靴底の違い | Room Style Store

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2023/04/03 19:15

アイビー世代なら大抵「張り替えの効くグッドイヤー靴それも革底こそ本格派…」と教わったと思う。買うべきはリーガル、それもビーフロールローファーが初グッドイヤーだったアイビー仲間も多いに違いない。入門靴ながら本格的な作りだったがゴム底仕上げが気になっていつかは最上級インペリアルの革底おかめ靴(ウイングチップ)をと思ったものだ。


念願叶っておかめ靴を手にしてからも革底に拘っていたがある年パリのウェストンでゴルフを履いて驚いた。ゴム底なのに高品質…しかもグッドイヤーでクッションも程よい。思わず履いたまま会計を済ませて店を出た。小石や砂利の多いパリの公園ではゴム底が実力を遺憾なく発揮、ジャーナリストシューズの異名どおりのタフネスぶりに感動すら覚えた。

今では革底への拘りもなくなり、革底からゴム底に交換することさえある。そこで今回はあの時の感動を糸口にソールの材質、中でもゴム底を中心に記事を書いてみようと思う。

※扉写真は様々なパターンのゴム底

【リッジウェイ】
〜元祖ゴム底の名靴〜
ゴム底靴の実力を世に知らしめたのが冒頭で紹介したJ.M.ウェストンのゴルフ。当時「足で稼ぐジャーナリストの足元を支える1足」といった感じで紹介されたと思う。記者会見から災害現場までカバーする守備範囲の広さはひとえに耐久性に優れたソールのおかげ…その万能ぶりが支持されウェストンではローファーと共にベストセラーだとか。

(2) 靴底の見え方
普段歩く時の後ろ姿。ゴルフの場合ゴツいパターンと白いステッチがはっきりと見える。靴好きなら「おおっゴルフだな」と直ぐに分かるだろう。ウェストン純正のこのソールはハルボロラバー社が作るリッジウェイソールとよく似ている。巷ではウェストンによる別注では?と言われているが正式なアナウンスはない。

(3) パターンの違い
左がウェストンで右がリッジウェイ。違いはパターンの中にアルファベットのW(Mという説も)があること。JMだという人もいるがロゴマークと同じWにも見える。爪を当てるとウェストンの底材の方がやや硬そうだ。色も微妙に異なるのは成分の違いか?ヒールのトップリフトはより違いがはっきりしている。

【参考資料①】
最近のゴルフは…


ウェストンのオフィシャルサイトより写真を拝借してみたが最新のゴルフはソールのウエスト部分にあるJ.M.WESTONの後に®️マークが付く。代わりに昔のようなWのロゴマークはなくなっている。変わらないと思われがちな部材も徐々に変化しているのだろう。嬉しいことにインソックの刻印は昔のデザインに戻っていた。

(4) リッジウェイ
こちらはオリジナルのリッジウェイを纏った外羽根靴。同じ英国のハルボロラバー社がゴルフ用に開発しただけあってノーザンプトンの靴メーカーも積極的に採用、一気にメジャーになった。近頃は革底の靴を買ってもすぐゴムで半貼りをしてしまう。ならば最初からゴム底の方がエコなのは間違いない。

(5) 靴底の見え方
出し縫い用の下糸は地味な黒。白いステッチが目立つゴルフとは真逆の控えめな雰囲気が漂う。因みにこのリッジウェイソール、意外とつま先が減りやすいとのこと。馴染みの靴修理屋さん曰く「盛り上がったトレッドパターンとつま先との段差が大きいため先端が地面にこすれてつま先からどんどん削れてしまうらしい。

 (6) 老舗英国靴メーカーの御用達
写真はクロケット&ジョーンズだが今期リッジウェイソールを好んで使っているのがトリッカーズ…定番のストウやバートンのリッジウェイ版が用意されている。コマンドソールより軽くダイナイトソールより厚いリッジウェイソールをトリッカーズでは「どんな状況でも力を発揮する」と高く評価している。

【ダイナイトソール】
(7) シャープなコバ
お次はダイナイトソール。底面に11~12個のスタッズ(スパイク)が並ぶゴム底はリッジウェイより革底に近い。スパイク状の部分もよく見ると周囲にドーナツ状の溝を掘ることで中のスタッズを際立たせている。地面にぴたりと接する様は確かに革底靴のよう、リッジウェイのような「ゴツさ」は感じられない。

(8) 靴底の見え方
このダイナイト、リーガルでは「ドレスシューズ用のゴム底材」として紹介している。クロケット&ジョーンズでは235型の紳士靴のうちダイナイトを装着したモデルが38型もある。何と20%以上の割合だ。写真のチーニー特製のRRLブーツも「セミドレス」ブーツという位置づけなのだろう。

(9) 底面

ダイナイトソールを履くとヒヤッとさせられるのが濡れた床では滑りやすいこと。特に雨の日は畳んだ傘から滴り落ちる水滴で濡れた駅構内の通路やコンビニのタイル床など…エスカレーターの立つ部分も滑りやすい。雨の日用にと買ったダイナイトソールの靴で滑って転ぶようじゃ元も子もない。

(10) ブリックソール
黒と茶以外にレンガ色もあるダイナイトソール。ここではホワイトバックスのお約束「ブリックソール」風の仕上げに一役買っている。因みにホワイトバックスに合わせる靴下はクリーム色というのが暗黙の了解らしい。春らしくウールものからコットンバージョンに替えてパンセレラのソックスを合わせてみた。

(11) 靴底の見え方
(5)の写真と同じクロケット製ながらこちらは出し縫い用の上糸も下糸も白。階段を上がる時にレンガ色のソールやスタッズと白いステッチがチラチラと見える様はお洒落だ。このダイナイトソール、実はリッジウェイと同じハルボロラバー社製とのこと。フランスのパラブーツやイタリアのビブラムとともに名の知れた会社らしい。

(12) ソールの形状
同じダイナイトソールなのにDainiteの字のすぐ上の突起数が違う。左(黒)が新しい靴で2個、右(赤)が古い靴で3個…年代による違いかと思ったが新しい靴でも3個バージョンがある。馴染みの靴修理屋によればスマートな靴だとスタッズが底面からはみ出てしまい縫えないこともあるとか…右のホワイトバックスなんて結構ギリギリだ。

【コマンドソール】
(13) ミリタリーブーツ
さていよいよ一番ハードなゴム底の登場。コマンド(突撃部隊)ソールの名のとおりパターンは超ハード。ギザギザのヒールトップがミリタリーブーツを彷彿とさせる。このゴム底もやはりイギリス製、ビスポーク靴の踵に付ける有名なハーフラバー、Phillips(フィリップス)も手掛けるノーザンプトン州のデイヴィスオデルという会社らしい。

(14) 靴底の見え方
ソール面から1㎝近く盛り上がるトレッド。昔イギリス軍が使っていたという話もある…調子に乗って道なき道を突き進むと小石がトレッドの隙間に引っかかって取るのが大変だったりする。登山靴用のビブラムソールも同じトレッドパターンだがコマンドソールは縁に出し縫い用のスペースがあるのが特徴。

(15) トレッドパターン
ゴム底の中で最も厚いだけに耐久性も群を抜いている。ただ手持ちの靴底をコマンドソールに交換しようと思ったら相性が肝心だ。アッパーが柔らかいとソールのタフさに負けてしまうのでドレスタイプやドーバーのような手縫いのエプロンダービーも避けた方が良いだろう。写真のようにダブルソールのストームウェルト靴なんてドンピシャだ。

(16) 軽量版
こちらはコマンドソールを軽量にしたようなゴム底のレッドウィング。英国のデイヴィスオデル社ではなく登山靴用で有名なイタリアのビブラム社製のものだ。トレッドパターンはよく似ているがヒールトップはフラットで本家のコマンドソールより厚みを抑えトレッド自体も低く構えているが滑り難くて減りにくいとのこと。

(17) 靴底の見え方
キャッツパウに似たレッドウイングのロゴ入りヒールトップと凹凸の少ないトレッドが目に付くビブラムソール…なんでも正式には「430ミニラグソール」というらしい。出し縫いの白ステッチと相まって見た目は結構軽やかだ。艶消しの真っ黒なアッパーは茶芯とのことだがいくら履いても茶色の地が見えてこないのはなぜだろう…。


(18) ヘビーかライトか…
左の軽量版ビブラムのミニラグソールはアメリカの靴に多く、右のヘビーな元祖コマンドソールはやはり英国靴に多い。今季コマンドソール靴が豊富なのがトリッカーズ…全183型のうちなんと73型もコマンドソールバージョンがラインナップされている。割合にして40%以上とまさかの数値に驚いてしまう。

【クレープソール】
〜オールデン〜
(19) 孤高の履き心地
ゴム底靴の最後はクレープソール。リッジウェイやダイナイト、コマンドソールといった合成ゴム底と違ってゴムの木を傷付けて分泌する乳白色の液(ラテックス)から作られた天然ゴムが原料のクレープソール。植物由来のヴィーガンレザー同様エコな靴底の代表格だ。優れたクッション性と軽快な履き心地で履き手を魅了する。

(20) 靴底の見え方
写真のようにオールデンのクレープソールは飴ゴム色をしていないのが特徴。汚れが目立ちにくいのが嬉しい。靴好きの間ではその快適さで有名だがレギュラーラインにはない仕様、ショップ別注品を見つけて買うしかないのが悩ましい。有名どころではタンカーブーツや写真のタンカーオックスなど…。

(21) 独特の形状
クレープソールのつま先部分に革底を敢えて縫い付け剥がれないよう釘で留める。ユニオンワークスによれば「つま先まで全てクレープソールだと絨毯のような滑りにくい床を歩く時つま先が突っかかって転びかねない」からだとか。オールデン本社に確認すれば良さそうな気もするがさて真相は…。

〜デザートブーツ〜
(22) 飴ゴム
アイビー小僧が初めて飴ゴムのクレープソールを知ったのはクラークスのデザートブーツに違いない。自分は今でも当時のデザートブーツを持っているが写真はグッドイヤー製法の本格的な作り。廃業したアルフレッドサージェントに米ブルックスブラザーズが別注をかけたアンラインドのデザートブーツだ。

(23) 靴底の見え方
クレープソールの課題は靴底の汚れが目に見えること。写真を見ても一目瞭然だろう。湿気のせいで粘着性が出てくると地面のごみや小石がくっつきやすい。それにゴムの劣化が意外と早くて快適な履き心地を味わえる旬が短いのも気になる。さらに劣化が進んで真っ黒になると履く気が起こらなくなるのが現状だ。

(24) コバの雰囲気
通常のクレープソール(左)とオールデンの改良版クレープソール(右)との比較。デザートブーツはあまり履いていないのに両足を揃えて靴箱にしまっておいたせいで左右がくっついてしまいその跡が汚れている。クラークスのデザートブーツをリペアに出すならコバから接地面まで全て着色してもらう方が良さそうだ。

ゴム底の靴を用意して色々ネットで調べていくと英国靴の中心地ノーザンプトンでも(合成)ゴム底の革靴がここで一気に充実している様子が窺えた。トリッカーズについては既に書いたがエドワードグリーンでも168型のうちなんと122型で合成ゴム底タイプがラインナップされている。全て革底だった昔が嘘のようなゴム底仕様の広がりだ。

念のためジョンロブパリでも調べたが31型もラインナップされていた。レザーシューズ業界全体で明確な方向性を示しているようだ。革底よりフォーマル度が低いというデメリットを指摘する声もあるが、クロケット&ジョーンズではレザーソールと遜色ないドレッシーなゴム底の「シティソール」を多数揃えるなど日々進化し続けている。

ユニクロの会長が気に掛けるサステナブルであるかどうか…を革靴に当てはめて革底靴とゴム底靴のどちらがよりエコなのかネット上で調べたが明確な答えは見つからなかった。だが進化の止まった革底と日進月歩の(合成)ゴム底を比べると結果は明らかな気がしてくる。

By Jun@Room Style Store