Hard Choice(悩ましい選択) | Room Style Store

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2022/05/30 13:33



何かを買う時最後は二者択一になって「どっちにしようか…」迷うことがある。例えば上のAlden。よく似たデザインだがどちらか一方を選ぶのは意外と難しい。そういえば昔ロンドンのシャツ屋「PINK」で悩んでいた時、店員が「Hard choice」と声をかけてくれたことを思い出した。「悩みますね~」という感じだったのだろう。

服飾関係でいえば色や柄、素材や作り、デザインやスタイル、機能や価格など候補を二つに絞るまでは良いがどちらかに決めるのが悩ましい。「色ち買い」や「大人買い」など「両方買えば?」という意見もあるが、両方手に入れても結局はどちらか一方ばかり使うこともままある。だったら最初から一つに絞る方が賢いといえよう。

ということで今回は靴を例に二者択一に悩みがちな場面を中心に賢い買い物について考えてみたい。

【エドグリ VS ロブパリ】
靴好きならば一度は二者択一の比較対象になるエドグリ(エドワードグリーン)とロブパリ(ジョンロブパリ)。これは悩みそうだ…。
(1) 靴好きを魅了するツートップ
カドガン(左)とセイムール(右)。両者ともに名作のセミブローグだが微妙に異なる。外見上の違いは①アイレットが縦一列(EG)かフレアタイプか(JL)②キャップが小ぶりか(EG)大きめか(JL)③タン上端がギンピング有りか(EG)なしか(JL)などなど…革質は購入年が異なるので単純に比較できないがレースステイ部分を見るとロブパリに分がありそうだ。

(2) つま先の違い

名ラスト旧202(右EG)とそれを超えるラストを目指した8695(左JL)。エッグトウらしい盛り上がりのエドグリ(右)に対して上部を削ってつま先を浅くした(shallow)トウの(JL)。どちらもラウンドとはいえ比べてみるとつま先の違いは思ったより大きい。ロブパリの8695は一時期廃番扱いだったが、今季オンラインショップで8695ラストの靴が1型ラインナップされているのを発見、久々の朗報か…。

(3) 履いてみる(その1)
つま先がキュッと絞られ盛り上がった団子状のエドグリに対して上から押して平たく伸びた丸餅のようなロブパリ。履いた図を見るとロブパリの方が格好いい。因みにどちらも買った時は羽根が開いていたのに履き込んでコルク層が沈んだらしっかり閉じている。グッドイヤー製法の靴ならでは。

(4) 履いてみる(その2)
1991年の購入だから31年が経過したカドガン。当時のエドワードグリーンはエルメスによる工場買収前で絶好調だった頃。コバの張りも少なく「これ機械による出し縫い?」と思わせるほど攻めている。レザーソールも植物鞣し独特の匂いがして特別感があり「既成靴のトップ」だと話していた栗野さん(UA)の言葉が実感できる。


(5) 履いてみる(その3)
こちらも古いロブパリのセイムール。ロンドンで買ったもので中敷きにParisの表記が入る旧型。最近は某老舗靴店長曰く「ペラペラ」な靴と揶揄されるロブパリだがこの頃は質実剛健、むしろエドグリよりも無骨さを感じた。今エドグリとロブパリの二者択一の場面になったら昔の靴ならロブパリ、今の靴ならエドグリになろうか。

【ダービー VS ブルッチャー】
よく似た外羽根のウィングチップも羽根の付き方でダービーとブルッチャーに分かれるそうな…さてどっちが良いかこれも悩ましい。
(6) ウイングチップ対決
ウィングチップ対決は左のラルフ別注英国製と右の米国製オールデンががっぷり四つ。どちらもホーウィン社のコードバンを使っている。往年のIVYファンにはリーガルの「おかめ靴」と近いオールデンの方が人気だがクロケ別注のウィングチップはオールデンにはないダークブラウンの色味が靴好きの心をくすぐる。

(7) デザインの違い
両者ともに(外羽根)ウィングチップとはいえ羽根の切り返しがウェルトにぶつからないブルッチャー(Blucher)とぶつかるダービー(Derby)とに分かれるようだ。因みに左は米国流に言うとロングウィングブルッチャー(LWB)だし、右は英国流に言えばフルブローグダービー(Full Brogue Derby)になる。

【参考資料】
プレーントゥ
こちらはプレーントゥでの比較。左はオールデンのプレーントウブルッチャーで右がエドグリのプレーントウダービーになる。なるほどブルッチャーはアメリカ製の靴に多いのか…と思いがちだがノーザンプトンの老舗チャーチスはブルッチャータイプの英国靴を何型も作っているからややこしい。

(8) 履いてみる(その1)
さてどちらを選ぶか?と問われたら靴のデザインよりもどんな服と合わせるかで決まりそう。サックスーツにBDシャツのアメトラ好きな人はブルッチャータイプ(左)、ドレープの効いた英国スタイル好きな人はダービータイプ(右)…どちらも着たい人は「大人買い」が許される2足だろう。

(9) 履いてみる(その2)
コットンスーツと合わせたオールデンのロングウィングブルッチャー。ぶ厚いソールにコバの張ったゴツい外見なのに見た目がすっきりしているのはなぜだろう?…多分ウィングから延びたパーフォレーション(親子穴の列)が踵まで真っ直ぐ伸びるシンプルなデザインなのが大きいと思う。

(10) 履いてみる(その3)
こちらはラルフ別注のウィングチップダービー。足を組むと見える靴の内側はかなりごちゃごちゃしている。①ウィングから続くパーフォレーション②外羽根から延びるパーフォレーション③ヒールから回り込むパーフォレーションの3つがアーチに集まり革が密に重なるデザインはかなりビジーな印象がある。

【フルブローグ VS セミブローグ】
【参考資料】
アランフラッサーの本を読んでいたら目に留まったページがこちら…。アメリカの俳優アドルフマンジューの自宅に並ぶシューキャビネットをよく見るとフルブローグやセミブローグがお気に入りだったようだ。
(11) 穴飾りのある靴
つま先のメダリオンや賑やかなパーフォレーションが靴の全面を彩るフルブローグとセミブローグ。靴好きならばどちらか1足は所有していると思う。内羽根の周囲を囲むアデレイドやヒールカウンターの有無などデザインが微妙に異なっていて、どちらも気が付くと何足も所有しがちなデザインが特徴だ。

(12) 同ラストで比較
こちらは黒カーフでビジネスど真ん中のフルブローグとセミブローグ。チャーチスの中でも傑作の呼び声高いチェットウィンド(左)とディプロマット(右)だ。既に廃番となったラスト♯73を使用、ややスクエア気味の絶妙なトウシェイプが人気の秘訣か。さて、どちらか1足選ぶとしたら大いに迷うだろう。


(13) フルブローブとセミブローグを並べる

手持ちの誂え靴の中で2大勢力となっているのがフルブローグとセミブローグ。素材や色、デザインが違えば「別の靴」とばかりに注文していたら写真のように20足(以上だが)も並ぶ結果に…。他のデザインの靴を注文すればとも思うが、フルブローグとセミブローグの魅力に抗うのは難しい。

(14) 履いてみる(その1)
ビジネス向きの柄物スーツといえばペンシルストライプ。それも間隔の狭いものが無難で使いやすい。どちらもチャーチスの名靴だけに二者択一の答えを出すのは難しい。Wのウィングが足元をさりげなく主張するフルブローグか見栄えすっきりな一文字のセミブローグか。見た目の格好良さでは引き分けか。

(15) 履いてみる(その2)
写真のスーツはシングルブレステッド。ハケットのT店長曰く「スーツがシングル(ブレステッド)ならフルブローグ、ダブルならセミブローグ」という説に従えばフルブローグがベストな組み合わせということになる。もっとも組んだ足の靴を見るとやや屈曲し辛い様子が見て取れる。

(16) 履いてみる(その3)
こちらは足を組んだ方の靴に深い皺が寄っている。靴を曲げ易い証拠だろう。となると履き心地を考ればフルブローグよりセミブローグを選ぶ方が良いという結論になる。自分もチェットウィンドを先に買ったのに後から買ったディプロマットばかり履いていたのは多分履き心地の違いなのだろう。

【スクエアVS ラウンド】
靴をオーダーする際ありがちな二者択一といえばつま先の形状「スクエアそれともラウンド」これまた大いに悩むところだ。
(17) エプロンダービー比較
靴のつま先はスクエアとラウンドの2種類しかない。昔ボノーラで靴をオーダーした時は最初ラウンドにしたが寸足らずに見えてセミスクエアに木型を修正、俄然格好良くなったことがある。その経験から言えば靴をオーダーするなら1足目は自分のイメージに近い仕上がりになるスクエアがお薦めだ。

(18) 履いてみる(その1)
どちらも違和感なくツィードパンツに溶け込んでいる。左はスクエアトウとはいえ何回か微妙に修正しているので最初の頃よりマイルドなスクエアが特徴。一方右はジョンロブの1足目、ラウンドでオーダーしたもの。綺麗なカーブを描いているつま先を変更するのは中々大変だと思う。

(19) 履いてみる(その2)
実は写真(11)のフルブローグとこの靴は同じラストで作られている。つま先の幅がだいぶ違うのは通算8足目ということで徐々に木型を修正していったからかもしれない。担当したフォスター(当時)の松田さんも「スクエアトウの方がデザインの自由度がある」といったようなことを話していた。

【参考資料】
木型の修正例
ボノーラ1足目(左)。少しぼってりしていたのでソフトスクエア(中央)に変更。出来が良かったこともあってボノーラ倒産後サンクリスピンが引き継いだ後も変更せずにいたが、一昨年コロナ過の最中にスマートラウンド(右)に変更。最初にオーダーしたラウンドより綺麗なラウンドに仕上がっている。

(20) 履いてみる(その3)
ジョンロブの1足目。担当したティーム作のラストはいじらず新たに頼んだギリーとタッセルは新しいラウンドラストで完成させたようだ。ジョンロブでスクエアを頼む客は少ないようでサンプルもラウンドばかり。スクエアの方が出来上がりをイメージしやすいとはいえハウススタイルを蔑ろにしてはいけない。

【ダービー VS バルモラル】
二者択一誂えブーツ編はダービーかバルモラルか。これも悩みが大きいが「バルモラルはドレッシー」と覚悟しておくと良さそうだ。
(21) 見栄え
ダービーブーツとバルモラルブーツ。羽根のきっちり閉じているバルモラル(右)からはドレッシーな雰囲気が漂う。一方のダービーブーツは大ぶりなラウンドトウと相まってラギットな雰囲気を醸し出している。クリースの効いたウールスラックスならバルモラルブーツだしコーデユロイパンツならダービーブーツだろう。

(22) 履く時の手間
短靴で言うならば内羽根と外羽根の比較と同じようなもの。どちらが履きやすいかといえば断然ダービーブーツに軍配が上がる。バルモラルタイプは内羽根が開きにくいので無理に足を入れようとするとシャコ止めのあたりに負担がかかる。プルタブがあるとはいえ裂けてはいけないので靴ベラを使うくらい気を遣っている。

(23) 履いてみる(その1)
ツィードパンツと合わせてみた図。左のダービーブーツはヘリンボーン柄との相性も良し、一方右のバルモラルブーツはややドレッシー過ぎるか。…実はバルモラルブーツを作ったのは良いが、どうも出番が少なくていけない。もしブーツをビスポークするならバルモラルタイプよりダービータイプをお薦めする。

(24) 履いてみる(その2)
外羽根ブーツはウールやツィード、モールスキンにコーデュロイ、チノパンやデニムなどなんにでも合う使い勝手の良さが肝。因みに英国の既成靴メーカーを調べたらグリーンとトリッカーズそれとチャーチは全てダービーブーツ、クロケットとロブパリがひと型だけバルモラルブーツを作っていた。

(25) 履いてみる(その3)
既成靴メーカーでさえ2型しかないと知った後では写真のクレバリー謹製バルモラルブーツが愛しく思える。因みに英国製の既成バルモラルブーツはクロケットのCHARTON(107,200円)とロブパリのFORDE(323,400円)。ロブパリに至っては国内のビスポークメーカーに頼むほうが妙案だと思える値付けだ。

せっかく二者択一で悩み一つに絞った買い物も何年か経って結局その時買わなかった方に手を出してしまい、「二兎を追うもの一兎も得ず」どころか二兎を得てしまうこともあった。More is better.からLess is better.へ、さらにLess is more.(少ない方が豊かである)を実践するのはあまりにもハードルが高い。

あるミニマリストのアドバイスに①買うか迷ったら一度帰る…というのがあった。なるほど二者択一が不調の時は一旦白紙に戻せば良さそうだ。靴を誂える時もスクエアにするかラウンドにするか迷ったら一旦ビスポークそのものを白紙に戻す。そうすると本当に欲しいものが見つかりそうな気もしてくる。

By Jun@Room Style Store