ハンドメイドスニーカー | Room Style Store

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2022/01/18 10:13


装いの要といわれる靴。「靴はその人の人格そのものを表す」というイタリアの名言もあるが、履物にかける世帯の支出額は2000年より2割以上落ち込んでいる。特に革靴の需要減が大きく、働き方改革や持続可能な環境への取組が影響しているようだ。近い将来「スーツに革靴というドレスコードは過去になる」と予想する声もある。私服で仕事をした方が効率が良いという結果と無縁ではなかろう。

革靴の売上不振を横目に売上を伸ばしてきたのがスニーカー…中でも1万円以上の高額スニーカーは30%増と好調。今回のコロナ過による健康志向の高まりからランニングシューズが好調なのに加え、有力ブランドによるプレミアムスニーカーが市場を活性化していると聞く。今後「革靴の生き残る道」は軽くて機能的なスニーカーに「寄せて進化していくことが必要」と製靴業界でも知恵を絞っている。

日本でスニーカーが活況を呈する中、カジュアル大国アメリカでもハンドメイドのスニーカーを少量生産するマイクロカンパニーが産声を上げた。早速注文するも製作と配送で待つこと1ヶ月半…年が明けてようやく届いたスニーカーを早速紹介しようと思う。


【アメリカ発の小包】
(1) 年明けのデリバリー
届いたばかりの国際小包。昨年11月21日に注文した時点で「受注生産の為完成まで4~5週間かかる」とのこと…それでもクリスマスまでのデリバリー(アメリカ国内のみ)という触れ込みどおり12月22日には出荷された。コロナ禍や年末年始の混雑もあって東京税関への到着は翌年の1月5日。税関からは何の知らせもなかったがUSPS(アメリカ郵便局)の追跡サービスが有能で、しっかり到着日を教えてくれていた。

(2) ダンボール箱を開ける
本来クリスマス明けの26日がギフトボックスを開けるボクシングデー。今回は1月9日の到着だから2週間の遅れだった。それでも箱を開ける楽しみは何歳になっても良いもの…中から出てきたのは”OPIE WAY”とカンパニーネームの入った靴箱。11000㎞も日本から離れたアメリカはノースカロライナ州のアッシュビルにファクトリーを構える会社が丹精込めて作り上げたスニーカーが今回の主役だ。

(3) ハンドメイドスニーカー
頼んだのはオールスターの”ハイカット”タイプ。90年代にアメリカ製コンバースを3足まとめ買いしてはや30年、減りや傷みが出始めていたので後継をとMade in USAでネット検索。偶然辿り着いたのがこのOPIE WAYだった。最新の機能やエアソール、ブランドロゴといった付加価値はないが、真摯なモノづくりやハンドメイドへの拘り、何よりアメリカに製造業を取り戻したいという情熱を感じる。

(4) ビンテージスタイル
カーキのキャンバス地とベジタンレザーのコンビネーションはミリタリージムシューズのよう。実際ビンテージのファブリックを同じ州内のミリタリーサープラスストアから調達したものを使っているとのこと。アイボリーのソールやワックスの効いたシューレースと相まってデッド品のような雰囲気を醸し出している。こうしてみるとアイレットの多さが目を引く。



(5) アメリカンメイド
アッパー生地や底材、革や靴ひもなどパーツはできる限りアメリカ国内で調達、それもファクトリーから至近距離を実践しているという。レザースニーカーなどは植物鞣しの革に拘りホーウィンなどからも仕入れているそうだ。「環境意識が高い」といわれるミレニアル世代に属する創業者らしく小規模ながら環境に優しくて長持ちするサスティナブルな製品を追求する姿勢がうかがえる。

(6) ブランド名の由来
社名の”OPIE WAY”はJustinとAmanda夫妻の子供OpheliaとWaylandから取ったもの。2019年の11月の創業から2年目を迎え、夫婦と仲間の3人で全てを切り盛りしているそうだ。日本でもマイクロブランドの起業が盛んになりつつあるが、Made in USAを復活させようとアメリカでもマイクロカンパニーが各地に誕生していると聞く。社名ステッカーの中央に掲げられたHAND LASTEDが誇らしげだ。


(7) コンバースとの比較(その1)
コンバースのオールスターハイカットとの比較。アイレットの数はOPIE WAYが10穴に対してコンバースが8穴、結ぶのはコンバースの方が楽だが穴の数だけ細かな調節の効くOPIE WAYの方が履き心地が良い。キャンバススニーカーの元祖といえばコンバース、靴のスタイルが似るのも当然だろう。一体型のソールはクッション性や耐久性など素材の進化でコンバースより大幅に改善されている。


(8) コンバースとの比較(その2)
サイドビューの比較…OPIE WAYの踵にはアンラインドのローファーやチャッカブーツ同様ヒールカップを留めるステッチが走っている。カップの形状はコンバースより大きくて硬め、履いてみると踵をしっかりホールドするので安心感がある。創業者のJustinは「イタリアンシューズの製法を参考にしている」と取材に答えていたが、全部で12~15の工程と1週間を要するとのこと。


(9) コンバースとの比較(その3)
OPIE WAYの最大の特徴が底付。コンバース(下)が熱と圧力によるヴァルカナイズド製法で圧着しているのに対してOIPIE WAY(上)ではステッチでカップソールをアッパーに縫い付けている。ストームウェルトのように靴の全周にステッチが入り、アッパーとソールを固定するだけでなくソールを交換する事も可能だ。実際60$でソール交換が可能とのことで、「20年履けます」と地元紙の取材に答えていた。


(10) プライスと関税
今回オーダーしたのは”リバーサイドハイ”という名のモデル。298$のプライスが初回オーダーで10%オフの268.2$+USPS(アメリカの郵便局)スタンダード便送料16.39$で合計284.59$(約32,900円)。後で国内の関税が1,600円に特別地方消費税が2,000円加わって総計は36,400円だった。環境に優しい手仕事やソールを交換しながら20年履けるという耐久性のあるスニーカーとしてはリーズナブルだと思う。

(11) サイドの補強
足の小指側、革製のサイドウォールが目を引く。80年代までのコンバースに見られた当て布とサイドステッチを当て革で再現したのだろう。本来はバスケットの激しい動きに対する補強用に付いていたものをOPIE WAYでは外側に配し、敢えてアシンメトリーに仕上げている。Justinは大学でインダストリアルデザインを専攻しており、定番デザインに変化を加えて新鮮さを上手く引き出している。

【履いてみる】
(12) OPI WAYを履いてみる(その1)
まずは定番のデニムと…同じノースキャロライナ州のホワイトオークデニムを纏ったジーンズとコンビで撮影。一番上まで留めて撮影してみたが2~3穴外してタンを折り返してソックスが覗く履き方も悪くない。履き心地はソールのクッション性が高いせいか突き上げが少なくコンバースより断然履き心地が良い。外見は見てすぐに分かるアイレットの多さが存在感を高めている。
DENIM : RRL


(13)  OPIE WAYを履いてみる(その2)
同じキャンバス地を使ったGUNG HOのワークパンツと…キャメルカラーのパンツとカーキのスニーカーは最強のタッグかもしれない。まだまだコロナ過の収束は見通せず、気軽にアメリカ旅行に行ける状況にはないが、それでもこうしてアメリカのメイドインローカルを発掘する喜びはひとしお。昔ビスポークシューズを注文し始めた頃のように届いたばかりの靴を履く楽しみを満喫した。
Work Pants : GUNG HO

【コンバースのデッドストック】
(14) 最後のアメリカ製コンバース
OPIE WAYへのオーダーと同時に探していたデッドもののアメリカ製コンバース。ようやく見つけたのは2001年の倒産前最後のアメリカ製ミレニアム(2000年)モデルだ。倒産後ノースカロライナにあった工場は閉鎖され、アメリカ製コンバースは2度と作られていない。時を経て同じノースカロライナのOPIE WAYがコンバースをリファインさせたスニーカーを作りはじめたのは単なる偶然だろうか…。

(15) ヒールパッチ
ヒールに付けられたタグをヒールパッチと呼ぶそうだが下にはMADE IN USAの文字が並んでいる。2001年の倒産後、日本は伊藤忠商事によってコンバースジャパンを設立、インドネシアの工場で生産を始める。日本以外は全てナイキが買い取りUS企画ものを生産し始めたため混在を懸念したコンバースジャパンは法的手段によって日本企画以外のコンバースを日本で販売できないようにしたそうだ。

(16) インソール
こちらの靴は倒産前なので日本国内に流通していたものであろう。ただつま先のカップは22年の時を経てひび割れを起こし始めている。90年代の米国製のカップが問題ないことからミレニアムモデルの材質は劣化が早そうだ。因みにUS企画のコンバースはナイキの傘下に入りソールのクッション性など進化・発展を遂げたようで、「日本企画のコンバースより良い」と推すコンバースファンも多い。

(17) ヒールパッチのはみ出し
アメリカ製品のおおらかさは度々指摘されるところだが、写真のようにヒールパッチがソール接地面から2~3㎜もはみ出ている。これでは履くうちにすり減ってしまい、メイドインUSAの文字が直ぐになくなってしまう(笑)。よく見ると左右とも微妙にずれているしひょっとして工員が一枚ずつ手で貼り付けているのか?と思ってしまう。まぁ「これも味のうち」といえば言えなくもないが…。

(18) 履いてみる(その1)
最後のアメリカ製ミレニアムモデル。翌年の「コンバース倒産、アメリカ製は在庫限り」の情報で最後のアメリカ製を買おうと奔走するファンも多かったと聞く。当時はビスポークに夢中で機を逸したことが悔やまれるが、コンバースの後を継いでアメリカ製のキャンバススニーカーの火をOPIE WAYが灯してくれたことが嬉しい。写真のシューレースは黒レザーだが白紐に替えようと思う。
Denim : Momotaro

(19) 履いてみる(その2)
ミレニアムモデルのサイドビュー。デッド品のコンバースMade in USAは価格が上昇、オークションでも70年代~80年代の当て布サイドステッチ入のオールスターは高値だ。写真の2000年ミレニアムモデルは定番ものではない分リーズナブルだった。アメリカ製のデッドものも少なくなった今、ナイキ傘下のアメリカ企画のコンバースにも興味津々、渡米再開になった暁にはまとめて買って帰ろうと思う。
Pants : Polo Ralph Lauren


(20) 次は何を履くか…
革靴を買う機会はすっかり減ったがもともと履物が好きなのだろう、革靴を屋根裏に押しやってスニーカーがシュークローゼットを着実に浸食している。それも新機能満載のハイテクものとは無縁のローテクタイプばかり。唯一のハイテクといえばローテク顔のニューバランスくらいだろうか。アメカジ好きのオールド世代にハイテクものは似合わない…さて次はどれを下ろそうか…

中学生までは所謂ズック靴ばかりだったが高校生になってアイビーに夢中になるとリーガルのローファーやワークブーツ。社会人になってからはとにかく革靴をよく買った。冒頭に掲げたイタリアの名言ではないが「装いの要は足元」と教わったこともあって気が付くと足数も増え、一生かかっても履きつぶせないほどになっていたが、それでも「生涯現役で履き続ける…」と思う革靴愛好家だった。

愛好家だったと書いたのはいざドレスコードに縛られなくなると「楽な服装を選ぶ」自分に気付いたからだ。毎日スーツやジャケットにネクタイを締めてブローグを履けばいいと思っていたのに、いざその時が来たら選ぶのはカジュアルな服ばかり。玄関でローファーとスニーカーが並んでいたら迷わずスニーカーを選ぶ。というか最初からスニーカーに合う服装を選んでいる自分がいる。

既にビジネスの場でもドレスコードが緩やかになり私服で仕事をする会社も出てきている。ドレスコードが撤廃されたら巷の革靴愛好家は何を履くのか…ちょっと興味がある。


Jun@Room Style Store