Limited Edition(限定品) | Room Style Store

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2021/12/29 09:50


クリスマスが明けたSALE初日のとあるデパートでRRLのインショップを訪問。店員とあれこれ話すうちに「毎シーズン出されている限定リジットデニムも今シーズンで終了するかも…」といったやりとりになった。なんでも今回のコロナ禍の影響かリモートワークやステイホームが日常となり、顧客の好みがリジットで硬いデニムよりウォッシュの効いたソフトなデニムを好むようになっているらしい。


ブランドが限定品を出すのは価値のアピールや話題の提供、マーケティングを新鮮に保つためと言われる。苦戦のアパレル業界にあって年2回シーズン毎に新作に加えて凝りに凝った限定品をリリースし続けられるブランドは中々ないだろう。素材や縫製、ディテールに至るまで他の追随を許さず「何が流行ろうと変わらないもの」を提供してきたRRLにもそろそろ変化の時が来たのだろうか。

そこで今回はRRLの世界観を物語る限定品を中心に自分の心を掴んで離さないその魅力について思いつくまま書き記そうと思う

(1) RRL訪問
表参道のラルフローレンブティック裏側の建物がRRLショップ。2006年の表参道店オープン時は店内の一角だった売り場も隣接した旧Rugby店を改装して2013年にオープン。建物の1階から2階までRRLの圧巻の品揃えは旗艦店に相応しい。近年はレディスものも加わり煉瓦造りの外見に相応しいビンテージテイストのアイテムが並ぶ。だが第1期からユニオンメイドに拘ってきたデニム類は少しずつ変化してきているようだ。
 Motor Bike : XL1200X

【ホワイトオークを継ぐもの】
(2) オールアメリカンデニム
その名のとおりデニム生地やパーツ、縫製まで全てアメリカ製のデニム。左端のWOVEN IN NORTH CAROLINAこそノースキャロライナにあったコーンデニム最後の工場ホワイトオークのこと。ラルフローレンでは公表していないが貴重なセルビッジデニムを再生しようと立ち上がったWOLF(White Oak Legacy Foundation)による再生デニムを使ってから米国内の工場で製造したようだ。ホワイトオークといえばリーバイスが思い浮かぶがこのRRLは見逃せない。

(3) アメリカンデニムのRRL
RRLでは3年前にホワイトオーク工場が閉鎖されてからは日本産を使用しているが、写真はホワイトオーク産デニムを使ったプロダクツ。テラソンが自ら3番目と語るので2番目の大口顧客はRRL、最大顧客はリーバイスだったに違いない。その3社合わせてもセルビッジデニムの需要は限定的だった為ホワイトオークは廃業したのだろうが、WOLFによって織り機と従業員を引き継ぎ小さな需要に耐えうる会社が設立されたようで密かに期待している。

(4) ホワイトオークのRRL
写真は古着然としたリペアワークジーンズ。ホワイトオークのデニムを切り裂き加工するとは大胆だ。知人は「日本のデニムが最高と思ってもいざホワイトオークがなくなると聞くと慌てちゃって…」と言っていたし別の服好きはわざわざアメリカのテラソンにメールで「ホワイトオークデニムのジーンズはあるか」聞いて注文していた。人は限りあるものに弱い。二度と手に入らないと思うと胸が騒ぐのだ。
Boots : RedWing 8875


【Lee101Zへのオマージュ】
(5) よく似た限定品
フラッシャー以外瓜二つの2本は左が初回もの(2018年)で右が再販もの(2020年)。どちらも世界限定200本で「2度と同じものは作らない」のがお約束。RRLでは何と初回ものは13.6zの左綾織りを、再販物は13.5ozの右綾織りのセルビッジ生地を使用している。織りを変えるとは「あっぱれ」だがそれを可能にしたのは少量注文をこなせる日本のデニム工場ならでは。ヘアオンハイドのパッチもLeeと瓜二つだ。

(6) 片耳と織りの違い
30~50年代のLee101Zを参考にしただけあって片耳仕様のアウトシームなど再現度は高い。裾を裏返しているので逆になるが左の初回ものは織綾が右斜め上に向かい(実際は左綾)、右の再販ものは織綾が左斜め上に向かって(実際は右綾)走っているのがよく分かる。決してマニア向けではないがマニアが見ても「なるほど…」と思わせる仕込みがバイヤーをも唸らせる。


(7) ディテールへのこだわり
通称赤タグと呼ばれるLeeの内タグと見紛うRRLのタグはユーモアが効いてる。裾を見るとロックミシンのかかった生地と白い片耳の脇割りも本家ビンテージLeeそっくりだし裾のチェーンステッチも抜かりなく再現されている。一方でシルエットはLeeよりもスリムで足長に見えるよう(?)股上を深くするなどビンテージと今時のデザインを上手く融合させている。折衷感覚に優れるラルフブランドならでは。


【ワークパンツ】
(8) バックルバック
こちらはRRLのバックルバックシリーズ。尾錠がアクセントのバックスタイルや反対側の股下にクロッチリベットが付くあたりは1920年代のリーバイス501XXが元ネタだろう。だがレプリカとは違ってそこに必ずRRLならではの味付けを加えている。裾幅は21㎝と適度なシルエットでワークパンツ風ながら街履きを楽しめる。下は15.5ozの生デニム、上はコットンブランケットのライニング付13.25ozのデニム。

(9) 傑作オーバーオール
バックポケットの両脇はステッチの間隔が広くなっている。隠しリベットが打たれている部分だ。敢えてコッパー(真鍮)リベットを使用するのも20年代のジーンズを再現しているからだろう。ジーンズの縫い糸が黄色なのはコッパーリベットの色に合わせたためらしい。最近はニッケルのリベットが多く銀色が主流だが縫い糸は変わらず黄色を守り続けている。もはやステッチの色はジーンズの意匠の一部なのだ。



(10) ブランケットジーンズ
秋冬物の定番ブランケットジーンズ。2018年のものだが3年ぶりに今回も限定品として復刻している。価格は今季もののデニムの中では最も高い。赤黒チェックのブランケットを赤黒のペイズリー柄に替えての再販だが、細部は写真の前回ものとほぼ同じだろう。13.5ozのデニムにコットンシャモアのブランケットが腰裏から裾まで隙間なく完全に覆う作りは寒さの厳しい場所では重宝するに違いない。


(11) ワークオックスフォードとの相性
コットンシャモアはネルシャツと同じ起毛素材。肌触りもよく保温力も高い。ロングジョン(ももひき)を履いているようなものだ。ブランケットの効用で足元まで暖かいのでブーツはやめて短靴のワークオックスフォードを履いてみた。赤みの強いオロラセットに赤黒チェックが映える。後ろに見えるのはサウスウェスタンスタイルのネイティブラグを使用したRRLのバッグ。



【リネンとヘンプ】
(12) 素材へのこだわり
こちらはフラッシャーまでそっくり…同じものは2度と出さないという限定品の鉄則はどこへやらと早合点してはいけない。RRLの術中に嵌ってしまうからだ…下にある(写真上)初回ものは綿58%+ヘンプ42%の14oz混紡デニム、上にある(写真下側)の再販ものは綿57%+リネン43%の14oz混紡デニムになる。混紡素材をヘンプ(大麻)からリネン(亜麻)に替えるなんてフラッシャーをよくよく見なきゃ気が付かない。


(13) 生地感の違い
大麻から取れるヘンプは独特のシャリ感と強度が綿の8倍あるのが特徴。デニムに混ぜると硬さを感じるが吸湿・吸水性は高い。一方リネンは原料が小さな植物のため繊維は細く短くデニムと混ぜるとしなやかな感触になる。履いた感じも正にそのとおり、リネン素材の今季ものの方が柔らかく履き心地も良い。一方でヘンプ入りの旧作はネップが入り、デニム生地に独特の表情を与えている。


(14) リネン混を履く
今季もののリネン混14ozデニムのスリムフィットを試着してみた。オールコットンの14ozデニムより軽い履き心地が特徴。綿と麻を混ぜることで程よいハリとコシ、優しい肌触りが生まれるようだ。スリムフィットということで本来ならば太ももやふくらはぎなど生地の反発を感じる部分もさらっとした感触のまま…未洗いの状態でも十分だが履き込んで洗いを繰り返せばさらに履き易くなりそう。
Shoes : Marlow by Crockett & Jones


【外付けサスペンダーボタン付】
(15) ワークパンツ
外付けサスペンダーボタンがワークパンツに近い雰囲気を漂わせている。どちらも限定200本のものだがポケットやシームなど随所に走るダブルステッチやネップの入った粗野な生地感がラギットなイメージを高めている。下はヘッドライト(Headlight : ブランド名)製1932年頃のペインターパンツを、上はLeeの1934年カウボーイモデルをイメージして作られたもの。

(16) アウトシームの処理
上はLeeの1934年カウボーイモデル風。下はヘッドライト(ブランド名)風のペインターパンツ。どちらもアウトシームを脇割縫いにせずダブルステッチで片倒しにして仕上げている。せっかくの耳付デニムを敢えて重ねて仕上げたのはどちらもデザインを優先してのこと…ならば耳付デニムじゃなくても良いんじゃないか?…なんて思ってはいけない。素材あってのディテールというところがRRLらしい。

(17) ワークドレスの雰囲気
2×1の綾織りセルビッジデニムはネップの入った軽い生地感が特徴。裾のステッチはオレンジや黄色ではなくグレーなのはドレスを意識してか…もっとも裏返せばしっかりとチェーンステッチで仕上げている。ペインターパンツをワークドレスパンツ風に履きこなすならばここは革靴の出番…アメリカを代表するAldenのロングウィングチップと合わせてみた。


【ウェスタンスタイル】
(18) 限定ブーツカット
こちらは2020年久々に再登場したスリムブーツカット。それまで中核アイテムとして毎シーズンリリースされていたブーツカットがラインナップから外れてから数年、より膝下ストレートに近い控えめなフレアカットで戻ってきた。RRLらしくブーツカットなのに耳付というところもデニム好きの琴線に響く。レディス物を中心にリバイバル中のブーツカットだがこれ以降再販ならず…希少な1本となっている。


(19) 飾りステッチ
ウェスタンウェアを踏襲した両フロントポケットのフリンジステッチがブーツカットデニムの証。勿論バックポケットにはウェスタンブーツにあしらわれている飾りステッチ(メダリオン)が付く。カウボーイパンツの雰囲気満点の出来栄え。15.5ozの日本産デニムを使用した限定200本のブーツカットは個人的に何本かまとめ買いして順番に履きたいところだ。

(20) コンフォートなデニム
RRLでは限定品以外にもウォッシュ加工やスプラッシュ加工、ダメージ加工やパッチワーク加工などビンテージ感を高めたデニムを毎シーズン出している。写真は全てMade in USAのパンツだが最近はセルビッジなしでロック掛けした脇割り仕様のメキシコ製デニムも出てきている。第1期と比べるとアイテムの単価は格段にアップ、米国産デニム1本で現行LVCが2本買えてしまうのだ…。


サステナブルな社会は世界共通の課題、身近な例でいえばジーンズ1本を生産するのに10,850ℓもの水を使うという現実がある。なんと一人の人間が12年間飲む水の量だ。しかも持ち主が生デニムを洗濯すれば更に水は消費される。オーガニックコットンが求められるのも貴重な地下水や淡水の使用量を減らすことが可能だからだという。地球環境への負荷が少ないモノづくりは喫緊の課題となっている。

デニム以外に綿製品でいえばTシャツ1枚で2,720ℓ、革製品でいえば靴1足に8,000ℓもの水を消費するという。合成繊維に使用されるポリエステルの環境に対する負荷も大きく、ファッション産業自体が二酸化炭素の排出割合で全体の10%を、全産業の中で2番目に水を消費している。今後当たり前だと思っていたものが環境負荷を減らすために代替製品に取って代わられる可能性は大きいだろう。

RRLのリジットデニムも顧客がソフトな履き心地を求めているという嗜好の変化だけでなくサスティナブルなファッションという視点で見ればそう遠くない先に終わりが来るはず。85%がゴミとなるファッション産業は「すぐそこにある危機」として認識されているからだ。

Jun@Room Style Store