創業125周年を祝う | Room Style Store

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2023/01/09 09:17



1896年、アラスカに程近いカナダのユーコン準州クロンダイクで発見された金鉱の噂が伝わると一攫千金を狙って多くのハンターが中継地のシアトルに集結、身支度を整えて現地を目指した。厳冬期は−45℃を下回り「春が来たことさえ気付かない」ほど極寒の地と言われるクロンダイク。そこで生き延びるための衣料をハンター達に提供すべく1897年シアトルに店を構えたのがフィルソンだった。

ハンター達で賑わったシアトルも1899年のゴールドラッシュ終了で賑わいを失うとフイルソンも岐路に立たされる。だが究極のサバイバルウェアづくりから得たノウハウを生かして最良のアウトドア製品を世に送り続け、昨年は創業125年を迎えるに至った。中でも地厚で撥水性の高い24ozマッキノーウールを用いた商品は使えば納得の優れもの。昔も今も変わらず唯一無二の存在感を放っている。

そこで今回はフイルソンの125周年を祝うとともに限定クルーザージャケットや新たに購入したマッキノーベストを試した印象について書き記そうと思う。

※扉写真は125周年モデルとベスト

(1) 世界限定76着
フィルソントーキョーによれば今回日本に入荷した125周年記念モデルは全部で7着だそうだ。76着をアメリカや欧州、アジアなどフイルソンの代理店に分配すれば日本への入荷数が少ないのも納得。購入したのはシリアル番号49番目のSサイズ。日本におけるボリュームゾーンのみ2着ずつ、サイズによっては一点ものもあったと聞く。

(2) パッチワーク
125周年モデルの特徴はパッチワーク。アーカイブから復刻した①黒と灰色のバッファローチェック②グレーのオンブレチェック③グレーのダイヤゴナルの3種類を手作業で繋ぎ合わせたスペシャルエディションとの説明付き。ウェブサイトによれば生地も26ozと従来の24ozより更にウェイトが増している。

(3) 限定デザイン第1弾
今回の125周年記念モデルはいくつかのパターンが用意されていた。アメリカのサイトでは順次販売されていったがこちらは第1弾。①赤みの強いバッファローチェック②グレーのオンブレチェック③赤の格子が入ったグレーのバッファローチェックを使用している。限定30着と生産数が少ないため本家アメリカのサイトでは即完売に近かった。

(4) 限定デザイン第2弾
続いてリリースされた限定モデル第2弾。こちらは限定101着販売された。準レギュラーの①青黒バッファローチェック②青緑のオンブレチェック③黒と灰色のバッファローチェックを用いている。グレーの部分は日本入荷の限定モデルと同じ生地だがコバルト色のオンブレチェックがこのクルーザーのポイント。やはり第1弾同様早々と完売している。

(5) 限定デザイン第4弾
こちらは日本に入荷した第3弾の後継。95着限定販売の第4弾かつ最終モデルになる。①赤のオンブレチェック②緑と黒のバッファローチェック③ソリッドブラックの3種類。アウトドアに馴染みやすい緑の配分が多いのが特徴。最初から全てを販売せず順を追って限定モデルをリリースすることで125周年を盛り上げていく手法は中々のものだった。

(6) バックポケット
さて日本入荷版に話を戻そう。背面はダイヤゴナルの下地にバッファローチェックの重ね縫い。26ozのマッキノーウール2枚分の保温力は相当なもの。ところがフィルソンではこのマッキノークルーザーの肩と袖を2枚重ねにしたダブルマッキノーにダブルマッキノーの襟元にシアリングファーを付けた究極の防寒着パッカーコートまで用意しているのだから恐れ入る。

(7) 袖口
シャツ袖仕様にカフボタンが2ツ。ウェアに合わせて袖口をきっちり閉めたり緩めたりできるのが嬉しい。日頃は外側のボタンを、寒い時は内側のボタンを留めれば冷気をシャットアウトできる。普段使いなら外側のボタンが便利、いちいちボタンを外さずとも手がスッポリ入るので着脱が苦にならない。

(8) 胸ポケット
クルーザーの名の由来は森林を巡回をる人を意味するとか。ポケットのフラップを捲るとペンやライトを差すスロット付きのサブポケットが現れる。ポケットは全てスナップボタン式。手袋をしたまま開閉できるようとの配慮からだとか。一方前身頃はジャケットらしくボタン留め。なるほど「森の住人のタキシード」と呼ばれるのもなんとなく分かる作りだ。

(9) 野外にて①
雪の残る信州の屋外で撮影してみたところ。縦長のパネル状になったポケットを左右に配することで背中同様前身頃もマッキノーウールを2枚重ねしたようなもの。保温力が高いのも納得する。因みにこの日の朝の気温は−10℃前後。−30℃を記録した北海道の陸別に比べれば生温いが都会の生活に慣れた身には堪える。

(10) 屋外にて②
L.L.Beanのハンティングジャケットに見られるアクションプリーツはないがアームホールを大きく取ることで肩や腕を動かしやすくしているのがクルーザージャケットの特徴。1914年の特許取得時とはデザインが異なっているようだが年月をかけて少しずつ改良を重ねて完成形に達したアウターの傑作がここにある。

(11) 着てみる①
朝早くストーブ用の細薪を運んでいるところ。下にハイネックのセーターを着ていることもあって-10℃の気温でもマッキノークルーザーだけで十分。それよりウールの手袋じゃ薪を運ぶのに心もとない。そんな時に活躍するのがハンドウォーマーポケット。開口部が大きく手袋のまま手を入れられるのが嬉しい。


【参考資料①】
フィルソンの昔の広告。現行品とほぼ同じデザインだが上下のポケットはパネル状ではなく別々に取り付けられていたようだ。着丈はちょうどヒップが隠れるジャケットレングス。クルーザージャケットと呼ばれるのも納得だ。因みにウールパッカーの方はコートと名が付くだけあってクルーザーより着丈が7㎝長めに作られている。

(12) 着てみる②
上の【参考資料①】によればFull carrying pocket across the backと書かれている。背中両脇のポケットは中で繋がっていて後ろ身頃全体が大きなポケットになっているというわけだ。一体何を入れるのかとも思うがあると嬉しい機能…地図でも入れていたのだろうか。着たまま手を後ろに回して取り出せるようフラップも開口部の位置もよく考えられている。

(13) 限定品の価格
125周年モデルのアメリカ価格は795㌦。日本で発売された頃は1㌦=150円だったので当時のレートに手数料4%を上乗せしたとして現地価格はおよそ124,000円。国内価格は165,000円(税込)だから限定品とはいえ高めの価格設定だろう。尤もebayでは定価で購入したセラーが強気の2,500㌦の値付けで早くも出品している。

(14) マッキノーベスト①
一方こちらは年末のイベントで購入、その場でカスタマイズしたマッキノーベスト。冬場に使えるかどうか厚手のニットと組み合わせてフィールドで実際に試してみた。まず選んだのがバッファローチェックの黒に近いチャコールのヘチマ襟カーディガン。中に着たシャツもウール&コットンのビエラ生地。これなら氷点下でも十分いける。

【参考資料②】
ワッペン多めの背中。今回は上半分に集中してワッペンを配置したが、次回のイベントで下に追加することも可能だ。写真を見ると上下はともかく左右が中心寄りに思える。ただワッペンの端が両脇に掛かると着心地に影響するので店員と相談、アームホールより内側に配置している。結果は着てみなければ分からない…。


(15) マッキノーベスト②
リアルに着てみた様子。赤黒チェックに合わせて赤または黒が使われたワッペンのみ選んだせいか良く馴染んでいる。ただ店舗で試着しながらワッペンの位置決めをしたわけではないので結果についてはやや不安だった。次回は完成品を配達してもらわず店で着てチェックしてもらう方が良いかもしれない。

(16) マッキノーベスト③
無地のマッキノーシリーズも人気らしいがアメカジの定番といえばやはり赤黒のバッファローチェックに行き着く。元祖はウールリッチだがハンター同士が誤射しないように赤と黒の大柄チェックにしたという説やNY州のバッファローという地名に因んで名前を付けたという説など逸話も多い。都会で着るのも良いがやはり絵になるのは森の中だろう。

(17) フェアアイルと合わせる①
次に柄物同士の組み合わせということで用意したのが手編みの柄物セーター。大柄のバッファローチェックにはスケール感を変えて小柄の連続したフェアアイルが相性良し。因みにベストはMサイズ。ジャケットの下に着るならSサイズで十分だろうがバルキーなニットの上に重ね着するなら店員お薦めのMが正解のようだ。

(18) フェアアイルと合わせる②
弾力性のあるオレゴン州産のバージンウールから上質なものを厳選使用して織られたマッキノーウール。オフィシャルサイトでも撥水性が高く雨や雪の中での使用に最適と謳っている。目の詰んだ生地は自重の30%もの水分を含有できるらしい。新素材には敵わないだろうがトラッド好きな自分はこうした天然素材に心惹かれる。

(19) フェアアイルと合わせる③
Wikiによると「20世紀の終わりになるとマッキノージャケットの需要は減少したがフィルソン、ジョンソンウーレンミルズ、ペンドルトンによって引き続き作られている」とのこと。試しに3社を検索したがジャケットに加えベストやキャップにグローブなどラインナップが豊富でアメリカ製にこだわればフィルソンに軍配が上がる。


(20) ダブルマッキノーキャップ
こちらはパッチカスタムイベントで持ち込んだダブルマッキノーキャップ。紐を外して畳まれた耳当てを下ろせば肌触りの良いシアリングファーがすっぽりと耳を覆う。ファッション性の高いキャップとは真逆、見た目はスマートとは言えないがダブルマッキノーの名が付くだけあって保温性は群を抜く。紐を顎で結べば吹雪の中でも平気に違いない。

(21) 被ってみる
帽体の裏側にキルティングが張られているおかげでちょっとした屋外の作業なら耳当てを下ろす必要もない。試しにシアリングファーを下ろして耳からうなじまですっぽり覆うと多少窮屈な感じがするがその分体感温度は一気に上がる。Form follows function(形態は機能に従う)という言葉どおりの隠れた逸品と言えよう。

今年の冬は寒さが厳しい…と言われていたわりに信州の年末年始は穏やかだった。12月の寒波で積もった雪がところどころ残ってはいるものの、日中は60/40クロスのマウンテンパーカで充分なほど。気象庁によれば年明けから向こう3ヶ月の長期予報は厳冬から一転暖冬で日本海側の降雪量も例年より少な目だとか。

どんな天候条件でも保温性を発揮するマッキノーアイテムには物足りないだろうが、サッシの結露が凍って朝窓が開かないなんて東京じゃ味わえない。張り詰めた冷気の中で薪を運んだり暖房用の燃料を足したりする度に極寒の地で生き延びるための衣類を提供してきたフイルソンのレガシーを身近に感じる新年だった。