大戦モデル | Room Style Store

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2022/07/13 08:33


第二次世界大戦中、資源を戦争に集中すべく物資統制が行われたアメリカ。労働着も例外なく大量生産が可能な代替部品や余剰品の使用が義務付けられた。LEVI'Sでもリベットなど金属部品を減らし付属物も余剰品を使った501(ジーンズ)を生産せざるを得ず、これがのちに大戦モデルと呼ばれ人気を博すなど当時は思いもよらなかっただろう。

簡素化(Simplified)を表すSが付いた大戦下のS501は異例の仕様がてんこ盛り、そこがマニアの心を擽る。今では国産メーカーや本家LEVI'Sも巻き込んで大戦モデルという名のジャンルが出来るほど。自分も15年前に馴染みのジーンズ屋で日本製のLVC44501を買った時「ペンキステッチ」なる言葉を聞いて以来、なぜか大戦モデルに心が疼く。

そこで今回は新着の本家LEVI'S S501大戦モデルとラルフ渾身のRRL大戦モデルを中心にその魅力に浸ってみようと思う。

※扉写真は新旧LVCとRRLの大戦モデル

【その1:トップボタン】
① LEVI’S大戦モデル(日本製)
チェックポイントその1はトップボタンの形状。まずは日本製のLEVI'S大戦モデルを見ると当時と同じワンスター月桂樹ボタン付き、しかもドーナツの中心を見ると下から突き出た2本の足が丸まっているのが分かる。レギュラーより値の張るレプリカジーンズらしくディテールも手抜きなし。日本製ならではの探求心が垣間見える。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製LEVI'S大戦モデル。日本製同様しっかりワンスターの月桂樹ボタン付きだが見た目の雰囲気はどこか違う…よく見るとドーナツタイプを模したネオバ(タック)ボタンらしく、穴の中心はドーム状で足が突き出ていない。日本製ほど再現度にこだわっていないようでちょっぴり残念。

③ RRL大戦モデル
続いてRRLの大戦モデル。こちらもしっかりワンスターの月桂樹ボタンを採用。ボタン下のVステッチもLEVI'Sの日米両大戦モデルと同じく忘れずに再現している。新品なのに履き込んだような加工が施されたトップボタンは如何にもRRL。古着加工でファンを魅了しただけのことはある。

【その2:コインポケット周辺】
① LEVI’S大戦モデル(日本製)
チェックポイントその2はコインポケット。まずは日本製LEVI'S大戦モデルから…金属使用を減らすべく省略されたという当時と同じくコインポケットのリベットはなし。すっきりとして悪くないがLEVI'Sは我慢していたのだろう、戦後すぐ元のリベット打ちに戻している。ポケットのリベットは無刻印の打ち抜きタイプ。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製LEVI'S大戦モデル。日本製とポケットの形状は変わらず。コインポケットの裏は耳付きだが、当時は無駄なく生地を使うことが求められたことから耳ありも耳なしもあったようだ。日本製と同じくリベットは刻印なしの打ち抜きタイプ。生地は毛羽立ちの少ない12ozを採用、洗うと締まって14ozになる。

③ RRL大戦モデル
続いてRRLの大戦モデル。LEVI'Sの大戦モデルと違ってRRLではリベット打ちのコインポケットを採用。なんでも1941~1942年頃の大戦初期はコインポケットにリベットが打たれたものもあったようだ。歴代501の中で一番バリエーションが多い戦時下のS501、当然大戦モデルも各社バラエティに富んでいる。

【その3:ペイントステッチ】
① LEVI’S大戦モデル(日本製)
チェックポイントその3は大戦モデル最大の見どころペンキステッチ。実際はシルクスクリーンで描いたようだが当時のリアルなS501XXペンキステッチは中々お目にかかれないらしい。自分のようなデニムファンはレプリカを見て当時を想像しながら「おお~っ」という口だ。因みに日本製のペンキステッチは持ちが良くて洗っても中々落ちない…。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製LEVI'S大戦モデル。日本製のペンキステッチと比べるとスパンが長くてステッチの間が狭い。日本製とアメリカ製をよくよく比べるとポケットを縫うステッチの太さやスパン、間隔からして結構違っている。本体のステッチに似せるペンキステッチが違うのも当然と言えば当然か…。

③ RRL大戦モデル
続けてRRLのペンキステッチ。ポロダンガリーズ時代の意匠を逆さまにしたステッチをLEVI'Sと同じくシルクスクリーンで再現している。デザインソースはカウボーイの投げ縄をメージしたものだとか…。ユーズド品を見るとヒップポケットのステッチが結構消えかかっていることからLEVI'Sよりは落ちが早そうだ。

【その4:フライボタン】
① LEVI’S大戦モデル(日本製)
チェックポイントその4はフライボタン、まずは日本製大戦モデルから…。社名なしの汎用ドーナツボタンを使って作られていた当時の雰囲気を再現している。通常は4つボタンだが実際のS501XXには一つ少ない3つボタン仕様もあるとか。トップボタン同様フライボタンも2本の足がドーナツの中央で丸まっている。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製大戦モデル。トップボタン同様ネオバボタンを採用しているのでフライボタン周辺の雰囲気は今一つ。同じLVCでも日本製の大戦モデルの方がボタン周りは雰囲気が良く出ている。もっともアメリカ製の大戦モデルは当時と同じコーン(ミルズ)デニム使用というアドバンテージがある。

③ RRL大戦モデル
続いてRRLの大戦モデルを見てみる。フライボタンはLEVI'Sと同じく4つ。ドーナツ中心の錆びたような色目がそそる。写真のボタンは亜鉛製のようだが「大戦、ドーナツボタン」で検索すると当時のドーナツボタンは鉄製とのこと。昔と同じ鉄製ドーナツボタンを特注し、わざわざ付け替えてくれるリペア工房もある。

【その5:隠しリベット】
① LEVI’S大戦モデル(日本製)
大戦モデルチェックポイントその5はヒップの隠しリベット周辺。まずは日本製LEVI'S大戦モデルを見てみる。銀色で刻印なしのドーム型リベットは如何にも汎用品を使ったような素っ気なさで当時の雰囲気を上手く再現している。当時はリベットも鉄製だったようだがこちらは磁石に付かないので真鍮のような非鉄金属か…。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製のLEVI'S大戦モデル。平型で刻印有りの銅製隠しリベットは他のLVC(1962-551ZXX)と共通のパーツ。実物の大戦モデルも初期は従来のリベットを使っていたので有り得ない話ではないようだが、LVCデザインチームではボタンやリベットにはそれほどこだわっていなかったようにも見受けられる。

③ RRL大戦モデル
続いてRRL大戦モデルの隠しリベット。こちらはややドーム型の刻印付きで銅色。当時のS501には「銅メッキの鉄製リベット刻印有り」も使われていたようだ。こうした情報も90年代のビンテージジーンズブーム時は古着屋に通って仕入れていたようでネットのある今はつくづく便利な世の中だと思う。

【その6:スレーキ】
① LEVI’S大戦モデル
大戦モデルチェックポイントその6はポケット用の布(スレキまたはスレーキ:Sleek)。まずは日本製LEVI'S大戦モデルから。余剰品を使用した戦時下に倣って日本製は生成りのヘリンボーン柄を使用。他にはシャツ生地や軍服用のカーキ色、中には耳付きライトオンスのデニムなど色々あったらしい。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次はアメリカ製のLEVI'S大戦モデルをチェック。こちらは他のLVCと同じコットンキャンバスを採用。ペンキステッチやトップボタンと並んで見どころの一つだけに他のLVCと同じ仕様は「なんだかな~」と思うが、考えてみれば当時も有り合わせの布で作っていた訳で、LVCでも在庫のあるスレーキを使ったのだろう…

③ RRL大戦モデル
続いてRRLの大戦モデル。さすがサープラスやミリタリーが得意なRRLらしくずばりカーキ色のヘリンボーン柄スレーキ。履いてしまえば全く関係ないのになぜか一人満足するのがマニアの心理というものだろう。何十年か後には今の時代のレプリカジーンズが新たなビンテージになっているかもしれない。

【その7:シルエット】
① LEVI’S大戦モデル
大戦モデルチェックポイントその7はシルエット。まずは日本製LEVI'S大戦モデルから。購入後15年経っていることもあってだいぶ右に捩じれてきている。日本製の大戦モデルはカイハラのセルビッジを採用とのことだが本家リーバイス同様右綾デニム、だからねじれも右に出てくるという訳だ。

② LEVI’S大戦モデル(米国製)
次にアメリカ製LEVI'S大戦モデル。未使用新品ということもあり捩じれはないが、履き込むうちにかなり撚れるようだ。両ポケット横に見える黄色いサイドステッチは上の日本製の大戦モデルよりかなり長い。本物の大戦モデルS501XXもかなり長かったようで、この点ではアメリカ製大戦モデルの再現度が高い。

② RRL大戦モデル
続いてRRLの大戦モデル。アメリカ製LEVI'S大戦モデルよりワタリが広く腰回りもゆとりがある。大戦下の衣料工場では人員不足のため未熟な縫い子もすぐ登用した結果かなり縫製の粗い501が存在したらしい。その粗さまでも再現しようとするメーカーもあるらしいがRRLはいつものように丁寧な縫製が光る。


【参考資料:フィット】
日本製のLEVI'S大戦モデル(左)は2インチ縮むのを見越して大き目のサイズ(W34)を購入。洗いを繰り返すことで程よい太さになっている。一方RRL(右)は未洗いの状態だとゆったりしているが洗濯後は2インチ(5㎝)縮むのでLEVI’Sよりタイトかもしれない。履いたままバスタブ内で洗濯、脱がずに自然乾燥すると良さそうだ(経験済)。


【参考資料:今回の大戦モデル】
①LEVI’S44501-0118
今回紹介した最新の大戦モデルはLVC44501-0118。2017年末で閉鎖されたホワイトオーク産コーンデニムを使用した最後のLVCになる。後継の新大戦モデルはなんとブルガリア製でデニム生地は日本のカイハラらしい。LVCの魅力はアメリカ製の生地を使ってアメリカ国内で生産されていてこそ…と思うファンも多いだろう。

② RRL大戦モデル
久々のシュリンクトゥフィットデニムを使用した大戦モデル。2014年に発売された前回の大戦モデルが16ozとかなりヘビーだったのに対して今回は12.5ozと軽めの生地を採用。マニアは喜ぶもののヘビーオンスはもとよりリジットでさえ敬遠されがちなようでRRLのリミテッドエディションもこれが最後かもしれない。

15年前に初めて買った大戦モデル。以来ヒップポケットのペンキステッチのことを誰に話すでもなく一人で悦に入って履いてきた自己満足派だが「自分が興味をもつ分野に対して一般より深く愛好する」人はオタクに分類されるそうだ。そういわれるとドキッとするが「人はみな何かしらのオタク」という声や5人に1人はオタクという統計も出ている。

しかも「オタク」には「ガチオタ」と「エセオタ」の2種類あって、資金や時間の投入具合など様々な視点からどちらかあぶりだされるようだ。中でも増えているのが「エセオタ」。東洋経済ではこの「ライトなオタク」を狙うことは企業や商品にとって至上命題であると述べている。本物よりレプリカで満足する自分など「ライトなオタク」の典型か…。

By Jun@Room Style Store