ポロコート四方山話 | Room Style Store

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2022/07/24 08:42


週末は衣類の虫干しに励んだ。カシミア類は平場に並べて上着は吊るす。我が家で一番重たいヘリンボーンのポロコートを下げたら物干しが一気にたわんだ。正に”品質の塊”、今じゃ絶対手に入らない逸品だ。昔ebayのオークションで落札したものだがセラーは落札者が日本人だと知って驚いていた。取引は順調コートも無事届いたがちょうど同じ頃同じコートを探しているブロガーがいることを知った。


彼の名前はクリスチャン。当時IVY STYLEの執筆者として雑誌Free & Easy(廃刊)に登場したこともある。彼はラルフの定番キャメルのポロコートが似合う。しかも胸ポケットなしを好むというこだわりもある。「自分と同じ嗜好を持つ人は世界に100人いる」というが彼もその一人だったようだ。実際オークションに入札したのかは分からないがコートは縁あって彼のところではなく自分のところへやってきた。


あの時サイズが合わなければ彼に譲っていただろう。代わりにキャメルのポロコートを探して欲しいと頼んだかもしれない。後でキャメルの胸ポケット付きポロコートを手に入れた時もたしかクリスチャンは嫌いだったなとふと彼のことが浮かんだ。既にIVY STYLEを退いた彼の近況は分からないが今回はベリーラルフなポロコートについて書き記そうと思う。

※扉写真はクリスチャンによるポロコートの記事

【ヘリンボーンのポロコート】
① クリスチャンが探していたもの
クリスチャンが探していたのが写真のポロコート。地厚な白黒ヘリンボーンツィードをたっぷり使ったポロコートはクールでゴージャスな雰囲気が漂う。クリスチャン自身この写真をインスタグラムの@vintageprlから拝借したようだ。その上で彼のサイズ38R~40Rを見かけたら教えて欲しいと呼びかけたところ、ゲストからサイズ42がebayに出ているとすぐに情報が上がっていた。

② ebayで落札したコート
これがゲストが情報提供したサイズ42のへリンボーンポロコートだ。セラーの情報によればアルタレーション(サイズ直し)されているとのこと…実物は40Rないしは38Rに近いサイズか…。というのもダブルのボタン位置が両脇の箱ポケットからかなり近いからだ。上の写真(⇑)でクリスチャンがブログにアップした写真のコートはボタンと箱ポケットの間がかなり離れている。サイズはもっと大きめの44~46くらいに見える。

③ ラペルのデザイン
ラルフローレンのポロコートがなぜ格好いいのか…写真でも分かると思うがその魅力はラペル周りに集約されている。ラルフならではの①ダブル前6ボタン下一つ掛けのデザイン②アームホールや肩線に迫るワイドなラペル③上向きのラペル先端(ピーク部分)④少しだけ開いた上襟(カラー)と下襟(ラペル)の間のノッチの4点だろうか。

④ チェストポケットなし
こちらはクリスチャンの好みであるチェストポケットなしのデザイン。ラルフローレンも以前は胸ポケットなしだったが最近のポロコートはフラップ付に変更されている。自分はどちらかというとある方が好みだがブルックスとJプレスはなし、O’connellは胸ポケット有り、ラルフだけがフラップ付の胸ポケット有りと分かれている。

⑤ メールポストポケット
フレームドパッチポケットと呼ばれる「手がすっぽり入る大ぶりなポケット」もポロコートの大きな特徴。コストを抑えるためパッチ&フラップポケットで済ませたものもあるがポロコートには欠かせないディテール。購入時は要チェックポイントだ。金洋服店の服部さんによるとメールポスト(ポケット)とも言うらしい。

⑥ 内ボタン二つ掛け
外側のラペルは下一つ掛けだが内側は上下2つ掛け。重ねた両前が歩いたり手を伸ばしたりするうちにずれないよう内側はしっかり上下で留めておく。因みに紳士用のコートの平均的な重さはコットンで大体1㎏前後、ウールで1.5㎏だがこのヘリンボーン(ツィード)コート、測ると2.4㎏もの重さがあった。なるほど物干しがたわむ訳だ。

⑨ バックベルト
バックベルトは寸法直しをしなかったのか余って見える。両脇のドレープが綺麗に出ているところを見るとウェスト部分をかなり絞っているのかもしれない。重さの話の続きだがダブル前のコートを作るには長さが最低3.5mほど必要。単純に2.4㎏÷3.5m=0.69だから生地の目付けは690g/mくらいだと想像できる。かなりヘビーな目付けだ。

⑩ バックスタイル
前から見るとチェスターフィールドコートに似ているポロコートだが後姿は数あるトップコートの中でもピカ一の存在感。センターベントの長さは何と58㎝もあってバックベルトのすぐ下から始まっている。元はポロ競技の合間に着たコート。動きやすさを考えれば深いベントの方が楽なのは違いない。

⑪ サイズ表記
前述したようにサイズ表記は42Rだが実寸は38~40Rだろうか。身頃や肩周辺、背中心や襟後ろなど全体的に詰めたようだ。そういえば昔NYのポールスチュアートでスーツを買った時も中1日でツキを取って綺麗な背中の上着に仕上げてくれたことを思い出した。既製紳士服が発達したアメリカ、どの紳士服店も腕の立つ直し職人を確保しているようだった。

⑫ ユニオンチケット
ミシンのイラストが入ったユニオンチケットの後継として1976年から付けられ始めたACTWUチケット。1995年まで付けられていたのでチケットだけでコートの年代を判別するのは難しいが、80年代中期から90年代初期と思われる。80年代前期のものは青いPoloタグが黄色の糸でジグザグに縫われている場合が多い。

⑬ レイヤールック
ラルフローレンお得意のパターンオンパターン。ヘリンボーン同士の重ね着もコートとジャケットの柄の大きさや色合いが違うのでぐっと立体的に見える。ネクタイはバスケット織りのピュアカシミアタイ、シャツはラルフの白OCBDを用意。トラウザーズはブラックか黒に近いチャコールグレーあたりはどうだろうか。

【キャメルヘアのポロコート】
① 異例の事態
新型コロナがまだ対岸の火事と思われていた2020年1月、水面下で感染が広がっていたアメリカの危機を予見したのかラルフローレンのオンラインショップでは異例の事態が起きていた。キャメルヘアのポロコートが最初からセール価格で登場、しかも40%オフの更に15%オフだから定価の49%オフとほぼ半額での販売だった。

② タグ
プライスは2495㌦。当時は1㌦=110円だったからセール後の価格は14万円程度…アメリカの親戚経由で購入後日本に発送、関税を16400円納めて我が家に無事到着した。縫製はアメリカ製、恐らくロチェスタークロージング(ヒッキフリーマン)だろう。生地は英国製ジョシュアエリスのキャメルヘアを使用、サビルロウクオリティだった。

③ ラペルのデザイン
ヘリンボーンのラペルと比べて全体的に位置が上がり小ぶりになったものの6ボタン下一つ掛けや上を向いたピークは健在、殆ど肩線に近い高さにラペル(ピーク)が達している。カラーとラペルの間のノッチが微妙に開いているのも以前からのお馴染み仕様。ラペルホールが両襟に付いたのが変更点か…。

④ フラップ付胸ポケット
こちらがクリスチャンの嫌いなフラップ付胸ポケット。確かにエレガントな雰囲気のあるコートには不釣り合いかもしれないがポロコートはポロ競技の合間に選手が着たコート、スーツに着るよりカジュアルに着こなす方が似合うはず。ならばフラップ付きの胸ポケットもスポーツウェアに相応しく思えてくる。

⑤ バックスタイル
センターベントは多少短くなったがそれでも50㎝はあるだろうか。両脇のドレープやパッドのしっかり入った肩からウェストにかけての逆三角形のラインなどポロコートの魅力は後姿にありとさえ思える。2020年に購入後、冬場は新型コロナの感染拡大による自粛要請が続き、コートを羽織って出かけることも中々なかったがこの冬はぜひとも着こなしを楽しみたいものだ。


⑥ 袖裏
往年のハケットのように袖裏がストライプの仕様になっている。素材は身頃裏も袖裏もキュプラ、滑りは問題なくスェットの上に羽織っても快適だ。ラグビージャージでもプルオーバーのパーカも良いしジージャンやニットとも好相性。どちらかというとスーツやジャケットスタイルよりカジュアルと合わせて様になるコートだと思う。

⑦ 着こなし(その1)
ポールスチュアートのアーガイルニットにデニム、RRLのロデオベルトとカジュアルコーデ。今はネクタイを締める必要もないのでポロコートもその日着ている服の上に羽織ってばかり。そういえば昨シーズンはカシミアのチェスターフィールドコートなんて殆ど出番がないままだった。手持ちのコートを満遍なく着るのは難しい。

⑧ 着こなし(その2)
こちらは10月の信州。全身ラルフで組んでみたが、参考にしたポロショップのマネキンは「赤のチノパンにグレーのニット、首からブルーのポロシャツ襟だけ見せて上からポロコート」という上級コーデだった。アメリカのショップはポールスチュアートもブルックスもディスプレイが上手いが圧巻はラルフローレンだと思う。

【参考資料】
"No articles of apparel better epitomizes Ralph's sweet spot of aspirational style than the polo coat." 雑誌 THE LAKEがラルフローレン特集でアランフラッサーの新刊から引用した一文だが、日本語版では「ポロコートほどラルフのスタイルを象徴する衣服はない」と訳している。ラルフ好きの終着駅は「キャメルヘアのポロコート」だとフラッサー氏も感じているようだ。


⑨ ディテール
他のコートに比べて独自のディテールが多いポロコート。特に背中のベルト(マーティンゲールと呼ぶそうな)などは「ウェストの絞り感を強調した装飾的な意味合いが多い」といわれている。ここをピンチバックで代用したコートも見かけるが今一つか…。また袖のガウントレットカフもポロコートお約束のディテールだ。

⑩ Made in USA
ラルフローレンのアメリカ製重衣料を作るヒッキーフリーマン(ロチェスタークロージング)。品質には定評があるようでフェイスブックのレビューは5点満点で4.6点と中々のもの。試しにヒッキー製のポロコートをebayで検索したら1件ヒット。胸ポケットなしで件のクリスチャン好み、6ボタン下2つ掛けでラペルは小ぶりだがラルフとよく似ている。

【参考資料】
襟の形
ポロ競技の間の休憩時に着ていたウェイト(wait)コートをポロコートと名付けて1910年アメリカに紹介したのがブルックスブラザーズ。よく似たアルスターコートも含め下り襟(左)と元祖ブルックスやラルフのように上り襟(右)に分かれる。ソフトな印象の左とシャープな印象の右で好みが分かれるところだが、自分は上り襟派だ。

⑫ あがりのコート
ラルフのポロコートも一時期はイタリー製やスロバキア製になったり欠番扱いだったり…ならば馴染みのテイラーでオーダーしようと思った矢先のアメリカ製ポロコート復活には心底驚いた。テイラーに頼めば体にフィットしたポロコートを手に入れられるだろうが欲しかったのはラルフのポロコート、多分これがあがりのコートになりそうだ…。

厚手のウールコートの出番は短い。12月からせいぜい3月初旬まで。4月に入って花冷えで寒い日があったとしてもウールの重たいコートでは季節感のない着こなしになってしまう。ところがクローゼットを見ればダッフルやピーコート、チェスターコートにカバートなどなどウールの重たいコートがずらり並ぶ…そんなトラッドマンも多いと思う。

ポロコートなどその最たるものだがアメリカのラグジュアリーライフスタイル誌Robb Reportは今年2月16日付の記事で「While its modern-day iterations may differ, one thing is clear : the polo coat is back on top.」と書き、ポロコートが(トレンドの)トップに帰ってきたと結んでいる。今年の冬も寒いとの予報、今が旬のポロコートが活躍しそうだ…。

By Jun@Room Srtyle Store