Made in USA(上着編) | Room Style Store

Blog

2022/05/17 13:09


アメリカ最古の衣料品店ブルックスブラザーズが経営破綻に伴い閉鎖したMade in USAものの3拠点即ちネクタイ(ニューヨーク:NYの工房)、シャツ(ノースキャロライナ:NCのガーランド)、重衣料(マサチューセッツ:MAのサウスウィック)のその後について日本では報道されることはないがアメリカのサイトを検索してみると悲喜交々のようだ。

NCのガーランドシャツカンパニーは再建、本国ではブルックスのシャツも一部請け負うとか…一方テイラードものを請け負っていたMAのサウスウィックは閉業、ファクトリー内のJukiミシンは地元Haverhillの職業訓練センターに寄贈されたらしい。NYのネクタイ工房は詳細不明だが日本では今後イタリー製と日本製のネクタイになるとのこと。

今回のコロナ禍でアメリカ製のテイラードものを作る工場がまた一つ減り、アメトラ好きととしては行く末が気にかかる。そこで今回はRoom Style Storeに残るMade in USAのジャケットを紹介しつつアメリカ製の現状を探ってみたい。

【Pendleton】
1863年創業のテキスタイルメーカー"ペンドルトン"といえばネイティブ柄のブランケットやファブリックで有名だが地厚なウールのBDシャツでもお馴染みだ。70~80年代は本格的なツィードのジャケットも扱っていたが現在はカジュアル中心。残念ながらジャケットの取扱はなく、下は希少な80年代のアメリカ製ツィードジャケットということになる。

参考資料①

ヴィンテージ物を扱うサイトを見ると70年代~80年代製造のアメリカ製ペンドルトンのジャケットが見つかる。それなりの古着感だがこちらは使用感の殆どないニアミントコンディション。肩線より角度の付いたハの字型のゴージラインは如何にも80年代風。パッチ&フラップポケットに包みボタンとアメトラファンには嬉しいディテールも満載。

参考資料②

今時の既製ジャケットではなかなか見かけない仕様。背バンドやアクションプリーツを入れるとなると工程の多さはそのままコスト高に跳ね返るからだ。この手のジャケットが欲しいと思ったらビスポークする方が早い。尤もサイズが合えばオーダーせずともこのペンドルトンジャケットは良き伴侶になるに違いない。

(1) ペンドルトンのタグ
ペンドルトンといえばオレゴン州ポートランドで生地メーカーとしてスタートしただけに今でもオンラインショップではネィテイブラグやファブリックが販売されている。写真の青タグ右下に40とあるのがジャケットのサイズ。Woolen Mill(毛織工場)に相応しい暖かみのあるジャケットはツィードも自社製なのだろう…。


(2) Made in USAのタグ
ジャケットの首後ろに付くMADE IN USAのタグ。手前のシャツもアメリカ製の昔懐かしギットマンBDシャツ。ネットで調べたら"During the Covid-19 pandemic, three the largest Made in USA shirt factories closed : Brooks Brothers in NC, Gitman in PA  & Skip Gambert in NJ."とある。どうやら今回のコロナ過でギットマンも工場を閉鎖したようだ。

(3) Vゾーン
ネクタイは90年代初期のラルフローレン。ポロ競技のシーンが描かれたこのタイ、どうもプリント生地自体はイタリアのアルテアらしく昔は数シーズン後に同じ柄のネクタイがアルテアタグで売らていたこともある。よく見るとクレストの中にRLの文字が入ってたりして驚いたものだ。そういえば最近はアルテアのネクタイを見かけない…。

(4) アクションプリーツ
腕を前に動かした図。実際ハンティングでは猟犬のリードを締めたり銃を構えたりと腕を前に出すことが多い。アクションプリーツがあるおかげで一連の動作をストレスなく行えるのは心強いに違いない。そういえばL.L.Beanのハンティングコートにも大ぶりなアクションプリーツが付いている。「機能がデザインを決める」という典型か…。

(5) 試着
サイズは40R、日頃38Rの自分には2サイズ大きいはずだが作りは小さく39Rに近いサイズ感か…。前身頃にダーツを取った英国調スタイルなれどラペルや箱ポケット周囲は英国風に言えば"Swelled" edge、日本ではウェルトシームというVAN世代には親しみのあるデザイン。それにしても40年近く経ったとは思えないコンディションの良さだ。

(6)  足元
ツィードジャケットにチャッカブーツ…昔ハケット銀座(があった頃)のT店長お得意の組み合わせだ。当時は異例のテーパードパンツにセンターベントのハッキングジャケット、タッターソールのシャツに小紋タイというスタイルはブリトラの魅力を教えてくれたベストコーデ。そのT店長に敬意をこめて当時を再現してみた。

【参考資料】
①ブーツ&ソックス
英国スェードの定番タバコブラウンと思いきやSnuff(嗅ぎタバコ)という微妙に明るい茶だとか。靴に合わせて英国製パンセレラソックスを用意。セットで履けば気分も上がる。T店長のいたハケットにラルフやポールスチュアート、ブルックスなどなど…今のように丸の内がお洒落な買い物エリアになる前は銀座が大人の買い物の街だった。

②チャッカ
以前英国靴の特集で「お代わりしたくなる名靴」として紹介したクロケットジョーンズのCHUKKA。グリーンスェードに加えて定番色の茶色もしばらく前に確保…。同じ型の靴を3足も?と我ながら思うが、クロケットの中では唯一細身のDウィズに加えてアンラインドの履き心地は最上級、写真(6)のように見栄えもすこぶるいい。

【90年代Polo Ralph Lauren】
こちらは94年製のポロラルフローレンのシルクジャケット。アイボリーのジャケットといえば思い出すのがロバートレッドフォード主演のグレートギャツビー。映画の衣装を担当したラルフローレンは長年アイボリーのジャケットを作り続けているが、今期もパープルレーベルからスーツジャケットとしてラインナップされている。

①シルクヘリンボーンのジャケット
90年代前半に流行ったVゾーンの狭い3つボタンスタイル。ポロには珍しいタイプだがゴージの下がり具合や段返りではない3ツボタンのデザイン当時の主流イタリアのデザイナーズものの影響を受けているようだ。素材はシルク100%、コットンの1.5倍の吸湿性・放湿性・速乾性があり一年中着られる優れものだ。

②ノーベントスタイル
ノーベントのバックスタイルもラルフローレンには珍しいもの。当時のアルマーニやフェレなどどれもノーベント…実はポケットに手を入れる時サイドベンツがあると便利なのだが…。既に30年近く経ちビンテージ衣料の仲間入りしそうな年代物だが小まめにクリーニングに出していたのだろうか、まだまだアイボリーの色目を楽しめる。

(7) 生地感
通常はウール/シルク/コットンのような三者混が多いジャケット用の生地だがこちらはシルク100%。5plyはあろうかという太めの糸で織りあげたヘリンボーン柄のシルクツィードは結構珍しいと思う。シャツはシングルのラウンドカフなれどボタンなし…マドラスチェックの洒落たカフリンクスで留めてみた。

(8) ギャツビーコレクション
シャツは2013年、レオナルドディカプリオ主演の「華麗なるギャツビー」のコスチュームを担当したブルックスブラザーズからリリースされたギャツビーコレクションから。クレリックタイプのラウンドカラーに前ボタン6つでテニスカフというクラシックなもの。テーラードものやシャツ、タイ、シューズまで揃っていた。

【参考資料】
ギャツビーコレクションより
こちらはギャツビーコレクションのシューズ。ピールネームのコンビローファーといえば愛犬を連れたウィンザー公が飛行機を降りた写真が思い浮かぶ。製造はピールの靴を手掛けるノーザンプトンの別注王クロケット&ジョーンズ。アンラインド仕様も手慣れたものだ。アメリカ直輸入のためDウィズと細身なのが嬉しい。

(9) サドルシューズ
アイボリーのシルクジャケットというとかなりお洒落なイメージがある。どうも堅苦しいなと思ったらデニムで一気にドレスダウンする手もある。シャツはギャツビーのお洒落路線でもでも足元はコンビローファーよりカジュアルなコンビサドルを履く。華美が苦手なIVY世代はデニムが強い味方だ。

(10) 試着
こちらもサイズは40Rと大きめだが見た目は39Rくらいの感じか。今風にゆったり着るのも悪くない。近頃のヒップが見えるショート丈のジャケットに比べると身頃の長さが気になるが、既にニアビンテージな30年前のジャケット、古着を着ていると思えば流行を気にせず着こなしを楽しめる。


(11) ウォークオーバー
デニムに合わせる内羽根靴といえばサドルオックスフォード一択と言いきれるほどの相性のよさ!!懐かしの映画「アメリカングラフィティ」を思い出させる。過去ログ「復刻版」でも紹介した90年代の名靴ウォークオーバーのサドルシューズは真のお買い得。値段の高い靴=いい靴…ではないことを教えてくれる名品だ。

【90年代Polo Ralph Lauren】
こちらは95年製造のポロラルフローレンから。ポロの定番デザイン、2つボタンにサイドベンツの「モーガン」スタイルにチェンジポケットを加えた英国風の1着。生地も英国調なれどアメリカントラッドのアイコンナチュラルショルダーはラルフならでは。長く着られる飽きの来ないデザインが特徴。

① ブリティッシュアメリカン
チェンジポケット付きのジャケットということで英国調の小物を調達。ハリスツィード使いのトートバッグやクロケットのコードバン靴、ソックスもアーガイルのロングホーズとどれもベリーブリティッシュ、一方でシャツとチーフ、ネクタなどジャケットに近いアイテムはどどれもポロレーベルで合わせてみた。

【参考資料】
①Russel plaid
ジャケットの生地はラッセルプラッドと呼ばれている柄。特にツィードが有名でかのルチアーノバルベラもカラチェニに作らせたジャケットを着ていたそうだ。最初に日本に上陸したHACKETTでも扱っていたと思う。写真はラッセルプラッドのバッグ類。ジャケットに合わせて持ちたくなる。


(12) ACTWUチケット
Leeのデニムなどについていたユニオンチケットが廃止された1976年以降アメリカ製のガーメントに付くユニオンメイドのACTWUチケット。チケットを一枚1セントでユニオン(労働者組合)から購入してそれを縫い付けることで組合員が買うという地産地消の考え方が受け継がれていたらしい。

(13) アメリカ製のジャケット
襟首のタグに控えめに刺繍されたMADE IN U.S.A.の文字。大抵後にはFROM IMPORTED FABRICと続く。生地はイタリー製(スーツやジャケット)やスコットランド製(ツィードもの)、あるいはイギリス製(キャメルヘアーなど)と様々だが、こちらのジャケットはツィードより打ち込みの軽いウールのラッセルプラッド。

(14) タイ、シャツ&チーフ
ジャケットの柄はバーガンディーやオレンジの格子が切られている。どの色を拾ってネクタイやチーフを決めるかが悩みどころ、試しにグリーンを持ってくると色が近すぎるしオレンジは派手、ワイン色が一番しっくりくる。達人なら即決だろうが迷ったら試行錯誤も一手だ。ただし時間がない時はそうもいかないが…。

(15) 試着
こちらも40Rと大きめのサイズながらウェストの絞りが強い「モーガン」パターンは着手を細く見せる。着丈は今どきのジャケットより長めだが、深く切られたサイドベンツのお陰で長さを感じさせず座った時にジャケットの裾が綺麗に収まる。写真を見ただけでは分かり辛いがジャケットの袖はかなり長い。

(16) マーロゥウィングチップ
ラルフローレンで最もロングランにして一番売れたシューズ。クロケットではペンブロークやカーディガンという名で外羽根のウィングチップを展開していたが素材をコードバンに変えたラルフの先見性は脱帽もの。傷入りのつま先や深い履き皺はコードバンならでは、残念ながらカーフでこの雰囲気は出せない。

【参考資料】
マーロゥとうり二つの"ペンブローク"シェルコードバンは現在£720。VATを引くと£600だが目下1ポンド=160円なので輸出価格が9.6万円。関税を入れると14万円近くになる。隣は英国靴と好相性のアーガイルソックス、ただしこちはロングタイプ、ロイド特注なのでサイズの合う方は在庫のあるうちが賢明か…。

【Southwick】
最後に紹介するのはサウスウィック。ブルックスブラザーズのアメリカ製ジャケットを長年請け負っていたサウスウィックは自社ブランドも展開していたがコロナ過で廃業。商標権を日本のシップスが買い取り、新たに別のファクトリーで作らせたものをサウスウィックとして販売するようだ。

①200周年記念(その1)
200周年記念の特別展示で見かけたマドラスチェックのサックジャケット。ブラックフリースレーベルの3ピース+共布ネクタイの計4ピースセットアップ。サウスウィック渾身の作だ。知り合いもこのジャケットを所有しており、もし同じジャケットを着て一緒に並んだらかなりのインパクトだっただろう…。

②200周年記念(その2)
ブルックスのアイコン、サックスタイルを継承しつつラペルや身頃端はウェルトシームではなく星コバステッチ仕上げ。着丈は短く段返りの浅いVゾーンが狭いデザインはトムブラウン流ひねりが入っている。大き目のフラップやスクエアなジャケットのフロントカットなど昔からのブルックスファンには異端に思えたことだろう。

③ アメトラ流
こちらは同じ生地を使ってSHIPSが別注したもの。パッチ&フラップポケットにウェルトシームなどアメトラを意識しつつ身頃にダーツを取ったりウェストを絞って袖ボタンを4つ付けたりと英国スタイルをミックスしている。SHIPSらしいひねりが入っているとはいえブラックフリースよりずっとオーセンティックだ。

(17) ピンホールカラー
シャツは前述したブルックスのグレートギャツビーコレクションから。ピンホールカラーなれど純正のピンではなくラルフの安全ピンタイプを流用。ラルフローレンが良くやる手だ。たかがピン一本だがディンプルが持ち上がりゴツイ安全ピンがちらりと覗くだけでVゾーンが華やかになってくる。

(18) ディテール
ジャケットの後ろはセンターフックベント。IVY好きには堪らないディテールだ。一方袖はカスタムテイラー風の本開き本切羽仕様。腕の長さに合わせて袖丈を詰めボタン穴を開けて貰っている。日頃はコーダ洋服工房が多いが、所用で丸の内の心斎橋リフォームに依頼。仕上がりは丁寧で気持ちの良い対応だった。

(19) サウスウィックのタグ
シップスが長年力を入れて来たMade in USAのブランドサウスウィックに賭ける思いが詰まったタグだ。上に見えるのは一番新しいユニオンチケット。UNITE HEREとはアメリカとカナダの労働組合連合で30万人のメンバーがいる大所帯。2004年に繊維労働組合を含む複数の組合が合併してできたのこと。

(20) ホワイトバックス
こちらは新生ウォークオーバー。ホワイトバックスのサドルタイプ。日差しの中でもホワイトカーフだと日光を反射してギラついてしまうが陽光を吸収するスェードは足元を涼し気に見せてくれる。ソックスは懐かしの旧ロゴタイプのコットンソックス。恐らくパンセレラの別注だと思われる。

(21) 着こなし(その1)
こちらはマイサイズのジャケット、袖丈も詰めているのでジャストフィットを味わえる。トムブラウン流の短い着丈とは一線を画すシップス別注。極端に走らないデザインは好感が持てる。ダーツを取った身頃はボタンを締めるとウェスト回りがキュッと締まる。袖や身頃のボタンは白蝶貝を使用、さりげなくゴージャスだ。

(22) 生成りデニムとホワイトバックス
生成りデニムは90年代のラルフローレン。白パンに白靴というと結構目立つが色付きの靴を履くと生成りデニムの裾裏がすぐに汚れてしまう。実は理に適ったコーデというわけだ。レザーソールより軽やかなブリックソールは初夏から晩秋までが旬、程度の良いウォークオーバーをもう何足か欲しいところだ。

ブルックスの路線変更とサウスウィック廃業で日本からストレスなくMade in USAのジャケットを買える店はそう多くない。一番馴染みのあるJ.Pressは送料が高いのが難点、創業5年目のRowing Blazersのテイラードものは基本どれも同じデザインなのでやや変化に乏しい。NY州はバッファローにあるO'Connellが目下注目株か。

確かO'Connellの上級スーツやジャケットはヒッキフリーマン別注。ブルックスがカジュアルにシフトした今、アメトラ本流の服をラインナップしているのはここが一番かもしれない。後は古着ということになるが目下世の中はビンテージブーム、アメリカでも程度の良いアメリカ製ジャケットは年々見つけ難くなっている。

近いうちにJ.Pressをショップ推奨のヤマト運輸USA経由ではなくアメリカの親戚経由でUSPSで送ってもらおうと画策中、詳細は後日お知らせしたい。

By Jun@Room Style Store