいか襟周りに風格が足りていないのは致しかたない。

(2) 襟山
襟周りは糊の付いたシャツのようにシャキッとしている。埃焼けで襟山の線が出ているのも納得だ。因みに扉写真のマックィーンのように襟の後ろを半分立てるのもアイビー世代にはお馴染みの着崩しテク。10代の若者が似合うコートじゃないのにステンカラーを買って得意げに着ていたことを思い出す。

(3) エイジング
肩線や前身頃の端、両袖に施されたウェルトシーム(幅約7㎜)のダブルステッチは良い具合にパッカリング(波打ったような状態)が出始めている。トレンチコートもそうだが綿ギャバジンのコートは新しいうちはどことなく気恥ずかしい。服飾評論家の遠山周平さん曰く「道具のようにぞんざいに着る」と良さそうだ。

(4) ディテール①
アクアスキュータムもコットンギャバジンを使ったトレンチコートが有名だったが素材自体はライバルのバーバリーが考案し特許を取得している。ただイギリス軍にコートを納品したのが早かったせいだろうか、以前はロイヤルワラントを授かっていた。写真のコートにもそれが掲げられている。

(5) ディテール②
全てのボタンにAquasutumの刻印が付く。袖裏は滑りの良いキュプラだが身頃は映画ブリットでチラリと見えた例の格子柄だ。面白いのは格子のライニングがコットン100%なのに対して表地のギャバジンは綿55%にポリエステル45%の混紡という点。ポリエステルの撥水性によって防水性を高めているようだ。

【バルマカーンコート#02】
(6) ウールコート
次もバルカラーコートだが素材はウール。しかもフォーマルなネイビーだ。スーツやジャケパンと合わせてこそのコート、デニムでドレスダウンなどと思ってはいけない。パンテオンで有名なローマのチェントロに店を構えるCaleffiで購入。1911創業の老舗らしいイタリアンクラシックなコートだ。

(7) 議員御用達
チェントロのランドマークといえばモンテチトーリオ宮殿。現在は下院議事堂として機能しており周囲には議員御用達のショップが並ぶ。ボルサリーノや有名なセレクトショップのダヴィデ・チェンチも健在だ。街で見かけるそれらしき人はアズーロエマローネなコーデなんてしない。コンサバなネイビーオンネイビーだ。

(8) ディテール①
流石はサルトリアーレの国イタリア…このバルカラーコートは前身頃がセットインスリーブなのに後身頃はラグランスリーブというハイブリッド仕様なのだ。①セットインスリーブによって腕が動かし易く綺麗なシルエットが生まれる上に②ラグランスリーブで肩も動かし易くなるという「良いとこ取り」という訳だ。

(9) ディテール②
素材はウール80%にカシミアを20%加えたもの。カシミアを混紡することで柔らかな風合いを残したまま日常使いのできるコートに仕上げている。ネイビーといえばメルトンのように硬い生地だったりチクチクした肌触りが苦手だったりという欠点を補いつつウールとカシミア互いの長所を生かした生地といえる。

【ダッフルコート】
(10) オールドイングランド
こちらはパリの名門オールドイングランドの名物ダッフルコート。英国製でエルメスと同じムーアブルック社の生地を採用。傘下のインバーティアが製造していた逸品だ。店自体は惜しまれつつ2012年に創業145年の歴史に幕を閉じている。日本の三喜商事が商標権を買い取り日本で商品を展開、一時英国産のダッフルを復刻したが今は日本製に替わった。

(11) フラップの補修
ウール100%のシェルは虫食いに遭いやすい。フラップ部分に開いた穴の補修を依頼、完成したとの連絡を受けて服飾工房ソーカラーファクトリーさんを再び訪問、受け取って来たものを載せている。やや毛羽立ちが目立つものの注意して見ないと分からないレベルまで補修してくれた。毛羽が取れればより目立たなくなるだろう。

(12) ディテール①
オールドイングランドといえばワンフロアを占めていたダッフルコート売り場が思い浮かぶ。色別サイズ別にダッフルコートが並ぶ様は壮観だった。ネイビーやグレーはもとより写真のボルドーやライトブルー、キャメルやホワイトなどオールドイングランドでしか買えない色目が客を悩ませた。

(13) ディテール②
トグルの付いた革紐とループで身頃のエッジが傷みやすいのがダッフルダコートの宿命。写真を見ると傷みもなく着用頻度の少なさが窺える。ゆったりとしたシルエットはセットインスリーブでスリムな今時ダッフルコートとは異なる。オーバーコートらしい「上着を着たまま羽織る」役目に忠実な形といえよう。

【マッキントッシュ】
(14) シングルトレンチ
鮮やかなフレンチブルーのスプリングコートは名門マッキントッシュ。定番の「ゴム引き」コートは数年経つと接着テープが剥がれたり接着剤が滲み出たりしてがっかりした人も多いだろう。だがこちらは心配ご無用…ロロピアーナが開発したゴム引きクロスに替わる高性能な「ストームシステム」素材を使っているからだ。

(15) ベルトを締める
こちらはセットインスリーブで共布ベルトの付いたシングルトレンチコートになる。「ストームシステム」自体は伸縮性がないのでスーツを着た上から羽織ると袖ぐりがタイトに感じる。ゆったりとしたステンカラーコートが好きなアイビー世代には驚きのフィットだが羽織った姿は流石に格好良い。

(16) ディテール①
一重仕立てのシングルトレンチコートは従来のように接着テープではなく縫い合わせたあとパイピング処理を施している。仕上がりは丁寧で作りもしっかりとした印象だ。残念ながらゴム引きクロスのような独特の硬さはないものの経年劣化が見られずいつまでも購入時の風合いが失せないのは有難い。

(17) ディテール②
通常は38Rがマイサイズだが今時のマッキントッシュはスリム。ワンサイズ上げて40か42という選択肢もあろう。ただその分袖丈も長くなるので腕が短い自分には40がベストサイズになりそうだ。スプリングコートの旬は短く年に数回着る程度か…。せめて鮮やかな色目で春を先取りするのも悪くない。

【カーコート】
(18) ブルックスブラザーズ
最後に紹介するのがブルックスブラザーズのカーコート。グローバーオールのピーコートより地厚なウール生地はネイビーとタータン柄のダブルフェイス。そう聞くだけでヘビーさが想像できよう。ハーフ丈ながらも手にした瞬間ずっしりと重さを感じる。ブルックスブラザーズの英国別注品らしく質実剛健な感じだ。

(19) フェルトキャップ
カーコートというと「マフラーを首に巻いてゴーグルをかけ、ツイードキャップを被って冬でもオープンカーを運転する姿」を想像する。ネットで検索するともっと今風にベースボールキャップを被るドライバーも多い。せっかくなのでスクールマフラーとフェルトの帽子を引っ張り出してみた。

(20) ディテール①
英国製の地厚なダブルフェイス生地の裏側はキャンベルタータンか。リバーシブルならば両方楽しめたのにとも思うがそうしないのがアメリカントラッドの総本山ブルックスらしくもある。1995年製なので既に30年が経過…コロナで経営破綻後のブルックスでは望むべくもない古き良き時代のコートといえよう。

(21) ディテール②
第一ボタンを外した写真と留めた写真を見比べるとやはりタータン柄が見えることはなさそうだ。前身頃と後身頃の写真を見てもベンツなどの切れ込みはなくやはりタータン柄が見える可能性は一切なし。これがダッフルコートならばフード裏のタータンチェックが良いアクセントになるのだが…。

デザイナーズブランドのロングコートを区の古着回収に出した。再利用すると聞いて多少は気が楽になったがトラッドの教え「長きに渡って着られる」服を揃えてきたつもりだったのに…と反省しきり。一方今回紹介したクラシックなコートは時代を越えて長らくクローゼットに留まってきたものばかり、極めつけのサステナブルウェアだ。

サステナブルファッションは①手元にある服を長く着る②流行ものを衝動買いしない③適切なケアを心掛けることを推奨している。環境省によれば「一年長く着るだけで年4万㌧の廃棄量削減につながります。服の直しやリペアを施せば新たな魅力も生まれます。」と結んでいる。何より高品質だった昔の衣類自体Precious(貴重)品なのだ。

サイズや寸法、価格等は有料記事サイトCodecの第1回コート編に追加掲載することになろう。既に購入された読者はそのままお読みいただけるが新たに興味を持たれた読者は下記のリンクからサイトに進み記事を購入の上目を通していただければ幸いである。


By Jun@Room Style Store