2026/08/22 01:33

1980年代初め…まだ舶来靴が高価だった時代に「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で初めて買ったのはトニーラマのウェスタンブーツ。アイビーから服飾に目覚めたせいかアメリカ製品への憧れが常にあった。今でこそ英国靴好きを語れるものの実はアメリカ靴支持派だったりする。
その後Bassウィージュンを皮切りにコールハーンやアンソーン、セバゴなどアメリカ製の手縫いモカシンを次々試した。快適さと裏腹に靴底が張り替えられないマッケイ製法ゆえか履くだけ履いて廃棄したこともある。今なら靴リペア店で延命できただろうと思うと残念でならない。
1980年代に入るとアジアや中南米から安価なモカシンが流入、1985年にはモカシンの本場メイン州で30以上の靴工場が一気に消滅する事態が起きた。1990年代に入ると残るメーカーも次々とメイン州から生産拠点を国外に移し今やメイン州に残るのは数社と言われている。
その中の1社、ランコートを念願かなって訪れた時の様子を前回のブログで伝えた。今回はその続編となる。ショールームやリテールストアの様子などを紹介してみたい。
※扉写真は底付け前のビーフロールローファー
(1) ピンチペニーローファー

ソールをマッケイ製法で縫い合わせた直後の靴。この後コバを削りインソックを貼って完成、磨き上げて出荷という流れになる。メイドインメインの後にUSAと続く表記はランコートが何世代にも渡り手縫いモカシンを生産し続けてきた地域の遺産に対する深い誇りが滲み出ている。
(2) 底付の終わった靴

奥の3アイレット外羽根は履き口が高めのデミブーツタイプ。ランコートの公式サイトによればチャッカブーツらしい。値段は268㌦、一方手前は4アイレットの定番レンジャーモック。ブーツよりも若干安い238㌦の値が付けられている。どちらも飴ゴムのソール装着だ。
(3) ソールのストック

ガムソールが並ぶ机。その奥にはレザーソールも見える。以前からブーツも作っていたランコートだが製法はブラックラピドとのこと。飴ゴムのソールはクッション性が高く履いていて楽だが加水分解によりベタベタしやすいのが難点。地面のごみを引き寄せてしまう。
(4) 出来立てのブーツ

出来上がったばかりのモックトゥブーツ。レッドウィングのアイリッシュセッターを思わせる出来栄えだ。グッドイヤー製法かと見紛うがホワイトソールと縫い合わされているのはコバではなくミッドソール。シャンクを内蔵していないのでモカシン同様靴の返りは良さそうだ。
【参考資料】
〜ランコートのブーツ〜

こちらはラルフローレンが別注したブーツ。ランコートの技術が遺憾なく発揮された逸品だ。2016年リオで開かれたオリンピックのアメリカ選手団のコスチュームをラルフローレンが担当して以来ランコート社とのリレーションシップは10年以上続いているとのこと。
(5) ハウススリッパ

ソールのないハウススリッパの完成品。大柄なシボ革はバイソン、アメリカではバッファローと思われているが実はアメリカンバイソンのことを指す。因みにバッファローは水牛の仲間だがバイソンは違う。入植者が姿の似たバイソンをバッファローと呼んだのが定着したそうだ。
(6) ライニング

近くに寄って撮影してみたシアリングスリッパ。伝統的なスリッパは本物のシアリングやシープスキンを使用しているとのこと。素足で履いても放湿性に優れているため蒸れないそうだ。ただし安価なものはフェイクファーやアクリルボアなどが使われている。
(7) ショールーム

こちらはリテールストアではなくショールーム。今まで作った靴が並べられていてバイヤーが訪れた際は見本となるようだ。伝統的なモックトゥだけでなくプレーントゥの靴やウィングチップにキャップトゥなどドレスシューズもサンプルとして用意されている。
(8) コードバンローファー

中段の中ほどに置かれたピンチペニー(ハーフサドルローファー)はホーウィン社のシェルコードバンを用いて作られたもの。革の質感が他と異なるので一目見ただけで分かる。因みに値段は728㌦、オールデンのレジャーハンドソーンが1000㌦だからリーズナブルではある。
(9) 靴の製造マシン

不思議な形の機械。ソールとアッパーを縫い合わせる機械だろうか。人が手でハンドルを回しながら縫っていく機械のようだ。今ならもっとコンパクトな機械だろうが資料としてショールームに保管中。他にも見どころがあったが案内されてリテールストアへと移動した。
(10) ショールームの写真

デニムのワークシャツを着た職人の写真が格好良い。ランコート社は1967年ルイストン創業、家族経営の会社として出発するも1990~2000年代はアレンエドモンズ傘下で靴を製造、2009年の撤退・売却に際して工場の所有権を買い戻し独立して事業を拡大し今に至る。
(11) リテール品

こちらは全て工場内に在庫のある商品。とはいってもゴールデンサイズに関しては在庫切れもあり商品選びは思ったよりも難航した。スムースレザーではなくバイソンやバッカルーレザーのようなシボ革が好みであることを伝えてあれこれ試着させてもらった。
(12) アメリカ選手団のシューズ

ホワイトバックスやトリコロールのサイン入りデッキシューズなどオリンピック選手団の足元を支えた靴見本が置かれていた。2012年のロンドンオリンピックの際ラルフ担当の衣装が中国製だと物議を醸し2016年はアメリカ製品を用いると釈明したことがランコート社との協業に結び付いたのではないか。
(13) 巨大なスニーカー

靴のサイズを見てこなかったがとても大きな見本だ。オリンピック選手の中の特定の誰かの靴だろうか?因みに公式オンラインショップを覗くと5アイレットのオールスター風スニーカーがラインナップされている。ただし常時ストックされているのではなく完成まで10~12週かかるらしい。
(14) ホワイトバックス

こちらはアメリカ選手団と同じホワイトバックス。因みに公式オンラインショップでも同様のホワイトバックスが買えるが値段は368㌦。クロケット&ジョーンズのようにグッドイヤー製法ではないがアメリカ製であることを考えればお買い得ではないだろうか。
(15) アリゲーターのピンチペニー

中央で一際目立つのがアメリカンアリゲーターのピンチペニー。リテールプライスは3000㌦と店内で一番高い靴だ。手前はホーウィン社のシボ革バッカルーレザー。素材はカウハイド。スムースレザーも良いが履き皺が目立たず表情のある革が気になる。
(16) アリゲーターのデッキシューズ

一目で気に入ったアリゲーターのデッキシューズ。実際デッキの上で履くことはなかろうがカジュアルな靴にリッチな革素材を用いる意外性に惹かれる。残念ながらサイズが小さかったため諦めたがマイサイズが有ったら買っていたかもしれない。因みにセール価格で2400㌦とのこと。
(17) シェルコードバンの靴

ホーウィン社のシェルコードバンを使ったローファーも魅力的。特にネイビーは手にとって思わず見入ってしまう。JMウェストンのネイビーローファーも好きだがランコートの場合は生成りのモカステッチが堪らなく格好良い。夏に素足で履きたい靴の一つだ。
(18) 購入した靴

あれこれ試着して買ったのがバッカルーレザーのレンジャーモック。9.5と9のサイズで迷ったが9.5は生憎サイズ切れ。それに素足で履くならサイズ9で十分。これ以上大きいと踵が抜けてしまいがちだ。ファクトリーアウトレットではないので値段はオンラインと同じ288㌦。
(19) 靴のディテール①

ネイティブアメリカンの靴作りを発展させたアメリカンハンドソーンモカシンと4アイレットの外羽根を合体させたレンジャーモックのデザイン。LLビーンが1920年代~1930年代既にキャンプモックや外羽根バージョンのレンジャーモックを既にカタログに掲載していたようだ。
(20) ソール

キャンプモックソールと呼ばれる靴底。スペリーソールやセバゴドックサイドのようにアンチスキッドではないため滑らかでウェットな路面では滑りやすい。特に濡れたスリット状の側溝カバーやエスカレーターでは注意が必要。レンジャーモックの名のとおりアウトドアで履くべきか。
(21) アウトフィット

ソックスが履き口からはみ出ないローファーソックスさえ履かず真にベアフット=素足で履いてみた。最初は羽根の付根外側が足に当たるが暫く履いていると直ぐに伸びて馴染む。踵にもつま先にも芯がなくシャンクもなしはすこぶる快適だ。パンツはバリーブリッケン。
今回訪問したメイン州ルイストンの9ブリッジストリートにあるランコート社から車で6分の550リスボンストリートにイージーモック社がファクトリーを構えていると帰国後に知った。共に独立した会社とはいえ同じ業社としてクオッディと共に連携しているようだ。
もう一つ驚いたのが海外に拠点を移したセバゴがランコート社に別注したデッキシューズがアメリカ公式オンライン店舗で販売されていること。しかも価格は250㌦と製造元のランコート製よりリーズナブル…残念ながら日本には発送されないとの説明があり断念した。
せっかくならイージーモックも訪問すればよかったか…あるいはアメリカ滞在中オンラインでランコート製のセバゴを買えばよかったか…と後悔は尽きない。果たして次にアメリカを訪問した時メイン州のハンドソーンモカシンを取り巻く環境はどうなっているのだろう。
By Jun@Room Style Store
