2026/08/16 07:39

インスタグラムでアメリカンモカシンの写真をアップするとクロケット&ジョーンズやJMウェストンといった欧州の名靴と比べて今一つ反応が鈍い気がする。その理由をAIに訪ねてみたところ欧州では同じモカ縫いの靴であってもより構造的なドライビングシューズやシティローファーが主流なのだという。
伝統的にヨーロッパでは週末でも薄手のトラウザーズやパンツといったスマートカジュアルなボトムスが好まれるのに対してアメリカではオフには頑丈で快適、イージースタイルなデニムが一般的と言われる。そうした服飾に対する考え方の違いがカジュアルな革靴の選び方にも反映されているという説もある。
そこで今回はネイティブアメリカンをルーツとするモカシンを今も手縫いで作り続けるメイン州のランコート社を訪問、その魅力を改めて伝えられたらと思う。
※写真はメイン州のランコート社ショウルームに飾られた車のナンバー
(1) 途中の休憩所

事前にランコート社にメールして訪問日を伝えると工場見学ツアーを随時行ってくれる。場所はメイン州のルイストン。ボストンから途中ニューハンプシャー州を斜めに突っ切る感じだ。写真はメイン州最初の高速パーキング。ガイドセンターの中には釣りやキャンプなどのパンフレットが多数置かれていた。
(2) ランコート社の看板

ようやくファクトリーに到着。ランコートは自前の店舗を持たず日本のビームスやシップスといったショップで買うか直営オンラインショップで取り寄せるしかない。唯一の例外がここファクトリーのリテールストア。ここならフィッティングにも丁寧に付き合ってくれる。
(3) ファクトリーの入口

素っ気ない入口だが窓から中に入ると右手にリテールストアがある。駐車場に他の車は泊まっておらず見学者は我々だけのようだ。ツアー見学のスロット(予約枠)が決まってるわけではないので見学者の到着時刻に不在とならないよう配慮しているといった感じだ。
(4) クローズドのサイン

このサインボードが出ている時は時計に示した時間までスタッフ不在となる。予約なしで訪問した時このサインが出ていたら英語で書かれたプリーズコールアゲイン(また来てください)と言われても困惑してしまうに違いない。何しろ片道3時間近くかかるのだ。
(5) 工場見学ツアーの始まり

セクション毎に分かれている工場内。全従業員が一斉に同じ日に出勤して働く…そんな場面を想像していたが実際は靴の製造工程に応じて出勤シフトが組まれているようだ。この日はモカ縫いのセクションや釣り込み=ラスティングに底付け=ボトミングを見学できた。
(6) 工場内部①

ラックに収まっているのはボトミングの終わった靴と抜き取ったラスト。ビーフロールのペニーローファーだ。製造工程としては最終工程だが見学路が途中で折り返すため初めと終わりが近い位置にある。工場内に入って最初に靴の完成に近い姿を見ると期待感も一気に高まる。
(7) アッパー素材

ラックに並んだロール状のアッパー素材。ランコート社の公式オンラインショップから素材を紐解くとシカゴのホーウィン社からはクロムエクセルやシェルコードバンを、一方英国からはチャールズFステッドのスエードを取り寄せるなど上質な革素材を用いていることが分かる。
(8) シアリングモカシン

完成したシアリングの内張りキャンプモック。ソールのない秋冬用ハウススリッパだろう。如何にも暖かそうではないか。国内でランコートを買えるがこの手の靴は未入荷。買おうか迷ったが用途を考え断念。後で信州のセカンドハウス用に使えるか…と気付くも遅かった。
(9) クリッカーダイス①

写真の型抜きは靴作りのパーツ用。レザーの上に並べて上からプレスをかけパーツを型抜きするためのものだ。クリッカーダイス又はカッティングダイスと呼ばれるらしい。大小様々な形のダイスがラックにあってこれをアッパーに並べて一気にパーツを型抜きするとのこと。
(10) クリッカーダイス②

当たり前だが同じパーツでも靴の大きさによって型抜きのサイズは異なる。手前右端のダイスはサイズが7~8½と書かれているようだ。これを革の上において大小混ぜて上手く並べることで革のロスを減らすのだとか。因みにこの型はモカシンのタン裏側の当て革だ。
(11) レザースカイバー

こちらはレザースカイバー。日本語で革漉き機と呼ばれるものだ。パーツとパーツを重ねる際、裏面を薄く漉いてから合わせることで厚みや段差がなく綺麗に仕上がる。小さなパーツといえど更なるひと手間をかけることで履き心地の良い靴が出来上がるというわけだ。
(12) 漉いた後のパーツ

写真は革を漉いた後のパーツ。削った表面が白くなっている。恐らく踵部分のパーツではないだろうか。下にあるメイドインメインと印刷されたパーツはモカシンの上から被せるエプロン部分。こうして靴のパーツが揃うとクロージング→ラスティング→ボトミングと進んでいく。
(13) アッパー

こちらはキャンプモックのアッパー。底のスリットと踵部分を縫い合わせて袋状のアッパーを作る行程だ。マネージャーと女性の工員さんとの会話シーンだが写真はノーとのことなので両者の手だけが写っている。却って二人が会話している感じが分かる良い写真だ。
(14) ラスティング①

木型にアッパーを釘で仮留め、さらに上からエプロン部分を乗せてこちらも釘留めしておく。この状態のままモカ縫いの担当に引き継がれハンドソーンモカシンの工程に移っていくことになる。歪みがなく綺麗なモカ縫いに仕上げるためには欠かせないプロセスだ。
(15) ハンドソーンの妙技

手縫いモカ縫いのスピードはとても速い。しかも縫い込み部分に印などなく、目見当で一気に縫い上げていく。糸のテンションを強くしすぎると革が裂けるし緩くし過ぎると縫い目が外れてしまうので絶妙なさじ加減が必要らしい。モカシン作りに欠かせないキーパーソンだ。
(16) ペニーローファー

手縫いモカ縫いが終わった直後のペニーローファーのアッパー。アメリカンモカシンの場合はライニングがないのでこの袋状のアッパーに底付けが始まる。因みにアッパー素材はヘリテイジブラウンレザー、勿論アンラインド仕上げなので素足で履いても様になる。
(17) 手縫いモカ部分

手縫いモカ部分。美しく揃って見える理由は①同じ工程を繰り返すことで針を入れる間隔や角度を体が覚える②革の硬さや厚みに応じて力加減を調整できる③ラストに釣り込まれた状態で縫うためテンションが均一になる④両手が自由な状態で縫えるため同じ軌道を描ける…からだとか。
(18) モカ縫いセクション

ずらりと並んだモカ縫いセクション。みなエキスパートらしい。ファクトリーツアー見学終了後記念にモカシンを1足買って外に出たら彼らが休憩していたのでひょっとして我々のファクトリーツアー用に出社してデモンストレーションを行なってくれたのかもしれない。
(19) 中底

手前のミッドソールは既にエッジ部分にダミーのステッチが縫われている。靴が完成した時にグッドイヤーウェルト靴の出し縫いに見える効果もあるのだろう。その奥にはストームウェルト風の中底も見える。さらに奥にはラバーソールや飴ゴムのソールも見える。見ごたえのあるセクションだ。
(20) ボトミング

ダミーのステッチが入った中底をアッパーに直接縫い合わせているところ。ブレイク製法又はマッケイ製法と呼ばれるものだ。この後ラバーソールを接着剤で圧着すれば完成になる。ということは靴の背骨と言われるシャンクが入らないことになる。どおりで靴が柔らかいはずだ。
(21) アッパーと中底の合体

袋縫いのアッパーにミッドソールが付いた状態。この後アウトソール(レザーやラバー)が圧着されコバを削って完成になる。現在メイン州に残るアメリカンモカシンの工場はランコートとクォッディの2社だけのようだ。ユケテンは一部のみをアメリカで生産中とのこと。
なぜ同じモックトウの靴でもアメリカ製がイギリスやフランス製より快適で素足履きが可能なのか調べてみると①袋縫いでライニングのない一枚革アッパーである点②つま先のトウパフや踵のスティッフナー等の芯がないこと③シャンクがないことが理由に挙げられていた。
ではそれほど快適なのになぜ日本で人気が今一つなのかAIに聞いてみると「アメカジファンの間では支持を得ているものの本国でのブランド衰退の影響もあり、日本への入荷が限られている」と流通量の少なさを指摘していた。確かにニッチでコアな人気に留まっている。
ともあれ近日中にランコートのファクトリーツアー続編をお届けしようと思う。
By Jun@Room Style Store
