最強のアウター | Room Style Store

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2023/02/21 01:44


最近何かと話題の「バックカントリー」スキーだが、本来はスキーを生かして雪山登山をする「山スキー」と同意語に近い。文春オンラインでは「厳密にいうと山スキーがスキーの機動力を生かした雪山登山の一スタイルであるのに対し、バックカントリースキーの主目的はまず滑走ありき、雪山を滑走することにある。」と違いを説明している。

冬山のエキスパートにして「山スキー」愛好家から譲り受けた「ダウンジャケット」が届いた。70年代終わりに高田馬場の名店「カモシカ」で購入、極寒の雪山では抜群の保温力だったとか。とはいえ最近雪の少ない信州の田舎家ではややオーバースペックか。せいぜいスキー場で着ることにしてもう少し気軽に羽織れるものを探すことにした。

そこで今回は保温力が高くて街着にも使える最強のアウターを探してみようと思う。

※扉写真は冬の必需品ダウンアイテム

(1) 1970年代最強のアウター
知人から譲り受けたダウンジャケット。40年以上前とは思えないほど状態は良好、初めてのイエローも袖を通してみると意外に悪くない。元々イエローやオレンジにレッドなど登山用のアウターが派手なのは「遭難時に発見しやすい」ようにだとか。なるほど…一方体温を逃がさぬようピッタリとした袖口や裾は機能的だが街着には不向きか…。

(2) ゴアテックス
1967年発表のゴアテックスは「水は通さず水蒸気を通す」優れもの。水に濡れると保温力が一気に低下するダウンにとって理想的なシェルだろう。とはいえ今から40年以上前の製品…表面に走る縫い目から水分が染み込まなかったのか今度聞いてみたい。因みに最近のゴアテックス製品は縫い目を塞ぐシームテープが貼られているそうだ。

【参考資料①】
製品タグを見る
ダウンの割合は暖かさの基準と言われるが100%が良いか…と言えばそうではなくダウンが団子状になるのを防ぐためにフェザーを敢えて入れるそうだ。タグにはホワイトグース(ダウン)が80%でフェザーが20%と記されている。羽毛布団ならダウン率80%は最低ラインだがダウンウェアなら70~90%が目安。80%なら十分高品質なレベルだったろう。

【参考資料②】
懐かしのワッペン
1983年のスイスアルプス登攀時の記念パッチもポケットに入っていた。山に向かう知人をユングフラウヨッホで見送った後、自分はドイツを周遊。知人はその後モンブランも登りシャモニーで再会した。パッチのインターラーケンはスイスの全鉄道が半額になる超お得な½プライスチケットを買うため売り場で一緒に並んだ思い出の地だ。

《アークティックパーカ》
(3) 新調ダウンジャケット
カモシカのダウンでイエローのアウターに目覚め、街着用に本格的なダウンジャケットを探して辿り着いたのがこちら…毎年各ショップを賑わすウールリッチの名作「アークティックパーカ」だ。如何にも汚れが目立ちそうだが、さりとていつもダークなアウターばかりじゃつまらない。久々の冒険に気分も高揚する。

(4) マスターピース
カモシカのダウンはゴアテックスだったがこちらはシェラデザインで有名な60/40クロスを採用。独特の光沢が懐かしい。1972年に発売されたアークティックパーカはアラスカ油田のパイプライン敷設に従事する作業者の命を守りつつ作業のしやすさも兼ね備えた名作との説明を読んで納得…保温力も着心地も文句なしだ。

(4) 使い心地
マチ付きポケットは収納たっぷり。手袋のままでも掴みやすい大ぶりなボタンやスナップボタン留めのハンドウォーマーなど使い勝手のよさが光る。フードにはコヨーテのファーが付いていて、被ると耳や頬、額を優しく包み込む。ブリザードのような悪天候で力を発揮するらしくフードの根元にはベルクロが配置されている。

(5) 性能
インナータグを見るとダウンの割合はモンクレールやカナダグースと並んで90%とトップクラス。もっともユニクロのインナーダウンも90%ある。割合もさることながら詰まっている量もポイントだ。パンパンに膨れたV字キルトのジャケット内側を見ればダウンの量も想像できるというもの…インナーポケットがあるのも有難い。

【参考資料③】
タートルネック
以前も書いたが冬の田舎暮らし必需品といえばなんといってもセーター。外出時は上にダウンジャケットやマウンテンパーカなどアウターをさっと羽織れば万事OK。欲をいえばクルーネックやショールカラーよりタートルネックかハイネックがなお良い。理由は簡単…シャツを着ないで済むからだ。

(6) 枕草子「冬はつとめて」
朝日が木立の間から顔を出す早朝、陽の光を浴びるだけで身体がどんどん温まってくる。とはいえ気温は0℃以下、調子に乗って手袋も脱いだらすぐ悴んできた。ホットコーヒー入りのカップで手を温めつつ耳を澄ます。どうやら近くでキツツキが木に穴を開けているらしい。ウグイスの声が聞けるのもそう遠くないはず。

(7) 取外し可能なファー
取り外し可能なファーはダウンをクリーニングに出すときとても便利だ。ところでアークティックパーカとよく似たカナダグースは2022年末でリアルファー(毛皮)を使った製品を終了したそうだ。持続可能な環境への配慮だろうか、ウールリッチでもノンファー(NF)の製品が新たに投入されている。

(8) 足元
一時の人気は収まったが今もネットで検索すると継続販売されてる息の長いブーツ。それがマルモラーダのマウンテンブーツだ。何しろラルフローレンが別注をかけたほど…格好良さは折り紙付き。細身に見えて足入れしやすい木型や存在感たっぷりなノルべのステッチなど流石はイタリアもの、グッチのビットモカシンに匹敵する華がある。

(9) テフロン加工
アークティックパーカのタグを見ると「コーティング等樹脂加工」と書かれている。本来コットンが水分を含んで膨れるとナイロン繊維との感覚が詰まって防水機能を発揮するアナログな「ロクヨン」クロスにテフロン加工を加えて撥水性をより強化したようだ。カモシカのダウンと同じゴアテックスVerもあるが3万円アップのプライスタグが付く。

【参考資料④】
ジャケットの袖口
ユーザーの声で「袖口が汚れる」という声が上がっていた袖口。写真のようなイエローだと袖口の汚れも特に気になるかもしれない。他のユーザーから「手袋をはめること」が提案されていた。確かに手首が直接袖口に当たらないようにするだけでも随分違う…とはいえもっと気楽に着たい気もする。お洒落道は何かと大変だ。

N-3Bタイプ》
(10) デニム&サプライ
さて、うってかわってこちらはミリタリー調のダウンジャケット。目にも鮮やかなウールリッチから一転アースカラーの地味で着古した感じが堪らないデニム&サプライのものだ。森に囲まれた田舎の風景にはこちらの方がしっくりくるかもしれない。断捨離の風潮から逆行するが街用と田舎用に2着ダウンを持つのが理想か…。

【参考資料③】
取り外し可能なファー
デニム&サプライのファーも取り外し可能。ただウールリッチとは違って最初からフェイクファーを使っている。ところでダウンは(ドライ)クリーニングに出さない方が良いと聞いていたがそれは過去の話、最近はクリーニング店も羽毛用に水(湯)洗いをすることで羽毛の油分を損なわずに仕上げるそうだ。

(11) 機能性
アメリカ空軍で採用された極寒地用フライトジャケットのN-3Bをさらに強力にしたダウン仕様の力作。ウールリッチに負けず劣らず機能的で①スナップボタンのポケットや②比翼仕立ての前身頃③大ぶりなポケット④顔まわりを覆う大きなフードなどなど…ミリタリーものをベースにしただけのことはある。

【参考資料⑤】
パッチワークセーター
下に着込んだパッチワークの手編みセーター。スノーフレークや星条旗、スキーモチーフにタータン、フェアアイルとアラン模様などいずれもハンドニットの技を駆使している。デニムは連日履いてもあまり目立たないがせめてセーターは毎日替えたいもの。お洒落心を失わないよう心掛けたい。

(12) ミリタリー調
セージグリーンのダウンジャケットにサンドベージュのデニム。どちらもミリタリーカラーの範疇、そこに色褪せたオレンジ色のヌバックブーツを投入。ティンバーランドの傑作6インチブーツの登場だ。防錆加工の施されたアイレットやオリジナルのソールはラギットな雰囲気満載、かなり汚れたが既に絶版となった希少なアメリカ製だ。

(13) インナーリブ
袖口はインナーリブを採用。隙間から寒風が侵入するのをシャットアウトするだけでなく袖口が汚れるのを防ぐ役割も兼ねている。新品時から洗いざらしのような古着加工が施された表面生地はコットン/ナイロンの混紡、一方裏側はコットン100%と素材を変えている。肝心の詰め物ダウンの割合は60%と少ないがたっぷり詰まっている。

(14) 庭先にて
ドラマ「踊る大捜査線」の青島刑事といえばM-51ミリタリーコートとブルックスブラザーズのスーツがトレードマーク。全てがよれよれのコロンボと違ってコートはしおれていてもその下はパリッとしたスーツというのがミソ…第1ボタンを外したBDシャツ姿も格好良かった。このダウンジャケットもそんな着こなしが似合いそうだ。

《ダウンベスト》
(15) ロッキーマウンテン
この日はダウンジャケットではやや暑いくらいの春日…そんな時はダウンベストが重宝する。袖がないので腕は動かし易くて快適だ。写真はアメリカのワイオミング州で生まれたロッキーマウンテンフェザーヘッド。本国では製造が途絶え商標権も消失していたが2005年に日本の会社が苦労して商標権を獲得、復刻させた日本発のアメリカンブランドだ。

(16) シアリング付の襟
このベストの最大のポイントはシアリング付きの襟…これがあるだけで風が吹いても首元が暖かい。フィルソンのパッカーコート然り、襟元にシアリングやファーを配置するのはデザインだけじゃなくて意味がある。ウェスタン調の切り返しやウォッシュのかかったデニム地にリベット打ちのハンドウォーマーがアメカジ好きの自分には堪らない。

(17) アップルウォッチ
ジャケットをベストに替えて再び撮影。肩の解放感がなんとも心地よい。因みに田舎暮らしで役に立つ小物といえばアップルウォッチ。エクササイズを記録するとバッテリーが一気に減るがウォーキングやランニングペース、移動距離や心肺機能などフィジカルチェックはお手のもの。おかげで機械式時計の出番が巡って来ない。

《カーコート》
(18) ダブルフェイス
最強のアウターとの呼び声も高いダウンジャケットだが実際他のマテリアルも試してみようと最初に用意したのがダブルフェイスの英国製カーコート。ブルックスブラザーズのものだがネイビーの表地とキャンベルタータンを貼り合わせた厚みのある生地が特徴。保温力はダウンに分があるがダウンより断然お洒落に見える。

(19) 庭先にて
クラシックなデザインのカーコートは前ポケット2つのいたってシンプルな作り。スウェルトエッジの襟や肩のライン、チェスト部分の切り返しがアクセントと言えそうだ。襟からのぞくタータンの裏地をちらりと見せたいところだが残念なことに着てしまうとそれは不可能。トラッドなブルックスらしい控えめな作りだ。

(20) 冬のスニーカー
カーコートは田舎じゃ結構目立つ…最近ネット上を賑わす「移住者への提言」にある「都会風を吹かせない」や「品定めされている」という言葉が脳裏をよぎった。その点ニューバランスなら地元の若者も履いている。控えめで見慣れたアイテムこそ田舎暮らしの必需品、リソール済の古いアメリカ製M576などその最たるものだ。

《フライトジャケット》
(21) シアリング
ダウンとよく比較されるシアリング(ムートン)もの。確かにB-3タイプのボマージャケットは下にTシャツ1枚で十分と言われるくらい保温力がある。映画「メンフィスベル」では与圧装備のないB-17爆撃機のクルーが寒さを凌ぐために着ていたシーンを思い出す。自分も冬のバイクツーリングには世話になっている。

(22) 着てみる
ムートンで野外活動にトライ。前を開けていると感じないが一旦ジッパーを閉じるとすぐに暖かくなる。手袋をした状態で前ジッパーを留めることは可能だが腕が動かし難い。それに小さ目のポケットや服自体の重さも気になる。それでも服好きを魅了するレザーアイテム…中でもフライトジャケットに一度は心惹かれる服好きも少なくないはず。

(23) ダナーマウンテンライト
B-3を着ての仕事も終わり再び小休止…因みに足元はダナーマウンテンライトに履き替えている。ホワイトソールの元祖はレッドウィングだが悪路でも足音が立ちにくいので狩猟用の靴に使われたのが始まりとか。こちらはせいぜい春のたらの芽や秋の山菜取りに森の中へ入るくらいだが名前のとおりライトな履き心地が味わえる。

冒頭で紹介した雪山用ダウンジャケットだが山登りの最中に着ると汗をかいて逆に体を冷やすらしい。従って専らテント場や休憩中など動かない時に着るとのこと。冬山で使える究極のアウターなら街中でも無類の保温力を発揮するはず…と得意げに街中で着なくてよかった。きっと汗だくだったにちがいない。正に冷や汗ものだ。

最強のアウターはダウンとの声も聞くが最近はサスティナブルな観点からリサイクルポリエステルで作られたプリマロフトを採用するアパレルメーカーも多い。ノースフェイスやRRL、L.L.ビーンなど…知らぬ間に身近になっているだけでなく今回紹介したウールリッチでさえプリマロフトを用いた防寒着をラインナップしている。

数十年後、人口羽毛や植物由来のフェイクレザーのように天然素材が殆ど合成物質に置き換えられていったらその時ファッションも大きく変わっているに違いない。見届けることはないだろうが楽しみではある。

By Jun@Room Style Store