カタログの時代 | Room Style Store

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2022/11/06 11:00


インターネットによるオンライン販売が普及したのが2000年頃…それまではカタログを取り寄せメール(郵送)やファックスで個人輸入するのが主流だった。元々通販の盛んなアメリカはサービスも手慣れたもの、エルエルビーンやブルックスブラザーズに友人とまとめて注文を入れて送料を節約したものだ。そのうちイギリスやフランスからも個人輸入をし始めたがイタリアだけは上手くいかなかった。

通販用のカタログは商品が見やすいように作られている。ところが徹底してブランドイメージだけを載せていたのがラルフローレンだった。どのページにもストーリーがあって見てるうちにあれもこれも欲しくなる…だが商品情報が一切載っていないので結局は店に出向いて買うしかない。ならばとデパートのポロショップに行って店員に尋ねたが日本未展開ということで買えなかったことが度々あった。

そのラルフローレンもEコマースに注力後はここ2年でデジタル販売が80%も増加したという。そこで今回はカタログ時代のラルフローレンや当時の買い物事情を振り替えろうと思う。

※扉写真は今も時々配られるRRLのカタログ

(1) 1988年秋冬のカタログ
写真は1988年秋のカタログ。まだポロラルフローレン初の路面店が銀座に出来る前で西武池袋のポロショップがラルフローレンの商品を一番多く扱っていた頃だと思う。ある時デパートの店員さんから貰ったのが写真のカタログだった。右下に小さく$3.10と印刷されている。ページを開くとラルフローレンの世界が溢れ出てくる…小さな写真集のようだった。

(2) カタログから(その1)
カタログで最初に目を引いたのがチェストの引き出しに置かれたアメリカンアリゲーターのベルト。シルバーバックルとベルト先端のチップ、エンジンターンドのバックルが格好良くて銀座にポロの路面店ができるとすぐ見に行った。店員は「色々買うのも良いですが大物を一点買うのも良いですよ」とアリゲーターやクロコダイルのものをさりげなく薦める。確かに値段は大物だった。

(3) 実際に買ったもの
手前に見えるシルバーのバックルとチップが付いたものがカタログと同じ商品だ。竹斑の入り方が随分違うがそれでも格好良さは変わらない。次に左上のエンジンターンドのバックル付焦げ茶のクロコベルトを今度はブルックスで手に入れ、右上の黒のクロコダイルベルトをパリのJ.M.ウェストンで買った。そして最後の仕上げが写真の英国製アンティークチェストだった。


(4) カタログから(その2)
カタログの半面いっぱいに掲載されたのがこの写真。アンティークのチェスト下に無造作に置かれた靴達。中央のセミブローグは後年クロケット&ジョーンズ製だと判明したが当時日本ではリーガルがライセンス生産していた。ある時八重洲口のリーガルファクトリストアでセカンド品を見つけて買ったことを思い出す。良く出来ていたがクロケットの域には及ばなかった。

(5) 実際に買ったもの
カタログのイメージは記憶に残り、いつか似たものに出会うと買い物への動機となる。最初に買ったのがラルフ純正のシューツリー、次に雰囲気の似たセミブローグをブルックスで手に入れた。後年ポールスチュアートでアメリカ製のクロコダイルローファーを購入、最後は振り出しに戻ってブルックスでルームシューズを買う…足かけ20年の買い物記だ。

【参考資料①】
ピールのセミブローグとシューツリー
シューツリーの輸入元はリーガル。ラルフローレンフットウェアのライセンシーとして当時はライセンスものの製造や本国製品を輸入していた。有名なマーロウウィングチップも昔はリーガルファクトリーストアに時々出ていたものだ。残念ながら現在はカジュアルスニーカーのみとなっている。肝心のツリーのフィットは汎用タイプなのでそれなりだが、雰囲気は抜群だった。


【参考資料②】
エドワードグリーン製
ブルックスブラザーズがビスポークメーカーだったピールが廃業する際に商標権を獲得、エドワードグリーンや様々なメーカーに商品を作らせていたのはよく知られた話。アランフラッサーも著書の中で触れている。ラストは#192を採用、ロイドフットウェアでも扱っていたが履き手の足を結構選ぶラストだったらしい。

【参考資料③】
履いてみる
つま先の形状を横から見るとローファーのように先端がストンと垂直に落ちている。靴職人に聞いたところウォールラストと呼ぶタイプの木型に近い感じか。80~90年代の製造だから既に30年は経つ。シングルモルトウイスキーで言ったらかなりの年代ものだ。エドワードグリーンらしいチェスナッツアンティークの靴は何足持っていても追加したくなる魅力がある。


(6) カタログから(その3)
さらにカタログを読み進むと次は再び靴が並んだ写真が登場する。写真中央のモカシンとブーツはアメリカ製。特にモカシンは当時原宿駅近くにオープンしたばかりのラブラドルで手に入れた。メイドインメインの刻印を見てMaineがどこか調べたものだ。気に入って履き過ぎて廃棄したが今なら腕の立つ靴修理屋さんが復活させてくれたのにと思う。


(7) アディロンダックモカシン
こちらはポロの広告から。知り合いの靴好きは英国靴やフランス靴にイタリア靴が好きだったようだがアイビーやアメリカントラッドから入った自分はアメリカものも好物だった。写真を見ると英国調ヘリンボーンツイードのパンツがちらりと見える。そこに霜降りのラグソックスとモカシンを合わせるというラルフ十八番のアングロアメリカンなドレスダウンだ。

(8) 実際に買ったもの
モカシンはワシントンDCの、ブーツはハワイのポロショップで購入。ブーツの方は89〜92年まで展開されたポロカントリーのアイテムだ。カタログに出てくるものとはデザインやソールが微妙に違う。壁際の赤いタータンチェックはスカーフではなく当時のハンカチーフ。スカーフと見紛うほど綺麗な色合いで洒落た柄がプリントされていた。


(9) カタログから(その4)
さらにカタログをめくると見慣れた髭の紳士が…モデルの名はトーマスムーア(Thomas Moore)。本業は建築家でポロの広告写真を手がけたブルースウェーバーのお気に入りらしい。スーツ姿から写真のようなラギットスタイル、或いはツイードルックのカントリージェントルマンまで見事にラルフの世界を演じている。着ているシアリングの襟付きコートが気に入って探したらフィルソンのパッカーに辿り着いた。

(10) 実際に買ったもの
ポロのパッカーはダブル前だがフイルソンはシングル。それでも襟周りの雰囲気はそっくりだ。フイルソンは昔ゴールドウィンが扱っていたが当時パッカーは未入荷だったのでアメリカから個人輸入したもの。極寒の信州で襟を立てて左右を留めたら無類の暖かさに感動すら覚えた。ポロを手がかりにアメリカンワークウェアと出会えたのもカタログの効用だと思う。

(11) カタログから(その5)
再びトーマスムーア氏の登場。キャメルに劣らずネイビーのポロコートも最高に格好いい。しかもグレーパンツとの鉄板コーデかつ紡毛素材で質感も合わせている。一方胸元はネクタイを結ばずウールニットポロに首巻きスカーフでドレスダウン。そして極め付けが足元のアメリカンモカシンとアウトフィットもモデルの雰囲気も佇まいもパーフェクトだ。

(12) 実際買ったもの
カタログ掲載から長い時を経て再販されたネイビーのポロコート。「ポロコート四方山話」で紹介したキャメルヘアバージョンとデザインは変わらずサイズも同じ38。レングスはRegularより着丈の短いShortになる。カタログでトーマスが着ているポロコートよりゴージが上がりピークドラペルの先端が肩線に届くほどそそり立つなど昔よりエッジの効いたデザインだ。

(13) ワイドなラペル
肩線のあたりまでグッと張り出したワイドなラペル。この押しの強さがポロのポロコートを唯一無二の存在たらしめている。既製品の多くがダブル前の一番上を飾りボタンにする中、ラルフローレンは段返りにしてラペルにもボタン穴を開け、上から下まで全てのボタンを留められる作りになっている。それにしても前ボタンの大きさはかなりのものだ。

(14) 機能的な作り
前ボタンを全て留めた状態。ウェイトコートの別名どおりポロ競技の合間に身体を温めるためのコートとしては完璧なデザインだろう。特に折り返したラペルのフラワーホールを首元の小さなボタンで留めるとすっぽりと首まで覆うことができる。こんな風に襟を立てて首に巻く機会はそうないかも知れないが妥協しない姿勢が良い。

(15) 胸ポケット
ダブルのコートにフラップ付きの胸ポケット…前回も書いたがこのデザインを嫌う洒落者も多い。だが両脇にフレームドパッチポケットが付くポロコートに胸ポケットを足すならフラップ有りが正統かもしれない。因みにパーマネントスタイルの主宰者もアンソロジー(ショップ名)の既成ポロコートのデザインに関わった際、胸のフラップポケットを採用している。

(16) バックベルト
ポロコートの後ろ姿といえばこのバックベルトの存在が欠かせない。チェスターコートなどと違って前身頃や脇にダーツのないポロコートはずん胴なボックスシルエット。代わりにこのバックベルトがウェスト部分を絞ったり後ろ身頃のドレープを生んだりする働きをするというわけだ。試しにバックベルトのボタンを外して着ると雰囲気ががらりと変わる。


(17) 下二つ掛け
ダブル前の内ボタン。下二つ掛け仕様になっているがカタログの中でモデルのトーマスは中一つ掛けで着崩している。ラルフ流下一つ掛けにしても悪くない。ブログIVY STYLEの前任執筆者クリスチャンはボタンを一切留めずに全開で着崩している写真がブログに載っていた。チェスターコートより着崩しても絵になるのがポロコートの魅力だと思う。

(18) イタリー製
前回紹介したキャメルヘアのポロコートはアメリカ製。ロチェスターのヒッキーフリーマンが製造を請け負っていたようだが、今回のネイビーバージョンはイタリー製に変更されている。長年ラルフローレンのOEMを請け負っていたコルネリアーニかあるいはパープルレーベルと同じカルーゾあたりか…。素材はキャメルヘアではなくウール100%と書かれている。

(19) 首裏のタグ
首のタグはCI実施後の新しいタイプ。一時期旧ロゴのタグが限定復活していたが最近またブルーレーベルと呼ばれる新しいものに戻ったようだ。このポロコート、アメリカの現地価格はラルフローレンの本国サイトにアクセスできなくなったので不明だが、インポートブランドはここ数年でかなり値上げしているようだ。

(20) 袖のタグ
袖先に付くブランドのタグ。他にはカシミアやウールマーク、ハリスツイードや生地メーカーのタグが付くこともある。この頃街を歩くとタグを付けたままでコートやジャケットを着ている人を時々見かける。取り忘れたのかと思ったら「後でメルカリに売る時付いてた方が高く売れるから」と教わった。なるほど…と妙に納得したが本当だろうか。

それにしても古い一冊のカタログがこれほど影響を与えていたとことに驚く。手持ちの靴の中でセミブローグが一番多いのもアリゲーターのベルトやクロコダイルの靴に見惚れてレプタイルに目覚めたのも、或いはラルフのネタ元とも言われるフィルソンに夢中になったりカタログを彩るメイン州のモカシンに惹かれたりするのも全てはカタログに通じている。

そんなカタログも既に過去のもの。今やラルフローレンもオンラインの時代だ。カタログの中のイメージ写真に惹かれて「欲しい」ものが見つかるとショップでチェックして購入なんて旧世代そのもの。ネット社会は「欲しい」ものが決まれば検索、商品説明は一読明快で購入後の返品も充実している。昔のように店に出向いて在庫の確認や試着の必要もない。

だがそれじゃあまりにも味気ない、何よりカタログをめくって「欲しい」ものが見つかるのと最初から「欲しい」ものが決まっていて言下にオンラインショップで検索するのじゃ期待感も全然違う。あぁカタログを見返す時のあの高揚感が懐かしい。

By Jun@Room Style Store