(続)たかが靴下されど靴下 | Room Style Store

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2023/02/27 04:41


2023年を迎え久しぶりに英国の老舗靴下メーカーにオンラインで注文を入れた。ところが待てど暮らせど注文後のステータスが更新しない。公式HPには「発送準備が整い次第メールアにて連絡」あるいは「2週間で発送」と謳っているのにどうしたことか…念のために「連絡がないのならカード会社を通じてチャージバックを申し出る。」とメールを送った。

すぐに折り返し連絡が入り、追跡番号と共に「注文品を発送した」と書かれていた。どうやら1月11日にロイヤルメールにサイバー攻撃があり業務を一時中断していたらしい。26日に国際輸出サービスは再開されたが滞っていた荷物を捌くまでかなり時間がかかったようだ、結局1月31日に注文した品物は3週間ほどで到着。ただ今もステータスは待機のままだ。

ともあれ今回は英国から届いたばかりの注文品を紹介しながら靴下の魅力を再度探ろうと思う。

※扉写真は新入りの靴下

(1) 英国からの荷物
今回注文したのは英国の老舗ソックスメーカーのコーギー。1月は夏のセールに比べて値引き率が大きい。年に1度のビッグセールと位置付けるショップもある。写真のソックスは通常£19.50(3,180円)だがセール時は£11.70(1,907円)と英国の老舗ソックスメーカーにしてはリーズナブル、それでいて日本の靴下にはない色目が大きな魅力だ。

(2) ロイヤルワラント
コーギーの実力は王室御用達であることからも証明済み。社名の横にプリンスオブウェールズの紋章がプリントされたソックスは見るからに上質そうだ。5月6日にはプリンスオブウェールズからチャールズ国王へとコロネーション(戴冠式)が行われる…王室御用達の紋章やプリンスオブウェールズの文字も替わるのだろう。

〈参考資料①〉
コーギー公式サイト
公式サイトによればコーギー社は1893年にウェールズで創業したとある。その後60年間ソックスのみを生産し続け、1960年代になるとニットウェアへと生産を拡大。1988年には10年間チャールズ皇太子(当時)がソックス及びニットウェアを愛用した実績からロイヤルワラントを授かっている。今年130年を迎える名門ニットメーカーだ。

〈参考資料②〉
パンセレラ公式サイト
一方こちらはロイド別注品として既に紹介済のパンセレラ。1937年にレスターで創業。当初はミッドランズホージュリーミルズと名乗り女性用の靴下を製造してたらしい。1945年にパンセレラと社名を変更。Fine English Socks Makerとしての歴史を刻んでいる。オンラインショップでは定価のアーガイルソックス、値段は1足20£(3,274円)と意外にリーズナブル。

【英国二大ソックス比較】
(3) アーガイル三番勝負
英国製のベンチメイドシューズが紳士靴の世界で確固たる地位を築いているのと同様、紳士用ソックスの世界でもパンセレラとコーギーといえば英国を代表する高品質なソックスメーカー。ニュー&リングウッドやコーディングスといったハバダッシェリー(洋品店)でも両者に別注をかけたものを店頭に並べている。

(4) パンセレラのバリエーション
以前紹介したロイドフットウェア別注(左から8足)と今回追加したパンセレラ純正(右の2足)。18種類の基本色から3色選ぶ組み合わせは4896通り、ドットのクロスラインを入れれば更にバリエーションは増える。各ショップでセンスの良い配色を別注しているようだ。太めの糸で編んだソックスならでの温もりとカジュアルな外観が特徴。

(5) コーギーのソックス
こちらは英国から届いたコーギーのソックス。アーガイルは3種類だけなのでキジの模様が入ったソックスも追加している。社史をみるとコーギーのアーガイルソックスに目を付けた米国人バイヤーが持ち帰り世界中に広まったとのこと。ブルックスブラザーズが最初に輸入したアーガイルソックスはこのコーギーだったようだ。

(5) パンセレラのサイズ感
ロイドの別注(左)はMサイズ(UK7.5~9.5)のみだが今回パンセレラ(右)ではSサイズ(UK6~7)を購入。日頃UK8~8.5の靴を履いているがパンセレラのMサイズはやや大きい。レビューにも「作りが大きめ」とあり、ものは試しとSサイズを選んだ。 こうしてみるとパンセレラの魅力はアーガイルの配色、日本のソックスメーカーにはないものばかりだ。

〈参考資料③〉
Mサイズの上にSサイズを重ねてみたところ。ボディ部分の幅はMがやや広く丈は5㎜、踵からつま先部分も5㎜ほど長い。この小さな違いが差に繋がる。柄物のソックス、特にアーガイルは足に沿ってフィットしているかどうかがポイント。前回の靴下特集で紹介したスラウチ(ルーズ)ソックスとは真逆のピッタリ感が求められる。

(6) コーギーとの比較
パンセレラSとコーギーMを比べると気付くのが①ダイヤ柄の入り方。コーギーの方がつま先部分までダイヤ柄を配置している。一方ボディの②レングスはサイズの小さいパンセレラの方が長い。③フット部(踵からつま先)はMサイズのコーギーの方が長め。ダイヤ柄の上に走る④クロスはドットのパンセレラに対して直線のコーギーとで見た目がかなり違う。

〈参考資料④〉
パンセレラのつま先
パンセレラのつま先(裏側)新旧比較。以前はHand linked Toeと説明していたが最近はSeamless Toeとしている。よく見ると確かに以前は手作業だったように見えるし最近は機械仕上げに見える。何しろほんの小さな石の粒が一つ靴に入るだけで違和感を感じる敏感な足の皮膚…フラットなシームも履き心地向上に欠かせないという訳だ。

(7) 両者の質感
コーギーの方は63%のウールに37%のナイロン。一方のパンセレラはウール70%にナイロン30%、ウールの割合が多いパンセレラが太い糸で編まれた秋冬物の顔つきなのに対してコーギーの方は細い糸で編まれたイヤーラウンドな雰囲気。内羽根のフルブローグならコーギー、外羽根のスェードならパンセレラとソックスを使い分けるのも悪くない。

【パンセレラVSコーギー】
〜第1回戦:フィット〜
(8) パンセレラ(Mサイズ)
まずは第1回戦フィットの比較。先攻のパンセレラからはMサイズのバーガンディが登場。秋冬向けのウールソックスに似合うのはカントリー調の外羽根。プレーンな外羽根ながら旧エドワードグリーンの名ラスト#202を用いたウィンダミアの登場だ。素材はウォルナットカントリーカーフ、旧グリーンらしいアンティーク仕上げが施されている。

(9) 履いてみる
最初にふくらはぎまでしっかりとソックスを引っ張り上げてから靴を履く。リブ編み部分のゴムがソフトなのでずり落ちないようソックタッチを使おうかなんて思ってしまう。パンツの裾と靴の間からちらりと見えるダイヤ柄がポイント。パンセレラの場合はやや大きめのMサイズでも足にフィットして綺麗な菱形が覗いている。

(10) コーギー(Mサイズ)
後攻のコーギーはMサイズ。ウールの割合が少なく番手の高い糸で編まれたドレッシーなソックスということで内羽根のフルブローグ、ただし先攻と同じくシボ革の靴を用意してみた。今や有名になり過ぎたロシアンハイド、沈没船から引き揚げた革で作られた1足とネイビベースのソックス…果たして相性や如何に。

(11) 履いてみる
履いてみるとブルーのクロスラインが意外に目立つ。内羽根靴は紐をしっかり閉じるので自然と甲がきつく締まる。そのせいか足首の前部に靴下のシワが寄ってしまったようだ。ただし履いているのはMサイズ、もしSサイズだったらもっとフィットする可能性もある。次回コーギーにオーダーするならSサイズが良いだろう。

〜第2回戦:色合い〜
(12) パンセレラ
お次は色合いから。先攻のパンセレラは新色のラスト(錆鉄色)。プレッピーなオレンジ色のソックスと違って落ち着いた色目がパンセレラの真骨頂、茶色の靴なら何でもござれの万能色だ。因みに英国のパンセレラ公式サイトを覗いてもこの配色はなし…日本の輸入元真下商事による別注ということになる。

(13) コーデ
パッと目を引き元気な気分にさせてくれるオレンジ色(錆鉄色)…相性のいい色を調るとミカン色や朱色、ベージュやブラウンなど同じ暖色系を選ぶとまとまりが出るようだ。試しに靴はタバコスエード、パンツはミカン色のコーデュロイを用意…なるほど悪くない組み合わせだ。パンセレラの色味はトーンが抑え目なので他のアイテムと合わせやすい。

(14) コーギー
後攻のコーギーは赤と青のダイヤ柄。確か赤と青は三原色のうちの2色、両者の組み合わせは強い視覚効果をもたらすそうだ。目立つ靴下と色目を合わせてバーガンディのロングウイングを用意。どんなパンツを履くかで足元が結構目立ちそうだ…ソックスのワンポイントだろうか…フォックスの顔がアニメチックで面白い。

(15) コーデ
公式ショップを覗くとマッシュルームやジープといったモチーフから真っ赤なロイヤルスチュアートのタータンまで人目を引くソックスが目白押しのコーギー、このアーガイルソックスも単体で見ると結構派手に思えたが上手く靴やパンツと合わせると良い感じに映える。品があるパンセレラに対してファンシーなコーギー、両者いい勝負だ。

〜第3回戦:履き心地〜
(16) パンセレラ
最後のチェックポイントは履き心地。用意したのはSサイズのパンセレラ。ビリヤードグリーンの地にベージュとボルドーのダイヤ柄、イエローのドットクロスが入ったソックスは今季ものだ。パンセレラUKのオンラインショップでも購入可能だがこちらも真下商事経由で購入。MサイズからSサイズへの変更は如何に…。

(17) 履いてみる
Mサイズも悪くないがSサイズだと甲から足首までより綺麗にフィットする。ローファーの場合靴の中で余ったソックスがタンのあたりで皺を作りがちだがSサイズだと皺も寄らない。履き心地は快適で肌触りも良好。ソックス選びは2つのサイズで迷ったら小さ目を選ぶのが鉄則という。パンセレラならSがベストという結論に達した。

(18) コーギー
コーギーのソックスは最初からパッカリングが出た生地のよう。ハンドフレームによるインターシャ編みということで、日本のサイトによれば手縫い仕上げらしい。因みに第二次世界大戦後に全生産量の95%が対米輸出になったコーギー。今もUKとUSAにオンラインショップのオフィスがありこちらはUSA経由で入手したものだ。

(19) 履いてみる
(11)の写真では内羽根靴のせいかタンのあたりにソックスのシワが出来ていたが外羽根靴だと綺麗にフィットしている。靴と靴下の相性はなかなか複雑なようだ。コーギーは番手の高い糸で編まれているとはいえウールソックス、見た目は十分暖かくドレスソックスとしての機能もある。テイラードものには最適かもしれない。

〜結果〜
第1回戦のフィットではSサイズでもMサイズでもフィットするパンセレラに軍配が上がった。第2回戦の色合いでは視覚効果の強いコーギーに対して柔らかな印象のパンセレラは互角。第3回戦の履き心地についてはカジュアルとドレス両方の機能を兼ね備えたコーギーに軍配が上がった。総合すると両者1勝1敗1分け…引き分けという結果は順当だろう。

(20) コーギーの鳥柄
せっかくなのでコーギーの柄物ソックスも試してみた。写真のようなキジやキツネ、乗馬シーンやナバホ柄まであるコーギーのパターンものはアメリカ市場を強く意識している。迷彩柄やアメリカ国旗のソックスまであるくらいだ。それでも英国の老舗ソックスということで同じ英国の名靴ドーバーで相性をチェック。

(21) コーデ
ツイードのパンツにコーギーのソックスとエドワードグリーン。最近はブーツやニューバランスばかりで久しぶりに英国靴を履いたがドーバーはいつの時代も格別だ。ハンターグリーンの地に大柄のキジが入ったソックスならガンパッチのついたシューティングジャケットあたりを上に着てみたい。

世界のベストソックスを検索してみるとパンセレラの名前は出てくるがコーギーの名前は中々ヒットしない。それよりもユニクロのソックスの方が検索でヒットする割合が高いことに気が付く。恐らくコーギーの名前はショップやブランドの別注に隠れて前面に出てこないためだろうし、ユニクロはコストパフォーマンスの高さゆえだろう。

確かにユニクロのアーガイルソックスも悪くないがダイヤ柄の入り方や色味が今一つなところなど気になる点がある。因みにアメリカの知人はカラフルでファンシーなソックスはよく履くがアーガイル柄は好みじゃないという。アメリカ(ブルックスブラザーズ)がアーガイルソックスを世界に広めたんだよ…と言ったら知らなかったようだ。

アメトラ愛好家は「たかが靴下」にもこだわりがある。英国由来のアーガイルソックスが米国経由で世界に広まった経緯などアメリカントラッドの歴史そのもの。十分すぎるほどあるのに新色のアーガイルソックスを見つけたら「されど靴下」、一期一会とばかりにまた買ってしまうんだと思う。

By Jun@Room Style Store