今も買えるイタリアの名品 | Room Style Store

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2022/02/28 11:50


ウールタイの魅力について触れた前回のブログで久々に着たイタリアものに感動、このところちょっとしたMyメイドインイタリーものブームが来ている。特に週末は好天に恵まれ気温も上昇、春の装いで出かけるには最高の日和だった。軽く衣替えを済ませ、ヘビーな英国調ツィードジャケットは奥に、軽い一重仕立てのイタリアンジャケットを最前列に持ってきた。

日曜日は久々にマリネッラに立ち寄ったりグッチのブティックをのぞいたり、フライのシャツを探してショップ巡りをしたり…。中には取扱を終了した店もあって栄枯盛衰、盛者必衰の言葉を実感する。今回のコロナ禍で廃業した店舗の前を通ると「昔〇〇を買ったなぁ…」と寂しい気持ちになるがお気に入りのショップの多くは今も存続しているようで一安心した。

そこで今回は昔「買って良かった」と思えるイタリアの名品を今も買えるか…という視点で探ってみたい。

※扉写真は店舗があった頃のメローラ50ozシルクタイ。


【シャツ】
洗い立てのオックスフォードボタンダウンも良いがドレスシャツの神髄はイタリアにあり…かつてイギリスやフランスの貴族たちはわざわざ鎧兜をイタリアに発注していたという。人の体(の動き)に沿ったモノづくりにかけてイタリアは長けている。中でも一推しカミチェリア(シャツ屋)といえば、北のフライと南のボレッリだ。

〜FRAY(フライ)〜
(1) 美しい襟
最初に気になったのがフライのシャツ。イタリアのシャツの中で一等地を抜くフライは手縫いを凌ぐ機械縫いと言われる。着心地もさることながら襟の美しさは格別、一度着ればその出来栄えに納得するに違いない。数年前にデパートでパターンオーダーを開催以後コロナ禍でストップ状態だが、ビジネス関係の往来が順次拡大されれば再開も期待できそうだ…。

(2) ストライプスーツと
ビジネススーツの王道ペンシルストライプスーツにフライをイン。ストライプオンストライプでも柄が淡ければビシーにならずに済む。金のカラーピンで襟を留めるとディンプルがグッと持ち上がってVゾーンが立体的に見えるがこれこそピンホールカラー最大の見せ場。ついでに腕時計を金に、ベルトも紫に交換してVゾーンとリンクさせてみた。


(3) 格子柄のスーツと
ビジネス寄りの格子スーツに白無地シャツをイン。レギュラーカラーをピンホールに仕様変更したので生地もべたなブロード生地じゃなくてドビーストライプに挑戦。カルロリーバで有名なフライだがオックスフォード地でもクオリティは変わず端正なシャツに仕上げてくれる。既成にはない生地で自分仕様のフライを作れる日が早く来ると良いのだが…。



(4) オーダーの選択肢
フライのパターンオーダーは①襟のデザイン②台襟の高さ③硬さ④タイスペースの間隔など細かく選べる。一昨年は一枚57,200円〜と高価だが仕上がりは素晴らしく満足度も高い。コロナ禍が収束したら試してみては如何だろう。因みにピンホールカラーの場合ピンも金か銀を選べる。一緒のネクタイはイタリーのシャツ屋バルバのクワトロピエゲ…餅は餅屋、よくもシャツにぴったりのネクタイを作るものだ。


〜Luigi Borrelli(ルイジボレッリ)〜
(5) 元祖手縫いシャツ
北はマシンを駆使した精緻な作りのフライに対して南のナポリを代表するのが手縫いシャツで名を馳せたルイジボレッリ。90年代のクラシコイタリアブームに乗って一気に表舞台に出てきた。写真はナポリのキアイアに店を構えた最初の頃にス•ミズーラしたもの。まだ日本でパターンオーダーをやってなかった時代だが四半世紀が経った今でも現役で着られる。

(6) アズーロエマローネ①
クラシコイタリアのボタンダウン(以下BD)は大ぶりで襟が開き気味、ロールが大きく出る。初めてボレッリのBDシャツを見た時は「なんじゃ?」と思ったが人は見慣れると次第に興味が湧くもの。いつしか身に着けていた。ジャケットは「我が社の背広に合うのはボレッリのシャツ」と会長が言ったキートン。ブラウンのタイでアズーロエマローネな組み合わせにしている。
Jacket & Tie : Kiton


(7) アズーロエマローネ②
ボレッリには珍しいブルーの地付ストライプ。ス・ミズーラならではの一枚だ。ストライプの青に合わせてジャケットも明るめのブルーを選択。ところでアズーロエマローネの着こなしはアズーロ(青)を多めにするのがコツだとか…となるとマローネ(茶)はネクタイが担うことになる。きっとクラシコイタリア好きは手持ちのタイに茶が多いに違いない。
Tie : Nickey



【ジャケット】
サルトリアイタリアーナの真髄はジャケットにあり、日本にジャケパンスタイルを定着させた功績は大きい。ラルディーニやボリオリ、チルコロなど新世代には馴染みがないが、オールドマンにとって昔も今も買えるイタリアものといえば北のベルベストと南のサルトリオか…。ブリオーニやキートン、アットリーニといったハイクラスじゃなくても着る喜びを教えてくれる逸品だ。


~サルトリオ~
(8) キトンのサブブランド
キートングループの中核サルトリオ。トップレンジのキートンはサビルロウテイラーなみの値付け…「その値段ならビスポークかな」と思わせるがサルトリオならば比較せずに済む。グレンチェックが欲しくて買った写真の上着は満足度も高く、アイビー調のレップタイ(アメリカブランドじゃなくてなんとエトロ!)とコンビで登板回数も多い。
Tie : ETRO


(8) アットリーニかキートンか
どちらもサルトリオのタグが付くがベージュがアットリーニ傘下時代のもの。チェックがキートン傘下になってからのものだ。アットリーニが経営問題からキートンにサルトリオネームを売却したのは随分昔、今や店員でさえ知らない人も多い。正統派のアットリーニに対してデザイン性の強い攻めたサルトリオも好きだっただけにちょっぴり残念だ。


(9) ベルベスト
南はナポリのサルトリオに対して北はパドヴァのベルベストは端正で精緻な作りが特徴。エルメスが一貫してベルベストにジャケットを依頼するのも品質の確かさがあってこそ。写真はス・ミズーラもの。日本では開催予定はないがベネチアのベルベストショップなら今もオーダーできるはず。Vゾーンを彩る大柄のペイズリーのタイは再び登場のエトロ。

【ネクタイ】
高級ネクタイといえばイタリア製…お気に入りのラルフローレンをはじめ世界中のブランドが別注をかけるネクタイ産出国だ。何気に裏返してタグを見れば大抵のネクタイにはMade in Italyの文字が目に付く。今も買える逸品という視点で見ると北はミラノのエトロと南はナポリのマリネッラを推挙したい。

(10) エトロ
テキスタイルメーカーだったエトロがペイズリー柄でトータルブランドになった1990年代、遊び心のあるネクタイが気に入って何本も買ったことを思い出す。中でもエトロのペイズリーはブランドの顔。写真のペイズリーも3色しか使っていないのに締めてみると一気にVゾーンが華やぐ。色数の多い派手なペイズリーが苦手な人にお薦めだ。


(11) マリネッラ
南を代表するナポリのタイメーカーマリネッラ。ナポリの店は小さいが店内はいつも客で賑わう。1994年のナポリサミットで要人にマリネッラのタイが配られたことが話題にのぼり1998年にはナポリ本店を初訪問、お土産代わりに何本もまとめ買いしたことが懐かしい。写真のタイはその後日本で購入したもの。緑が三つ折りでその他がセブンフォールド。


(12) コンサバに
グレー無地のスーツにネイビーの小紋タイ。最もオーソドックスでビジネス向きの出で立ちだ。仕事でスーツを着るならマリネッラの小紋タイは揃えるべきイタリアの逸品…今はブティックが日本にもあるのでじっくり選べる。ただし気に入った柄があったら後回しにしないこと。本数が少ないので次に戻ってきたら売り切れという事もままある。

(13) パワータイ
こちらはパワータイ。真っ赤なタイも良いがサーモンレッドもパワーと親しみを感じさせる。ここでも時計とVゾーンをリンク、ベルトを赤に交換している。カミーユフォルネのアビエシステムなので手早くベルトを交換できる。以前は革の素材やベルトの厚み、バックルの色など自由にオーダーできたが、残念なことに行きつけのデパート売り場から撤退してしまった。

【参考資料】
アビエシステムとは赤丸に見える突起を内側に引っ張るとバネ棒が縮んでベルトが外れる仕組み。アビエ(HABILLER)とはフランス語で「着替える」という意味だそうだ。気分で腕時計のベルトを替える…何とも粋で洒落ていると思う。


(14) マリネッラ今昔①
タイの幅は年代によって変わるもの。どちらもセブンフォールドタイだがネクタイの幅を比べると右の1990年代が9.5㎝、左の2010年代では9.0㎝と5㎜ほどシェイプアップされたようだ。芯地も90年代の方がネクタイよりやや小さめになっているぶん芯地のない端にゆとりが生まれ、丸くふわっとしたエッジに仕上がる。


(15) マリネッラ今昔②
裏返すとネクタイ生地を裏地に使うセルフチップ仕様になっているのがマリネッラ。90年代のものはセルフチップ(共裏地)が剣先ぎりぎりで縫い合わされたり左右で幅が違ったりと手仕事っぽい。一方左の新しいものは裏地が剣先よりかなり内側にずれて縫い合わされているが出来栄えはかっちりとしている。

【シューズ】
英国靴愛好派という事もあってイタリアの既成靴は少ないが昔も今も買える逸品となるとシルバノラッタンジとグッチになる…。残念ながら日本ではシルバノラッタンジの取扱がなく馴染みのローマ店もクローズしたがミラノまで行けば手に入れられる。一方グッチはオリジナルのビットローファーは勿論、コラボ品など攻勢続きで復調にあるという。


(16) シルバノラッタンジ①
ラッタンジのラインナップで見つけた今も買えるモデルの最初がこちらSTOKKOLMA(ストックホルム)。左の写真はシルバノラッタンジの公式サイトより写真を拝借して比べてみたもの。右は25年前にローマのブティックで買ったものだ。嬉しいことに木型も作りも25年前と変わらないが値段は分からず…恐らく受注生産だろう。

(17) ノルベジェーゼ
ゴツいアウトソールとコバに走る2列のステッチ。如何にも手縫い然として朴訥な靴が好きなのは25年前も今も同じ…アーチ部分がえぐれたベヴェルドウェストの靴を随分注文したがフォスター&サンの名職人テリームーアが言うように「男らしいスクエアウェスト」の靴も結構好きなことに気付いた。

(18) シルバノラッタンジ②
こちらも嬉しいことに今も買える逸品「アスキット」の比較。右は2001年ミラノのブティックで購入。左は公式サイトから写真を拝借した現在の姿。殆ど変わらないが価格は昔の7倍、なんと4,450€になっていた。日本円で580,000円…「今も買える名品」だがビスポーク並みの値付けは「今も買える値段」とは言えない。

(19)  ハンドソーン
このところアメカジばかりで出番なしが続いたが週末は久しぶりにイタリア靴を履いた。このアスキットはシュークローゼットの誂え靴よりスマートで履き心地も負けない実力派。エドワードグリーンのセミブローグ「アスキス」から名前を頂戴したのだろうがポインティなつま先で英国靴とは一線を画す独特の存在感がある。

(20) ダービーで外す
こちらもラッタンジ公式サイトにラインナップされている外羽根セミブローグ。どうもイタリア人は外羽根靴(Derby=デールビと発音する感じ)が好きらしい。内羽根靴をフランチェジーナ(フランス女)と呼んで羽根の閉じた様が「誘い難いフランス女性」のようだと名付けたとのこと。ミラノのメッシーナもフランチェジーナよりデールビと言ってたっけ。


(21) グッチ①
マッケイ縫いの靴で唯一今も買いたいイタリアの逸品に認定したのがこちらグッチのビットローファー。一歩間違えばダサくなりがちなデザインをぎりぎりの線でお洒落に見せている。素材も色々、ビットの色もシルバーとゴールドがあるがどれも揃えたくなるから困ってしまう。ビットローファーならば黒カーフも欲しいくらいだ。


(22) グッチ②
こちらはグッチのスニーカー。プラダスポーツのスニーカーは残念ながらイタリア製ではなくなったがグッチは今もイタリア製。クラシックなデザインにレトロ風な飴ゴムソール。中はクッションの効いた底材で足当たりはあくまでもソフト、柔らかなレザーのアッパーと相まって「やっぱりイタリア靴は良いな…」と思わせる小技が効いている。


【帽子】
夏のイタリアは日差しが強い…通気性の高いストローハットは必需品だ。昔も今も買える老舗といえばボルサリーノ…20年前の初代が日焼けしてストローもひび割れたのでコロナ禍前年にローマで2代目を購入。2017年の倒産後存続をかけて新生ボルサリーノが船出、2019年のローマ訪問時に昔と変わらぬショッピングを楽しめたのが何より嬉しかった。


(23) 新旧比較
下の初代は日焼けですっかり小麦色に変色、つばのカールも取れてフラットになったがまだまだ現役だ。一方上の2代目はカールの効いたつばの縁、眩しいくらいに白いストロー、リボンも鮮やかなブルーで夏を待っている。ボルサリーノもモンテクリスティになると一気に値段も上がるが、普段使いなら写真のミドルクラスで充分。

(24) マドラスパンツと
パナマハットと相性のいいマドラス柄。もとアイビー小僧としてはインディアンマドラスにこだわりたいがイタリアンマドラス風味のチェックも悪くない。靴も初登場の白いドライビングシューズで帽子に合わせている。こんな格好でイタリア滞在を満喫したいが目下の紛争で欧州直行便はロシア上空を飛ばないし外国人の受け入れも厳しくなるだろう。


(25) 鮮やかなコッパンと
こちらは夏らしい鮮やかなアップルグリーンのコットンパンツ。色褪せた初代のパナマハットに合わせて足元はセラペ柄のエスバドリュを用意。素足履きがお薦めのエスバドリュは底にラバーが貼られるものも増えたがそれでもあまり長持しない靴の代表。何年かおきに買い替えて旬を楽しむもののようだ。

昨年の夏エトロがLVMHに株式の60%を売却したというニュースを見て「またか…」という思いがしたのも束の間、最新のニュースによればアメリカのラルフローレン社までもが買収の対象になっているとのこと。同じアメリカのトムブラウンを買収したエルメネジルドゼニアが今度は決定権を確保しつつも上場専門の特別買収目的会社への買収に応じたという報道もある。

何より小さな工房で生み出される名品が各都市で買えたイタリアの良さはコロナ禍で急激に失なわれ、ビッグネームのエトロもかつてのグッチ同様ファッションコングロマリットに入る道を選んだ。傘下に入るか独立系に留まるか廃業するか…更なる淘汰と業界再編が進むとの予想がある中、今から20年後に「今も逸品が買える名店」はいったいどれだけあるのだろうか…。


By Jun@Room Style Store