ローファー三昧の日々 | Room Style Store

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2022/03/26 06:35


番号を振ったローファーサークル。全部で10足もあるが、そのうち1〜5までは前回のブログ「靴の素材(爬虫類•下巻)」で紹介したレプタイルのものだ。確かその時に「もうブーツ以外紐靴は頼まない」と書いたとおり、6〜10足目まで連続してローファーを注文し続けたのがよく分かると思う。

内羽根の紐靴はテイラードもの(スーツやジャケット)と合わせてこそ本領を発揮する。シェイプもデザインも美しいがカジュアルスタイルに合わせるのは難易度が高い。その点ローファーならビジネススーツを除けばジャケパンスタイルからデニムまでなんでもござれ…真冬以外は一年中履ける。

そこで今回はレプタイルでのオーダーを終え、さらにローファー道を極めていった10年前のことを記録しておこうと思う。

【6足目:レプタイルを終えて】
(1) 2013年3月のオーダー
前回のブログでも書いたが「ローファー用のラストも整った。よしこれからつま先はラウンドで…」と予定を立てたはずが、6足目はなんとスクェアに逆戻りしてしまった。まあサンプルがあのお洒落男爵ド・レデのコレクションだから仕方ない。スクェア以外ありえないデザインだった。

(2) 紐靴用の木型か…
左から新たに削ったローファーラストで作った最後のレプタイル(2012年作:5足目)、6足目、次作(2014年作:7足目)。5足目と7足目はキュッと締まった新感覚のフィット感だが6足目は紐靴でお馴染み旧感覚のフィット。多分いきなりスクェアに戻したので新ラストを使用せず、最初に削った旧ラストを用いたのではと想像している。

【参考資料】
初期のローファーと比べる
ならばと旧ラストで作った初期のローファーと比べてみた。左が6足目で右は3足目(2010年作)…3年前の靴と外観や各部の寸法、それにフィット感も変わらず。素材の違いはあるがどちらも旧ラストを用いたと考えられる。ロンドン行きが叶ったらロブに移籍した当時の担当ティームに聞いてみたい。

(3) ピッグスキンを注文する
素材は毛穴の跡が独特の雰囲気を醸し出すピッグスキン。「アメ豚」と呼ばれるキャメル(アメ色)に鞣された豚革は牛革のトップ「カーフスキン」よりも高級だそうだ。いつものようにコバのステッチ(出し縫い)は遠目からも分かる生成りを指定。何しろハンドステッチ好き、つい手縫いを目立たせくなる。

(4) 独特のデザイン
サドルの根元から踵に向けて細革が伸びるデザイン。サンダルの踵に伸びるストラップをイメージさせる。もっともアッパーに縫い付けてしまうとデザイン的な要素の方が多いだろうが。寧ろ大きく広がるタンが目を引く。それでいてバランスを崩さすソフトに甲を押さえて踵の抜けを防ぐ。よく考えられたデザインだ。
Pants : GTA
Socks : Brooks Brothers

【7足目:ラウンド回帰】
(5) 2014年5月のオーダー
いよいいスクエアトゥに別れを告げ本気でラウンドトゥモードに突入。ローファーオーダー通算7足目は革見本のナチュラルコードバンでアメリカンなタッセルローファーを注文。誰も見たことのないコードバン靴を期待していたが、出来上がりはナチュラルより一段濃い目のウイスキーで仕上がってきた。

(6) ローファー専用の木型に戻る
よく見ると新ラストの5足目(左)より7足目(右)の方がつま先が細くて全長も長い。多分「スマートラウンドで」と依頼したと思う。つま先のシェイプは客が特に気にする部分、スクェアトゥを注文して次にラウンド、再びスクェアに戻す場合「最初と同じスクェアトゥに戻せるのか?」と聞いたら答えは「イエス」だった。

(7) 弁護士の靴
タッセルローファーの元祖はオールデン。1957年にブルックスブラザーズが踵に装飾ステッチ(フォクシング)の入ったタッセルローファーを自社ネームで販売、アイビーリーガー御用達のドレス靴として引っ張りだこだったという。ロイヤーになった卒業生が好んで履いていたことから「弁護士の靴」と呼ばれるらしい。

(8) 土踏まずのくびれ
ビスポーク、中でもローファーを頼む時悩むのがアーチ(土踏まず)部分の仕上げ。写真のように土踏まずが持ち上がったベヴェルドウェストにするかストレートなスクェアウェストか…写真のクレバリーや本家ジョンロブはベヴェルドウェスト推しだがフォスターはストレートなスクェアウェスト…意見の分かれるところだ。

【参考資料】
オールデンとの比較
ブルックスブラザーズ(byオールデン)のタッセルローファーと比べてみる。サイズ感はほぼ同じだがクレバリーの方がタンが大きくて長い(青矢印)。ブルックスは足を地面につけたまま膝を曲げて踵を上げると抜けてしまうが踵の緩い(緑矢印)クレバリーは大きなタンのお陰か踵が抜けずに付いてくる。

【8足目:スペクテイター】
(9) 2014年6月のオーダー
7足目と8足目は同じ2014年3月にオーダーを入れたものの順番はひと月違いでこちらが8足目になった。スペクテイターは「観客」を意味する単語、競馬観戦に集う洒落者たちがこぞって履いたコンビ靴をいつしか「スペクテイターシューズ」と呼ぶようになったらしい。クレバリー最後の短靴がこのローファーだった。

(10) 連続オーダー
連続して作っただけあってデザインは違うが寸法は全く同じ。底付けの仕上げも同じ職人が担当したと思われる2足。ラストは一組、当然1足ずつ作るだろうと「急がなくていい」とトランクショウで伝えたのに結果は驚きの展開…何と仮縫いも納品もいっぺんに2足というラッシュデリバリーになってしまった。

【参考資料】
ヒールの仕様
サプライズ仕様のフォクシングはティームのアイデァ。レイクと呼ばれる手法で掬いモカを踵両サイドに施し、出来た畝の頂上に切り込みを入れてエッジの効いた山に仕上げたもの。このフォクシングはティームの好きな意匠のようでジョンロブ移籍後に注文したタッセルローファーにも入れている。つま先のスキンステッチや手縫いエプロンは靴好きの間ではエドワードグリーンのドーバーでお馴染みの仕様。

(11) サマーシューズ
真冬以外いつでも履けるのがローファーとはいえ茶白のコンビ靴は本来はサマーシューズ。亜熱帯の日本といえども春~夏、せめて9月いっぱいが旬だろうか。それもレプタイルと同じ太陽の日差しが降り注ぐ昼間に履くのが相応しい。「パナマハットとコンビ」をイメージしておくと良さそうだ。

(12) ソックスの色
夏の靴ホワイトバックスに合わせるならソックスはイエローというのが定番らしい。では茶白のスペクテイターは?…と聞かれたら答えは白以外の淡い色になりそうだ。写真では分かりにくいがソックスは淡いピンク。赤のチェックパンツからピンクを経て白い靴先へとグラデーションを意識してみた。

【9足目:フォスターのカジュアル】
(13) 2015年5月
クレバリーでは計8足のローファーをオーダーしたが、フォスターでも1足だけオーダーを入れている。サンプルから選んだのはフルサドルタイプ。軽い仕上がりのクレバリーに対してフォスターは堅牢な仕上がりが特徴。出来上がったローファーもそのままエプロンダービーとして通用しそうな顔つきだった。

(14) クレバリーとの比較
同じフルサドルローファーでの比較。全長やシェイプは変わらないがフォスターの方がタンの付け根が下がっている。その分タンが短いので両者のタン先端まではあまり変わらない(2本の青矢印を比較)が、サドルがタンを覆う面積(緑色)が違う。ここが多めのフォスターはタンの反りが抑えられるので窮屈な感じがする。

【参考資料】
特別な仕様
内側にずらした踵の縫い目。糸が見えないスキンステッチ仕様だ。自分では見えないがバックシャン(後姿が美しいの意)な靴が好みの自分に相応しい仕上がりだ。エプロンの縫い目(ライトアングルモカ)もエドワードグリーンのドーバーとは反対に外側から掬う「リバース」仕様と注文主だけが分かる小技が効いている。

(15) ロングノーズ
履いてみた図。タンは小さ目だがサドルが後ろに大きく湾曲しているのとサドル自体がタンに覆い被さっているのでかなりロングノーズに見える。「ヴァンプが短いほどカジュアル」という定義からするとドレッシーなローファーということになる。ローファーに対してフォスター独特の哲学があるようだ。

(16) 小さな履き口
フォスターのハウススタイルについてかつて松田さんは「テリーの考えるローファーのフィッティングはヴァンプを長くして履き口を小さくする」と言っていた。足を包む感覚は紐靴やサイドエラスティックに近く、ローファーらしい「さっと脱ぎ履き出来る」気軽さの代わりにThe靴といった重厚さがある。
Pants : Berwich
Socks : Brooks Brothers

【10足目: 日本の靴職人】
(17) 2019年8月のオーダー
世界が震撼した新型コロナ拡散の前年にローマを訪問。現地で活躍する日本の靴職人吉本晴一氏に会ってローマで靴を注文した。「ハウススタイルを模索している」と言っていたがアングロイタリアンなサンプル靴には既に独自の世界観があり、イタリア人に鍛えられたセンス溢れるローファーを自分もお願いした。

(18) アンラインド仕様
アンラインド仕様のハッチグレインと柔らかなスエードのコンビは「モカの縫い合わせに苦労した」そうだが、お陰で甲高の自分にはソフトなヴァンプが心地よい。履き込んだ皺の残るスェード部分と殆ど皺のないハッチグレイン。コンビ靴を作るなら革の組み合わせも考慮すべきだと知った。

【参考資料】
サドルとタンの長さ
ヴァンプの長さやつま先のラウンド具合、タンの長さにサドルの位置など細かな変更が効くのもモックアップによる仮縫いならでは。上は左右で5㎜サドルの位置をずらした写真。何枚か写真を介してSNSでデザイン決めを行い完成させた。これがペルティコーネの強み、クレバリーやジョンロブだとこうはいかない。

(19) 出来栄え
薄茶と濃茶のコンビに生成りのモカステッチとコバの出し縫い…履き口の長さもつま先のラウンド具合もサドルの位置も全てが期待した通りの仕上がりになっている。細かなところまで自分の意見が反映できるペルティコーネなら一足目からローファーを誂えてもきっと満足いくものができるはず。

(20) フィット感

アンラインド仕様だがアーチ部分やつま先、踵など要所要所に芯が入っているので見た目はライニングありと変わらない。外側のくるぶしが低いことも予め伝えていたので靴のサイドウォールをかなり低くしてくれている。人の足は千差万別、これから多くの注文を受ける中でハウススタイルも更に高みに向かうに違いない。

【11足目:ロンドン行きを待つ】
(21) 2020年8月注文
ローマで吉本さんに注文後ロンドンでジョンロブのティームに再会。二人はクレバリー繋がりで「ハッチグレインとスエードのコンビ靴を注文した」と話したらティームは「チャレンジング」と言っていた。難解だけどやり甲斐があるというニュアンスか…。翌年コロナ禍でジョンロブ応援オーダーを入れて完成したのが写真の黒タッセル。まだ取りに行けず…。

今まで誂えた靴の内訳を見ると全62足のうち27足が内羽根の靴だった。続いて外羽根が12足でローファーが11足、更にエラスティックが8足でブーツが4足と内羽根靴の多さが際立つ。インスタグラムの#ビスポーク靴で検索しても内羽根靴が多いところを見ると、最初は皆美しい内羽根靴に心惹かれるのだろう。

だが英国老舗靴のエドワードグリーンでは少し前にWorking from homeと題して次のように提案している。
“Now’s the time to wear something looser, more comfortable.” 「今はゆったりとして快適な靴を履く時代です…」
さらにUnlined Summer Shoesとして定番のローファーを中心にアンラインド仕立ての快適な靴を何型もプッシュしている。

ウィズコロナの中いち早く時代に合った靴を提供しようと動き出した既成靴メーカー…ビスポークの世界も吉本さんのようにアンラインドで快適なローファーを作る職人が増えてくることを期待したい

By Jun@Room Style Store