2025/11/09 13:17

写真は11月の星座「蠍」が型どられたセミブローグ…元は自分の誕生月用に誂えたものだ。英国最古の靴屋フォスター&サンに自らデザインした蠍の下絵を持ち込みつま先に乗せて靴に仕上げて貰った。蠍のもつ鋭さが菱形のパーフォレーションで上手く表現されている。
納品以来毎年11月は家族との会食や買い物、国内旅行など欠かさず履いてきた。久々にインスタグラムに載せようと撮影したらつま先も踵もすっかり減っている。せっかく丹念に磨いて撮影したのに靴の前後が削れてしまっては「画竜点睛を欠く…」と言わざるを得ない。
そこで今回は投稿前に修理店に持ち込みレストアを終えた「11月の靴」を紹介しようと思う。
※扉写真は修理を終えて戻って来た靴
(1) 誕生月の靴

インスタグラム用に撮影した靴。横から撮影した写真を見る限りつま先の減りも踵の減りもあまり目立たない。とはいえせっかく11月の星座である「蠍」がデザインされた靴。つま先が見えるよう前から撮影したいしシームレスの踵が写るよう後ろからも撮影したい。
(2) 気になるつま先

こちらが問題の写真。前から写すとつま先の減りがとても気になる。歩き方が悪いのか特に右足の方が減りが早い。あと少しでウェルトに達してしまいそうだ。裏返して底を見るとつま先部分に2列の細釘が打ち込まれているが綺麗に削れてしまい殆ど用をなしていない。
(3) 気になる踵

一方こちらは踵を写したもの。フォスター&サンではあまりやりたがらなかった「シームレスヒール」で仕上げているだけに後姿も紹介したいではないか。ところが踵が減って地面と隙間ができているのが一目で分かる。履くには問題ないが写真を載せるとなると話は別だ。
(4) 靴修理店へ行く

ネットで探して修理店を検索、選んだのが渋谷の「スクランブルスクエア」にある靴修理店。持ち込むのは久々だ。因みにつま先のプレート装着料金を調べてみたら以前は3500円だったが今は5000円、当たり前だが値上げの波は靴修理にも押し寄せている。
(5) RESH 渋谷店

写真はスクランブルスクェア9階、靴修理RESHの店構え。事前に電話で仕上がり時間を確認すると平日ならつま先のプレート装着で1時間程度とのこと。トップリフトの交換もお願いしたので待ち時間は1時間半、出来上がるまで変わりゆく渋谷の街を散策した。
(6) トップリフト

こちらはRESHが用意しているトップリフト。ラバーは楔型と半円形の2型、革部分はドイツのレンデンバッハと英国製、それに減りは早いがリーズナブルな国産ものと3種類ある。店の人からは「最初は国産を試されてみては」とのお薦めもありお任せした。
(7) 修理後

修理を終えて自宅で撮影。つま先も踵も綺麗に修復されている。メンズウェアに関する最大のネットコミュニティ「スタイルフォーラム」では「つま先を保護するならプレートとネイル=釘ではどちらが良いか」というスレッドがある。読んでみると「メタルプレート」派が圧倒的に多い。
(8) ヒール全景

ここからは靴のビフォー&アフターを紹介。写真を見て分かるとおりソール本体は殆ど減っていないので交換はまだ先で大丈夫そうだ。残念ながら修理前のフィリップスペシャルラバーは汎用品になってしまった。フォスターでわざわざパーツを探して付けてくれたことを思い出す。
(9) プレート装着部分

件のスタイルフォーラムのスレッドでも指摘されていたがつま先保護用の釘は「効果がない」ことがこの写真からよく分かる。寧ろ釘を打った部分が支点となってつま先まで急激に削れてしまっている。これがプレートだったらつま先の先端まで保護してくれたはずだ。
(10) つま先の減り

特に減りが激しかったつま先。拡大するとあと少しでウェルトに達してしまいそうだ。この場合はプレートの装着部分を平らにするために予め革を継ぎ足す必要がある。接合部を平らにしてプレートをネジ留めする…僅か1時間で仕上げるには熟練の腕が必要だ。
(11) 革の継ぎ足し

こちらが革を継ぎ足した様子が分かる拡大図。左は修理前だがよく見ると釘が殆ど用をなしていないことが分かる。削れた部分は弧を描いているので革を当てるのも一手間だろう。右は修理後の様子。革を継ぎ足して平らにしてからメタルをネジ止めしている。
(12) つま先の見栄え

上は修理前、下は修理後に撮影したもの。つま先が直るだけで見栄えがグンと違う。靴底は減るものだがつま先が減る度にオールソールは勿体無いし出し縫いができる回数にも限度がある。革靴を長待ちさせるにはつま先のメタルチップ装着とヒールトップのまめな交換が欠かせない。
(13) 右足

左足側の拡大版ビフォーアフター。メタルプレートをつま先に装着する際、研磨機で面一にしてしまうのではなくコバ処理の際にできたエッジ(赤い矢印が指す部分)が消えてしまわないよう仕上げて欲しい…と依頼、出来上がりはこちらの希望どおりだった。
(14) 左足

こちらは左足の拡大版ビフォーアフター。革を継ぎ足した跡が残っているのが分かる。やすりがけやガラス片を使って手仕事による後処理を行えば段差も目立たなくなるかもしれない。とはいえ僅か1時間で仕上げる制約と手間や工賃から考えても頑張ってくれたと思う。
(15) 見栄え①

さて、ここからはつま先と踵の修理を終えて戻ってきた靴の撮影。まずは自然なポーズから。コバの厚みがつま先まできちんと揃うことで額縁のように靴全体が引き立つ。つま先の「蠍」に目が行く時必ず視界に入るのがコバ先端、ここが整うだけで見栄えは大違いだ。
(16) 見栄え②

次はつま先がよく見えるように前から撮影。良い感じに写っている。肝心の「蠍」のメダリオンだが菱形のパーフォレーションは釣り込み時に裂け易いとのこと。ボトムメーカーが木型に釣り込む際に「やってしまった」ようで片足を新たに作り直したと聞いた。
(17) 見栄え③

踵が写るように向きを変えて撮影。日頃自分では確かめようもない後姿。シームレスヒールもこうして見ると格好良いではないか。インスタのフォロワーさんから「パンツの裾幅がいい塩梅ですね何cmですか?」とコメントをいただいた。バランスが良いのは4.5cmだと思う。
(18) ビフォーアフター①

こちら着用版ビフォーアフター。ビフォー(上)では横から撮影してもつま先が減っているのが目立っている。もっとも「革靴が減るのは当たり前のこと」という意見もあろう。だが手入れの行き届いた靴は昔も今もウェルドレッサーの必須条件なのだ。
(19) ビフォーアフター②

つま先修理を終えたアフター(下)。これならば「よく手入れしている」と思われそうだ。因みになぜつま先の手入れが重要なの?とAIに質問すると①最初の視線が集中する場所②靴のセルフケアのサインとなる③服や顔よりも頻繁に見られる⑤服飾全体の調和に関わる…からだそうな。
(20) ビフォーアフター③

踵が見える角度から撮影したビフォー&アフター。正直左のビフォーを見ても「交換時期には早いのでは?」という意見もある。自分もインスタグラムに投稿しないのならビフォーのままだったかもしれない。ただAIによればトップリフトのゴムが半分に減った時が交換目安とのこと。
つま先にメタルプレートを付けることへのネガティブな意見としては「金属という素材による不快さと実用面での不便さ」が上がっていた。具体的には①自然な足の動きを妨げる②歩行の変化につながる不快感③オフィスのフロアを傷つける④歩く際のノイズ⑤空港での金属探知機などがある。
履き心地を重視する人からは「金属プレートなどつけなくても減ったら革を継ぎ足せば良いじゃないか」という意見も出ている。最初からハーフラバーソールにすれば?という声も出ている。もっともハーフラバーだけではつま先の保護には足りないので何か別のものを装着する必要はあろう。
結局は履き心地が変わるけれど耐久性のあるプレートでつま先保護を優先するか、何度でも革を継ぎ足してレザーソールの履き心地を優先するかの二者択一なのだ。
By Jun@ Room Style Store
