古刹探訪 | Room Style Store

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2023/03/06 06:04


3月に入ると気温が一気に上昇、いよいよバイクシーズンの始まりだ。冬の間はエンジン調整を兼ねて街を流す事もあったがどうせなら目的地を決めて出かけたいもの。今までバイク映えのする建物とカフェをセットに色々と訪ねてきた。苦労して目的地に着いたら美味しいコーヒーとスイーツで小休止…おかげで帰りの運転も苦にならない。

中でも前回紹介した見世蔵”久森”カフェは江戸時代の土蔵を改築した由緒ある建物。その佇まいや歴史の重みに魅せられて気がつけば「東京近郊の古い建物」や「文化財」をキーワードに検索するようになっていた。それも浅草寺や湯島天神のように観光客が絶えない場所じゃなくてもっと身近な文化財とバイクツアーをセットで考えていた。

そこで今回は再び東京の西に見つけた古刹(こさつ)を訪問した時の様子を紹介しようと思う。

※扉写真は訪れたカフェの生花

(1) 大悲願寺へ
古刹とは古い寺のこと。東京の西にある古刹を目指して高速と一般道で計1時間半…あきる野市横沢にある大悲願寺が最初の目的地だ。最初に圧倒されるのが写真の仁王門。バイクと比べるだけでその大きさが分かるだろう。慶長18年(1613年)の建造後、安政6年(1859年)に再建。因みに前年(1858年)は安政の大獄で吉田松陰が斬罪された年だ。

五日市線
仁王門を撮影していると後ろから踏切の警報音が聞こえる。振り返ると電車がゆっくりと過ぎていった。JR五日市線だ。このあたりは終点まで勾配がきつく昔は蒸気機関車が煙を吐いて通過したと語るのは大悲願寺の住職…煙突から出る火の粉で藁ぶき屋根の家が火事になることもあったとか。電車は最新型だが風景はどこか懐かしさを感じる。

(3) 駐車場
見学用に駐車場を完備している大悲願寺。仁王門の近くにバイクを留めたが駐車スペースは十分ある。周囲を見回すと白梅の向こうには奥多摩の山々が連なり、道の向こうには畑仕事に精出す人の姿が見えた。信州の田舎暮らしかすっかり板についたのか東京都とは思えないのどかな景色に心が落ち着く。

(4) 源頼朝の命
名前からして逸話がありそうな大悲願寺。創建したのは現在の日野市平山の武将平山李重(すえしげ)、命じたのは源頼朝とのこと。平地と山岳地の境にある一帯に「悲願」である寺を建てたことからその名がついたのではという声もある。悲願とは「ぜひとも成し遂げたい」と思う悲壮な願い。果たして頼朝の願いは成就したのか…。

(5) 観音堂
仁王門をくぐってまっすぐ進むと観音堂がある。中は国の重要文化財である「伝木造阿弥陀三尊像」が安置されているが中の様子は見られない。建立は1794年、この年は浮世絵界に東洲斎写楽が綺羅星のごとく出現し、約10ヵ月の活動後忽然と姿を消したという。年号と身近な出来事や人物を紐付けすると歴史がぐっと身近になる。

(6) 修復後の姿
もとは茅葺きだったものを2006年、銅板葺きの屋根に替えている。茅葺き時代は雨漏りから重要文化財を守るのに苦労したことだろう。修復には3年を要し、周囲の彫刻も鮮やかな色に復元している。大悲願寺の至宝ともいえる三尊像は例年4月21日と22日の2日間のみご開帳されるとのこと。

(7) 鐘楼
こちらの鐘楼は寛文12年(1672年)の建立。鋳造の鐘楼は市の指定文化財となっている。因みに翌年の1673年は三井高利が呉服店の越後屋(現在の三越)を開業した年。鐘楼の歴史的価値も素晴らしいが数えてみたら「三越」はなんと今年生誕350周年になる。最近はご無沙汰だが春になったら花見ついでに日本橋の三越にでも行ってみよう。

(8) 本堂
こちらは本堂。過去2度にわたって再建されているが現存するのは元禄8年(1695年)に完成したもの。かつて伊達政宗の末弟である秀雄が住職を務めていたことから政宗公も度々訪れたようだ。境内の白萩を気に入ってわざわざ手紙を送り分けてもらった経緯が実在の手紙「白萩文書」として残っているらしい(非公開)。

(9) 中門(朱雀門)
こちらは中門(朱雀門)。辞書によれば朱雀(すざく)とは天の四方を司る神獣の一つ、南の方角を守護する赤い大きな翼をもった鳥のこと。なるほど門の色が朱色なのも納得だ。建立は1780年、当時の世界史を調べるとアメリカとイギリスは独立戦争の最中。翌年にはヨークタウンの戦いでアメリカの勝利が決定的になった時代だ。

(10) ローカル線
大悲願寺を出て駐車場の脇を通る五日市線を撮影。春到来を告げる好天の中、電車がやってきた。華を添えるのは桜より地味ながらも愛らしい白梅。1925年に拝島~五日市間が私鉄としてスタートした五日市線は1944年に国有化、その後JRへと変わり現在に至る。昔ハイキングに行く時乗った時はチョコレート色の古い電車だったことをよく覚えている。

(10) 石碑
大悲願寺の入り口に立つ大きな石碑。金色山大悲願寺と彫られている。よく「〇〇山~寺」という名前を目にするが、その理由は多くの寺が山の中に作られたので寺院の前に山の名を付けるようになったとのこと。それを山号と呼ぶそうで、この大悲願寺の場合は「金色山」がそれにあたる。

(11) カフェへ
大悲願寺でゆったり時間を過ごした後は檜原村に向かってさらにバイクを走らせお目当てのカフェへ。名前は茶房むべ、入り口からして趣のある落ち着いた感じの店だ。近くには日帰り温泉「瀬音の湯」もあるがこの日は休館日とあって観光客もおらず車の往来も少ない…デイツーリングに最適な日を選んだようだ。

(12) 店内
店内は4人掛けのテーブル席が一つ。あとは長いテーブルに向かい合わせで椅子が配置されている。太い梁がわたる天井とぶ厚いテーブルにアンティーク調の椅子。調度品も含め趣味良くまとめられた店内。テーブルや棚に生けた花も全てご主人の手によるもの…心配りに満ちた空間が心地よい。

(13) コーヒーカップ
店内に飾られたコーヒーカップの数々。自分は日頃欧州の窯元やRRLのマグカップなど洋ものに目が行きがちだがご主人こだわりのカップはどれも和テイスト。聞くと店の一推しもコーヒーだとか。ひょっとしてオーダーしたら「どのカップでお飲みになりますか?」なんて聞かれたりして…と勝手に想像してしまう。

(14) 日本茶
せっかくご主人自慢のコーヒーを味わう機会だったのに頼んだのはお煎茶セット…もっとも暖簾をくぐる入り口や木造建物、茶房という呼び名とくればお茶を連想するのも仕方ない。店内に客は自分一人、「お茶を多めに注ぎましたのでどうぞゆっくりお過ごしください」とご主人の心遣いが嬉しい。

(15) 和菓子
日本茶に付く和菓子。桜色の羊羹に蝋梅の飾りが如何にも春らしい。店名の「むべ」はアケビ科の実。味はほんのり甘く素朴な味は長寿を祝う贈り物に最適とのこと。因みにむべなるかな…という言葉は「いかにもその通りだ…」という意味。むべのように素朴さとほのかな甘みが「いかにも店の名の通り」だと感じる。

(16) メニュー
テーブルにあるメニューを見ると品数は写真のようにわずか5種類。飲み物がコーヒーと煎茶(セット)、それにジュース2種で食べ物はレアチーズケーキのみと的を絞っている。店主によれば色々と手を広げず一つ一つ大切にしたいとのこと。自慢のコーヒーはもちろんフルーツ添えのチーズケーキもこだわりの自家製に違いない。

(17) 廣徳寺へ
茶房むべで休んだ後は再び五日市方面に戻り近くの廣徳寺へ。山号は龍角山、市内に近いとはいえ小高い山の上にあるので急な坂道を一気に登っていく。道幅はそれほど広くなく、バイクと車なら問題ないが車同士だと気を使いそうだ。あきる野市自慢の観光スポットらしく駐車場は完備、トイレも備えている。

(18) 本堂と鐘楼
室町時代の応安6年(1373年)に建造されたという廣徳寺、今から650年も前の話だ。歴史を感じさせる茅葺きの本堂と銅板葺きの鐘楼が好対照をなす。江戸時代には寺領40国が与えられており周辺の寺院の中では高尾山薬王院、調布の深大寺に次ぐ規模を誇る大寺院だったらしい。ゆったりとした境内が往時を偲ばせる。

(19) 山門
苔むす茅葺きの屋根が写真映えする山門は1720年築。8代将軍徳川吉宗の時代であり、享保の改革や目安箱の設置など日本史を学んだ人にはピンとくる時代だろう。山門の先には入り口(総門)が見える。一面が銀杏の落ち葉に覆われる秋になると黄金色の絨毯に建つ山門を目当て写真愛好家が大勢訪れるという。

(20) 総門
(19)の写真で山門の間から遠くに見えていた総門(入り口)。江戸後期(19世紀前期の建築)とのこと。車やバイクなら山門までアクセスできるが電車の場合は武蔵五日市から30分歩くことになる。順路は総門横にある小さな門から入って山門をくぐり鐘楼や本堂を見学して外に出る…駐車場の一番奥に停めたので自分は見学順序が逆になってしまった。

(21) 外から見える山門
駐車場に戻る途中、垣根越しに見える山門。思わず立ち止まって写真を撮ってみた。この佇まいは奈良や京都といった名所に劣らない魅力がある。次回はぜひ銀杏が色づく晩秋に来てみたい。山門の屋根下に見える細工は斗栱(ときょう)と呼ばれるもの。写真のように凝った意匠は詰組(つめぐみ)というそうだ。

(22) 洗車
帰宅後は久しぶりの洗車に勤しんだ。見た目には分からないが春どきの風は畑の土埃を舞い上げ、走るバイクの隅々まで入り込む。カーシャンプーに浸したスポンジやクロスで洗っても奥まで届かない。そんな時は高圧洗浄機の出番だ。元は車用だがバイクはもちろん駐車場のコンクリートやブロック塀もすっかり綺麗になる。

最近は京都・奈良だけでなく日本各地の寺社仏閣を巡るのがじわじわと人気になっているようだ。身近な親類や知人にもお遍路の「納経」や各地の寺や神社でいただく「御朱印」を集めている人が結構いる。聞けば地元に近い吉祥寺の武蔵野八幡観音や受験の時世話になった国立の谷保天満宮、梅郷と一緒に訪れた青梅の塩船観音なども既に訪問済みとのこと。

調べたら全国に神社は8万8千で寺が7万7千、その数はコンビニの合計5万7千を遥かに凌ぐ。とはいえ日頃コンビニに立ち寄ることはあっても神社や寺に行く機会は少ない。寺社仏閣巡りの魅力は①身近な場所から始められる②日本の歴史や文化を深く知ることができる③穏やかな心になれる…とある。なるほど今回の古刹巡りでその魅力を十分確かめられた。

コロナ禍で閑古鳥が鳴いていた京都や奈良に再び外国人観光客が戻ってきたという。何度か訪れている古都巡りも悪くないが、まだ見ぬ古刹を訪れる魅力はそれに勝るとも劣らず…次はどこに行こうか考えるのも楽しい。

By Jun@Room Style Store