2025/12/07 08:41

欧州大陸より一年早くミレニアムに沸くロンドンを訪問。目的はオフサビルロウの名テーラー「ファーラン&ハーヴィー」でスーツを誂えることだった。あれから四半世紀の間にファーランの他界やピーターの店仕舞いとディヴィス&サンへの転籍など色々あったが今もそのスーツはバリバリの現役だ。
途中ピーターは引退に備え弟子のロバートベイリーを従えて来日。新たなテーラーとの付き合いが始まり数年後には移籍したハンツマンでもスーツを誂えた。順風満帆に思えたロバートだがコロナ禍で独立、アメリカ大陸よりアジアを回るのが好きな彼とは今も定期的にトランクショウを訪れる間柄だ。
そこで今回はロバートベイリー初のビスポークシャツと6ボタンダブルブレステッドブレザーの出来栄えを紹介しようと思う。
※扉写真はロバートベイリーのタグ
〜ビスポークシャツ編〜
(1) 宅配便で受け取り

東京駅至近のオークウッドホテルに会場を移したロバートだが前回スキップしたので今回が初の訪問だ。まずはビスポークシャツを試着。仮縫いなしの為出来上がりを見て2着目以降修正していくそうだ。ちょっとした仕様違いがあり写真のようにヤマト便で離日前に送って貰った。
(2) 完成したシャツ

小包を開けて出てきたのは注文したシャツとサンプルにと預けたシャツ。皺が寄っているので撮影前に急遽アイロン掛けした。因みにサンプルはイタリアのフライ、MTOの特注品だ。ロバートのシャツは仮縫いなしとはいえビスポーク、ゆったりしていつつも要所は身体にフィットする。
(3) こだわりその1(襟形)

ラウンドカラーのクレリックシャツは既成でも見かけるがピンホールとなると中々ない。サンプルとして提供したフライは流石だ。ロバートは厄介な注文も快く引き受けるので今度はダンガリーかシャンブレーのタブカラーシャツを注文しようか…なんていつの間にか妄想してしまう。
(4) 手縫いのピンホール

トランクショウで試着したシャツがなぜ宅急便で送られてきたのか…その答えはピンホールが開けられていなかったためだ。試着は良好だったので「次回でいいよ…」と言うと「いやこの後穴を開ける」とロバート。彼の力作が上の写真だ。上手いとは言えないがロバートの愛される一面が覗く。
(5) こだわりその2(カフ)

カフは襟と同じ白生地でシングルの2ツボタン。袖と襟が同じ白の組み合わせはフランス式なのだそうな。ふと思いついたのがカミラさんと再婚した当時のチャールズ皇太子が着ていたクレリックシャツ…ネットで検索すると確かに袖は身頃と同じストライプ柄だった。
(6) 着てみる

ロバートが夜遅く仕上げたであろうピンホールのクレリックシャツを早速着てみる。中々良い雰囲気だ。襟先の丸いシャツといえばブルックスブラザーズ、クラブカラーという名で定番化している。それにあやかって上着はブルックスのサックブレザー、タイはラルフで組んでみた。
(7) 素敵な靴と

ボタンダウンシャツならペニーローファーだろうがピンホールのラウンドカラークレリックシャツとなるとお洒落なローファーが履きたくなる。タッセルスリッポンも良いがここはひとつロバートに敬意を払って英国を代表するバタフライローファーなんてどうだろう。
(8) 金ボタンと時計の相性

金ボタンのブレザーと相性良しのコンビ時計。シャンパンゴールドダイヤルのデイトジャストがしっくりくる。ボタンの紋章はゴールデンフリース、ブルックスの登録商標だそうな。勿論アメリカのウォーターバリー社製、ブレザー本体もアメリカはNY州のロチェスターテイラードクロージング製だ。
〜6釦ダブルブレステッドブレザー編〜
(9) 特別な生地

こちらはオーダーした時に記録しておいた生地見本。エスコリアルウール12928で検索するとスタンドイーヴン社の生地見本と判明。因みにエスコリアルウールはカシミアを越える繊細さから「王家の羊」と例えられるエスコリアル種の羊から採れた繊維を指す。
(10) トルソーに着せてみる

トランクショウの会場で着た時も「今までの英国テイラーものと違うぞ…」と感動したがトルソーに着せてみてもカチッとしたサビルロウスタイルとは異なる。因みに金ボタンはフラットな表面にイニシャルを掘ったもの。肩はナチュラルショルダー派だがロバート好みの高い袖山に仕上がっている。
(11) 袖裏

今回特にこだわってみたのが袖裏。本来は修行元のストライプを使うのが習わしだが古いハケットを愛用する英国好きにはお馴染み「ブルーの幅広ロンドンストライプ」を袖裏に採用してみた。出来上がったばかりで袖ボタンの部分にテイラーズチョークの跡が残っている。
(12) チェンジポケット

もう一点は正統派6釦ダブルブレステッドブレザー一辺倒ではつまらないから何かアクセントを…ということでチェンジポケットをリクエストしていたこと。ウェスト周辺を見ると如何にも生地が柔らかそうだ。ナポリのサルトに似てクタッとした仕上がりが新鮮だ。
(13) 下二つ掛けor一つ掛け

ダブルの6つ釦ブレザーは下二つ掛け(左)か下一つ掛け(右)かで印象も変わる。前者は英国正統派の装い、後者はニューヨークトラッドのややくだけた感じだ。テイラーチョークの跡がボタンホールを中心にうっすらと残っているのがこの写真からも分かる。
(14) 襟裏

襟裏を捲ってみるとハ刺しの跡が見える。勿論英国テイラーであるロバートに抜かりはなくお約束のフラワーループも備わっていた。ラペル端の端正な星コバステッチやフラワーホールなどこのあたりはハンドメイドクロージングを強く実感できる部分だ。
(15) イングリッシュシルクのタイ

Vゾーンは50オンスタイで有名なナポリのマリネッラをチョイス…英国仕立てにイタリアのネクタイ?と思うかもしれないが英国のマクルズフィールドで手捺染=ハンドプリントされたネクタイ生地を仕入れてをネクタイに仕上げたもの…合わない訳がないのだ。写真は36オンスだが肉感は中々のものだ。
〜着用編〜
(16) 着てみる

ウェストサプレッションの効いた英国仕立て。ボタンを締めてこそ様になる。いつの間にかダブルブレステッドジャケットの前を開けて着ても「似合えばいい」時代になったが英国スタイルのトップ、チャールズ国王のボタン下二つ掛けは着こなしの手本だ。
(17) 時計のベルトとネクタイ

ステンレスケースケースの腕時計と金ボタンは合わないかとも思ったがファッション界では長年確立されたスタイルだそうな。伝統的な金ボタンにステンレスのモダンさが加わることでバランスの取れた装いになるとのこと。せっかくなので時計ベルトをネクタイの色目に合わせてみた。
(18) 茶色の紐靴

ダブルのネイビーブレザーに茶靴なら金ボタンに近いウィスキーコードバンが良さそうだ。それも英国仕立てならオールデンよりエドワードグリーンだろう。ということで引っ張り出したのはサンドリンガム。AIによれば外羽根靴がダブル前の堅苦しさを和らげてくれるそうな。
(19) 黒靴を履くなら

もし黒靴を履くなら内羽根、しかも親子穴が控えめに入ったパンチドキャップトゥが思い浮かぶ。フォーマル寄りの組み合わせに徹してこそ本来のダブルブレステッドブレザーの本領発揮だ。ネクタイはやはりナポリの名門マリネッラのローズピンクにチェンジ。
(20) 下二つ掛け

写真は下二つ掛けで着てみたところ。生地が柔らかいので重力の方向に自然とドレープが出来てくる。これが体にフィットしないとあちこちに不自然な皺が出てくる。ドレープと皺は同じようで「自然なものか圧縮やひずみで出来るものか」という違いがあるとAIは解説している。
(21) 下一つ掛け

下一つ掛けにするとドレープがより現れにくくなる。ロバートは好みの下一つ掛けが映えるよう仕立ててくれたのだろう。ふんわりと自然に返るラペルが美しい。トランクショウの会場で試着した時も久しぶりに服を仕立てる喜びを味わったが今回のブレザーは珠玉の一着だ。
(22) 時計ベルトを交換する

せっかくなので再び時計のベルトをネクタイに合わせてピンクに交換。今は撤退してしまったがカミーユフォルネのインショップでオーダーしたものだ。直線的なラペルは今回強くこだわったところ、ロバート曰く「ナポリのテーラーのようなスタイルだね」と言っていたが出来栄えは素晴らしい。
ロバートは現在ご子息がテイラーの修業中、何とフィフスジェネレーションというから五代に渡ってテイラーの家系なのだそうな。強制したわけではないのに自然と家業が受け継がれる…しかも現代の若者が黙々と仕立て業の修業に励む陰にはロバート自身の無言の働きぶりが関わっているはず。
実はアメリカでもホワイトカラーがAIに代わられる一方で熟練した技術を持つブルーカラーの需要が非常に高くなっているという。一時は消えてなくなると言われた「仕立て屋」だがモノを生み出すことは人間にしかできない事、日本で若者の新規就農者数が増加傾向にあるのも無縁ではない。
次回春のトランクショウは入れ替わるように自分はロバートの故郷スコットランドに行ってしまうが夏には再会できると思う。スコットランドの小さなミルで仕入れたツイード生地でジャケットか襟付きベストをオーダーしようと計画中。それより息子の就職に上着を仕立てて貰うのも悪くない。
By Jun@Room Style Store
