ウールタイの魅力 | Room Style Store

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2022/02/20 10:31



山のように積み上げたネクタイ。サラリーマンの平均ネクタイ所有数10本からすると多過ぎるだろう。ただ父親のクローゼットにも20~30本はぶら下がっていたと思うから昭和から平成、令和とネクタイの需要が減り続けているのは間違いない。既に2019年時点でピークから70%減、その後のコロナ禍で落ち込みは更に進んでいると見られている。「ネクタイは絶対になくならない」と業界はコメントを出しているがクローゼットに何本もネクタイが掛かってる…という光景は既に過去のようだ。

確かに仕事でネクタイをする機会が減れば需要が減るのも当然。「TPOに合わせたネクタイ使いを提案」して需要を喚起するという業界のアイデアもクールビズに加えてリモートワークや私服での勤務が広がればノータイこそTPOに合わせた着こなしという現実に直面する。それでも2021年後半頃からネクタイ売り場に動きがあったようで、秋冬ものと合わせてネクタイも売れ始めたと聞く。首下が寒く感じられる秋冬はネクタイがあるだけで温もりを感じるもの、上手く波に乗れるよう期待したい。

そこで今回は寒い季節の首元に温もりを感じさせるネクタイ、なかでもウールタイを中心に秋冬の着こなしを考えてみたい。

※扉は起毛感のあるネクタイ


【スーツとウールタイ】
(1) フランネルスーツ
秋冬の定番フランネルスーツ。特に黒に近いチャコールのチョークストライプはスーツを着る機会が減ってもここ一番という時のために持っておくべき永世定番スーツの筆頭だ。起毛感のあるスーツ生地はカシミアが程よくブレンドされていることも多い。光沢のあるシルクタイも悪くはないがウールタイの方が素材としては断然相性が良い。
Suit : Purple Label
Shirt : Paul Stuart by Luigi Borrelli


(2) グレーのウールタイ
写真のソリッドグレー(上)はフィレンツェのリヴェラーノ製。当主のアントニオがネイビーのカシミアジャケットに合わせて選んでくれたものだ。ネイビーだけでなくチャコールにも合うので秋冬になると出番が多いネクタイの一つ。その後一時期は扉写真でも分かるようにグレーのウールタイに凝って何本も買ったことを思い出す。
Tie : Liverano
Tie : Paul Stuart


(3) 黒靴を合わせる
チャコールグレーのフランネルスーツにグレーのウールタイの組み合わせなら履くべきは黒靴一択。せっかく色のトーンを抑えたのだからいくら好きとはいえ茶靴には休んでもらおう。そもそも黒靴=仕事と考えがちなのがいけなかった。黒靴をお洒落に履く若い人達が良い見本だ。自分には似合わないが黒のドクターマーチン姿なんて素敵だと思う。
Shoes : Foster & Son


【プレッピーなウールタイ】
(4) ツィードラン
今回久々に買ったウール混のネクタイ。ひょっとして売上回復に微力ながら貢献したかもしれない。ウールタイのロイヤルクレストなんて如何にもラルフローレン、タイの色も柄物シャツと絶妙にマッチしている。上からツィードジャケットを羽織って胸ポケのグローブをすればツィードランに参加しそうな出で立ちだ。
Jacket & Tie : Polo Ralph Lauren
Watch : Airain

(5) 三巻仕様
写真のネクタイはどちらも裏地のないビンテージ仕様。日本では三巻仕様というそうだ。縁の部分をスカーフと同じようにハンドロールでかがるものもある。芯地はあるが裏地はないのでノットがフワッと仕上がる。ジャケットはリアルなビンテージ…。最近はどこか似たようなデザインや素材の服が多い中、自分だけのお洒落を求めて一点ものを探しに古着屋を巡るのが人気だとか。


(6) ギットマンのシャツ
今やギットマンはアイクベーハーと並ぶ希少なアメリカ製シャツメーカー。ポールスチュアートのシャツを請け負っていただけにアメトラ風はお手のものだ。そこにバックボタンとロッカーループを追加オーダーしたシップスのセンスも流石というべきか…今はインディビジュアライズドシャツと同系列のギットマン、名門トロイシャツメーカーもメンバーらしい。


【格子柄のウールタイ】
(7) タータン柄(その1)
ウールタイの楽しみは柄物にあり。なかでもタータンチェックはクラン(氏族)ではなくとも身に付けたくなる魅力がある。写真のウールタイは輸入生地を使った国産品。鎌倉シャツのものだ。本場英国製の生地だけに色味も洒落ている。ピンクの格子に合わせて時計のベルトもピンクに交換してみた。たまにはアップルウォッチから離れるのも悪くない。
Watch : Breguet
Watch belt : Camille Fournet


(8) 日英米揃い踏み①
日本のVANからアメトラを知りブリトラに辿り着いただけあって日米英三国への思い入れは深い。タータン柄のウールタイも左から米国製ブルックスタータン、日本製キャンベルクラン、英国製グレートンプソンとしっかり押さえている。ところで一番右のグレートンプソンだがバーバリー柄とそっくり…どこが違うか分かる人はかなりのタータン通に違いない。


(9) ポケットチーフ
写真はウールシルクのポケットスクエア。ウールタイと素材感を合わせるのも効果があるようだ。ところでポケットチーフを選ぶコツは…と調べたら①ジャケットやシャツの色を拾う②ネクタイの中の色を拾う③全く関係のない色を選ぶという段階があるらしい。上のチーフの場合は①のジャケットのグリーンと②のネクタイの紫色を拾う合わせ技になる。
Pocket square :Seaward & Stearn


(10) タータン柄(その2)
こちらは90年代のポロラルフローレンからアンティークな色合いのタータンチェック。100%ウールだが生地も芯地も薄いのでノットがさほど大きくならずに上手くシャツのタイスペースに収まる。ラルフローレンがネクタイから会社をスタートさせたことを忘れがちだが、ブティックに行ったらネクタイコーナーは必見だ。趣味の良いネクタイが見つかることも多い。
Suit : Fallan & Harvey


(11) 裏地と合わせる
スーツはファーラン&ハーヴィーの誂え。ゴールドの裏地に合わせてイエローの入ったウールタイと番外のカシミアタイを、ポケットスクエアはツィードのネップの色を拾っている。因みに写真のスーツはオーダー時より瘦せたので大幅な直しを入れている。誂えものの直しは10㎏の体重増減に対応できるそうだ。工賃はそれなりにかかるが(10)のように完璧にフィットして戻ってくる。

(12) ジーンズとブーツ
(11)の置き画に写っているブーツを履いてみた図。ホームスパン生地とはいえ3ピースをそのまま着るとかなりドレッシーなのでよくやるのが組下だけデニムで外す着こなしにフォスター&サンの特製ブーツをプラス…このブーツ、相変わらず柔らかくて履き心地も見栄えも抜群だ。3月を迎えたらこんな格好で信州は地元のカフェ巡りでもしてみたい。


【スーツ生地のウールタイ】
(13) ウールタイを追加注文する
昔テイラーが作ったスーツの共布ネクタイを締めたパリの紳士を雑誌で見て以来、いつかはと思いオーダーしたのが写真のスーツ+タイのコンボ。件のパリジャンを真似て白シャツにしてみたが思ったより良い感じだ。ツィード生地はノットが大きくなるのでロングポイントの大きな襟のシャツを登板、カラーバーで留めてノットを持ち上げてみた。

(14) 誂えの楽しみ
スーツをオーダーするなら仕事用はほどほどに。その分オフ用のツィードスーツに回すのがお薦めだ。しかも上下より3ピース、できればネクタイとキャップ(ハンチング)なんて最高に楽しい。どのアイテムも単品として使えるしデュオでもトリオでもOK、(13)のようにカルテットにしたって良い。最近はオーダー時にプラスフォー(クラシックなゴルフパンツ)も誂えるとか…。

【番外編】ツィードタイ
英国好きには堪らないツィードタイ。ハリとコシのある生地は独特の雰囲気なれどノットが大きくなるのはやむを得ない。通常のドレスシャツではタイスペースも小さいためシャツ選びにひと工夫が必要。お薦めはロールの大きめなBD(ボタンダウン)シャツだが、英国スタイルにBDシャツは合わないと思う人も多い(自分もその一人)。



(15) 共布ブーツ
今回は共布を使ったブーツを更にプラスしてみた。これにハンチングを被ればハンツマンセクステッドの完成になる。このブーツをオーダーするさい気になったのがツィードスーツに負けない足下だった。内羽根より外羽根を、ハンドウェルトよりノルウィージャンのごついコバをと選んだのに、出来上がりを履くとツィードパンツの下ではスマートに見えてしまう。


【ウール&シルクのタイ】
(16) プリント柄
ウールタイと思って選んでもよく見ると素材は色々…ピュアウールやカシミア混、ウールシルクやウールコットン、中にはウールシルクにリネンの入った三者混もある。写真のような大柄なプリントだとシルク100%では浮きそうだが、ウールが加わると光沢が抑えられて発色の良さが生きるようだ。売り場の人によれば皺になりにくく結びやすいのもポイントとのこと。
Tie : 90s vintage Polo Ralph Lauren


(17) ウールシルクの割合
ウール&シルクのタイは混紡の割合もまちまち。右のイラストプリントはウール:シルクが43:57とシルクが多い分鮮やかな発色だが、中央と左は65:35とウールの割合が多い。そのせいかマットで毛羽立ち感もより出ている。他にも58:42や60:40など割合を変えることでさまざまな表情のネクタイを生み出しているようだ。


(18) クレバリーのブーツ
(17)で登板したバルモラルブーツを履いてみた図。秋冬のジャケパンスタイルをイメージしつつ、ドレス寄りにならないようアンクル部分をピッグスキンに、底付けもトリプルステッチのゴイサー仕様にしている。靴をビスポークすると汎用性を意識しがちだが経験を重ねると「何に合わせるか」明確な方が結局は満足度が高いということが分かった。


(19) イタリアのウールタイ
さてここでは日米英に続いてサルトリアイタリアーナを…昔ロンドン・パリ・ミラノで靴をオーダーしていた頃はミラノから遠いナポリより近場のフィレンツェで服をよく誂えた。フィレンツェ仕立はナポリに勝る着心地の軽さが魅力。そのかわり着る前は軽くアイロンで皺を伸ばすようにしている。選んだウールタイは同じフィレンツェのマニファットゥーレクラバッテ。
Jacket : G. Seminara

(20) 四つ折りのウールタイ
もともと店舗がなく、ショップオーダーのみの扱いだったが現在は展開がないというマニファットゥーレクラバッテ。ウール60%にシルク40%の小紋柄をクワトロピエゲに仕立てたもの。ノットがやや大きくなるがその分ディンプルも大きく深いものができるためドレープの効いたVゾーンができる。このタイはとても良い。


(21) イタリアもので揃える
(19)のシャツは誂えのシャツ、イタリアの柔らかな仕立てに合うシャツもまた仕立ものが一番というのが持論だ。ジャンニカンパーニャのジャケットにブルックスのBDを合わせた姿のモンテゼーモロ氏が雑誌に載っていたが今度チャレンジしてみようと思う。もし既成ならフライよりはボレッリだろう。…リヴェラーノでも扱っていたくらいだから間違いないと思う。
Pocket square : Finamore
Shoes : sample by ARCANDO


【番外編:カシミアのタイ】
(22) ウールとカシミアの違い
ウールは広義にはヒツジ・アルパカ・アンゴラ・ラクダが範疇だが一般的には羊毛のこと。一方カシミアはヤギ由来と両者は明確に分かれている。見た目が似ているのでウールタイと思ってカシミアタイを手にしたら値段の違いに驚いたことがあった。写真はドレイクスのピュアカシミアタイ。ドレイクスらしい綺麗なディンプルが特徴だ。
Shirt : Brooks Brothers
Tie : Drakes


(23) 無地のカシミアタイ
写真のガンクラブジャケットはローイングブレザーズ。英国製ツィードをNYの工場で仕立てた今時珍しいアメリカ製だがこの上着、意外とドレスアップが難しい。柄物のネクタイは大抵ジャケットの格子柄とぶつかる。そんな時はソリッドタイの出番だ。たしか袖裏と同じ無地の濃茶があったな…と引っ張り出したのが上の図。

【番外編】柄の控え目なカシミアタイ
無地に近いカシミアタイは意外に重宝する。左手の2本は英国製のパープルレーベル、中央のグレーはフランス製だった頃のブリュワー、右の2本がイタリアのマーロ。作りや色合い柄選びなどそれぞれのお国柄が表れているようで面白い。どれも90年代のもの…ネクタイは長持ちするので中々買い替え需要が進まないのも当然か…。


(24) ギリーコードバン
こちらも久しぶりに履いた馬革のギリーシューズ。勿論ホーウィン社のシェルコードバンだ。毎日カジュアルな格好ばかりしていた反動かたまにはお洒落して買い物や会食を…と思いつつも蔓延防止中に感染しては医療ひっ迫になるのでここは我慢。3月6日が蔓延防止の期限らしいので次は解除になると嬉しいのだが。


東洋経済オンラインは「仕事がダメな男はネクタイの作法を知らない」という刺激的な題でネクタイの重要性を説いている。ネクタイの色を意識することは相手への非言語メッセージであり、パワーの象徴ならば赤だが論理的な説得力には茶色、創造性ならターコイズが効果的だそうだ。更にネクタイの長さも重要で「直立でベルト位置に収まる」かどうかで印象が左右されるとしている。

冒頭「TPOに合わせたネクタイ使いを提案」について触れたが、ネクタイの色による具体的な効果に「なるほど…」な提案だと思った。ネクタイが長過ぎたら結び目を工夫したり小剣をスラックスにインしたり…というのも意外に知られていないかもしれない。今回更に付け加えるならば季節に合わせた素材のネクタイも相手に対するメッセージ性をもつのではないか…ということだ。

ウールタイならば温もりや柔和な印象をメッセージとして発信する名脇役になり得る。もっと言えば季節の衣類に合ったネクタイ、例えば春はコットン、夏はリネン、秋冬はウールを揃えることでメッセージもより効果的になるしネクタイの持ち数も増えるに違いない。

By Jun@Room Style Store