ノーザンプトン再訪・後編 | Room Style Store

Blog

2026/05/02 20:08


スコットランドの旅を満喫して戻ったロンドン。18世紀の文学者サミュエル・ジョンソンは「ロンドンに飽きたなら、人生に飽きたのと同じ」と言ったそうだ。一方「田舎こそ真の英国である」と言ったのは故白州次郎さん。どちらも一理あるが今回スコットランドから戻ってみるとなぜかロンドンが退屈に思えてしまう。

昔なら仕立て屋に靴屋、気になるブランド店にも顔を出したが最近はすっかりご無沙汰…特にEU脱退による旅行客への免税廃止の影響が大きい。今や自国民でさえブランド品を買うのにユーロスターでパリに行くのだとか。失われる観光消費は年数十億ポンドといわれロンドンがパワーを失っているという指摘は否めない。

結局ロンドンを出てノーザンプトンに行ったのも英国でしかできない買い物を求めてのこと。ともあれ靴の聖地で得た逸品達を紹介してみようと思う。

※扉写真はクロケット&ジョーンズ工場の正面玄関

【購入した靴①】
(1) SNOWDON
最初はスエード靴に触手が伸びたがスコットランドを旅したせいかドレスシューズよりもタフな靴が刺さる。写真のスノードンはクロケット&ジョーンズ(以下クロケットと略す)の靴の中でも最もタフな部類らしい。アメリカのワークブーツに対するイギリスの回答といった感じか。

(2) ヴェルドショーン製法
三つ折りの小さな冊子が付いているので読んでみると悪天候に適したストームウェルトを上回る防水性らしい。チェスナッツアンティーク調のアッパーもカーフかと思いきやオイルがたっぷり染み込んだワックスハイドというから気合の入った本格派だ。

(3) ウェルト靴との構造比較
クロケットが手間暇のかかる製法と公言しているくらいだからどんな作りなのか…気になる靴の作りだが写真の断面図を見れば一目瞭然だろう。上が一般的なグッドイヤーウェルト製法で下がヴェルドショーン製法。アッパーを外側に出すことで水の侵入をシャットアウトしている。

(4) ベローズタン
更にタンを縫い合わせではなく蛇腹折りすることで外羽根とタンの間から水が浸入するのも防いでいる。ベローズタンと呼ばれる手法だがレッドウィングなどアメリカのワークブーツでお馴染みの仕様だ。外鳩目アイレットの数をフックより少なくしているのも着脱のしやすさを考慮してのことだろう。

(5) コマンドタイプのソール
ソールは最もタフなコマンドタイプのソール。タイプとわざわざ書いたのはダイナイト社製のものが使われているため。なんでも100年以上ノーザンプトンで操業し続けたオリジナルのコマンドソールは会社が清算されたと聞く。我が家にもコマンドソールの靴があるが今後希少になりそうだ。

(6) 手書きのサイズ表記
熟練職人の技が必要な靴に見られる手書きのサイズ表記。ラストは228で8½ーEだが従来のブーツよりかなりゆとりがある。恐らくぶ厚いソックスを着用して野外活動に使われるといった状況を想定しているのだろう。シャフト部分はアンラインドなので踝への当たりも優しい。

(7) サイドビュー
アッパーとシャフト部分を繋ぐV字の切り返しはミリタリーギブソンと呼ばれるデザインの系譜に当たるとのこと。もとは過酷な戦場や荒野で足を守るために磨き上げられた機能美の象徴であり、南アフリカのオランダ系移民により考案された製法がそのまま語源になっている。

(8) ケアインストラクション
ブーツを長く愛用するために①暖炉や温水による暖房パネル等の側で急速乾燥させないこと②汚れた時はブラシで汚れを落とし必要に応じて軽く水拭きすること③アッパーに染み込んだロウ成分がブルームと呼ばれる粉状に浮き出る場合は柔らかい布で軽く拭くよう書かれている。

(9) ボックス
同じヴェルドショーン製法の短靴は福岡のフレームが販売しているがこちらのスノードンは日本未入荷。現地での定価は730£、直近のレートで157,750円になる。エドワードグリーンの同型ブーツが1500£越えであることを考えるとリーズナブルだ。

(10) 着用例
メイドインノーザンプトンのスノードンはアメリカ製ブーツと比べると洗練された感じがする。英国製ブーツが伝統と機能美に基づいたドレス・カントリーなのに対してアメリカ製のブーツはワークが基本、実用性とタフさを反映した作りという違いがある。

【購入した靴②】
(11) ANGUS
スコットランドを旅するならまさにこんな靴が欲しいと思い購入に至った靴。名前はアンガスと記されている。30年前の初訪問時はジョンロブパリはじめポールスミスやジョージクレバリーなど別注靴のオンパレードだったが今回ダブルネームはこの靴のみ…時代は変わったと実感する。

(12) 珍しいダブルネーム
別注元のロジャーソンシューズはスコットランドに複数店舗をもつ靴専門店。曰く「アンガスはロジャーソンでしか見つからない特別受注品」とのこと。4アイレットの外羽根ウィングチップはトリッカーズを彷彿とさせるがアンガスの方が顔つきが洗練されている。

(13) ストームウェルト
ヴェルドショーンほどではないがストームウェルトによる底付けで防水性能を高めている。通常と異なりL字型のウェルトが靴の周りをぐるりと360度囲んでいる。如何にも水の侵入を防ぐ作りだと分かるだろう。トリッカーズの愛用者なら実践済みかもしれない。

(14) ストームウェルトの構造
上はグッドイヤーウェルトとストームウェルトとの比較。ウェルト自体をL字型に成形することで水の侵入を防ごうというのがストームウェルトの考え方だ。とはいえアッパーとの境目が存在する点はグッドイヤーウェルトと同じ、カントリーシューズに適した製法と言えよう。

(15) ソール
ヴェルドショーン製法のスノードンではラバーソールだったがストームウェルトのアンガスは伝統のダブルレザーソールを採用。このあたりはトリッカーズと似ている。AI曰く「泥道や不整地から足を守る実用的なカントリーシューズとしての機能を満たしている」のだそうな。

(16) サイドビュー
トゥスプリングが大きいのがアンガスの特徴。カントリーシューズの場合「不整地で引っかからないよう」つま先が大きく反り上がったデザインを取り入れるためだとか。よりグリップを高めるならハーフラバーを貼ってつま先にメタルプレートを付けた方が良いかもしれない。

(17) ボックス
こちらもボックス付きで日本まで運んだ。海外から帰国する際20万円までは免税だが目下の円安では免税範囲を超えてしまいがち…とはいえ今回は特に高額商品を買うでもなく免税範囲を超えずに帰国できた。モノより思い出と解く服飾仲間の境地にようやく達したか…。

(18) 着用例
カントリーシューズの伝統を纏ったアンガスに相応しいのはツイード…ということでハンツマンのスーツ登場。アーガイルソックスを挟んでカントリージェントルマンを意識してみた。二週間の滞在で感化されたのか隣のバッグと合わせオールメイドインUKの組み合わせだ。

【RICHMOND2】
(19) サマーローファー
最後の一足はこれから夏にかけてすぐにでも履きたいコンビローファー。ヴァンプが白いスペクテイターズだと少々お洒落すぎるか?と躊躇しそうだがその点控えめなキャンバスなら気軽に履けるのが良い。しかもホワイトスエードのように汚れを気にする必要もない。

(20) モカ縫い
モカ縫い部分はピッチの細かな機械縫い。かつてジョンロブパリのロペスやバロスで培った技術が発揮されている。因みにキャンバスの素材はコットン、靴磨きの際ワックスが付かないよう気を使う必要がある。予め靴ケア専門メーカーのプロテクターを吹きかけておくと良いらしい。

(21) アンラインド
この靴の最大の魅力はアンラインドという点。春から秋まで高温多湿の日本ではライニングがしっかり入ったリジットなタイプより一枚革で通気性が良く軽いローファーが重宝する。耐久性という点ではライニング有りより劣る部分もあるがローファーに求めるのは快適さだろう。

(22) ソール
靴底はシングルレザーを採用、最近シティソールが話題のクロケットだがこのモデルではクラシックな革底を採用している。因みにシティソールの特徴は革底のようなシャープさとラバーソールのグリップを併せ持つものでラバー専門会社とクロケットが共同開発したそうだ。

(23) 着用例
照りつける太陽を意識してタンカラーのアイテムで組んだサマーローファーの着こなし。シルクリネンのパンツはカナダ製ポールスチュアート、アーガイルソックスは定番のパンセレラ、淡い色目で揃えたコーディネートはブルネロクチネリをお手本にしている。

ロンドン滞在中にノーザンプトンのお薦め靴メーカー直売ファクトリーショップをAIに聞いたところクロケットの名が最初に出てきた。ノーザンプトンで140年以上にわたり生産の100%をノーザンプトンで維持してきた歴史的な企業という扱いのようだ。

またノーザンプトンで最後の家族経営による高品質な靴メーカーとみなされているだけでなく、2017年には現在のチャールス国王からロイヤルワラントを授かるなど30年前に訪れた時より着実に企業価値を高めている様子が垣間見える極めて優良な企業だ。

スコットランド周遊旅行の番外編として先行紹介した今回のノーザンプトン再訪記だったが実はスコットランドでオーダーしたツィードジャケットのフィッティングに再度渡英する必要がある。今は未定だが多分ノーザンプトンにまた行くことになるに違いない。

今度はクロケットもエドワードグリーンも行ける金曜日に予定を組もうと思う。

By Jun@Room Sdtyle Store