夏の足元アップデート:後編 | Room Style Store

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2022/06/20 15:04


今年の梅雨明けは「7月上旬~中旬」との予報。例年なら靴のカビを心配するのに今年はその兆候もなく空梅雨ぎみらしい。この週末も気温は30℃超えと夏本番さながらだった。こう暑いとサラッとした着心地のマドラスチェックが恋しくなる。なにしろ空調のない時代から「暑い夏に耐えうる通気性」の高さで群を抜いたマドラスチェック。亜熱帯と言われる日本の夏に最も相応しい生地という声も聞く。

特にコロナ過で自粛続きの2年間から気分を変えたくて今年は派手な「マドラスチェックのパンツ」に注目。日本では品数が少ないものの60年代にマドラスを大ヒットさせた本家アメリカのショップを訪問すると欲しいものが次々に見つかる。目下円安でかなり割高感があるとはいえ日本で買えないものなので致し方ない。気が付くと注文と支払いを済ませ一週間後の配達を楽しみに待つばかりとなった。

そこで今回は先週末に届いたばかりのマドラスチェックのパンツを紹介しつつ夏の足元アップデート:後編をまとめてみようと思う。

(1) 箱を開ける
オーダーしたのはNY州のバッファローにショップを構えるO'Connell's。数年前ナイアガラの滝を見にボストンから車で出かけ、バッファローで1泊したことがあった。今にして思えばその時店に立ち寄ればよかったと後悔している。UPSのデリバリーでちょうどオーダーしてから1週間で到着。日本ではヤマト運輸が配達の提携をしているようで最初からヤマトの配達員が持ってきてくれた。

【参考資料】
①ナイアガラフォールズ(カナダ滝)
バッファローではホリデーインに宿泊。日本でのイメージとは違ってモーテルのような外観のホテルだったが室内や朝食は中々のもの。ナイアガラフォールズ近くのホテルは割高、車での旅行なら少し手前のバッファローあたりまで戻って宿をとる方が正解かもしれない。写真はカナダ滝。観光客がイメージするナイアガラの滝はほぼ100%こちらの滝だろう。アメリカからカナダに入国しないと見れない。

②ナイアガラフォールズ(アメリカ滝)
カナダ滝の迫力に対して今一つなアメリカ滝。所要時間はボストン郊外からバッファローまで高速でノンストップ6時間強。途中ワイナリーのあるフィンガーレイクやロチェスターなど立ち寄りつつのんびり行くのも妙手だ。ロチェスターは高級服メーカー、ヒッキフリーマンの親会社ロチェスターテイラードクロージングの本拠地、シップスの新サウスウィックのファクトリーはここのようだ。

(2) アンパッキング
今回注文したのは70~80年代ビンテージマドラスチェックのパンツ2本と新しいパッチワークマドラスのパンツ1本の合計3本。日本ではまず見かけない配色や柄が気に入って購入。今時のパンツより深い股上も昔取った杵柄、苦にならない。一番下にある継ぎ接ぎマドラスのパンツ、昔はクレイジーマドラスと呼んでいたが今はパッチワークマドラスと言うそうだ。

(4) 並べる
いったいいつ履くのかと思うようなGTH(Go to Hell)パンツだが特に欲しかったのが一番下のパッチワークマドラス。J.PressUSAではマイサイズ完売、日本のJ.Pressは製造国不明、ビームス+をチェックすると同じパッチワーク生地だが国産で価格も33,000円と中々のもの。一方O'connell's特製パッチマドラスはアメリカ製で145㌦(19,580円)と送料込みでもなおリーズナブルだ。

(5) 夏はマドラス
マドラスチェックはインドのマドラス地方を原産とする平織の綿布。先染めの糸で織られた鮮やかな格子柄が特徴で19世紀には現地で人気を博し、1960年代にはアイビーリーグを中心とした学生たちの間で大流行、こぞってマドラスチェックを身に着けたという。吸水性や速乾性が高く、汗が目立ちにくい上に風合いや色落ち具合を味わえる夏向きの生地として日本でもファンが多い。


【パッチワークマドラス】
(6) 今風のシルエット
50年代から殆ど変わらないものを売るO'Connell'sといいつつも最新のパンツはアップデートしているようだ。股上はアメトラ王道へそ上ジャストの深さなれど裾にかけて徐々にテーパードするデザインは一緒に買ったビンテージの2本よりずっとモダンだ。前回のブログで取り上げたバリーブリッケンと同じように75.5㎝の股下で仕上げると裾幅は20㎝と思ったより細身だ。

(7) ディテール
パンツの前開きはジッパー。構造は持ち出しをパンツ内側のボタンに掛けてフロントのフックで留めるやり方。ベルトをすると見えないがパンツのフロント部分はすっきりとした印象だ。これだけカジュアルな柄パンツにまさかのサスペンダーボタン付き…ドレス仕様ということはファンシーなサスペンダーでも合わせるのだろうか。


(8) タグ
O'Connell'sのトラウザーズは前回紹介したHertlingからアメリカ国内の別会社に変更したようだ。そこでタグのRN94064を検索開始。そもそもRNとは何か?というと「Registered Identification Number」の略とのこと。工場や小売業、輸入元など会社名の代わりに付ける識別番号のようなものか…。例えばラルフはRN41381、検索サイトで番号を入力するとPolo Ralph Laurenと直ぐに出てくる。 

(9) バックスタイル
バックポケットはフラップなしの片側のみボタン留めタイプ。腰裏部分は中央のベルトループを外せば三方詰めも三方出しもできる。このあたりはパンツ専業メーカーの多いアメリカならでは。テイラードクロージングものを扱うO'Connell’sらしく客の要望に合わせてオンラインでの裾上げやウェストの直しも受けているようだ。

【参考資料】
ファクトリーを追う
さてRN94064を追ってみる。ナンバーサーチサイトからジョージア州に工場をもつChardan Ltdという会社がヒットした。フェイスブックもあるので調べてみるとユニフォームボトムスやリテールクロージング、カレッジアイテムを製造しているアパレル会社のようだ。創業は1983年と比較的新しいが、All American Khakisという自社ブランドも展開している。


(10) 履いてみる(その1)
鉄板のネイビーブレザー+白無地ポロにパッチマドラスパンツと白のサドルオックス。この格好がしたくてマドラス柄のパンツをまとめ買いしたようなものだ。イタリアのサルト仕立てや英国のサビルロウカットも良いが今の気分はIVY。馴染みの英国テイラーが来日したらナチュラルショルダーでセンターフックベントのサックスタイルブレザーを注文してしまいそうだ。

(11) 履いてみる(その2)
こちらは夏のド定番ホワイトバックス。ドレッシーな内羽根より気軽に履ける外羽根を1足は用意したいもの。ブリックソールと呼ばれるレンガ色のスポンジソールは減るのも早いが写真の靴はダイナイト。ラルフローレン別注のクロケット製だけに耐久性もある。ウォークオーバーのような軽快感はないがウェルトシューズらしいかっちりした感じで足元を支えてくれる。

(12) トップサイダーを履く
こちらは靴をトップサイダーと交換した図。如何にも夏のIVYファッションらしい。隣に見える革製のバッグは夏色なれど革は重たい。使い込んだL.L.Beanのキャンバストートなら更に気分も上がろう。裾上げをシングルにするかダブルにするか迷うところだが、夏の足元はすっきりが定石のようで、とりあえずシングルに仕上げてみた。

(13) キャンバスデッキ
さて次はアナトミカ特製キャンバスオックスフォードの番。クレイジーマドラスと呼ばれるくらいだから大抵どんな色を持ってきてもパンツと合うはず。ただし無地がお約束か…鮮やかなオレンジ色のスニーカーだってご覧のとおり好相性だ。因みにパンツは裏地あり、白のコットンシングルガーゼが一枚あるだけで見た目よりも結構しっかりしている。


【ビンテージマドラスパンツ】
(14) ブルー系
O'Connell’sでは70~80年のビンテージ衣類が必見。どれも自社製品のタグを付けているが状態は良く保管が行き届いている印象を受ける。Bleeding Madrasと記されたマドラスは例外なくBleedingすなわち「泣く」ように色落ちするらしい。洗濯する度に色落ちして色が抜ける様を楽しむのもオツだとか…まさにデニムと同じか。

(14) 色落ち対策

タグに書かれたGT Bostonは70年代のパンツメーカー。時々ebayで見かけるが古いパンツメーカーらしい。Washableなインディアンマドラスなのにドライクリーニング推奨と?な表記は何やら色落ちを匂わせる。ブリーディングマドラスとはいえ色落ちを防ぐ方法もあるそうで、なんと洗濯時に「食塩を入れる」そうな。割合は1:1:1。水1㍑に中性洗剤大さじ1、食塩大さじ1と覚えるそうだ。


(15) 涼しげな生地
コーンデニムや昔のカーハートの生地なんて聞くとついコレクションしたくなるのと同じ、ビンテージのマドラスもなぜか心が騒いでしまう。今回は比較的おとなし目の配色を選んだが大胆な柄もあってサイトを覗くとかなり迷う。決めてはサイズ。日頃デニムなら30や31のを選ぶところだがここのパンツはジャストなサイズ選びがポイントだそう。迷って32インチを選んだが大正解だったようだ。


(16) ディテール
持ち出しを内ボタンに掛けてフックで留める前開きはスタンダードな仕様。ジッパーはデニムでお馴染みのTALON。1980年代に日本のYKKに明け渡すまで世界一のジッパーメーカーだったようで、古着ブログを読むとTALONのジッパーは年代によって形が異なるとか…。写真のタイプは1970年代から使われていた通称「ロケットTALON」と判明。

(17) コーデ(置き画)
ブルーのマドラスチェックにブルーのポロシャツ。ブルックスの90年代USメイドポロシャツは後ろ身頃が長いアメリカンタイプ。タックアウト(裾出し)スタイルよりラルフローレン提唱のタックインが似合いそう。となるとベルトが目立つのでスニーカーと同じオレンジのリボンベルトにネイビーのコットンベルトを用意。

(18) コットンベルト
夏はパンツの腰襟も汗で湿りやすい。うっかりレザーベルトを締めると革の染料がパンツに色移りして茶色くなってしまったことがある。特にレザーのブレイド・レザー(メッシュ)ベルトは夏の装い向きに思えるが色落ちも激しい。写真はバックル部分と先端のチップのみレザーのコットンベルト。ナチュラルな革は色落ちなしで手入れ不要、安心して使える。


(19) リボンベルト
70年代のビンテージ「マドラスパンツ」に90年代ブルックスの「ゴールデンフリースポロシャツ」。締めは2010年代のポロRL「リボンベルト」とオールメイドインUSAにこだわってみた。ラルフのリボンベルトはバロンズハンターへの別注だがダブルOリングのバロンズハンターに対してラルフはお得意の鐙(あぶみ)形リングで差別化を図っている。


(20) レッド系
もう一本購入したデッドストックのレッド系マドラスチェックパンツ。こちらも恐らく70年代製。裾幅は22㎝弱とストレートなラインのパンツだ。腰襟の高さと幅広のベルトループがこのパンツの特徴。両脇のバーティカルポケットや両玉縁の後ろポケット。フラップなしで片側のみボタン留めと大半はオーソドックスな仕様だ。


(21) ブリーディングマドラス
こちらはブルー系のマドラスチェックよりさらに素朴な生地らしい。不揃いな横糸や所々に浮き出る節に玉(ネップ)など如何にも手織りの生地を感じさせる。パンツには裏地が付いているが裏から透かしてみるとうっすら向こうが見えるくらい通気性がある。耐久性には欠けるがマドラスはリネンよりも日本の夏に相応しいと推す洒落者も多い。

 (22) 旧タグ
O'Connell Lucas-Chelfは旧タグとのこと。アメリカンフットボールNFLのバッファロービルズに在籍したThomas O'Connell, Richie Lucas, Don Chelfの3選手がかつて共同経営者として名を連ねた時代のタグらしい。その後O’Connell’sとタグを変えて現在に至るようで、アメトラのショップならではの興味深いヒストリーを持っている。

(23) コーデ(置き画)
こちらは爽やかに白のポロシャツと合わせてみた。本来ならアメリカ製のIZODラコステあたりと合わせたいところだがここは元祖フララコを用意。ベルトは名店Chipp(チップ) がNYにあった頃のJ.プレスで購入したグログランベルトと洒落たバックルのラルフローレン特製コットンベルトを用意。


(24) グレーの地付き
一見白地にチェックが入ったように見えるマドラスパンツ。よく見ると白く見える部分は全て薄いグレーという大変凝ったもの。白のポロシャツの上に置くと微妙な色の違いが分かるだろうか…。生地はかなりゴワっとしたリジットデニムのような感じがある、履く前に一度水洗いをして色落ちさせてから履いてみたくなるのはジーンズの影響だろうか?

(24) メイドインUSA
ブルックスブラザーズとJ.プレスは規模が違うとはいえ日本におけるアメトラの両雄。1974年にJ.プレスがオンワードによるライセンス生産を一足先に始め、ブルックスはやや遅れて1979年にダイドーと組んでライセンスものと直輸入ものを展開。オールライセンスのJ.プレスより直輸入品を通じて本場を味わえるブルックスに流れたアメトラ好きは多く、J.プレスがMade in USAものを扱わないのは失敗だったと思う。


(25) ディテール
腰襟の高さに合わせてフロントのフックがダブルになっている珍しいタイプ。ハイウェストのパンツが流行ったのは70年代、フックはやはりTALONを採用している。当然ジッパーの方も70年代の特徴「ロケットTALON」付きとジーンズ年代当てのようだ。O'Connell'sではどれも70~80年代のビンテージとしているが詳細は分からないようだ。

最近はビンテージデニムやワークウェア、ミリタリーものなどアメリカンファッションの人気が再燃、プレッピーやアイビーも復活の兆しを見せている。シップスでミリタリーチノを買った時もバリーブリッケンの話からいつの間にかアイビー談議に発展。…なんと若い店員さんはVANからアイビーに興味を持ったそうだ。リアルなVANを知る世代としてはそこまで深堀りしているのかと驚いた。

アイビーを知らない世代向けに必須アイテムは①ネイビーブレザー②BDシャツ③コットンパンツ④ローファー⑤レップタイと説くサイトもある。ウールじゃなくてコットンパンツにした点は大いに評価したい。冬は地厚なチノ、春秋はポプリン、夏はシアサッカーや今回のマドラスなど…世界三大綿生産国アメリカの日常着はウールやリネンじゃなくてコットンじゃないかと密かに思っている。

そう考えると前回のミリタリーチノに続いて今回マドラスチェックのパンツを新調したのもアイビー復活の影響かもしれない。夏の足元もここでだいぶ充実した。50年前のVANジャケットでも久々に出して着てみようか…。

By Jun@Room Style Store