スコットランド紀行 | Room Style Store

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2022/08/09 09:16


今から5年前の2017年。イングランドの湖水地方からカーライル経由でM6(Mは高速道路)に入りグラスゴーへ向かった。英国(UK)を旅するなら車がいい。日本と同じ左側通行は運転も楽だし道路も整っている。知らぬ間にイングランドとスコットランドとの国境を越えて絶景のグレンコーに到着。3度目の訪問で初めての晴天に恵まれた。

英国スタイルに心惹かれるといつかはスコットランドに辿り着く。何しろ数多のデザイナーや洒落者を魅了したツイードとタータンの本場、若草色や深緑のツイードも赤や紫、黄や橙といった鮮やかな色彩のタータンもスコットランドの自然と深い繋がりがある。テキスタイルの世界に与えたツイードやタータンの役割は計り知れない。

そこで今回は旅行の思い出と自然や風景、文化や装いを織り交ぜながらスコットランドの魅力を探ってみたい。

※扉写真は晴天のグレンコー

(1) バグパイパー
グレンコーで小休止。荒涼としたハイランドの山を背景にバグパイプを吹くスコッツマンがなんとも絵になる。タータン(キルト)にアーガイル(ソックス)、ギリー(シューズ)とツイード(ジャケット)はどれも服飾の基本、トラッドマンを魅了するものばかりだ。伝統衣装を纏ったバグパイパーの奏でる音色が風景と相まって旅情をかき立てる。

(2) ギリーシューズ
ギリーシューズ最大の特徴は甲部分のアイレット(紐を通す穴)の配列。基本はタンなしだがクロケット(左と中央)ではタン有りに、サンクリスピン(右)では外羽根にしてスコットランドの国花アザミの穴飾りを載せている。左はラルフローレンのディレクションで素材をコードバンに替えたMarlow(マーロゥ)、中央はマーロゥに触発されてMTOしたギリー4。

(3) ギリーを履く
グレンコーで出会ったバグパイパーを参考に足元をアーガイルソックスとギリーのコンビで…アーガイルもスコットランドのキャンベル家タータンが由来らしい。ギリー用にまとめ買いもOKな相性の良さだ。履く機会は滅多になかろうが正統派の黒ギリーブローグにロングホーズも悪くない。ただしキルトもとなると流石にハードルは高い。
Pants&Shoes : Polo Ralph Lauren
Socks : Pantherella


(4) ツイード&タータン
Scotch度数超高めのツィード+タータン。しかもスコットランド産の生地をイタリーで仕立てたアメリカンなジャケットとくればアメトラ好きならずとも一度は羽織ってみたくなる。王族や氏族由来の目立つ配色と違いダークで目立たぬブラックウォッチがタータンの中で一番人気というのも頷ける。
Jacket : RRL
Shirt & Tie : Polo Ralph Lauren

【参考資料】
ハリスツイード
ジャケットの袖に付くハリスツイードのタグ。日本で最も名の知れたツイードだ。グレンコーからインヴァネスへ向かう途中スカイ(Skye)島の北端ウィグ(Uig)に寄ってフェリーに乗ればハリスツイードの本場ハリス島に行ける。残念ながらその日の宿を予約していたので3時間10分の運転と1時間40分の船旅で辿り着くハリス島は次回までお預けとなった。

(5) アーカート城
ネス湖に沿った国道を進むと現れるアーカート(Urquhart)城。スコットランド独立戦争の舞台となり今は廃墟と化しているがスコットランド有数の観光スポットだ。観光客の長袖姿から分かるように夏でも寒い。何しろアーカート城は北緯57度、日本の最北端稚内が北緯45度であることを考えれば現地の気候も想像がつくだろう。

(6) ウィークエンドツイード
スコットランドは一年中ツイードの出番がある。実際アーカート城でもツイードジャケット姿のボランティアガイドを見かけた。写真はホーランド&シェリーのバンチから選んだウィークエンドツイード。ジャケットに仕立てれば仕事着としても通用する。ネクタイもスコットランド製のウール&シルク生地でScotch度数を上げてみた。
Jacket : Fallan & Harvey
Shirt : Brooks Brothers
Tie : Kamakura Shirts

(7) ネス湖
遠くまで続くネス湖の青々とした水面を見ているとブラックウォッチやスコットランド国旗の青地が自然と繋がっていることを実感する。手前の白や黄色の可憐な花もタータンやツイードを構成する色に加えられて個性的な生地が織られていったのだろうか…。湖面のさざ波が何やらネッシーを連想させる。

(8) ヘリンボーン柄(その1)
白黒を思い浮かべがちなヘリンボーン柄だがバラエティが豊富なのがグリーン系。枯草が混ざったような深みのある色合いは荒涼としたグレンコーそのものだ。RRL特製のツイード3ピースはサビルロウの凛とした仕立てとは対極のワークウェア風。スウェルドエッジのラペルやヴェストが良い味出している。
Vested Suit : RRL
Shirt : Brooks Brothers
Tie : Polo Ralph Lauren
Pocket Square : Seaward Stearn


(9) ヘリンボーン柄(その2)
こちらは一段明るめのグリーンツイード。同じヘリンボーン柄だがぼかしが入ったような色合いだ。シャツとチーフは同じまま上のジャケットと交換。ラペルの縁から¼インチに走るステッチはアイビー好きなら周知のウェルトシームだがロンドンのテイラーに頼むならスウェルドエッジと言った方が通ずる。
Jacket : 80s Brooks Brothers(Special Order) 

(10) ノースケソック
早朝湖水地方を出てのロングドライブ。インヴァネスの入り江対岸のノースケソックに到着すると既に日は傾いていた。宿はB&Bと地元に人気のレストランが併設されたノースケソックホテル。室内は綺麗、料理も地元の魚介を使ったメニューが評判。トリップアドバイザーの評価4.5も納得だ。もしインヴァネスに立ち寄るなら対岸まで足を延ばしてステイする価値がある。

(11) B&B
海側は遅くまでレストランの喧騒が聞こえるが山側の部屋は静かで快適。木枠の窓が落ちついた室内を醸し出す。チェックイン時にディナーを予約しておけば地元の人で賑わう時間帯もスムーズに着席できる。その日取れた魚やサーモンにコッドなど英国旅行でお馴染みの料理が並ぶメニューは見応え十分、食べ応えも十分だった。

【スペイサイドを運転する】
(12) マッカラン蒸留所
翌日はエルジンを経由してスペイ川沿いを移動。途中蒸留所を訪れるというウィスキー好きには嬉しいドライビングコースだ。まずはマッカランを訪問。ビジターセンタの売店に年代物のウィスキーがあるはずもなく、店員は「高いけどオークションサイトには有るかも…」とのこと。車なのでシングルモルト「テイスティングセット」を諦め次へと移動。

(13) グレンリベット
更にスペイサイドを進む…一帯は50以上の蒸留所がひしめくエリアらしい。ウィスキー通ならお日本に馴染みのない隠れた名蒸留所に一直線だろうが特にウィスキーマニアということもないので有名どころのディスティラリーへ…グレンリベットは世界最大級の規模を誇る広大な蒸留所らしい。


(14) グレンリベット18年
最近は英国で買うより日本で買う方が安いウィスキー。それでも高値で品薄のマッカラン18年より手の届きやすいグレンリベット18年を近所の酒屋で見つけて開封…。規模拡大を契機に味が変わったという声もあるが新しいファンには肯定的な意見も多い。夏らしくお薦めの水割りを…ロックよりコクは弱いが加水で香りが開いて複雑な味を楽しめるとのこと。

(15) 水を加える
まずは①ロックアイスでグラスを冷やし②ウィスキーを注いで③マドラーで軽く混ぜる。美味しい水割りはウィスキー1:水2~2.5だが氷が溶けやすい夏は④水2を足してマドラーで混ぜれば準備OK。前回のブログでも書いたが食器同様グラスやマドラーにもこだわりを…ということで今はなきウォーターフォードのエクリプスにポートベローで買ったアンティークマドラーを使用。

(16) エジンバラへ
スペイサイドからパースを経て再び高速のM90に入り一路エジンバラへ。有名なフォースブリッジを超えて予約済みのアパートにチェックイン。翌日は車を置いてバスでエジンバラ城へ…お目当ては世界最大級のミリタリータトゥーだ。昼間は市内見学。日暮れ間近に入場するも開始は夜の9時頃。写真は開演前の会場。


(17) ミリタリータトゥー
地上から急な階段を上がって指定席に着く。右端に見える門から遠くなるほど席料は上がる。この年は陸上自衛隊の中央音楽隊が出演。もののけ姫のテーマ曲に続いて甲冑姿の武士2人によるパフォーマンスを披露。ミリタリータトゥーに相応しい戦いの様子に観客は大興奮。最後は和服姿の女性による日本語のアニーローリーで拍手喝采の中退場していった。

(18) ロバートのホームタウン
元ハンツマンのロバートベイリーがアトリエを構えるLochgelly(ロッホゲリー)はエジンバラの港の対岸にある。次にスコットランドを訪れる時はぜひ立ち寄りたい場所の一つだ。彼がハンツマン時代に仕立てたツイードの上着はいつ着ても美しい。大胆な格子柄から今回は濃茶を拾ってネクタイをチョイス。
Suits : Huntsman
Tie : Drake's

(19) 共布のツイードキャップ
1947年創業と若い会社ながらスコットランドの名門マーチャント、ポーター&ハーディングの生地はカントリージャケットには最適といわれる。とりわけ写真のグレンロイヤルは14oz(=435g)という目付けから分かるように比較的軽めで日本の気候に合う素材。東京だったらヴェストなしで着るのも十分ありだ。

(20 ツイードオンツイード
冷え込みの厳しい信州なら同じグレンロイヤルで仕上げたコートを羽織るのもあり。ツィードオンツイード、しかもウィンドペーンの重ね着は流石にビジー過ぎるかと迷うが、格子の大きさや色目が違うのでコートを羽織った途端一気に見栄えが良くなる。しかもネクタイとレザーの襟は共に焦げ茶と絶妙なリンク。

(21) カーコート
コートはロンドン郊外にファクトリーをもつグレンフェル。医師グレンフェル卿が自らの名を冠したグレンフェルクロスを開発したことから社名になったようだ。エジプト面の双糸を高密度で織り上げた地厚で丈夫なコットンはコートにピッタリ。それをツイードで作らせたのはポールスチュアート。おかげでScotch度数高めの洒落たコートに仕上がっている。

【参考資料】
① フライングスコッツマン
有名な蒸気機関車"フライングスコッツマン"の名を冠したエジンバラ発ロンドン行き特急列車内。二等とそれほど値段が違わないので空いていれば一等を予約した方が静かで快適な時間を過ごせる。英国らしいティーサービスもある。エジンバラを出て暫くするとスコットランドのボーダーを超えてイングランドへと列車は進む。

② ダラム
ニューカッスルアポンタインを出た列車がダラム(Durham)付近に差し掛かる。車窓から見えるのはダラム大聖堂。周辺は1986年イギリス初の世界遺産に登録されただけあって英国屈指の歴史的建造物・文化遺産目当てに観光バスが次々とやってくる。スコットランドの荒涼とした景色から田園風景の広がるイングランドへ…旅の終わりも近い。

(22) フラットを借りる
ロンドンに到着後はタクシーでアパート(フラット)へ。星付きホテルを予約するより自宅にいるように寛いだり自炊したりアパートは旅の疲れをいやすのにピッタリ。この時はブリックレーンのアパートに滞在。週末にマーケットが立つとそれまでとガラッと変わる街並みや人の多さに驚いたことを思い出す。

【参考資料】
① スコティッシュサーモン
土産物を買いにハロッズへ…店内のカフェではハロッズ自慢の3段トレイ式アフタヌーンティーを味わえる。中々の本格派だがもう少し軽いものを…ということならスコティッシュサーモンがお薦め。中でもヘブリディーズ諸島のスモークサーモンはウイスキー熟成に使われた樽とオークチップを混ぜて石窯で燻製したもの。かなりScotch度数高めの食材だ。

② ティータイム
こちらはウェッジウッドのワイルドストロベリーに乗せられて出てきたチョコレートケーキ。流石はハロッズ…ポットやクリーマー、茶漉しも含め本格的にティーを味わえる。日頃コーヒー等といえどもメニューを見ていると紅茶を味わってみたくなるから不思議だ。ケーキも日本と同じく甘さ控えめで好ましい。


(24) パブランチ
ロンドンといえばジャーミンストリート。靴屋が並ぶ通りはウィンドウショッピングだけでも十分楽しい。昔閉店したワイルドスミスやカネーラさんがいた頃のニュー&リングウッドなど昔のことが蘇る。ジョンロブのティームお薦めのパブも良い。2階に上がれば静かな席で自慢のパブランチや美味しい英国ビールを楽しめる。

スコットランド第1の都市エジンバラにはツイードを扱う生地屋やタータン製品を扱うお店もある。だがスコティッシュツイードで服を誂えるなら馴染みのテイラー経由で十分だしタータン製品もオンラインで買える。スコッチウィスキーの専門店も価格は日本の方が安かったりする。生地であれウィスキーであれサーモンであれ、スコットランドの名産は既に産地を離れ世界中に出回ってしまっている。

それでもまたスコットランドを訪れてみたくなるのはなぜだろう。ニッカの創始者竹鶴政孝にウィスキーづくりを教えた蒸留所やエジンバラの名所フォースブリッジの工事監督を務めた渡邊嘉一、何よりロンドンで「夏目発狂せり」と噂された夏目漱石の心を癒したエジンバラ郊外のピトロホリー…多分スコットランドには人の心を惹きつけ湧きたたせ、癒す何かがあることに気付いたからかもしれない。

次は750以上もあるスコットランドの島を巡ろうと考えるのも楽しい。野に咲くヒースの紫に惹かれて帰国後は「ほんのり紫の格子が入ったツイードを。」なんてテイラーの生地見本をめくっているかも知れない。滞在中も帰国後も持続するのがスコットランドの真の魅力ということか…。

By Jun@Room Style Store