2025/07/27 10:35

2018年の夏にコネチカット州の靴屋シューマートを訪問、オールデンのリジェクト品をまとめ買いした。マサチューセッツ州のミドルボローにファクトリーを構えるオールデンは自社でファクトリーアウトレットを持たずリテール部門もないので検品もれの商品は件のシューマートが一手に引き受けている。恐らくオールデン本社と独占販売契約を結んでいるのだろう。
本来B級品は「直接見て買え」が王道、シューマートでもラストペアの正規品から難あり靴まで正に玉石混交だ。そこからお宝を掘り当てるのも根気が要る。しかもロケーションが一筋縄ではいかない。ニューヨークのJFK空港からレンタカーで約1時間、日本と反対の右側通行の高速道路を英語表記のサインボードを頼りに迷わず辿り着く大変さを想像してみてほしい。
ところがコロナ禍を機にシューマートではリジェクト品をネット販売し始めるに至った。むろん公式サイトに入り口はなし。売り場に入るにはメール会員しか道はない。ところがいざ会員になってお宝をゲットしても今度は日本へ直接郵送できない問題が出てくる。やむなく個人輸入代行に頼むことになるが代行業者の安全性やコストなど実店舗訪問並みにハードルは高い。
それでもメールで届く情報を定期的にチェック、遂にマイサイズのリジェクト品と出会ってしまった。そこで今回は禁断のリジェクト品を現場で見ずにネットで買った顛末を紹介しようと思う。
※写真はシューマートからのサンキューカード
(1) シューマートのポリシー

シューマートではリジェクト品でも①ヴァンプ部分にクリースが付いておらず②ソールに傷や擦ったような跡がないことを条件にサイズ交換可能なようだ。ただし①履く時はシューホーンを使う②カーペットの上で試し履きする③試し歩きの際は足の屈曲を最小限にとどめるように…と具体的にアドバイスしている。
(2) 新店舗

こちらがコネチカット州にあるシューマートの新店舗。早いものでグランドオープンから既に四年は経っているそうな。写真は公式ホームページから拝借したもの。以前は単独店舗だったが新しい店はショッピングモールの中に店を構えている。来年の五月に渡米が決まったので詳細は追ってブログで紹介してみたい。
(3) 旧店舗

こちらが2018年に訪れた旧店舗の様子。リジェクト品コーナーは店の奥にあって並べられている靴以外にも運が良ければファクトリーから届いたばかりのコンテナから欲しい靴を探してくれる。この時は「カラー8でサイズ6〜9」を…とお願いしたが今なら「モディファイドラストの靴を…」となろうか。
(4) モディファイドオールデン第三弾

シューマートでは工場からリジェクトマークⓇが靴底に刻印されたオールデンセカンドが届くと入荷状況をメール会員に伝えてくる。ただ品数の多いオールデン、欲しい靴が「デザインもラストも素材も」ぴったり重なることは滅多にない。今回はたまたま1足入ってきたようで思わずポチってしまった。
(5) Vチップ

こちらが届いたばかりのVチップ、モディファイドラストの品番54321になる。2019年にアナトミカパリでモディファイドオールデンのフィッティングは経験済み、おかげでサイズで迷うことはなかったが肝心のマイサイズに出会えないままだった。在庫を見つけてから大急ぎでアメリカ在住の親戚に連絡を取り購入手続きに進んだ。
(6) アナトミカと比較①

アナトミカパリでモディファイドラストなら「9Dか9ハーフCがフィットする」と分かったのでシューマートでは9DのVチップを購入した。右にアナトミカの9ハーフCを並べて比較してみる。アナトミカの方を画面ぎりぎりにトリミングしているのでVチップとのサイズ差が僅かだが分かると思う。
(7) アナトミカと比較②

一方ソールを比べると左の9DVチップの方が右の9ハーフCアナトミカよりウェスト部分がくびれて見える。気のせいかと思ったが実測すると9Dが6.5㎜で9ハーフCが7㎜もある。Vチップの方がタイトなのだ。これは木型の寸法というよりも靴のデザインによるものなのかもしれない。
(8) アナトミカと比較③

アナトミカといえばフェルトのタンパッドが有名。確かに甲へのアタリが優しい。一方シューマートのVチップには通常のレザーライニングが付いているのみ。ではタンパッドがない分フィッティングは大きく異なるのかといえば外羽根ということもあろう、靴紐の結び方で十分調節できるような感触だ。
(9) 製造番号

製造番号頭の5D…から2025年の4月製造ということが分かる。聞くところによるとオールデン社に靴を発注しても納品されるまで4~5年かかるそうな。このVチップを注文したショップもようやく入荷して安堵している頃だろうか、それともあっという間に売り切れたのか気になるところだ。
(10) Vフロント

さてここからは靴の出来栄えチェック。セカンド品なのに現物を見もせず購入したのでせめて到着後のインスペクションはしっかりとやりたい。Vチップのリジェクトで多いのがV字部分の先端。革のぎりぎりを縫っているのでここが釣り込みの行程で不具合が生ずることも多い。靴の顔だけに要チェックポイントだ。
(11) 靴の左側

続いて靴の左側をチェック。右足のアーチ部分も釣り込み皺はなく状態は良好、ヒールリフトもトップラバーがリフトからはみ出すことなく問題なし。出し縫いの際に付きやすいウェルト周辺の傷も見当たらない。リジェクト品の中には当て革をするものもあるが状態はとても良さそうだ。左右の色の違いもあまりない。
(12) 歌の右側

今度は靴の右側をチェック。右足外側の2本傷がリジェクトに回った理由だろう。そういえば以前駐車場の車止めにつま先を引っ掛けて盛大な傷を作ったことがある。コードバンローファーだったが手入れをするうちに傷が目立たなくなった。コードバンは光沢があるので傷が目立ちやすいが本来傷には強い素材のようだ。
(13) 不良箇所

傷の部分を拡大してみると表面に浅く付いた擦り傷のようだ。因みに日本での定価はラコタハウスのホームページでは217,800円とかつてのエドワードグリーンを越えている。残念ながらサイズは6が残るのみ。最近入荷したようだからこの靴がひょっとしてラコタハウス用に作られたものだったかもしれない。
(14) 54321試着①

今度は9DのVチップを試着してみる。9ハーフCのアナトミカバージョンよりレングスは短いもののウィズが広いせいかゆったりと感じる。タンパッドなしの影響をチェックするも全く気にならず。アーチ部分のくびれや踵のホールド…このVチップこそモディファイドラストのためにデザインされた靴と納得する履き心地だ。
(15) アナトミカオールデン試着①

こちらがアナトミカのモディファイドセミブローグ。平紐やトウデザイン、外羽根のパーフォレーションなど装飾要素が強いためだろうかバナナシェイプのモディファイドラストっぽく見えない。履いた感じではこちらの9ハーフCの方がややきつい。目下のベストサイズは9Dなのかもしれない。
(16) 54321試着②

デニムと合わせた図。もともと外羽根靴とデニムは相性が良い。特にオールデンはプレーントウ990やロングウィングチップ975にペニーローファーなど「ジーンズに履きたい革靴」の常連に名を連ねる名靴が多い。このVチップもブレザールックやツイードジャケットなどテーラードものにネクタイを締めて履きたくなる。
(17) アナトミカオールデン試着②

こちらはアナトミカの9ハーフCサイズ。モディファイドラスト独特のバナナシェイプが靴のデザインで上手い具合に隠れているように見える。因みにモディファイドラストの内羽根靴はサドルシューズのみ。後は全て外羽根靴に用いられている。元が矯正靴用のラストであることを考えれば当然か。
(18) 54321試着③

リジェクト対象の傷が写るよう接近して撮影したもの。履き込んで手入れするうちに自分でも気にしなくなるに違いない。因みにアメリカ国内でVチップの定価とリジェクト品との価格差は355㌦、日本円で約52,442円安いことになる。日本国内でもそれだけ安ければ需要も少なくないはず…日本へ郵送しないのが悩みの種だろうか。
(19) アナトミカオールデン試着③

こちらはアナトミカパリの9ハーフC。そういえばアナトミカでも日本への郵送は断られた。なんでもオールデン本社からの通達らしい。とはいってもいつの時代も例外はある。アメリカから発送すると謳うオールデン取扱ショップも実際にあるしこっそり個人輸入しているオールデン愛好家もいる。本音と建て前の世界か…。
(20) モディファイド三兄弟

モディファイドオールデンも少しずつ増えていて気が付くと三兄弟になっていた。かつてはカーフ素材のVチップのみ、それも手放してしまったのに出戻りモディファイドラスト愛好家になっている。シューマートでレビューを書いて15㌦クーポンをゲットした。マイサイズがあれば期限内にもう1足買うかもしれない。
冒頭でも触れたが日本へ郵送しない場合、個人輸入代行業の手数料はいくらくらいなのだろう。AIに聞いてみたところ以下のとおりだった。価格が2~5万円で25%、5~10万円で20%、10万円以上で15%だそうな。オールデンリジェクトの場合は20%の手数料がかかるので9万円とすると手数料だけで18,000円かかることになる。
しかも手数料とは別にアメリカ国内の住所から日本への転送手数料など諸費用が掛かるらしい。52,000円リジェクト品がお得といえど代行業に支払う金額や日本の税関で支払う額、何より代行業者が安心できるか等リスクを考えると正規品を日本で買う方が良いという声もある。家族や友人がアメリカ在の場合を除き円安の今は割に合わないのだ。
今回お試しを兼ねてリジェクト品のVチップを個人輸入したが来年の春に渡米する。その際オンラインショップRoomではよりリーズナブルにリジェクト品の買付代行を予定している。間近になったらアナウンスするが日本で買えないデザインを含めオールデン好きにはぜひ利用して貰いたい。尚今回紹介したVチップは当ストアで既に販売している。
By Jun@Room Style Store