John Lobb受注会 | Room Style Store

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2022/12/11 13:53

コロナ禍で長らく延期になっていたジョンロブのトランクショウが3年ぶりに再開した。担当はコロナ禍前に来日した時と同じティームレッパネン。フィンランド出身の彼はロンドンの誂え靴屋ジェームステーラー&サンで靴職人としてのキャリアをスタート。その後クレバリー時代に知り合い、ジョンロブに移籍した後も交流が続いている。


2018年にロブの職人として初来日した際ご祝儀にオーダーした靴を翌年ロンドンの店で受け取った。おもてなしの心でワークショップを案内する彼の人柄を感じて嬉しかったことを思い出す。その年の暮れあたりから新型ウイルスのパンデミックでロンドンの店舗も休業、本人も苦労したようだが再度応援の意味を込めて靴を2足注文した。

ジョンロブは仮縫いなしの納品が通常だがパンデミック最中のオンラインオーダー、しかもラストを新たに削っていることから東京でプレフィッティングすることになった。そこで今回は再開したジョンロブ受注会の様子を紹介しようと思う。

※扉写真はコロナ禍でオンライン注文したキルト付ギリーブローグ。

【2足目 : ギリー】
(1) 仕上がり

1足目がウォールラストだったこともあり、ティームとしてはラウンドトウのギリーに相応しいラストを新たに削ったようだ。扉写真を見ても分かると思うが横から見るとややチゼル気味に落ちるトウはフォスターの匠テリームーアを思わせる。美しく弧を描いたラウンドトウは如何にもジョンロブらしい。

(2) トライオン
まずはキルト付きでフィッティング。アッパーはやや薄めのカールフロイデンベルグ、ライニングを厚くしてバランスを取ったと聞く。「厚手のアーガイルソックスではきついか?」と足を入れると豈図らんや…驚くほどソフトな履き心地だ。なるほどタンがない分甲がストレスフリーだからかくも快適なのかと納得した。

(3) キルトを外してみる
次はキルトを外して本格的なギリースタイルに挑戦。まずは紐の先端に付くタッセルを外すのに一苦労。更にキルトを外してようやくギリーブローグが姿を現す。今回一番こだわったのがつま先のデザイン。ティームと相談してつま先を定番のフルブローグにせずクレセントにしたが仕上がりは上々だ。

(4) 紐の結び目…
靴紐の結び目が縦なのは職人に結んでもらったから。久々に経験した「靴のトランクショウあるあるな出来事」だ。特に試着後自分の靴に履き替える時、縦結びになることが多く、後でこっそり結び直すこともある。なんと言おうか大らかだが、その点日本の靴屋はフィッターも慣れているのか左右綺麗に揃った蝶々結びもお手のものだ。

(5) 履いてみる(その2)
さて肝心なフィッティングだがギリーの歯形に見えるアイレット部分は浮きもなく足の甲にしっかりと乗っている。隙間からのぞくアーガイルソックスの柄もいい感じだ。この組み合わせに憧れてギリーをオーダーしたりアーガイルソックスを集めたりしてただけに嬉しさもひとしお。ギリーはタンなしが正統と聞いて以来ようやく願いが叶った瞬間だ。

【トランクショウの様子】
(6) 60周年
フィッティングの合間にロブのサンプルシューズを色々と拝見…。こちらはジョンロブがセントジェームスの9番地に移転して今年で60周年を迎えた記念用に作ったサンプル。ラウンドトウでやや丸みを帯びたシェイプはジョンロブらしいが黒靴が得意なロブには珍しくカジュアルな茶系というところが面白い。

(7) トランクショウの案内
トランクショウに先立って送られてきたカードにもしっかりと60周年記念サンプル靴が写っている。今回は靴とツリーとシューバッグを全てオーダーすると15%オフという特典が付いていたこともあってティームはかなり忙しかったようだ。会った日も昼食抜きで朝から晩までノンストップのセッションだったらしい。

(8) ダブルモンク
エルメス傘下のロブパリによって有名になったダブルモンク。パリに支店を開いた二代目のウィリアムロブにより1920年代のパリで生まれたデザインとのこと。後年ロブがパリ支店を閉める際エルメスが店ごと買い取りジョンロブパリを設立したのは有名な話。ロブパリが「ウィリアム」と命名したのも二代目の名から来ている。

(9) ウィリアム
今もダブルモンクといえばウィリアムの名前が出るほどロブパリの定番(既成)靴として人気が高い。本家ジョンロブでもダブルモンクをサンプルに加えたり二代目当主のウィリアムロブの功績やダブルモンク誕生にまつわるレガシーをオフィシャルサイトで積極的に広めている。

(10) ソフトなダブルモンク
こちらは同じダブルモンクながら柔らかなグレインレザーのアッパーが特徴。こうしてダブルモンクのサンプルを見ていると次第にビスポークしたくなる。これがトランクショウのマジックだ。ところでロブパリによればダブルモンクはウィンザー公が1945年に初めてオーダーしたとのこと。二代目が1920年代にパリでデザインしたとするジョンロブの説とは食い違う。

【3足目:タッセルローファー】
(11) 仕上がり
次は3足目にオーダーしたタッセルスリッポン。カールフロイデンベルグのボックスカーフらしいきめ細かな革肌が分かると思う。ピッチの細かな摘みモカステッチはビスポークならでは。フォーマルな印象が強くなりがちな黒革もカジュアルなローファーにするとトラウザーズはもとよりデニムやチノとも合わせやすそうだ。

(12) トライオン(その1)
予め黒のタッセルローファーに合うソックスとグレーフランネルのパンツを履いてきたこともあって同席した知人も「今日の格好にピッタリ合っていますね~」と言いながら写真を撮ってくれる。ブルックスブラザーズでお馴染み、踵部分のフォクシングも入れてタッセルローファーをスェードで注文した客がいたようだ。

(13) トライオン(その2)
ジョンロブには珍しいスマートなラウンドトウはティームの美意識。Bow Tassel Loaferの名のとおり蝶結び(Bow)のレース先端にタッセルの付いたローファーはスリッポンタイプの中でもとびきりお洒落なデザイン。手編みのレースが履き口を取り囲む様は単調になりがちな黒のスリッポンを華やかにしている。

【参考資料】
前から見た様子
ボックスカーフの名の由来は開発当時好んで用いた靴屋ジョセフボックスの名前から来た説が有力らしい。そのジョセフボックスは後にジョンロブに吸収されている。そのせいか分からないがジョンロブは良質のボックスカーフをストックしていると聞き、初めて素材(革)から先に決めてデザインを考えた靴になる。如何にも磨き甲斐のある革だ。


(14) 黒の紐靴(サンプル①)
せっかくなので黒靴のサンプルも…こちらは羽根の短い2アイレットフルブローグダービー。ジョンロブではHilo Shoes(ハイロー)と呼ぶタイプだ。フロント部分はデザインの自由度が大きくプレーンからウィングチップまで様々ある。ハイローは「控えめなエレガンスの頂点にしてもっともクラシックなスタイルの一つ」とのこと。

(15) 黒の紐靴(サンプル②)
こちらはきめの細かな黒革が如何にも上質そうなストレートチップ。履く機会は滅多にないがオーダーしたくなる美しさがある。ドレスコードでいえばモーニング着用時に履くフォーマルな靴になるが主力はビジネスの場という説もある。因みに最もフォーマルな靴といえば「内羽根のプレーントウ」とのことだった。

(16) セミブローグ
こちらは正統派のセミブローグ。バックステイにもパーフォレーションの入る派手なタイプだ。ウィキペディアによれば1900年代初頭、「キャップトウよりスタイリッシュでフルブローグより目だたないデザインを…」という顧客の要望に応えてジョンロブがデザインし製造したのが始まりとされている。

(17) ナビーカット
ヘンリーマックスウェルにも似たショートノーズのセミブローグダービー。年季を感じさせる茶革の質感が何ともそそる。ジョンロブでは外羽根の靴をナビーカット(Navvy Cut)と呼び、「クラシックで洗練された汎用性の高いスタイル」と位置付けている。写真の靴はジョンロブ風に言えばハーフブローグナビーカットになる。


(18) ノルウィージャン
こちらはナビーカットノルウィージャン。昔SNSでノルウィージャンダービーと書いたら「なんのことだ?」と質問が来たことがある。靴の写真に添えた文ならダービーは外羽根を指すと分かるはずという思い込みが間違いのもと。因みに靴の聖地ノーザンプトンでは外羽根靴をギブソン(Gibson)と呼ぶらしい。ダービーと聞いて競馬を思い浮かべる人もいればギブソンと聞いてエレキギターを思い浮かべる人もいるということだ。

(19) フルブローグダービー
こちらはナビーカットフルブローグ。(14)の写真でも触れたがジョンロブのウィングチップはWの真ん中が尖っていないのが特徴だ。J.M.ウェストンにも似ている。ボリュームのあるラウンドトウにはよく合うのかもしれない。最近はスタイリッシュなベヴェルドウェストの内羽根靴よりガッチリとしたスクェアウェストの外羽根靴に心惹かれる。


(20) ゴルフシューズ
こちらはゴルフシューズのサンプル。スパイク付きのラバーソールは出し縫いにマシンを使っているようだ。ジョンロブのサイトには「ノルウィージャンナビーカットフリンジタン」と長い名前が付いている。履く機会は滅多にないのに茶白のコンビ靴を見るとつい手に取りながら「これスパイクなしで履けないかな…」なんて考えてしまう。

(21) スエード
タッセル付フルブローグカジュアル(ローファーの意)。英国のスエード靴というとタバコやコーヒーが定番だがこちらは少しオリーブがかっている。毛足の長い表面は一見バックスキンのようにも見える。ジョンロブは上質な革を多数ストックしているようなので来年ロンドンのワークショップを訪れたら色々聞いてみたい。

(22) アンクルブーツ
こちらはアンクルブーツ。ブーツメーカーのジョンロブはシャフトの長いブーツが得意とはいえ持ち込んだサンプルはこちらのブーツ2型のみ。手前は日頃チャッカブーツと呼ぶがティームはジョッパーブーツと呼んでいた。因みに公式HPではTwo Hole Lace Jodhpur Bootsと記されている。

試着した2足の靴はロンドンに戻って微調整の上、セントジェームスのワークショップから送られることになる。EU脱退後の英国は2021年1月1日からVATタックスフリーショッピング制度がなくなり、VATを免除されるのは母国に販売店から直接送られる場合のみとなった。空港でVATの書類に判を押してもらう列ができる光景はもう見ることができない。

こうした英国におけるショッピングの魅力喪失で4億ポンドが失われ商業地区や空港で2万人以上の職が失われると試算されている。トラス首相誕生時に一時検討されたVATフリーショッピングの復活はまさかの最短辞任により頓挫。ロンドンの地位低下は航空券の予約からも明らかで、来年夏のパリ便とロンドン便では空席状況に大きな差がついている。

結局来年のフランス旅行はパリ往復がキャンセル待ちのためロンドン往復に変更。鉄道でパリに入ることにした。そうなればロンドン滞在は到着日と帰国前日の2日で事足りる。目下ジョンロブの訪問以外プランは全く白紙というのじゃあまりにも寂しい。

By Jun@Room Style Store