ブーツを再び注文する | Room Style Store

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2022/04/23 21:34


前回のブログで紹介したフォスター&サンのブーツで「長靴はあがり…」と思っていたところ、仮縫いに出向いたハンツマンの受注会で「注文したツィードスーツの共生地でブーツを作ったら?」という話が出てきた。「それは面白い」と早速クレバリーのティーム(現在はジョンロブに在籍)に相談。ツィード生地とレザーのコンビでブーツを作る話がとんとん拍子で決まった。

その後クレバリー受注会でティームと再会。見本の写真と底付け用の靴を持参して打ち合わせ開始。イメージを掴んだティームはサンプル写真に「切り返しをこうしては…」とアイデアを出してくる。生地は決まっているので革はコードバンを候補にロンドンに戻ったら写真を送ってもらい決定することにした。過去にブーツを注文しているので採寸はなかったと記憶している。

そこで今回はまさかの続編、ツィード生地とレザーのコンビブーツオーダー記をまとめてみたい。

【参考資料①】
持参したサンプル写真はPeal&Co。ブルックスブラザーズがクロケットに作らせたものだ。ツィード生地とレザーのコンビならデザインはカントリータイプ、写真のように外鳩目で外羽根で決まりだろう。流石はブルックスとロケット、外羽根でグレインレザーしかもダブルソールのごついブーツをそつなくまとめている。

【参考資料②】
こちらがクレバリーでオーダーした1足目の内羽根式ブーツ。切り返しが直線ならバルモラルブーツと呼ぶのだろうがウィング状なので派生モデルといった感じか。カーフとピッグスキンのコンビでゴイサー仕様と結構カントリー寄りに振ったつもりだがいざ履いてみるとやはり内羽根式はドレッシーに見えてしまう。

【ブーツ製作過程】
(1) パターンづくり
左手の先に見えるサンプル写真に目を向けて欲しい。受注会で「ツィード生地がよく見えるように…」と書き込んだラインが残っている。この時なぜかティームの元気がないように感じたが、既に「クレバリーを離れることが決まっていた」と後から知った。写真はラストにラフな型紙を当ててパターンを決めているところか…。

(2) 完成したパターン
パターンの完成。これをもとに革は生地をカットしていく。ツィード部分のパターンにはTweedと書かれている。右上に見えるラストは短靴のラストに簡易シャフトを足してブーツ用に改造したもの。踵からふくらはぎ部分まで革で作ったシャフトが貼り付けられている。シューメーカーの作るブーツ作りのプロセスを見た気がした。

(3)ファブリックの裏打ち
ファブリックとライニングの貼り合わせ。アイロンを当てて皺を伸ばしながら圧着しているように見える。スチームでくっつくワッペンを思い出した。因みにツィード生地はスコットランドの名門Poter&Hardingのもの。格子のラインは青系3色と茶系3色と一見地味なようで洒落た配色。ハンツマンオリジナルに近い生地だ。

(4) カッティング
ライニングを貼り合わせたあと余分をハサミでカット。昔はファブリックとレザーのコンビシューズを見ると「オールレザーの靴と同じ値段かぁ…」と思っていたがいざオーダーすると奥が深い。いつか機会があれば春夏物のローファーをマドラスチェックと革のコンビで作ってみようか…なんて思ったりもする。

(5) 謎のパーツ
いよいよレザーの裁断。選んだのはコニャックコードバンだが写真よりも実際はもっと明るい。勿論シカゴの名タンナー、ホーウィン社製のものだ。既にカットされた部分はキャップ(つま先)部分だろうか。それよりカブトガニ(またはエイ?)の形をした一番大きなパーツが気になる。これは一体何処の部分に来るのか…お分かりだろうか。


【参考資料】
~ファブリックとレザーの相性~
こちらはトランクショウから戻ったティームから届いたメールに添付されたファブリックとレザーの写真。予めハンツマンのロバートにファブリックをクレバリーに届けるよう依頼。ティームが届いたツィード生地とレザー重ねて写真に撮って送ってくれたものだ。上がコニャックコードバンで下がハッチグレイン。

(6) 謎のパーツの正体
さて、(5)でカブトガニのように見えた部分の正体だが、正解は上の写真で分かるように甲からタン上部にかけてのレザーパーツだった。ブーツの紐を結んで羽根と羽根の間から見える部分のみコードバンを配している。タンを全てコードバンにすればとも思うが、パーツ取りの関係で革を有効に使おうとしたのだろう。

(7) クリッキング(その1)
カブトガニ部分をクリッキングしているところ最中。室内はロイヤルアーケードにあるクレバリー店舗の上階にあるワークスペースだろう。店舗は狭くて客が2人入れば満杯という感じだが、地下もあるし上はラストを保管してある最上階からワークスペースまで地上3階はあったと思う。クリッキングもティームが行っているようだ。

(8) クリッキング(その2) 
2階は光が十分入る快適な作業場。エプロンから覗くメジャーは靴職人用のものだろうか…LASTSの文字や木型のイラストが洒落ている。よく見るとエプロンには名札が付いていてLEPPANEN(ティームの名字:レッパネン)と彫られている。カットしている革はオールデンで見慣れたコードバンよりもっと肉厚な感じだ。


(9) ホーウィンスタンプ
ホーウィン社から買い付けた?シェル。このブーツをオーダーしたのが2016年。既にグラスゴーは引退して息子のジュニアがティームと一緒に来日していた。ジュニアはフットワークが軽くてコードバンの需要ありと見込むとシカゴのホーウィン本社まで行って珍しいコードバンを買い付け盛んにセールスをしてたことを思い出す。


(10) 全て揃ったパーツ
ファブリックとコードバン、パーツが一通り揃った状態。下に見えるのはライニングだろうか。この後契約したアウトワーカー(クローザー)に送られてアッパーになり、さらにボトムメーカー(底付職人)に引き継がれる。底付けが終わると晴れてブーツとなってクレバリーに戻り、チェックとポリッシュを経て出荷だ。

(11) アウトワーカーに送られるパーツ一式
いよいよティームの手を離れてアウトワーカーの元へ…パーツ一式をライニングで包み仕様書を付けた状態だ。さていったい送り先はどこだろうか?…ロンドン近郊の腕が経つアウトワーカーだろうか、それともローマの吉本さん(ペルティコーネ主宰者)のように欧州各地にいる底付職人だろうか?。 


【アウトワーカーの仕事】
(12) クロージング(その1)
腕ミシンを使って外羽根部分と甲部分を縫い合わせている様子。写真のプロパティを見ると撮影場所はSoltという名の街らしい。近くをシュヴァルツヴァルド(黒い森)を水源とした欧州第2の河川、ドナウ川が流れている。ドイツかと思いきや場所はブタペストの南、なんとハンガリーのアウトワーカーだった。


(13) 完成したアッパー
完成したアッパー。ブルックスブラザーズのサンプル写真ではストレートチップだったが親子穴を入れてカントリーブーツ風に仕立てている。ハンガリーといえば「Handmade Shoes for Men」を監修したVASSの故郷、同じ東欧はルーマニアのサンクリスピンを見本に持参したのでティームがハンガリーのアウトワーカーに頼んだのだろうか…。

(14) ラストの改良
こちらはブーツ用にラストを修正しているところ。勿論削っているのはティーム。大きな窓のあるクリッキングスペースと違って小ぶりな窓の部屋は恐らくクレバリーの3階だろう。それにしてもなんと手入れの行き届いたワークスペースか。大胆に木型を削るのはなんだか気が引けてしまいそうになる。

【ハンガリーにて】
(15) ボトムメイキング
送られてきた写真のデーターを読み取るとクローザーもボトムメーカーも同じ地点Soltが記録されている。多分クロージングもボトムメイキングもこなす職人なのだろう。写真はインソールにする革の上にラストを置いているところ。溝を掘ってリブをおこすのに十分な厚さがある革ということになる。


(16) インソールを作る(その1)
革の上に置いたラストを線でなぞり、それよりも大きめに厚革をナイフでカットしているところ。よく見るとラストをトレースした線が革の上にうっすらと描かれている。それにしてもこれだけ小さなナイフでなんでも切っていくのは流石だ。しかも刃先が自分の方を向いている…見ていたらこちらが緊張してしまいそうだ。


(17) インソールを作る(その2)
ラフにカットしたインソールを木型に打ち付けているところ。いよいよボトムメイキングのスタートだ。ブーツ用に伸ばした木型のシャフトが足に刺さっているようで痛くないのだろうかと心配してしまう。インソールに使う革を調べてみたところショルダーと呼ばれる部位だそうで厚さは4㎜以上はあるらしい。


(18) インソールを作る(その3)
打ち付けたインソールの端をラストに沿ってフィットさせているところ。横から見るとインソールの厚みがさらに良く分かる。4㎜を超えそうな勢いだ。このインソールの出来で靴のシェイプや性格が微妙に変わるらしい。ラストの方はあちこちに革が当てられていてブーツ用にラストをかなり整形した様子が窺える。


(19) インソールを作る(その4)
ラストに沿ったインソールの整形が終わりペンでリブを興す位置を描いているところ。アッパーとインソールを繋ぐリブをどのように設計するかで靴のあがりは大きく違うらしい。リブの幅や深さなどは履き心地に関わるそうだ。インソールの加工に時間と手間がかかるといわれるのもなるほどと頷ける。


(20) インソールを作る(その5)
インソールに描いた線に沿ってナイフを入れ溝を掘ってリブおこしをする作業の開始。アーチ部分はつま先に比べてリブ幅が広いように見える。つま先部分は細いし踵部分は少し広いような…完成した靴では隠れて見えない部分に手間と労力がかかっていることを知ると手縫い靴に対する愛着も一層増すというものだ。

(21) インソールを作る(その6)
切れ目を入れたリブ端のラインに沿ってインソールを削っていく。使っているのはインソールにリブを作るための道具で「チャンネルナイフ」と呼ばれるものだそうだ。刃の片側にガイドが付いていてリブの内端に当てて革を掘っていくと綺麗に仕上がるらしい。こうした道具の手入れを欠かさないのが職人の心得とのこと。


(22) インソールを作る(その7)
リブ作りがだいぶ進みいよいよ踵部分に到達したところ。刃の部分とガイドの段差分がリブの高さになる。手縫いの靴作りには専用の道具が色々あるようで工具好きには興味津々だろう。ミスの許されない作業の連続だと思うが職人によって環境は様々、静寂を好む人からBGMをかける人まで様々なようだ。

(23) インソールを作る(その8)
片足分のリブおこしが終わったところ。靴好きならば見たことがある写真だが通常とは大きな違いがある。それはリブがインソールの端に寄っているところ。ウェルトを置くスペースがないのだ。そうこのブーツはノルヴェ製法、つまりウェルトなしでアッパーとインソールを直接縫い合わせるやり方になる。

(24) インソールとアッパーの結合
インソールとアッパーを縫い合わせる作業は撮影するのを忘れたようで残念ながら作業終了後に写した写真が1枚のみ。インソールとアッパーを縫い合わせた第一ステッチが見えている。この後中間底を縫い付ける第二ステッチがその横に、本底を縫い付ける第三ステッチがその横に並んでトリプルステッチの完成になる。

【完成したブーツ】
(25) 磨きをかける
オールデンのコードバンブーツと違って革の表面は小傷やざらつきがある。却ってラギットなブーツの雰囲気が出ているようで気に入った。つま先部分はワックスで鏡面磨きにチャレンジしてみたがそれなりに光っている。コバを走るトリプルステッチはハインリッヒディンケラッカーにも似たブタペストスタイル。

(26) ハーフミドルソール
ソールはウェスト部分はシングルでつま先に向かうに連れてダブルソールになっている。ハーフミドル或いはハーフミッドソールと呼ばれるものだ。因みに靴の内側にあるはずのオーダー年月やシリアルナンバーが書かれた小窓はなく踵のラバーチップいつもと雰囲気が違う。メイドインUKというよりメイドインハンガリーに近い感じだ。

(27) ハンツマンスーツと合わせて(その1)
本来の合わせるべきスーツと一緒に撮影。ジョージクレバリーのブーツと言っても信じて貰えないほどの無骨さが良い。エレガントな靴作りが得意であろうクレバリーになぜ?とも思うが、足に問題を抱える人や無骨な外羽根靴が靴が好きな人など顧客の要望に応えられる靴屋こそ名店にふさわしい。

(28) ハンツマンスーツと合わせて(その2)
歩いている時はなかなか見えないがこうして足を延ばした時にチラリと見えるブーツのファブリック部分。自分だけが知る密かな喜びだ。残念ながら暖冬の東京では何回も履く機会に恵まれなかったが、いつか厳冬期のヨーロッパ旅行に行くときはブーツとスーツをセットで身に着けていこうと思っている。


(29) ワークパンツと合わせてみる(その1)
ツィードスーツと共布のブーツとはいえオーダー時は単体でも履けるようデザインや底付など色々と凝ってみた。ということでワークパンツとの相性を検証…オリーブグリーン系のウール/コットンツイルのカーゴパンツはRRL。股上付近から膝下部分まで裏地が貼られたダブルニーのコテコテ仕様だが意外と好相性。

(30) ワークパンツと合わせてみる(その2)
ワークパンツの裾から微かにのぞくブーツのツィード生地。L30のパンツだと足が短いので裾が余り気味か…もう少しパンツの裾を短くするか折り返すと良いかもしれない。つま先と合わせて踵部分もワックスで鏡面磨きにしてみたが手が触れるせいで早々と効果がなくなってしまった。

(31) デニムと合わせてみる(その1)
今度はデニムの裾をまくってブーツのツィード生地が見えるよう履いてみた。履き古したようなビンテージ加工のジーンズはこちらもRRL。アタリが出て擦り切れた裾とブーツも中々相性がいい。親子穴を入れたつま先と金属製の外鳩目が良い雰囲気だが、ここはティームと相談した時特にこだわった部分だ。

(32) デニムと合わせてみる(その2)
ツィードスーツからワークパンツ、デニムまで使い道の多い出来栄えに大満足だが一つだけ難点がある。それは3ピース構造のツリー、中でもつま先部分が中々外れないことだ。ぴったりで持ち手もないので穴に指をかけて前後左右に揺らして外す必要がある。履く時は事前にツリーを外さないと悲惨な目に合うこと間違いなしだ。

注文服の華トップコートも注文靴の最終形ブーツも身に着ける期間は限られている。しかもこのところ暖冬傾向ということもあって冬でもジャケット+マフラー、足元は厚手のソックス+短靴で事足りてしまう。わざわざロングコートやブーツを注文する必要なんてないだろうと問われれば確かにそうかもしれない。

だがこうして丹念に作られた手縫いのブーツを履く度にオーダー時のやり取りやイギリスを離れ遠くハンガリーまで運ばれて縫い合わされ底付されたこと、ハンツマンのスタッフを含め携わった人達の思いを強く感じる。履き心地もさることながら実は作り手が見えるモノづくりに心惹かれているのかもしれない。

短靴以上にプロセスの多いブーツのオーダー…いつかまた注文する日が来るに違いない。

By Jun@RoomStyleStore