2026/09/26 16:17

世界的に既成スーツの需要は減少傾向にある一方、自己表現の選択肢やここ一番の勝負服としてオーダーメイドのスーツ市場が堅調だという。尤も全体的なパイは小さくなっているため昔のようにクローゼットに初夏物と秋冬物のスーツが並ぶという時代ではないだろう。
詳しく調べるとオーダースーツ市場の55~60%がスリーピースを選ぶそうだ。既製服にはない特別感や見栄えが良い上に着回しが効くという理由からだとか。なるほど一日中着ていると窮屈に感じるスリーピースも自己表現や勝負服なら苦にならないということか…。
そこで今回はスリーピーススーツについて少し掘り下げてみようと思う。
※扉写真はラペルドベストのスリーピーススーツ
(1) プレーンベスト

スリーピーススーツをオーダーする客の8~9割は写真のようなプレーンベストを選ぶという。主張が強すぎずノーネクタイにベストでもOK、着回しが効きやすいことに加え、上からジャケットを羽織った際にVゾーンがすっきり収まるのが理由だそうな。
※写真はゼニアとデイヴィス&サンのベスト
(2) オーダーのスリーピーススーツ

写真はゼニアのタリオエクスクリーシヴォスーツ。ス・ミズーラ(あなたのサイズに合わせて)のことだ。個性的なナポリスタイルではなくよりインターナショナルなミラノ風といえばよいだろうか。こうしてみると確かにプレーンなベストはVゾーンがすっきりとして見える。
※コート:ロロピアーナ×マッキントッシュ
※シャツ:ミコッチ
※ネクタイ:マリネッラ
(3) ベストのボタンの見え方

通常はジャケットを羽織った時にベストの第一ボタンが見えるよう仕立てるそうだ。因みにオーダーしたのは海外駐在維持、ゼニアのブティックにイタリアから担当者が来るというのでブティックに出向いてオーダーした。当時はVゾーンがい今よりも狭かったこともありボタンが二つ見えている。
(4) シャツ&タイ

ゼニアの既製服の多くがイタリア製なのに対してス・ミズーラはスイスの専用工場で手仕事を多くして仕上げているという。イタリア繋がりということでシャツとネクタイもイタリア製を用意。イタリアのシャツやネクタイはサビルロウやアメトラとも相性が良いので重宝する。
(5) ベストの見え方①

お次は一気にサビルロウスタイルを紹介。クラシックなダブルブレステッドのスリーピースはVゾーンが狭くなってしまうのでプレーンなベストの方がすっきり見える。シングルジャケットの場合はベストのボタン一つ見えるくらいと言われるがダブル前の場合はベストが微かに見えるくらいが理想らしい。
(6) ベストの見え方②

下二つ掛けダブル自前ジャケットの真ん中のボタンを外した写真。ラペルが僅かに大きく返ることでベストの第一ボタンが見えている。この微妙な匙加減は仮縫いを経て修正しながら納品するビスポークならでは。オーダーにするかビスポークにするか迷うところだ。
※コート:ブラックフリース
※シャツ:ミコッチ
※タイ:マリネッラ
(7) コートの袖先

コートは防寒着であるため腕を下ろした状態ではスーツやシャツの袖先が見えないのが正しい着こなし。とはいえ肘を曲げた時に全く見えないようではコートが大きすぎる印象を与えてしまいがち。スーツやシャツの袖先が1~2センチ覗くのがジャストサイズの目安らしい。
(8) ラペルドベスト

スーツをオーダーする層の1~2割が選択するのがこちらのラペルドベスト。このところのクラシック回帰のトレンドから注目されているとか。左と中央がノッチドラペル、右端がピークドラペルになる。プレーンなベストよりフォーマル度と重厚感が高いのでネクタイを締めてこそ様になるタイプだ。
(9) ピークドラペルのベスト

尤もフォーマルなデザインのベスト。注文主の希望を全て叶えてくれるビスポークならではの仕様だ。上衿と下襟の間のゴージやコバのステッチも全て手縫い仕上げ…プレーンなベストよりラペルドベストは割高になるが写真のような手間暇を考えれば納得だ。
(10) Vゾーンの見え方

サビルロウはデイヴィス&サンのスリーピース。Vゾーンからベストのボタン一つ分が覗くよう仕立てている。この辺りは抜かりない。ラルフローレンに触発されてホーランド&シェリーのスーパー120sで仕立てたスーツにやはりラルフのツィードポロコートを合わせてみた。
(11) クラシック回帰

ラペルドベストのキーワードはクラシック回帰。ならばハットも被りたいところ。それもウールではなくファーフェルトのハットが欲しい。原料の高騰、加工の難しさ、クラウンの成型の難しさなどから価格が跳ね上がっている。クラシックな装いがお好きなら早めに一つ持っておくと良いかもしれない。
※ハット:英国製ポールスチュアート
※コート:ポロラルフローレン
※シャツ:フライ
ネクタイ:パープルレーベル
(12) コートの袖丈

袖先が広いポロコートの場合肘を曲げても袖筒の中でスーツが引っ張られることはないもののやはり写真のように微かにスーツとシャツの袖が覗くくらいが見栄えが良い。3ピースを着るなら晩秋から初春まで、こうしてトップコートとの相性も考えておくと何かと便利だ。
(13) 既成の3ピーススーツ①

最近は既製服でスリーピースのスーツを揃えているブランドは殆ど見かけない。写真はポロラルフローレンのダブルブレステッド3ピーススーツ。地厚なフランネルのダブルブ前にラペルドベストはクラシックの極み。だがVゾーンのボリュームも凄い。着崩れないよう時々襟を引っ張りながら姿勢よく着たいものだ。
(14) ベストの見え方

既成のスリーピースとはいえラルフローレンに抜かりはなし。きちんとボタン一つ分見えるよう作られている。個人的にはラペルドベスト派だがそれもラルフローレンに大きな影響を受けてのこと。柔らかく折り返るラペルの重なりとネクタイが醸し出す雰囲気に惹かれる。
※コート:ポロラルフローレン
※シャツ:ポロラルフローレン
※ネクタ:ポールスチュアート
(15) ダブルカフのシャツ

ダブルカフのシャツとカフリンクス。クラシック回帰ならダブル前のスリーピーススーツにぜひとも合わせたいコンビだ。写真はロンドンバッジ&ボタンのカフリンクス。裏にL.B.Bの刻印がある由緒正しいもの。肘を曲げた時にチラリと覗くとテンションが上がりそうだ。
(16) ヘンリープールのスリーピース

サビルロウ最古のテーラーでありサビルロウの創始者と称されるヘンリープールのスリーピース。アンダーステートメントを旨とするのか第一ボタンが見えないよう仕立てられている。この雰囲気が好きでヘンリープールでは全てラペルドベストのスリーピーススーツをオーダーした。
※コート:アクアスキュータム
※シャツ:ミコッチ
※ネクタイ:マリネッラ
(17) ベストの一番下のボタン

アイビー世代は「~すべし」の着こなしルールを覚えたものだ。ベストの一番下のボタンは外すべしというのもその一つだった。ある時英国のテーラーに聞いたら写真のように「一番下が飾りボタンの6ボタン5ツ掛けならば外すしかないが一直線ならば外しても留めても構わない」とのことだ。
(18) ベストの縁

写真を見ても分かるようにヘンリープールのベスト縁は身頃に縫い付けられていて捲れないようになっている。出来るだけ厚みを抑え、プレーンベスト同様Vゾーンが嵩張らないように仕立てられている。すっきりとしたVゾーンはヘンリープールのイメージに相応しい。
(19) ツィードのスリーピース

日本では段返り3ツボタンと呼ばれる3/2ラペル(3ロール2ラペル)で仕立てたスリーピース。本来は留めないジャケットの第一ボタンを留めた時にベストのボタン一つ見えるよう作られている。実際はジャケットのラペルが写真のようにロールするとベストのボタンが二つ見えることになる。
※コート:バーバリーのピュアカシミア
※シャツ:ハケット
※ネクタイ:ポロラルフローレン
(20) スリーピースのVゾーン

日本では段返り3ツボタンと呼ばれる3/2ラペル(3ロール2ラペル)で仕立てたドニゴールツィードのスリーピースはハンツマン出身のコンビテーラー、ファーラン&ハービーのものだ。当時ツィードのスリーピースをオーダーする客は珍しかったようでカッターが気合を入れて仕立ててくれた。
(21) ベストのボタン

一番下まで縦一直線に並ぶ6つのボタン。こちらが6ツボタン6ツ掛けのクラシックなスタイルだ。全部留めた状態だがこのまま座るとベストに皺が寄ってシルエットが崩れるので外すべきというアンボタンマナーが世界共通の鉄則という厳しい意見もネット上で散見される。
コロナ禍以後スーツ人口が減少する中で趣味や勝負服としてスリーピーススーツの需要が高まっていると冒頭でも述べた。毎日スーツを着る必要がなくなった分慶事や人生の節目、大切なイベントや大きな商談に格調高いスリーピースで臨みたいという人が増えているそうだ。
とはいえスーツを着る人工が減少する中、オーダー中心の上質なスリーピーススーツ市場はニッチな域を出ないだろう。問題はニッチな市場ながらも機械式時計やクラシックカーのように利益率が高く極めてプレミアムな市場として生き残る構造に転換しつつあるという点だ。
自分のようにスーツを着るのが当然だった現役時代を過ごすと晩年は「もうスーツに縛られたくない」と感じることも多いという。それとは真逆で普段スーツを着ない若い世代にとってはたまに頭の天辺からつま先まで隙なく装うのも「良いものだ」と思えるのかもしれない。
By Jun@Room Style Store
