英国製品の魅力(靴編) | Room Style Store

Blog

2022/01/31 15:51


ジャパニーズアイビーとその後に続くアメリカントラッドが服飾の原点ということもあってアメリカ製品には強い思い入れがある。1990年の初NY訪問時もブルックスやJプレス、チップにポールスチュアート、ラルフとマンハッタン中をとにかくよく歩いた。欲しいものが予め決まっているでもなく店に入りMade in USAを探し出す…そんな買い方だった。

ところが翌年イギリスにひと夏滞在すると一気にマイ英国ブームが到来。アランフラッサー曰く「男の身嗜みに必要なものが全て揃う」と讃えるロンドンに毎週末通ってはショップ巡りをした。日本と違って鉄道運賃の高いイギリスではコーチ(バス)が庶民の足、週末割引を利用すればさらにお得になる。今度はMade in England(U.K.)に嵌ったという訳だ。


あれから30年、最近は男の身嗜みに欠かせない英国物を身につける機会もめっきり少なくなったがどれもまだまだ現役…。そこで今回は英国製品の魅力について何回かに分けて書き残すべく、まずはノーザンプトンの靴にスポットを当ててみようと思う。

※扉の写真は最新の英国既成靴


(1) 心惹かれるもの
久々に我が家にやってきた英国既成靴。もう十分だと思っていてもごくごく稀に心惹かれる1足に出会う瞬間がある。写真のアンクルブーツもそんな出会いを経て仲間入りした1足だ。詳細は近いうちに当ブログで紹介するが決してゴージャスな素材でもなければ手の込んだ作りでもない。ともすると頼りなく見えるが実は英国靴の魅力に満ち溢れている。


(2) 手持ちの英国既成靴
ずらり並んだ英国靴。どれも靴の聖地ノーザンプトンで作られたものばかりだ。人手に渡って一時期よりだいぶ数が減ったがそれでも30足はあるだろうか。レザー用品やトレンチコート、カシミアやツィードなど英国製品の魅力を語るとき真っ先に出てくるグッドイヤーの本格的革靴…今回は代表的なメーカーについて定番品と個性派に分けて記録しておこうと思う。


【クロケット&ジョーンズ】
ポールセンスコーンやその後のジョージクレバリー、ジョンロブパリなどビスポーク店の既成ラインや服飾ブランドの別注を一手に引き受けてきたクロケット&ジョーンズ(以下クロケット)。近年自社ブランドを強化、ロンドンにブティックを構えると高級靴ゾーンにランクインしている。作りと価格のバランスが取れた製品は数多の別注をこなした証、MTOを受け付ける柔軟さも魅力だ。
 
(3)《定番》コードバンシリーズ
クロケットにはこれはという代表的なモデルがない。別注品を受けてきた器用さゆえだろう。その中で常にラインナップし続けてきたコードバンシリーズをクロケットの定番に推したい。東のオールデンに対する西のクロケットはアメリカ靴のおおらかな作りとは真逆の精緻な作りで真っ向勝負。ジェントルマンの国らしくカントリー靴も凛としている。


(4) MTOができる贅沢さ…
クロケットでは既存のモデルからラストや素材、色を自由に組み合わせられるMTOを随時受け付けている。これはオールデンにはない強み。レアコードバンのオールデンが高値なのもそこに原因がある。こちらはギリー4をウイスキーコードバンでオーダーしたもの。クロケットでは750£からスタートだがコードバンになると更にアップチャージが付く。


(5)《個性派》ショップ別注もの
クロケットも最近はショップオーダーから脱しつつあるが未だにOEMを受ける懐の広さは流石だ。NYトラッドの三大ブランドから別注を受けてきたこともあってアメリカでの認知度も高いのだろう、NYにはオウンショップも構えている。こちらはラルフ別注のホワイトバックス。白い靴を履くのは究極のお洒落、着物姿の女性の白い足袋に通ずる華がある。


(6) 黒子的存在
90年代のニアビンテージもの。ショップ別注品が「買い」なのはクロケットにMTOしない限り手に入れられない個性的で面白い靴がすぐに買えるところ。ホワイトバックスはその代表、真っ白な靴を自社で売るのはチャレンジング(難しい)だろうが、ショップ別注ならば却って腕の見せ所だ。中でもラルフがクロケットに作らせた歴代の別注靴は個性派揃い、逸品も多い。


【エドワードグリーン】
ノーザンプトンのオリバーStにある煉瓦造りの工場で最上級の英国既成靴を作っていたグリーンがエルメスに工場を売却したのが90年代中頃。暫くはグレンソンで靴を作っていたようで、それ以後グレンソンの出来が良くなったいう裏話もある。やがて新工場を立ち上げエルメスに渡った名ラスト202を新規に作り直し復活、更に工場を移転して今日に至る…。


(7)《定番》ドーバー
グリーンの定番といえばドーバー、この靴を履かずして英国靴の魅力は語れない。当時ノーザンプトンの中では最も手の込んだものだった。素材はカーフやグレイン、スタグスエードなど色々、一番はなんといっても写真のアッパー、ポールセン&スコーンも別注をかけていたヒュームドオークタンにとどめを指す。


【参考資料①】
こちらは婦人画報社が1990年に発刊した「ブランド図鑑」よりポールセン&スコーンの頁を拝借。写真では♯32のラストを使用しているがビームスの店頭には♯33のセミスクエアが並んでいた。写真でも分かるモカステッチやトゥのスキンステッチの綺麗さ…当時の値段にも驚く。上のローファーはクロケット製で下がグリーン製。当時は今ほど差がなかった事が分かる。


(8) ロイドフットウェア
こちらのドーバーは上のポールセン&スコーンと似てるが日本のロイドフットウェアがマスターロイドとして販売していたもの。当時はポールセンスコーンよりも価格を抑えた48,000円で販売。因みにクロケット製はJシリーズとして38,000円だった。ロイドでもクロケットとグリーンの差はそれほどなかったようだ。


【参考資料②】
どちらも当時のマスターロイド、つまりグリーン製のものだ。黒のチェルシーは履き口にひび割れが生じている。この先冠婚葬祭がどれだけあるか分からないがきっと一生寄り添ってくれるだろう。一方のドーバーも履き口のカラーが擦れて色落ちしている。それだけ履いたという事だろうがアッパーはまだまだ元気、こちらも生涯の伴侶となってくれそうだ。


(9) エドワードグリーンの実力
実はグリーンが近衛兵のブーツを作るブーツメーカーということはあまり知られていない。ビスポーク界ではブーツメーカーは長靴も短靴も扱えるがシューメーカーは短靴中心とのこと…。グリーンの実力が窺い知れる。写真はグリーンのジョッパーブーツ、名前はグレシャム。他にもガルウェイやシャノンなどグリーンには名作ブーツが多い。


【参考資料②】
最近更に工場を移転したがこちらは移転前の工場内での作業風景。大きな部屋では高速で①ウェルトを縫っていくマシンの音が響き渡るが、別の小部屋では②一人の職人が黙々とスキンステッチで近衛兵の準備を進めている。③ようやく縫い始めたところを別の角度から見ると④踵から脹脛に伸びるブーツのシャフト部分が全てスキンステッチで縫われていた。


(10) ビスポーク店の別注品
こちらは1992年、ジャーミンStのフォスター&サンで購入。フォスターラストと呼ばれる#88を採用している。30年が経ったとは思えない外観…と言いたいところだがよく見るとストラップはささくれ立ち癖をつけた甲部分はクラッキングが起きている。細いストラップ部分を念入りにケアしておかないと乾燥で千切れることがあるそうだ。


【トリッカーズ】
ロイヤルワラントホルダーのトリッカーズは2005年のイギリス映画「キンキーブーツ」の舞台になったことで人気が上昇したと聞く。ロンドンの靴屋通り「ジャーミンSt」の本店はワラントをいただき風格満点の店構え。ドレス靴が充実しているのに《定番》がカントリー系という珍しいブランドだ。ノーザンプトン最古の靴だけあってファクトリーは歴史を感じさせる。


(11)《定番》カントリーブローグ
トリッカーズと聞いて靴好きが思い浮かべるのはカントリーブローグだろうか…。長靴ならモールトンかストウ、短靴ならバートン、どちらも穴飾りが大きくてアイレットが外鳩目、ウェルトも通常のグッドイヤーを改良して雨や雪に強くしたストームウェルトを採用。田舎暮らしでも履けるレザーシューズの代表だ。


(12) 長靴か短靴か
写真は短靴のバートン。このタイプのトリッカーズは長靴にするか短靴にするか迷う。長靴は季節限定だけど短靴は通年と考えれば最初は短靴か?と思いきや自分は長靴を先に買ってしまった。ものは欲しい時が買い時、トリッカーズに限ってはどちらが先でも良いけれど長短2足持ちが正解だと思う。


【参考資料③】
左のストウはノーザンプトンのファクトリーストアで買ったセカンド品。履き口付近のライニングに傷があるので安くなっていたものだ。一方右の短靴バートンはシップスで購入。両者同じサイズで買ったがバートンはストウよりハーフサイズ小さめを選ぶのがコツらしい。確かに馴染むとヒールが抜けやすい。


【参考資料④】
こちらは懐かしのトリッカーズ、ファクトリーアウトレットストアの内部。どこでも大抵こんな感じでサイズ毎に分けられた中からお宝を探し出すのが楽しい。記憶が定かではないが当時は60~70£くらいだったと思う。この時は工場内に隣接した場所にコーナーがあったが随分前に別のところに移ったようだ。今から20年前の写真になる。


(13)《個性派》スリッポン
トリッカーズの中で個性派といえばローファータイプ。ウェブサイトを見るとトリッカーズではこのタッセルとビーフロールの2型しか作っていない。クロケットやグリーンが何型もローファーを作っているのとはずいぶんと違う。しかもタッセルの方は素材も黒カーフと茶スエードの2種類のみという潔さ。写真のレプタイルバージョンなんてかなり個性派だと思う。


(14) フォクシング(踵の意匠)
踵のフォクシングが特徴のタッセルローファー。同じタッセルのデザインでもクロケットやアメリカのオールデンはフォクシングなし派、グリーンやチャーチス、チーニーはフォクシングあり派と別れている。好みの分かれるところだが、個人的にはつま先のモカ縫いと呼応する踵のステッチがあると嬉しい。因みにこちらはジャーミン本店での購入品だ。


【ジョンロブパリ】
エルメス傘下のジョンロブパリはフランスブランド。だが由緒正しいノーザンプトン製英国靴、それに元のジョンロブは英国を代表するビスポークブーツメーカー、ここで紹介するのも当然か…。90年初頭、クロケットに既成靴を依頼、遠慮がちに販売していた時期からグリーンを丸ごと買い取り自社工場を立ち上げた90年代中期と後に続く黄金期。昨年女性ディレクターが就任、昔のジョンロブを知る靴好きには別物とも思えるシューズブランドに変身を遂げている。


(15)《定番》フィリップ
定番と聞いて迷うのがウィリアムかフィリップか。やはりバックルより王道のレースアップということでフィリップを選んだ。昔所有していたクロケット製のウィリアムはダブルソールで履き心地が超ハード、それに比べて写真の自社工場製シングルソールのフィリップはなんて履き心地が良いんだろう…。歳を取るとウィスキーの注文とは真逆、ソールはダブルよりシングルがいい。


(16) クラシックスタイル
今はブラックオックスフォードカーフ以外3色、ダークブラウンとプラムのミュージアムカーフにココアバーニッシュカーフが選べるが、写真のパリジャンスエードは扱っていない。もっともフィリップを買う時にスエードを選ぶのはマイナー、一番人気といえばシンプルな黒に違いない。


【参考資料⑤】
2000年初頭のジョンロブファクトリー。その5年前までグリーンのファクトリーだったところだ。JL&Co Ltdの部分にはEDWARD GREENの文字が、その下もグリーンの社訓English Master Shoemaker to the fewが書かれていた。写真はNGだったがファクトリー内部を見学させて貰ったことが懐かしい。日本の職人さんもいて色々と話をしてくれたことを思い出す。


(17)《個性派》バイリクエストなら…
ジョンロブパリで《個性派》というとイヤーモデルが思い浮かぶがアーカイブからバイリクエストするなら?…と考えると一推しは写真のアシュリーになる。グッドイヤー製法のジョンロブパリの中で一番の履き心地。スニーカーより快適だと思う。モカ部分やつま先のスキンステッチなど手仕事の多さもハンドメイド感高めで好印象。色違いで何足も欲しい靴の候補だ。


(18) 履き心地と耐久性
履き心地は耐久性と裏表の関係。アシュリーに限らずオールデンのアンラインドペニーもグリーンのハーロゥもクロケットのハーバードも…アンライニングの靴はライニング有りのローファーより耐久性が劣るのは経験上確かなこと。アッパーへの負担が大きいとみた。類い稀なる履き心地は旬の短さと引き換えということだ。



他にもチャーチスやコロナ禍で会社を清算したアルフレッドサージェント、力を付けてきたチーニーなど記録しておきたい英国靴が何足もある。今年か来年あたり頃合いを見てノーザンプトンを久々に訪問しようと計画も立てている。何よりロンドンのジョンロブにオーダー、完成した2足のビスポークを引き取る楽しみもある。諸々のことはまたの機会に書き記したい。



ここでワクチンの3回目接種が始まった。ウィルスの弱体化で「終わりの始まりが見えてきた」という説も出ているが依然として個人の海外旅行は容易ではない。せっかくたまったマイルも使わないままたまる一方だ。冬来たりなば春遠からじ…ではないが気温が上がり、風邪のシーズンが終わりを告げるようにコロナ禍も収まれば…と淡い期待を抱いている。


By Jun@Room Style Store